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「コロナ禍で爆増中」20、30代投資ビギナーに潜む"危険な兆候"

プレジデントオンライン / 2021年6月12日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/D-Keine

投資に関心を持つ20、30代が増えている。過去の投資ブームは主に富裕層や高収入層の話だったが、若者がコロナ禍の生活防衛や人生100年時代の長生きリスクのため投資を始めている。ファイナンシャルプランナーの黒田尚子さんは、「必要以上に投資を怖がったり、逆に、お金にお金を生ませなきゃ損というムードに流されハイリスクな投資をしたりするのもダメ。投資を含む金融リテラシーを身につけるべき」と指摘する――。

■「コロナ禍の生活防衛」ために投資という選択肢

生活のすべてがコロナに左右される状況が続く中、昨年から投資を始める人が増えている。しかも、その多くが20、30代といった若年層の投資ビギナーだ。

先日発表された2020年3月から2021年4月までのネット証券大手5社の口座開設数は、20代以下の若年層の伸びが顕著だった。ファイナンシャル・プランナー(以下、FP)である筆者への資産運用の相談も増えている。

最近の投資意欲の高まりについては、コロナ禍特有の要因もあるようだ。何が起きるかわからない先行き不透明な今を痛感した人々が、万が一の場合に備えて、「お金にも働いてもらう=投資」の重要性を認識。生活防衛策の一つとして投資を選択している。

しかし、その一方で、頑なに「投資は怖い」というイメージを持つ若年層も少なくない。筆者は、今年4月から城西国際大学経営情報学部で「ファイナンシャルプランニング論a」の講義を担当している。その受講生を対象に投資に関するアンケートを実施した。

本稿では、そのアンケート結果から投資ビギナーの心理を知った上で、投資に対する心構えがどうあるべきか考えてみたい。

■生活防衛のために「貯金」よりも「投資」を選ぶ時代に?

まずは、生活防衛の手段として投資を始めた人々がどれくらいいるのか見てみよう。

マネーフォワードが実施した「コロナ禍の個人の家計実態調査2021」によると、生活防衛の意識の変化については、「生活防衛の意識が高まった(やや高まった)」と回答した人は82%。このうち生活防衛のために「投資を始めた」人が19%、「投資資金を増やした」人が32%と、51%の人が投資への行動を起こしている。

万が一のためといえば、これまでの日本人なら、真っ先に「貯金」を思い浮かべそうなものだ。しかし、同調査では、生活防衛策として、「貯金を始めた」人は10%、「貯金額を増やした」人は29%と、4割弱にとどまっている。

この調査の対象者は、同社の家計簿アプリ「マネーフォワード ME」の利用者であることから、家計に対するリテラシーも高めの人が多い可能性もある。加えて、最近の株高が投資を後押ししている面もあるだろう。とはいえ、コロナ禍では、貯金よりも、投資を選ぶ人が多いという結果になっているのは興味深い。

また、具体的な商品としては、約7割以上がNISAやつみたてNISAを利用。このほか、iDeCo(個人型)や企業型の確定拠出年金の利用者も2割以上いる。しっかり、税制優遇が受けられる制度を選び、中長期で資産を殖やそうという意識が高まっているようだ。

生活防衛のために、投資を始めたり投資にまわす資金を増やしましたか?(n=3216)
「生活防衛のために投資を始めた人」が行っている投資(n=595)
※出所:株式会社マネーフォワード「コロナ禍の家計実態調査」
実施時期:2021年1月29日(金)~1月31日(日)
調査対象:お金の見える化サービス『マネーフォワード ME』利用者3957人
調査手法:インターネットを利用したアンケート調査

■大学生への投資アンケートでは9割以上が投資未経験

続いて、筆者が実施した大学生への投資アンケートの結果を紹介しよう。

アンケートの目的は、第一に、大学生の投資への意識や実態を把握すること。第二に、投資教育が、投資の意欲や行動変容にどれだけ影響を与えるか確認することの2つである。

そのため、アンケートは、授業を行う前に1回目を実施。金融や経済、金融商品、ポートフォリオ運用などの投資に関わる授業(90分×4回)を行った後に2回目を実施した。

まず、授業前の1回目のアンケートの質問内容と結果は次の通りである(詳細は文末の【アンケート結果】参照)。

予想通り、9割以上の学生が投資未経験者(Q1)だった。投資をしない理由(Q2)で最も多かったのは「投資に関する知識がない」で、それに「投資をする経済的な余裕がない」が続く。しかし、投資への意向(Q3)を聞くと、「投資をやってみたい」人が7割以上いた。

