「賞味期限切れ食品はいつまで食べられるか」その答えを出す"ある計算式"
プレジデントオンライン / 2021年6月14日 9時15分
■賞味期限切れ問題は一概には答えづらい
「消費期限」切れ食品は、安全性に懸念があるので食べてはいけない。でも、「賞味期限」は品質がベストの期限なので、過ぎていても食べて大丈夫……。この違い、かなり浸透してきました。
とはいえ、思いませんか? 賞味期限切れはいつまで大丈夫なの? 1週間? 1カ月? それとも1年?
私も、消費者からしばしば質問を投げかけられるのですが、こう答えます。「わかりません」。
なーんだ、と思わないでください。食品やパッケージの種類、保存条件などによって大きく変わってくるので、その食品について詳しい話を聞かないと答えられないのです。
ところがこの春、消費者庁がこの“難問”への考え方をまとめました。国の省庁が持っている災害用備蓄食品に限定して、ですが、賞味期限切れでも食べられる、いや、食べきってほしい「目安」を示したのです。
安全や品質を確認するための検査を行い、熟慮に熟慮を重ねての目安。その結果、賞味期限切れの備蓄食品をフードバンク団体や子ども食堂に寄付し、安心して使ってもらえるようになりました。これは興味深い! その考え方を応用すれば、私たちの家にある賞味期限切れの食品を食べきる目安も検討できそうです。詳しくご紹介しましょう。
■賞味期限切れの食品は、品質が緩やかに劣化する
まずは念のため、基本情報を押さえておくと、「消費期限」は弁当や調理パン、そうざい、生菓子類、食肉、生めん類など品質が急速に劣化しやすい食品に付けられるもので、「食べても安全な期限」です。したがって、期限を過ぎたら食べない方がよいのです。
一方、「賞味期限」は、定められた方法により保存した場合に「おいしく食べられる期限」。菓子やインスタントラーメン、缶詰、レトルト食品など、品質劣化が比較的遅いさまざまな加工食品に付けられています。
■食品ロス削減を呼びかけながら廃棄
賞味期限切れ食品の寄付について、消費者庁食品ロス削減推進室の堀部敦子課長補佐は、「なにより安全を守らなければならない、と考えました」と話し始めました。
消費者庁の検討のきっかけは食品ロス対策。中央府省庁には災害用備蓄食品計100万食が保管されており、賞味期限切れに伴って毎年、20万食が入れ替えられます。
ところが、20万食はこれまで多くが廃棄されてきました。消費者庁は「賞味期限切れは、食べられる。食品ロスを削減しましょう」と旗を振っているのに、自分たちは捨てていたのです。
もったいないのですが、事情があります。備蓄食品は、国のお金で購入されており、物品管理法の下、賞味期限が切れるまでは大切な国の財産です。そのため、期限に余裕がある段階でだれかに引き渡すのは難しいのです。民間企業だと、賞味期限が十分残っている間に寄付しますが、国はそれができません。
従来は、そのまま不要品となり、職員が食べる努力をしますが大半が廃棄されていました。2019年度からは、一部の組織で民間への「売払い」が始まりました。賞味期限にぎりぎりまで近づいたところで、売払いの公告が出され、最高価格をつけた入札者が購入し、格安スーパーなどに出回ります。
でも、売払い不成立も目立ちました。公告から入札、落札者が決まり引き渡しまでに約1カ月かかることもあり、その間に賞味期限切れとなるものも。そのため、公告の際に賞味期限までの残存期間が2カ月を切ると、ほとんど落札されません。
結局は、大半が廃棄されていました。廃棄にもお金がかかります。たとえば缶詰は廃棄するのに1kgあたり50~100円……。
■フードバンクも、「期限切れ」はお断り
ならば、「賞味期限切れだけど、どうぞ」とフードバンク団体などに寄付すればよいのに……。だれでも、そう思いますよね。しかし、実は、多くのフードバンクや子ども食堂は賞味期限切れの食品を受け付けていません。
格安スーパーで販売される場合、消費者が自己責任で購入し食べます。一方、フードバンク団体や子ども食堂では、食べるのは生活に困っている人や子どもたち。提供する側は、安全性や品質が不明確な賞味期限切れ食品を、「大丈夫だろう」と思っても責任を持っては提供できないので、「賞味期限切れの寄付はお断り」です。
その事情はよくわかる。でも、5年も保存した備蓄食品を、わずか1日過ぎたからといって廃棄するのは、やっぱりどう考えてももったいない。活かしたい。だからといって、生活困窮者や子どもたちに、「はっきりしないけれど食べろ!」は、消費者保護をモットーとする消費者庁としては許されません。
■消費者庁は、検査に乗り出した
