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月収半減「休業手当払わず、辞めるのを待つ」露骨な非正規イジメを平気でする会社の"鬼論理"

プレジデントオンライン / 2021年6月11日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

非正規社員のセーフティネットの機能不全が起きている。緊急事態宣言下の休業や時短営業で労働時間が減り、収入が激減したパートやアルバイトは多い。「実質的失業者」(2021年2月時点)は女性103.1万人、男性43.4万人。ジャーナリストの溝上憲文氏は「月収半減で生きていくのにも困る状態の人に休業手当などを支払わないケースが増えている。解雇や雇止めをせず、自ら辞めざるをえない状況に追い込む陰湿な手口もある」と指摘する――。

■平均月収16万→8万でも「休業手当・休業支援金」もらえぬカラクリ

コロナ禍で非正規社員の首切りや賃下げが相次いでいる。

正社員と非正規社員の格差の是正が叫ばれて久しいが、リーマンショックの時を上回る勢いで悪化している。

コロナの直撃を受けた飲食・宿泊・旅行・アパレルなどの業界は非正規のパート・アルバイトが多い。緊急事態宣言下の休業や時短営業によって労働時間が減らされ、収入が激減している。

野村総合研究所が2021年2月に実施した調査(約6万5000人)によると、コロナ前と比べてシフトが減少しているパート・アルバイトは女性が29.0%、男性が33.9%に達している。

そのうち5割以上減少している人の割合は女性が45.2%、男性が48.5%と約半数を占める。非正規社員の平均月収は約16万円(国税庁、2019年調査)であるが、8万円以下に減っていることになる。一人暮らしであれば家賃や食費にも事欠く金額といえる。

実は会社の都合による休業はもちろん、シフト時間が減少しても休業手当を受け取ることができる。ところが驚くことにシフト減のパート・アルバイトのうち休業手当を受け取っていない人は女性の74.7%、男性の79.0%と大半の人が受け取っていないのだ。

野村総研が昨年12月、「シフトが5割以上減少」かつ「休業手当を受け取っていない」人を「実質的失業者」と定義。総務省の「労働力調査」を用いた全国の女性の「実質的失業者」は90.0万人との推計を発表し、大きな話題になった。2021年2月の調査では女性103.1万人、男性43.4万人と推計し、実質的失業者がさらに増加している。ちなみに3月の完全失業率は2.6%だが、完全失業者は188万人。パート・アルバイトの実質的失業者を加えると1.8倍増になる。

本当はこういう時こそセーフィネットが機能しなくてはならないはずだ。

労働者に対する直接的支援が会社から支給される「休業手当」もしくはコロナ禍の特例措置として設けられた「休業支援金」だ。しかし、前述したように大半のパート・アルバイトが受け取っていない。

それはなぜか。

■「休業手当を受け取れる」と周知しない、非正規社員への露骨な差別

野村総研の調査では休業手当を受け取ることができることを知らなかった人の割合は男女とも50%超に達している。ということは会社が周知していないということであり、野村総研も政府広報やメディアなどで広く周知することを提言している。

しかし、実際の現場に深く分け入ると、周知していないどころか、正社員と非正規社員を露骨に差別している実態が浮かび上がる。

ミーティングルーム
写真=iStock.com/FangXiaNuo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/FangXiaNuo

首都圏青年ユニオンのコロナ禍の2020年4月以降、積極的に労働相談を実施しているが、たとえば大阪府の飲食店でアルバイトをしている30代の女性からこんな相談を受けた。

「お店が休業になってしまい、今は休んでいる状態です。休業手当は出ないのですか、と聞いたら『パート・アルバイトは出ない』と言われている。雇用調整助成金を使ってもダメなんですか? と聞いたら『アルバイト全員に出すと、助成金をもらうまでに会社が潰れてしまう』と言われた」

相談内容から察すると、正社員に休業手当を支給しているが、非正規社員には支給していない。明らかな非正規社員差別である。

労働基準法には「使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上を支払わなければならない」(26条)と明記。正社員と非正規社員を区別していない。

しかも国から雇用を維持する企業の休業手当を支援する「雇用調整助成金」(雇調金)が支給される。

現在、まん延防止等重点措置と緊急事態宣言の対象地域で労働者1人あたりの日額上限を1万5000円、助成率を最大10割まで拡充されている(対象区域外は1万3500円、助成率最大9割)。

