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「天安門事件で市民を殺害したから経済成長できた」中国の開き直りを許してはいけない

プレジデントオンライン / 2021年6月9日 18時15分

2021年6月4日、香港警察はビクトリア公園で行われてきた天安門事件の追悼集会を2年連続で禁止した。公園にはパトロールする警察官の姿しか見られなかった。 - 写真=AA/時事通信フォト

■東京では抗議ができるが、中国では抗議すらできない

6月4日、中国政府の武力弾圧によって多くの若者らが亡くなった天安門事件から32年目を迎えた。東京都港区の中国大使館前では「民主中国陣線」(本部・オーストラリア)の約50人のメンバーが抗議デモを行った。

民主中国陣線は事件後に中国から逃れた元学生らが作った民主化運動組織で、中国政府の武力弾圧や言論の封じ込めを非難し、民主化を求めている。この日は、「天安門虐殺を忘れるな 32周年抗議行動」と日本語で書いた横断幕を掲げ、「一党独裁をやめろ」と日本語と中国語で訴えていた。

中国は新疆(しんきょう)ウイグル自治区や香港などの在り方について絶対に譲れない「核心的利益」とみなし、自治区では中国当局による少数民族へのジェノサイド(集団殺害)が国際的問題となっている。今回の民主中国陣線のデモには、少数民族のウイグル族のほか、チベット族、モンゴル族、それに民主派に対する強制的排除が進む香港の運動家も参加した。

一方、6月4日の天安門広場では、中国政府が周辺に多くの警察車両を配置し、制服姿の警察官と私服警官が市民行動に目を光らせており、抗議活動は見られなかった。

■中国では市民の生命よりも共産党が優先される

北京市内と同様に香港市内でも、警察による抗議活動の警戒が行われた。毎年6月4日にはビクトリア公園での追悼集会が行われてきたが、今年は抗議を禁止するために約7000人の警察官が動員された。それでも4日夜には散発的に抗議活動が起き、民主派団体の数人が公安条例違反容疑などで逮捕された。

香港では民主主義と自由を求める学生や市民による大きな抗議デモが続き、昨年6月には中国政府の意を受けた香港政府の手によって民主派の活動を取り締まる国家安全維持法が施行され、国際的に認められていた一国二制度は壊滅した。

北京も香港も習近平(シー・チンピン)政権による民主化運動の封殺にさらされている。なぜ、ここまで厳しく市民や国民の行動を制限するのか。習近平国家主席は民主主義を恐れているのだ。

共産党一党独裁の中国では市民の生命よりも共産党が優先される。党に存在の価値があって国民には存在の価値がない。そこに民主主義による国民の自由が登場すると、共産党の権威がなくなる。党主席の絶対的地位を狙う習近平氏は、それが怖いのである。

■中国政府「武力弾圧したからこそ、経済成長が軌道に乗った」

天安門事件は1989年に起きた。この年、民主化を求める学生たちは、連日、天安門広場に集まり、言論の自由の獲得や腐敗官僚の打倒を訴えた。デモ行進や座り込みは学生から知識人、労働者へと拡大し、デモの規模は100万人に膨れあがった。

中国政府は5月20日に北京市に戒厳令を敷き、6月3日夜から4日朝にかけ、天安門広場に軍の兵士や戦車を出動させて武力で強制的に排除した。実弾も発砲された。

中国政府は発砲を否定し、死者数を「319人」と発表した。しかし、2017年に公表されたイギリス外務省の公文書によれば、推計の死者数は1000人から3000人とされている。

今年7月に創設100年を迎える共産党は、天安門事件を「反革命暴乱」と位置づけている。今年6月3日の定例記者会見では「武力弾圧したからこそ、その後の経済成長が軌道に乗った。われわれの選んだ道は完璧に正しい」(外務省報道官)と強調している。

民主主義国家に生まれ、育ってきた私たち日本人からすると、驚くべき発言だ。だが、中国政府は本気でそう考えているのである。

天安門広場
写真=iStock.com/superjoseph
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/superjoseph

■中国はアメリカを強く意識し、覇権争いに余念がない

アメリカのブリンケン国務長官は6月3日、次のような声明を出して中国政府に圧力を加えた。

「中国政府は対話を選ばず、暴力で応じた。あの事件での死者や行方不明者についての中国政府の説明責任を追及し続ける」
「天安門でかつて行われた学生たちのデモは、香港での民主主義と自由の獲得を目指す戦いに反映されている。天安門事件の犠牲者や、中国政府による弾圧に屈せずに活動を続ける市民に敬意を表する」
「アメリカは普遍的な人権を尊重するよう要求する中国の人々を支持し続ける」

中国は経済力、軍事力、そして宇宙開発に至るまで常にアメリカを強く意識し、覇権争いに余念がない。アメリカはそんな中国を国際会議で批判し、ときには軍事的行動も辞さない。

台湾も3日、対中政策を担当する大陸委員会が声明文を公表。香港などでの一連の中国政府の強権的行動に対して「国際的ルールから逸脱し、対外的な衝突のリスクを生み、地域の安定と安全に影響を与えている」としたうえで、「中国共産党が民主化への改革を実行し、人権と自由を保障してこそ、台湾と中国は尊重し合え、かつ理解し合える」と訴えている。

■WHOの調査を「中国寄り」と批判するアメリカを見習え

日本はどうだろうか。加藤勝信官房長官が6月4日の閣議後の記者会見で「日本政府としては天安門事件の発生直後に発出した官房長官談話で示している通り、軍の実力行使で痛ましい事態に至ったことは遺憾と言わざるをえない」と述べ、「自由、基本的人権の尊重、法の支配は、国際社会における普遍的な価値で、中国においても保障されることが重要だと考えている。一貫して中国政府に直接伝達してきている。中国の人権状況に関する懸念も表明している」と話した。

