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渡辺謙「相容れない人間たちにこそ真実がある」

プレジデントオンライン / 2021年7月13日 9時15分

俳優 渡辺謙氏

「俳優を一生の仕事にする」。そう決意したきっかけが、1985年、舞台『ピサロ』日本初演への出演だった。『ピサロ』は16世紀、167人の寄せ集めの兵を率いて、2400万人のインカ帝国を征服した、成り上がりのスペインの将軍ピサロの物語。85年の初演当時に山﨑努が演じたピサロ役を2020年、PARCO劇場のリニューアルオープンに際し、渡辺謙が演じるはずだった。しかし、コロナ禍で初日は延期、45回のうちわずか10回の上演しかかなわなかった。その作品を21年、再演する。コロナを越え、渡辺謙は作品について、ひいてはエンターテインメントについて何を思うのか。

■日本で流行した作品が世界には届かない

コロナ禍で日本のエンターテインメントのガラパゴス化がより明らかになってしまいました。日本で流行した作品が世界には届かない。人と人との交流が激減したこの時代にあっても人に伝わるクオリティに達していないのです。舞台『ピサロ』に臨むにあたっても、テクニカルに走るのではなく、より深くテーマやスケールを伝えねばなりません。

『ピサロ』では、同じ人間でありながら、スペインとインカ帝国と、価値観もテーマも相容れない人間たちが描かれています。最後まで理解できないこともあれば、非常に目の覚めるような真実に出合う瞬間もある。これは今の世相に通ずる部分かもしれません。

1985年の初演で好きだったシーンに、インカ王アタウアルパをロープで縛り、老いたスペイン将軍ピサロが馬を調教するかのように引きずり回すところがあります。ですが20年、演出のウィル・タケットは「僕はロープを使わないよ」と言ったのです。たしかに演出的にもさばきやすくなるのですが、何より“見えないもの”にわれわれは縛られているのだという点に、今回の場合、僕は強く同意しました。

渡辺謙氏_顔アップ

この舞台で、そしてピサロという役を演じるにあたって、僕が何を得て、何を喪失し、何を思うのか。それはぜひ舞台を体験して皆さんに感じていただきたいところです。僕が言ってしまうと「こう表現したいんだぜ」と押し付けがましくなってしまいますからね。

■本番の幕が上がってから下りるまで、すべてが旅のよう

ただ実際、それは毎回違うのです。僕はよく舞台を「旅」にたとえます。稽古から終演するまで、本番の幕が上がってから下りるまで、すべてが旅のようで、どの稽古でも、どの公演でも、どんなときも、獲得し失うものが微妙に変わってきます。

そうやって生まれたバイブレーションをお客さんが受け止めて、われわれに投げ返す。ライブとはよくいったもので、それでこその演劇なのだと思います。ですが20年は、新型コロナウイルスの影響でそのやり取りが可能な状況ではなかった。ドアが閉まり、幕が上がったそのときに、劇場は異次元の空間になるべきだと思うのですが、客席にもどこかコロナに対する悲壮感が漂っていて、うまくコミュニケーションが取れなかった。21年はお客さんもわれわれとの交流を求めているし、それができる環境になってきたという期待感を抱いています。

渡辺謙氏_全身

あえて言うなら、『ピサロ』もまた「旅」の物語なのだと思います。最後のシーンでアタウアルパを自らの腕の中で抱くとき、自らの終焉を見つめるような感覚がある。この作品は、終焉の場所を探す旅なのかもしれません。このライブを皆さんと共有したとき、果たして何が生まれるのか。今からとても楽しみにしています。

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渡辺 謙(わたなべ・けん)
俳優
1959年、新潟県生まれ。81年舞台『下谷万年町物語』に出演以来、NHK大河ドラマ『独眼竜政宗』の主演をはじめ、数々の映画、テレビドラマ、舞台に出演。映画『ラストサムライ』ではアカデミー賞、ゴールデン・グローブ賞などの映画賞で助演男優賞ノミネート。2015年、ミュージカル『王様と私』のブロードウェイ公演でトニー賞ミュージカル部門主演男優賞ノミネート。

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(俳優 渡辺 謙 構成=プレジデント編集部 撮影=宇佐美雅浩)

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