もちろん支給対象は正規・非正規に関係はない。非正規社員のシフトが以前に比べて週1日減れば、1日分の休業手当を支給し、後で雇調金をもらえばよい。その間の資金繰りが厳しければ実質無利子・無担保融資の「新型コロナウイルス感染症特別貸付」を利用すればよい。

にもかかわらず休業手当を支払わない企業も少なくない。

■休業手当を非正規社員に意図的に支払わない企業の思惑

首都圏青年ユニオンが実施した2020年4月から12月までの「ホットライン労働相談」は440件。事業主や失業者を除いた労働者のうち、71.0%をパート・アルバイトが占める。

ビールを注ぐ日本のバーテンダー
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

最も多い相談が「事業主都合休業」の65.0%、続いて「解雇・雇い止め・退職勧奨」の18.3%。

ダントツの相談数だった事業主都合休業の内訳は「休業手当なし」が87.3%と最も多く、続いて「完全休業」(76.1%)、「部分休業」(24.9%)の順だった。

首都圏青年ユニオンの原田仁希執行委員長はこう語る。

「2020年4月以降の相談はシフト労働者の休業手当の未払い問題が急激に増えた。業種では飲食、宿泊、アパレル関連が多く、パート、学生バイト、フルタイムで働いている人の3つのグループに分かれるが、フルタイムで働いている人でもシフトという理由で休業手当が支払われていない」

なぜシフト制の非正規に休業手当を支払おうとしないのか。実はシフト制労働者との労働契約の内容が法的にグレーゾーンであることを利用して休業手当を支払わない企業が増えているのだ。

使用者は休業手当を支払う義務があるが、この場合の休業は労働契約書に定めた「労働時間・労働日(所定労働時間・所定労働日)」より「実際の労働時間・労働日」が少ない場合に発生する(「所定」と「実際」の違いに注目してほしい)。

ところが、シフト制労働者の労働時間や労働日は週または月ごとにシフト表に書き込まれる。そのため労働契約書に労働時間や労働日を記載していない企業もある。

あるいは「シフトによる」と記載しているケースや労働時間・労働日が記載されていても、「ただし、シフトによって変動する可能性がある」と記載している企業もある。

つまり翌週ないし翌月のシフトが組まれていないことを挙げて「もともと予定されている労働がないので休業ではない」という理屈で休業手当の支払いを拒否する企業が多いのである。

■「労使が話し合って労働者の不利益を回避せよ」厚労省のお達しも無視

実際に首都圏青年ユニオンが発表した「シフト制労働黒書」(2021年5月)にはそうした企業の事例が多数紹介されている。

たとえば約20店舗のレストランを経営する企業のレストランの1つで働くアルバイトの2人はコロナ前まで週40時間超働いていた。週5日勤務として、1日平均8時間働いていることになる。

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2020年4月の緊急事態宣言後、勤務していた店舗が休業、同年5月半ば以降に再開されたが、正社員のみで切り盛りするのでアルバイトは出勤できず、同年6月以降はアルバイトの勤務が再開されたが、労働時間は大幅に削減された。

休業やシフト削減はしかたがないにしても4月以降の店舗休業期間や労働時間の削減分についてシフト勤務のアルバイトには休業手当が一切出なかった。

アルバイトの2人は労働組合に加盟し、会社と団体交渉を行ったが会社側は「シフトが決まっていない期間は予定している労働があるとはいえず休業とは認められない」として、休業手当の支払いを拒否したという。

本来であれば、労働契約書の記載内容に関係なく、コロナ前の勤務実態と比較して労働時間が減っていれば、その分の休業手当を支払うべきだろう。

仮に法律上の支払い義務がないにしても厚生労働省のQ&Aでは繰り返し「労使がよく話し合って労働者の不利益を回避するように努力すること」を求めている。

しかも支払い義務がないにしても、前述したように休業手当を支払えば、企業は雇調金を受け取れることを厚労省のQ&Aでも示している。にもかかわらず休業手当を支払わないのは明らかに非正規社員イジメというしかない。

■「休業支援金の協力を会社にお願いしたら『協力できない』との返答」

厚生労働省はその後、休業手当を支給されない労働者が自ら申請手続きをして休業手当を受け取れる「休業支援金制度」を新たに設けた。

ただし休業支援金を受け取るには事業主に「休業手当を支払っていない」など必要事項を記入してもらう必要がある。

休業手当を支給しないのだから会社が協力するのが当然だろう。ところが、会社が休業手当を支払われなかったため、休業支援金の申請協力を求めたところ「シフト減に同意していたためシフト減は休業にあたらない」と拒否された人たちが少なくない。

