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ミャンマーの悪夢「家にいてもスナイパーに狙われる」

プレジデントオンライン / 2021年7月6日 9時15分

軍政に抗議する、デモが続くミャンマーで、抵抗を表すサイン。3本指を立てるのには元々「民主主義、連帯、選挙」などの意味があるという。日本でも抗議デモで使われた。写真はイメージ。(筆者撮影)

■ヤンゴンに残る家族が気がかりだ

「悪夢が始まって2カ月が経ちました」。J(仮名)は友人らに送るつもりのメールにそう書き出した。しかしJのメールは今も未送信ボックスの中だ。メールが見つかったら、Jと家族の命が危ない。クーデターが起こり2カ月、Jはメールを送らぬまま、ミャンマーを去った。

「いつまた家族に会えるかわからない。最低でも2年と自分に言い聞かせているの」。金融業界で国際的に活躍していたJは、住み慣れた故郷を離れ、タイ・バンコクで新しい仕事に就いた。キャリアアップはしたが、心から喜べない。「私を心配して、クーデターが起きた直後にバンコクでの仕事の誘いがきた。またすぐに日常が戻ると信じていたから、当時はオファーを真剣に考えなかった」

「家にいてもいつスナイパーに襲われるかわからなくて、窓の近くには近寄らない。バンコクでは、久しぶりに普通に道を歩けた」

自由を噛み締めながらも、心は平穏でいることはできない。ヤンゴンに残る家族が気がかりだ。

「自分は恵まれている」。長男でも長女でもない自分が家族で唯一、外国の教育を受けさせてもらえた。だからこそ国外に出られた。

■最近はミャンマーの報道が減ってきているとJは感じる

姉はヤンゴンのIT企業にいたが、ネットの規制で仕事がなくなった。しかし国外で働きたくてもパスポートが切れていたため、どうにもできない。現況ではパスポートの更新など当然できない。Jの交際相手も国外に出ることはできない。残虐な軍と治安部隊が一般市民を襲うニュースを見るたび、Jは仕事が手につかなくなる。家族にはタイから仕送りをする。

「これから1人で生きていくため、今必死に自分のメンタルを鍛えているの。おすすめの本があったら教えてね」。強く生きようとしているJの姿に心を打たれた。

最近はミャンマーの報道が減ってきているとJは感じる。「知識はパワー。特にミャンマーのように情報規制がされているときは」。友人にあてたメールの「何ができるか」のリストの一番最初に「知ること」とJは記した。「これはミャンマー国内の問題だけではなく人道的危機なのだから」。送られることのなかったJのメールは今、私たちに届けられている。

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伊藤 詩織(いとう・しおり)
ジャーナリスト
1989年生まれ。フリーランスとして、エコノミスト、アルジャジーラ、ロイターなど、主に海外メディアで映像ニュースやドキュメンタリーを発信し、国際的な賞を複数受賞。著者『BlackBox』(文藝春秋)が第7回自由報道協会賞大賞を受賞した。

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(ジャーナリスト 伊藤 詩織)

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