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「国民のイライラを可視化」政府が強いたコロナ不安と失望が凝縮した残酷すぎるグラフ

プレジデントオンライン / 2021年6月9日 11時15分

統計データ分析家の本川裕氏は、第4波までコロナ禍の15カ月間における東京圏・大阪圏・その他圏の感染者数がひと目でわかるグラフを作成した。本川氏は「政府の第4波への対応評価は大きく低下しており、過去最低。国民のイライラが常態化しているところに、政府の場当たり的な対応とワクチン接種の遅れや不手際で、失望感を一層深めている」と指摘する――。

■「五輪強行」の政府にイライラが常態化の国民は失望感を深める

6月3日に参院厚生労働委員会で、オリンピックをめぐり、尾身茂分科会会長が「普通は(開催は)ない。このパンデミックで」と指摘。「そもそも五輪をこういう状況のなかで何のためにやるのか。それがないと、一般の人は協力しようと思わない」と発言したことが波紋を広げている。

新型コロナについては、さしもの第4波もようやくピークを迎え、国民の関心は、感染拡大と医療崩壊への心配から、ワクチン接種の進捗やオリンピックの開催の是非に移りつつあるようだ。

今回は、こうした時期に当たり、過去4次にわたる新型コロナ感染拡大の推移状況を概観するとともに、これまで国民の感染不安、生活不安がどのように推移してきたかを総括しておこう。

下記に示す新型コロナ感染拡大の推移状況については、一般の新聞、テレビなどには見られないグラフの描き方を試みた。また、後述する国民意識の推移については、貴重な月次調査がせっかく行われているのに結果が活用されていないものを使用した。

感染状況の推移について、ここでは、全国を「東京圏」「大阪圏」「それ以外」の3つに分け、主な都道府県の新規感染者数を積み上げグラフで示した(図表1~2参照)。

新聞、テレビなどに登場する全国、あるいは特定の都道府県の毎日の新規感染者数の推移グラフとは異なり、移動平均、すなわち過去1週間の平均の推移で示しているので大きなトレンドがわかりやすくなっている。

■コロナ不安、イラ立ち、失望が凝縮した残酷すぎるグラフ

どの地方でも4波にわたる感染拡大が認められる。2020年4月の「第1波」は海外からの新規の波及、同年8月の「第2波」は夏休みにおける繁華街での感染拡大で特徴づけられ、2021年1月の「第3波」と4~5月の「第4波」の急拡大は、それぞれ、年末・年始と年度代わりにおける人流の拡大が大きな要因とされている。

新型コロナ感染者数の推移(過去1週間平均・大阪圏・その他圏)

全国を網羅した大都市圏別の積み上げグラフにしていることで地方ごとの感染推移の差も明確になっていると思う。

どの地方でも4波にわたる感染拡大が認められるが、東京圏とそれ以外では様相が大きく異なっている。すなわち、東京圏では第3波ほど第4波は深刻でなかったのに対して、大阪圏や東京圏・大阪圏以外では第3波より第4波のほうがずっと感染者数が多くなっている。

第4波の到来時期については、大阪圏が最も早く、東京圏や東京圏・大阪圏以外はこれより遅れていた。

第4波の感染拡大の時期のずれは変異株がまず西日本で猛威をふるい、それが関東や全国にも波及したからと見られているが、東京圏の第4波のピークの高さの相対的な低さはこれだけでは説明できない。

東京圏とそれ以外との感染推移の差として、もう1つ、目立っているのは、波と波の間の感染が低下した時期のレベルの差(くびれの有無)である。東京圏では第2波と第3波の谷間も、第3波と第4波の谷間も、感染者数はそれほど減少しなかった。これは、大阪圏や東京圏・大阪圏以外では、谷間の時期にはかなり感染が抑えられたのと対照的である。

第4波における大阪圏などの大きな感染拡大の要因としては、変異株への置換だけでなく、第3波を大きく抑えることができたことで生じた気のゆるみで、年度末に人々の交流が拡大したという点が指摘されている。これに対して、東京圏では感染者数が第3波の後もそれほど減らず、年度末にも大阪圏住民ほど気を緩める余裕がなかったので第4波は第3波ほどにはならなかったのかもしれない。