■投資教育をしても投資への意欲は高まらなかった⁉

そして、授業後に行った2回目のアンケートの質問内容と結果は、次の通りである(詳細は文末の【図表2】参照)。

わずかながらも、授業の合間の1カ月の間に実際に投資を始めた人がいたのには驚いた(Q1)。ただ、そのきっかけが筆者の授業の成果でなかったのは残念だが……(Q2)。

そして、最も気になるのは、投資教育がもたらす投資の意欲への影響である(Q3)。筆者の予想では、授業を受ける前よりも、投資への意欲は飛躍的に増すはずである。

成長著しい上昇矢印を手に持つ男の子
写真=iStock.com/RichVintage
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RichVintage

しかも、実は、筆者の講義だけでなく、授業の最終日には、ウェルスナビの執行役員および広報担当の方を特別ゲストとしてお招きし、大学生と投資、金融業界に関するトークセッションも行っている。

ウェルスナビは、預かり資産・運用者数No.1ロボアドバイザー「WealthNavi」を提供する会社で、2016年7月の正式リリースから、わずか約4年10カ月で、預かり資産4500億円(2021年5月28日時点)を超えるなど、着実に利用者を増やしている。

2021年2月からは「おまかせNISA」の提供を開始するなど、利便性やサービスも向上。筆者がその動向を注目している金融機関の一つだ。

学生にとっても、実際に、金融機関に勤務して投資に携わる社会人のリアルな話を聞く機会は少なく、授業に参加していただけたのは、非常に有意義だったと思う。

さて、これだけやれば、さぞかし学生の投資意欲も高まっただろう。と思いきや、残念ながら、結果はほとんど変わらなかった。

1回目のアンケートとほぼ同じく、「投資をしてみたいか」という質問に対して、3割近くの学生は、「いいえ」と回答した。この結果では、投資教育をしても速やかな投資への行動変容には必ずしもつながらないということになる。

そうした中、筆者が注目した点が2つある。

1つ目は、Q3で「はい」と回答した学生にその理由を尋ねたところ、「将来のライフプランや老後などに備えて、投資が必要だと思うから」が最も多かったこと。授業によって、単にリターンを追求するために投資をやるのではなく、将来の資産形成のために、投資を行う重要性が理解できたということだろう。

2つ目は、Q3で「いいえ」と回答した学生の投資をしたくない理由のうち、1回目で最も多かった「投資に関する知識がない」が大きく減少し、2回目では「投資をする経済的な余裕がない」が最も多かったことである。つまり今回、投資をしたくないという学生も、社会人になって自分で稼げるようになれば投資をする可能性があることだろう。

■投資するしないは自分次第。まず投資の何たるかを学べ

かねて、筆者は、家計管理をする上で、節約は必須のマストアイテムだが、投資は家計の救世主などではなく、絶対にやらなければならないものではない、と伝えている。

ワケも分からず、金融機関の営業マンに勧められるまま、とりあえず始めたものの、手数料だけをガッポリ取られて、損切りをしてジ・エンド。といった末路を迎えるくらいなら、堅実に貯金でコツコツと貯めたほうがずっと良い。

しかし、これからの長寿社会に資産寿命を延ばすことを考えると、資産運用や投資を活用したほうが、効率的である。たとえ、価格変動リスクや為替リスクがあっても、若年層はそれを取り戻す時間があるのだから。

若いうちから投資を始めるメリットがどれだけあるか具体的にシミュレーションしてみよう。例えば、手持ち資金100万円を25歳から65歳まで40年間、仮に年利平均1%で運用して2000万円にするために必要な積立額は月3万1400円で済む。

多数のコインの上にiDeCoのブロック文字
写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

それに対して、同じ条件で投資のスタート年齢が35歳の場合(30年間)は月4万4500円、45歳の場合(20年間)は月7万700円と、どんどん額が高くなってくる。

40、50代以降に目標金額を達成させるとなると、毎月の積立額を大幅に増やすか、リスクを取って高い利回りの金融商品で投資するしかない。現在、投資が怖いと感じている人も、こうして先のことを少し考えれば、少額でも長く投資を続け「時間」を味方につけておくのが賢い方法だと気づくのではないか。

もちろん、投資するかしないかは最終的には自分の判断次第だが、重要なのは、投資しない場合でも、きちんと投資の基礎を知った上で「しない」決断をすることだ。学生のうちから、単に「投資は怖い」「損をしたくない」という漠然としたイメージだけで、必要以上に投資を怖がったり、避けたりするのは後で後悔することになるかもしれない。

とはいえ、アンケートのコメント欄には、「投資は失敗したら怖い」「投資は詐欺が多い印象がある」「ギャンブルと同じ」など、学生の投資に対するネガティブな意見も目立った。投資について、知ることができて良かったと答えた学生であっても、「でも、やっぱり、投資はちょっと……」と二の足を踏む者が少なくないのだ。

■若者の投資へのネガティブなイメージを払拭するためには?