しかし、沙鴎一歩は日本の中国対応は生ぬるい、と思う。加藤氏の言葉はうなずけるものの、日本政府の行動力は十分ではない。

たとえばアメリカは中国を正面から批判している。新型コロナウイルスの発生源に関するWHO(世界保健機関)の調査を「中国寄りだ」と指摘し、「コウモリなどの動物由来説と中国のウイルス研究所(湖北省武漢市)からの流出説のどちらも確証が得られていない」とアメリカの情報当局に追加調査を指示している。

アメリカのように中国政府に圧力を加えなければ、中国当局の行動を正すことはできない。日本も見習うべきだ。

■「事件時と事件後の二重の国家犯罪だ」と産経社説

6月4日付の産経新聞の社説(主張)は「天安門事件32年 二重の国家犯罪を許すな」との見出しを掲げ、中盤にこう書いている。

「中国共産党が犯した罪は一般市民の無差別殺傷だけではない。同党の権力の及ぶところでは、天安門事件はなかったことにされてきた。真相究明の動きを封じようと遺族や民主活動家らを拘束するなど、人権侵害は今も続いている。事件時と事件後の、いわば二重の国家犯罪といえる。許されるものではない」

見出しにある「二重の国家犯罪」とは、天安門事件での殺傷とその後の真相究明への弾圧を指しているようだ。しかし、少々分かりにくい。単に「国家犯罪が続いている」としたほうが、産経社説らしい切れ味が出るはずだ。

産経社説は後半に「隣国である民主主義の日本が黙っていていいわけがない」として、こう指摘する。

「日本が想起すべきは天安門事件後の対中外交失敗の教訓だ。事件をめぐって日本政府が『長期的、大局的観点から得策でない』などと、欧米諸国との対中共同制裁に反対する方針を明記した文書を作っていたことが、昨年の外交文書公開で明らかになった。人権軽視の姿勢は恥ずかしい」
「その後も日本政府は、天安門事件を反省しない中国が国際社会に復帰することを手助けした」

「対中外交失敗」「人権軽視の姿勢」「恥ずかしい」「中国を手助け」などと産経社説は日本政府を厳しく批判する。日本政府は、口先では中国を批判しても、その批判にともなうだけの行動力が不足しているのだ。保守の一翼を担う産経社説の言葉でもある。菅義偉政権には真摯に受け取ってもらいたい。

■ウイグル人弾圧をめぐる対中制裁に日本は加わらず

さらに産経社説は「バイデン米政権は、米中対立を『21世紀における民主主義と専制主義の戦い』と位置付け、人権重視の外交姿勢を示している。欧米諸国はウイグル人弾圧をめぐって対中制裁に乗り出したが、日本政府は加わらなかった」と指摘し、最後にこう主張する。

「これではいけない。菅義偉政権や国会は天安門事件の真相究明とともに、現代中国の人権弾圧を阻む行動に乗り出すべきだ」

いかにして人権弾圧を続ける中国・習近平政権に効果的な圧力を加えるか。日本を含む民主主義国家の協力が求められている。

■「歴史を継承する自由が奪われようとしている」と毎日社説

6月5日付の毎日新聞の社説は「天安門事件と香港 歴史の継承許さぬ弾圧だ」との見出しを立て、まず香港の様子についてこう指摘する。

「関連資料を展示する『天安門事件記念館』も休館した。香港当局から『無許可営業』の疑いをかけられたためだが、『政治的圧力』と指摘されている」
「昨年6月末に施行された香港国家安全維持法(国安法)が、民主化を願う特別な日を一変させた」

香港政府は習近平政権の傀儡である。記念館を休館に追い込むなどわけない。中国は法律に基づいた規制であれば、国際社会が反論できないと考えているのだろう。そもそも民主化を無視した国安法を制定すること自体が問題なのである。

毎日社説は中国本土の様子にも言及する。

「中国本土では、共産党批判に直結する事件の記憶は封印されている。インターネット上の関連情報は独自の規制で遮断され、存在すら知らない若者がいる」

欧米の民主主義国家が、天安門事件での中国政府のむごいやり方を伝えるべきだ。同じアジアに生きる日本の菅政権にその先陣を切ってもらいたい。

毎日社説は「歴史を継承する自由が、国安法によって奪われようとしている」とも指摘するが、歴史が継承されない国は必ず滅ぶ、と沙鴎一歩は考える。

■習近平指導部は「謙虚で、尊敬される中国」を目指すというが…

毎日社説は書く。

「警察は民主派の中心人物を次々と逮捕し、市民の間で自己規制が広がっている」
「司法機関は警察の弾圧を追認し、議会にあたる立法会は親中派が牛耳る仕組みとなった。政府に批判的なメディア関係者が有罪判決を受け、報道の自由も風前のともしびだ」

香港の街から自由と民主主義を奪ったのは、間違いなく習近平政権である。しかし、それを見ながら断固とした抗議ができなかったのは、民主主義の国々の責任だ。なかでも日本政府の対応は甘かった。菅政権には強い反省を求めたい。国際社会の意義が大きく問われる。

毎日社説は最後に「習近平指導部は『謙虚で、尊敬される中国』のイメージ確立を目指すという。法の支配や人権、自由の価値に背を向けたままでは、国際社会の不信を招くばかりだ」と訴える。ただ、国際社会がどう主張してどのように行動するべきかを具体的に書いてほしかった。今回の毎日社説は社説としての迫力に欠けている。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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