災害用備蓄食品が原因で食中毒が起きた事例もあります。安全性の検証をおざなりにはできません。消費者庁はまず、5年備蓄された食品の検査に乗り出しました。
同庁で2020年度に入れ替え対象となったのは、水(2リットル)408本のほか、無菌包装米飯やアルファ化米、ビスケットなど計1500食あまり。その中で、賞味期限が切れていた無菌包装米飯について、統計学的に適切な数をサンプリングして、登録検査機関に検査を依頼しました。
本来当は、無菌包装米飯なら菌はいないはず。無菌状態の設備内で加工し殺菌した包装材で密封されています。とはいえ、完璧なゼロは容易ではありません。
それに、加熱しても死なない細菌が自然界にはいます。高温になると「芽胞」という構造を作って身を守るのです。食品にも普通に含まれています。とくにボツリヌス菌などクロストリジウム属の菌は、芽胞を作った後に温度が下がり嫌気性の条件だと、増殖します。
メーカーは、炊飯前の原料米の段階で芽胞を作る菌が含まれていないかなどサンプリング検査をし、問題がない原材料で生産加工するほか、完成した製品もサンプリング検査をしてチェックしています。だからたぶん大丈夫。でも、確認が必要です。
そこで、一般細菌数、大腸菌群、クロストリジウム属菌を調べ官能検査も行いました。結局、無菌包装米飯の安全性や品質に懸念はありませんでした。
消費者庁は、この結果を参考にして災害用備蓄食品の種類ごとに調べるべき項目を整理しました。これくらいの項目を調べておけば、保存がしっかり出来ていたか確認できるだろうという考え方を示したのです。
■期限切れ後の食べきる目安は…
これらの結果を踏まえ、消費者庁は賞味期限切れの食品について「食べきる目安となる期限」を設定することにしました。
賞味期限は、メーカーが品質をベストで保持できると検査などで確認した期間に一般に、安全係数として0.8以上をかけ算して決めています。1以下の安全係数をかけ算することで期限を短くし、安全や品質に万全を期すのです。
そこで、消費者庁では賞味期限切れ後の食べきる目安として、次のような式を設定しました。
多くの食品メーカーは安全係数として0.8を採用していますが、場合によっては0.9を用いることもあるようです。そのため、安全係数が0.9であると想定し、賞味期限(月数)に0.1(=10分の1)をかけ算します。これにより、品質を保持できている、ということをメーカーが確認している期間をおおまかに算出できます。さらに、念のため2分の1をかけ算して半分の期間としました。
災害用食品の賞味期限が3年なら、食べきる目安は3年(=36カ月)×10分の1×2分の1=1.8カ月となりおよそ2カ月。5年(=60カ月)なら、食べきる目安は3カ月です。
■国が、寄付のルールを申し合わせ
これを受け、国は4月21日、災害用備蓄食品の有効活用についての「申し合わせ」を公表しました。
賞味期限までの期限がおおむね2カ月以内の食品については、売払い手続きを経ずに、フードバンク団体や子ども食堂等に対して無償提供、寄付できる、というルールにしました。さらに、消費者庁が考えた「安心して食べきる目安となる期限」も併せて伝えることにしました。これにより、団体は2カ月+2〜3カ月の間は、安全に提供できるようになりました。
さらに、各府省庁からどのようなスケジュールで備蓄食品が出てくるか、農水省がポータルサイトで情報を公開します。フードバンク団体などはスムーズに準備し申込みをしたり、利用者への提供メニューなどを考えたりできるようになります。
■「3カ月は大丈夫」は、備蓄食品限定
ただし、食品ロス削減推進室の堀部課長補佐は「この考え方と、2カ月とか3カ月という数字は、中央府省庁の備蓄食品限定です」と強調します。一般的な食品に簡単に適用することはできません。箱に詰められ直射日光も受けず、府省庁の一室で5年間保管されてきたからこそ、の話なのです。
長期保存用食品であるのも大きなポイント。長期保存用食品は、メーカーが微生物管理に細心の注意を払い質の高い容器包装材を用いて製品化されています。だから、長く保つし高価です。
製造して5年もたったものが3カ月も大丈夫なのであれば、普通の食品ならもっと長く……と考えがちですが、実際には逆。普通の食品の衛生管理や容器包装は、多くがそれなり、です。保管条件もまちまち。複雑な流通段階を経て店頭に長く並び、日光や蛍光灯に照らされて、という食品もあります。
加えて、わが家の賞味期限切れ食品、「直射日光・高温多湿は避けて」と書いてあるのに、日が当たっていたりコンロの近くに置いていたり、ではありませんか?