では、どうして、投資は怖いというイメージがこれだけ根強いのか。その理由として、主に次の2つが考えられる。

① 投資に関する正しい知識や理解の不足

すでに述べたが、投資は怖いというイメージの悪さは、正しく投資を理解していないことに起因する可能性が大きい。前掲の2回目のアンケートでは、投資に関する基本的な知識を学んだことで、「投資は怖いイメージがある」と回答した人が1回目よりも減少(Q5)。さらに授業を受けて、投資へのイメージが改善した人が8割以上もいる(Q6)。

アンケートのコメント欄にも「自分もできるのではないかと自信が持てた」「投資には多くのお金が必要だと思っていたが、少額からでも始められると知った」「これまで興味がなかったが、投資をしてみたくなった」など、ポジティブな内容が多く寄せられた。

アンケートの結果、ライフプランに応じた継続的な投資教育は欠かせないということがわかった。

② 成功体験のなさ

もともと投資にネガティブなイメージを持っている学生が多かった背景には投資の成功体験のなさもある。とりわけ、周囲の大人の成功体験の有無が大きく影響しているのではないか。

学生の段階ですでに投資を経験し、「仮想通貨(暗号資産)で大損した」「FXで失敗した」という人もいるが、両親や兄弟、祖父母、親戚など、周囲の大人が投資をやっていたり、失敗したりしたのを見て、「投資は怖い」「あんなふうにはなりなくない」と感じている学生が少なくなかった。

そもそも、投資経験のある親世代が少ないこともある。

今の大学生の親世代なら、筆者と同じ50代が多いだろうが、日本銀行の預金種類別の店頭表示金利の平均年利率等のデータによると30年以上前の1990年9月時点の定期預金(2年もの)は金利6.33%、3カ月ものでも4.08%もあった。

わざわざリスクを取って、投資をしなくても、元本保証のある定期預金や貯蓄性保険で、今よりも格段に高いリターンが得られたのである。

スマホとパソコンで金融チャートを分析する若い女性
写真=iStock.com/guvendemir
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/guvendemir

一方、親世代には投資にチャレンジした層もいる。だが、彼らの中にはバブル崩壊やリーマンショックなどで投資に失敗し、「もう投資はこりごり」といったイメージを持つ人も多いに違いない。

「投資経験がない」「成功体験がない」親を見て育った若年層が投資に消極的なのはムリもないだろう。

しかし、国が推奨するまでもなく、医療の進化などによる「長生きリスク」(長生きはめでたいが、ライフコストもかかる)を踏まえると、自助努力としての資産形成の重要性はより高まってくる。若年層はそうした意識を強く持つべきだろう。

■仮想通貨(暗号資産)やFXで大損した学生も少なくない

一方、アンケートでは、投資に対してこちらが驚くほど前向きな学生もいた。ただ、「FXで大きく儲けたい」「つみたてNISAでは大きく儲からないと聞いている」と前のめりすぎの傾向もあり、一部には「投資」と「投機」を混同しているようなコメントさえあった。

投資と投機の違いについてはいろいろな考え方があるが、将来の資本を増やすために、今ある資本を投下するのが「投資」。機会(チャンス)を狙った売買によって、収益をあげることが「投機」と考えるとわかりやすい。

大量の札束をジャケットにねじ込む男性
写真=iStock.com/AH86
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AH86

そのため、前者は中長期にわたった運用、後者は短期的かつ機動的な売買が中心となる。つまり、投資と投機は別物だということを肝に銘じておくべきなのだが、昨今の「“人生100年時代”こそ投資は必須」というムードに煽られた結果、仮想通貨(暗号資産)やFXで大損した学生の話も耳にすることは一度や二度ではない。

サークルの先輩に勧められたり、儲かっている友人の成功話につられたりするケースが多いが、投資の「基本」を知らずに見切り発車するのは、路上教習も受けないまま、いきなり高速道路に飛び出すようなものである。羊頭狗肉で、笑顔で手ぐすね引いて待つ悪い人々はいつの時代もいるので、そうした人のいいカモになってはいけない。