具体的には休業支援金の申請書類の中の事業主記入欄の「休業させましたか」の問いに「いいえ」をチェックし、あくまで会社が指示した休業ではないとする企業もあるという。

実際に2021年5月8~9日、首都圏青年ユニオンはシフト制労働者を対象に電話相談を実施したが、20代の男性からこんな相談が寄せられている。

人間のシルエット
写真=iStock.com/OKADA
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「休業支援金の協力を会社にお願いしたら『協力できない』と言われた。会社記入欄すら書いてくれない。今年の2月からシフトが減り始め、もともと月20日出勤のところ、3日ほど減り、1日の労働時間が8時間から4時間に減り、収入が半減している。シフトが減ったことについてはコロナの影響であることは会社が認めているが、会社は『シフトで管理していて、休業とは認められない。会社記載欄も書けない。やるなら自分でやってください』と言われた」

なぜ、個人で行う休業支援金の手続きまで会社は拒否するのか。原田委員長は「シフト減を休業だと認めてしまうと、今後シフトを減らしたくなったときに休業手当の支払い義務が発生することを恐れているのだろう」と指摘する。

■パート・バイトの生活がどんな苦しくなろうとも関係ない

シフト制という会社にとって都合のよい仕組みを温存したいという自己保身だけであり、パート・アルバイトには休業手当を払わず、どんなに生活が苦しくなろうとも関係ないという態度を露骨に示している。

こうした事態が横行しているとすれば、休業支援金など政府のセーフティネット機能が機能していないということになる。非正規社員のセーフティネットの機能不全はそれだけではない。失業時の生活保障さえ失われる人も発生している。

消沈ビジネスウーマン
写真=iStock.com/AH86
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コロナ禍で退職を余儀なくされた人もいれば、休業手当が支給されないために自己都合で辞める人もいる。

その場合の救済措置が雇用保険の失業給付であるが、労働時間が週20時間以上であることが雇用保険の加入要件になっている。

しかしシフト削減によって20時間を下回ると雇用保険の加入要件から外れてしまう。実際に「シフト削減が続き、雇用保険の加入要件を満たさないので脱退手続きを取るケースが多い。また、休業中に休業手当は出ないのに自己負担分の保険料を払えないので自ら抜けたいという人もいる」(原田委員長)という。

シフト削減による雇用保険加入資格を喪失するだけではない。

加入資格があっても企業の無慈悲な仕打ちが待っている。シフト削減状態が続き、休業手当も出なければ当然生活も苦しくなる。それに嫌気がさして退職しても会社都合退職ではなく、自己都合退職になり、失業給付期間の制限などもある。

■あえて解雇や雇い止めせず、労働者自ら辞めざるをえない形に追い込む

企業の中には「シフトがなくなっても、法的リスクなどを考えて、あえて解雇や雇止めをしない企業もある。結果として労働者自ら辞めざるをえない形に追い込まれる」(原田委員長)という。

首都圏青年ユニオンには休業手当が出ない関西の30代の女性からこんな相談もあった。

「売り上げが低迷し、正社員だけの店舗運営になっているが、私たちは休業手当が出ていない。25日分の有給休暇を取得したが、それ以降は収入がゼロの状態が続いている。いつ働けるかはわからず、店長に聞いてもわからないと言われた。それなら『条件付きで解雇してくれ』と言ったが、『店舗が再開したときに働いてほしい』という理由で解雇はできないと言われた」

休業手当を払ってもらえないので生活も苦しい。それなら退職し、失業手当をすぐにでも受け取って生活をしのぎたいと誰もが考えるだろう。

しかし、それでも「会社都合退職」にはさせないで「再開まで待ってほしい」というのは、それこそ“生殺し”状態に等しい。

振り返れば、2008年のリーマンショック時に派遣切りが相次ぐなど非正規社員の脆弱なセーフティネットが露呈され、社会的に大きな問題となった。

その後、政府は雇用や賃金保障に関する雇用安定策を講じてきた。2019年には正社員との処遇格差を是正する目的で同一労働同一賃金の法制化も施行された。

しかし、一連の政策が結果的に穴だらけだったことが今回のコロナ禍で炙り出された。非正規社員は正社員の雇用を守るための“雇用の調整弁”と言われてきたが、それがコロナ禍で多数の“非正規難民”を生み出している。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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