■場当たり的な政府対応とワクチン接種の遅れ「もう耐えられない」

次に、こうした感染状況の推移とのかかわりの中で、国民の感染不安や生活不安がどう推移してきているかを見てみよう。

まず、国民の「コロナ感染への不安感」がどのように推移しているのかを見てみよう。

この点を示す月次の継続調査としては、内閣支持率を調べているNHKの政治意識月例調査があるが、各月の結果はテレビでも報じられるものの、時系列変化については全く活用されていないので、ここでそれをグラフにして示した(図表3参照)。

感染不安の状態かで政府批判も強まる

感染への不安は、4波にわたる感染拡大の急増にあわせて、2020年の4月、7月、そして2021年の1月、5月にピークを見ていることが分かる。

興味深いことに、感染者数は、後の波ほど多くなる傾向にあるのに、ピークの感染不安度はだんだんと後の波ほど小さくなっている。

一方、それぞれの波がいったん収まった後の感染不安度の底(ボトム)を見るとだんだんと大きくなってきている。

つまり、だんだんと不安の高まりと低下の幅が小さくなり、定常的な不安感に曝されるようになっているのである。感染不安が常態化しているともいえる。こうした状況が国民のイライラをつのらせ、コロナ疲れを増幅していると言えよう。

感染不安度とともに調査されている「政府の対応への評価」については、2020年の5月、8月、2021年の1月、5月とピーク月かその1カ月後に低下しており、対応が効果をあらわさなかったと判断した時の国民の目は厳しいといえる。

第3波については感染不安のピークと同じ1月に早くも大きく低下しており、しかもそれまでで最低だったことから、GoToキャンペーンの一時停止や緊急事態宣言の発出の遅れなど、対策が後手に回ったという批判から国民の目がなおさら厳しかったことがうかがわれる。

第4波についても対策への評価はさらに大きく低下しており、過去最低となった。国民は、上記のようにただでさえイライラしているところに、政府の場当たり的な対応とワクチン接種の遅れや不手際を目の当たりにして、もう耐えられないという失望感を一層深めていると言えよう。さらに共鳴困難な政権トップの発言内容も失望感を深める一因となっていよう。

■「生活不安」は改善方向だが、「雇用不安」は依然強い

最後に、コロナの感染推移と国民の生活不安との関係を見てみよう。

内閣府では、景気判断の基礎資料を得るため、消費者意識の推移を調べる「消費動向調査」を毎月実施している。

その中で、今後半年間に「暮らし向き」や「雇用環境」が良くなりそうか、悪くなりそうかを聞いている。ここでは、この2項目の意識レベルについて、「悪くなる」100%から「良くなる」100%までの回答を0~100%に換算した指標の推移を図示した(図表4)。

感染が拡大するたびに高まる生活不安、ただし全体としては改善の方向

この指標の下降が生活不安の高まりを示している。

実は、生活不安の高まりは、感染者数レベルではその後に比べ軽微だった第1波の時が、最も深刻だった。得体の知れない世界的なパンデミック不安に加えて、その後、解消されたが、当初は、マスク不足やトイレットペーパーの買占めなど物資調達の不安、あるいは学校の休校、通勤停止、企業や各施設の休業などが相次ぎ、今後、生活や雇用がどうなるかが見通せない状況の中で、生活不安が大きく高まったのである。

2020年4~5月の第1回目の緊急事態宣言の下で、一応、感染拡大が抑えられ、5月25日までで宣言が解除されてからは、生活不安は大きく改善の方向に向かった。

もっとも、感染拡大の第2波、第3波、第4波と、いったん収まるかに見えた感染拡大が何度もぶり返し、そのたびに、生活不安も再度高まることを繰り返すという推移をたどった。

ただ、グラフの推移を見ると、傾向的には生活不安は改善の方向をたどっており、2020年4月の最悪のレベルからは離脱してきていることも確かである。

「暮らし向き」の生活不安と「雇用環境」の生活不安を比べると、実は、「暮らし向き」より「雇用環境」に対する生活不安のほうが深刻であることがデータで示されている。生活不安の改善が「雇用環境」ではなかなか実現せず、コロナの感染者が増え始める前の2020年2月の生活不安レベルに「暮らし向き」のほうは回復してきているのに対して、「雇用環境」の場合は、なお大きく下回っているままなのである。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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