つまり、ここでポイントとなるのは金融業者側の姿勢だ。金融知識がまだ乏しい若者に対して、投資と投機を混同させないような“真に”顧客本位の業務運営が望まれる。

投資ビギナーにとって、投資を始める「第一歩」に、どの金融機関で、どんな金融商品を選ぶかが、投資人生を左右する大きなポイントとなるのは確かだ。

つまり、アセット・ロケーション(資産の置き場所)とアセット・アロケーション(資産配分)をどうするか。この2つを最適化するには、「一般・つみたてNISA」や「iDeCo」などを活用するのが王道だが、それでも、商品選びを難しく感じる人は多い。

そこで最後にもう一度、金融機関へのお願いというか、提案である。是非とも、若年層の投資ビギナーが「投資をしたい」と思えるような魅力ある金融商品(長期・積立・分散・低コスト)やサービスを提供してほしい。

良質な金融商品が増えれば、学生を含めた投資家も増えて、金融機関は潤う。投資家の目が肥えれば、より良い金融商品を作らねば売れないので、金融機関は企業努力に励む。いささか「卵が先か、鶏が先か」的な思考になってきたが、まずは将来の投資家を育てるという意識を金融機関が持つべきだ。

■【図表1】投資アンケート(第1回)の質問内容と結果

履修者248人、回答者数237人

Q1.これまで株式や投資信託など金融商品の投資の経験はありますか?
はい:12人(5%)
いいえ:225人(95%)

Q2.Q1で「いいえ」と回答した方にお聞きします。これまで投資をしていない理由はなぜですか?(複数選択可)
1.投資をする経済的な余裕がない 88人
2.投資は怖いイメージがある 81人
3.投資に関する知識がない 153人
4.投資で損をしたくない 56人
5.投資をするタイミングではない 29人
6.投資の必要性を感じない 24人

Q3.Q1で「いいえ」と回答した方にお聞きします。今後、投資をしてみたいと思いますか? 「はい」か「いいえ」で答える問題です。
はい:163人(72.4%)
いいえ:62人(27.6%)

■【図表2】投資アンケート(第2回)の質問と結果

履修者248人、回答者数237人

Q1.この1カ月(4月11日~5月11日)の間に、新たに株式や投資信託など金融商品の投資を行いましたか?
はい:6人(3%)
いいえ:231人(97%)

Q2.Q1で「はい」と回答した方にお聞きします。投資をはじめた理由として最も大きいのは、以下のうちどれですか?
1.金融・経済、投資などに関する授業(FP論a)を受けて、知識や関心が高まったから:0人
2.株価の上昇など、投資をはじめる良いタイミングだと思ったから:2人
3.資金を効率的に増やしたかったから:1人
4.周囲に勧められたから:1人
5.たまたま:2人
6.その他:0人

Q3.Q1で「いいえ」と回答した方にお聞きします。今後、投資をしてみたい、あるいは引き続き投資をしたいと思いますか?
はい:165人(71%)
いいえ:66人(29%)

Q4.Q3で「はい」と回答した方にお聞きします。その理由として最も大きいのは、以下のうちどれですか?なお、すでに投資経験のある方は、より投資への意欲が強まった理由を1つ挙げてください。
1.金融・経済、投資などに関する授業(FP論a)を受けて、知識や関心が高まったから:54人(32.7%)
2.将来のライフプランや老後などに備えて、投資が必要だと思うから:69人(41.8%)
3.銀行の預金ではお金がまったく増えないから:17人(10.3%)
4.周囲に勧められているから:4人(2.5%)
5.何となくした方が良いと思うから:13人(7.9%)
6.その他:8人(4.8%)

Q5.Q3で「いいえ」と回答した方にお聞きします。今後も投資をしたくない理由として最も大きいのは、以下のうちどれですか?
1.投資をする経済的な余裕がない :25人(37.8%)
2.投資は怖いイメージがある :11人(16.7%)
3.投資に関する知識がない :12人(18.1%)
4.投資で損をしたくない:7人(10.6%)
5.投資をするタイミングではない:7人(10.6%)
6.投資の必要性を感じない:4人(6.0%)

Q6.FP論aの授業(第2回~第5回)を受けてみて、金融商品や投資に対するイメージはどうなりましたか?
1.非常に良くなった:60人(25.3%)
2.やや良くなった:132人(55.6%)
3.とくに変わらない:44人(18.5%)
4.やや悪くなった:1人(0.4%)
5.非常に悪くなった:0人

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黒田 尚子(くろだ・なおこ)
ファイナンシャルプランナー
CFP1級FP技能士。日本総合研究所に勤務後、1998年にFPとして独立。著書に『50代からのお金のはなし』など多数。

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(ファイナンシャルプランナー 黒田 尚子)

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