堀部課長補佐は、「もったいないという気持ちはとても大事です。でも、食品ロス対策は科学的に行うべき。安全をおろそかにした食品ロス対策はあり得ません」と話します。
■手元の賞味期限切れ食品、どう判断する?
さて、消費者庁の方針、科学を参考に、私たちは「賞味期限切れ、いつまで食べられる?」をどう判断したらよいのでしょうか?
食品ロス削減推進室にも「この食品は○カ月保つ」という指針を出してほしい、という要望が来るそうです。「今後、検討してゆきたい」とのことですが、とりあえずは私たち消費者が自己責任で判断するしかなさそうです。
まずは、「どのように保存されてきたか?」を調べましょう。加工食品は必ず、保存方法が表示されています。流通段階も想像して、大きな問題がなく保存できていそうなら、消費者庁も用いた安全係数の考え方を適用します。製造後、1年の賞味期限を設定している製品であれば、10分の1をかけ算して1カ月強はメーカーが品質維持を確認しているはずです。私は、自分や家族が食べる分であれば、最後の2分の1のかけ算については省略してもよいのでは、と考えます。
食品には製造日が書かれていませんが、各食品企業のお客様相談室で尋ねることができます。事業者も、消費者の参考になる情報を出しています。たとえば公益社団法人日本缶詰びん詰レトルト食品協会はウェブサイトで解説しています。賞味期限は、缶詰が製造から3年後、びん詰は半年〜1年程度、レトルト食品は1〜2年程度で設定されています。
■不安があるときは、思い切って処分も
食品や容器包装、保存条件による日持ちの違いは、それで1冊本がかけるくらい、多くの事例があります。しかも、事業者によっても衛生管理のレベルはまちまちです。
よく、「開封してみて五感で判断すればよい」という人がいますが、これも問題があります。食中毒につながる微生物は、腐敗を招く細菌とは異なります。五感では判別できません。
過去の深刻な食中毒事故など知れば知るほど、期限というのは深淵で、ちまたにあふれる「期限切れでも○カ月は食べられる」式の情報は出せなくなります。消費者庁の災害用備蓄食品に対する慎重な姿勢にも、なるほどとうなずきます。
「もったいない」と「食品ロス削減」を意識しつつも、安全を大切に。やっぱりまずは、賞味期限内に食べきる努力を。そのうえで、保存方法など不安がある時は、思い切って処分してもよいと私は考えます。
最後は四角四面の結論になりましたが、各種食品の事例を知れば、賞味期限の“深淵”と、検討の科学的根拠をもっと理解できます。そこで次回、さまざまな食品の期限にまつわる事例、エピソードをご紹介しましょう。(後編に続く)
<参考文献>
消費者庁・[食品ロス削減]食べもののムダをなくそうプロジェクト
消費者庁・第3回食品ロス削減の推進に関する関係省庁会議(令和3年4月21日)
農水省・災害時用備蓄食料をフードバンク活動団体等に提供します!
公益社団法人日本缶詰びん詰レトルト食品協会
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科学ジャーナリスト
京都大学大学院農学研究科修士課程修了。毎日新聞社の記者を経て独立。食品の安全性や環境影響等を主な専門領域として、執筆や講演活動などを続けている。主な著書は『効かない健康食品 危ない自然・天然』(光文社新書)、『メディア・バイアス あやしい健康情報とニセ科学』(同、科学ジャーナリスト賞受賞)など。
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(科学ジャーナリスト 松永 和紀)
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