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仲の良かった兄弟が"家業"に入った途端にいがみ合いを始める3つの理由

プレジデントオンライン / 2021年6月28日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/OJO Images

家族経営の中小企業にとって、後継者問題は会社の存続にかかわる大問題だ。事業承継に詳しい弁護士の島田直行さんは「事業承継でありがちなのが後継者の兄弟や母親(先代の妻)を経営陣として参画させるケースだが、家族間のトラブルが起きるケースが多い」という――。

※本稿は、島田直行『社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれます』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■親心が招く兄弟間の骨肉の争い

事業承継の問題は、先代が倒れたときに顕在化する。それまでは仮に問題があっても先代の顔ひとつで押さえ込めていたものが、一気に吹きだすようなものだ。

ここで言う「先代が倒れた場合」とは、亡くなった場合に限らず、事故や病気で判断能力を失った場合も含まれる。典型的な問題となるのが、兄弟間の確執だ。「同じ会社に複数の子どもを入れるべきではない」と何度も耳にしているにもかかわらず、親心から入社させるケースが少なくない。

もちろん、兄弟がうまくバランスをとって、自社を発展させるケースもあるため、一概に危険だとは言えない。ただし、成功するのは、後継者にならなかった者が、自分の立場を理解して、ナンバー2として生きることを覚悟できた場合だ。子どもらを入社させる場合には、先代として自社における序列を明確にしておく必要がある。そのうえで、「社長の方針に合わないなら、辞表を出すように」と厳命しておくしかない。

ありがちな失敗は、とりあえず複数の子どもらを入社させ、様子を見たうえで後継者を決めようとすることだ。ともに働くほど、子どもとしてのかわいさから、先代としても決めることができなくなる。

■兄弟間でもめる3つの理由

それまで仲の良かった兄弟に軋轢が生まれてしまう理由は、大別して以下の3つある。

①「兄弟姉妹だからこそ、話せばわかる」という誤解

「本音で話すことが大事」と言われるものの、現実社会において本音で話せる機会などないに等しい。実際には立場の異なる相手の心情に配慮しながら、言葉と行動を選択し、妥協点を見いだすことになる。いわば「ホンネとタテマエ」ということだ。

これはもちろん経営においても該当する。社員から何か要望があったときに、頭ごなしに否定すれば、すぐに離職することも珍しくない。腹が立っても、社員の意見を聞きつつ、解決案を見いだすようにしていかなければならない。兄弟の場合には、こういった配慮が「家族だから」ということで、十分に機能しないことがある。

当事者としては、「納得できないことがあっても、本音で話し合えばわかり合える」と錯覚している。しかし、家族だからといって、本音で話せばわかり合えるものではない。むしろ普段の暮らしで本音をぶつけられることがないため、面と向かって言われると、カチンとくる。言われた側も、感情的になって本音を繰りだすことになる。こういった感情的な対立になってしまうと、話し合うほど亀裂が拡大する。

何かを解決するための対話が、いつのまにか相手を屈させるための対立になってしまう。いったん生じた亀裂を事後的に修復することはかなり難しい。

相手の胸倉をつかむ男性
写真=iStock.com/kaipong
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kaipong
②兄弟という立場にあるため、「会社内における地位が社長と同等である」という誤解

企業の組織論として、いろいろなものが提唱されている。組織の組み立て方に「唯一絶対の正解」といったものはない。それぞれの会社の規模、ビジネスモデル、あるいは文化によって異なる。それでもオーナー企業においては、やはり社長を頂点にした組織を基本にするべきだ。指示系統が一本だからこそ、社員としても自分が従うべき指示がわかる。

それにもかかわらず、兄弟が社長に対して対等な立場で意見を言ってしまうと、実質的に指示系統が複数発生してしまうことになる。これでは社員としても、いかに動けばいいかわからず、困惑する。

しかも、後継者でない親族が一部の社員を取り込んで、派閥のようなものを形成してしまうことがある。こうなると社員も分裂してしまい、ギスギスした人間関係が社内に広がってしまう。あるメーカーでは、社長の弟があらぬ噂を広めた挙句に、一部の社員を引き連れて独立してしまった。

③世間体

「世間からの視線」は目に見えないものではあるが、一度意識すると、気になって仕方なくなるものだ。ときに人を狂わせる。

「いつまで働いても、専務のまま」「社長の子ではなく、自分の子に継がせたい」という感情がどこかで生まれるのは、むしろ自然なことだ。「自分は死ぬまで兄に尽くす」という人は、滅多にいない。

逆に言えば、社長になった者は、こういった「兄弟の内心への配慮がきちんとできているか」を自問していただきたい。「弟はいつも支えてくれる」と甘えるばかりでは、足をすくわれることになりかねない。

■家族間の感情的な対立は法律論で修復できない

ある会社では、先代が早くに亡くなり、兄弟が支え合いながら事業を展開していた。当初はうまくいっていたふたりであるが、事業が安定してくると次第に隙間風が吹くようになってしまった。対外的な危機がなくなると、社内政治に意識が向いてしまう。

弟は、会社における立場について、妻からいろいろ意見を言われるようになったようだ。すなわち、いつまでも周囲から「いい人」とだけ評価されるのでいいのかと。結果として、兄弟関係は感情的な対立に発展し、弟は不本意ながら会社から出ていくことになってしまった。

冷酷な意見かもしれないが、家族間で感情的な対立が発生したとき、法律論でどうにか修復できるものではない。外形的には解決できたとしても、また別の問題を生みだすばかりで本質的な解決にはならない。いずれか一方が会社から離れることでしか、抜本的な解決にならないケースが多い。

このとき、退職する側から高額の退職金を請求されることがある。社長からすれば、「兄弟だからといって甘えている。他の社員との整合性がとれない」と反対したくもなるであろう。

さりとて立ち去る側としては、「自分は身内に排除された」という感情がどうしても残ってしまう。後継者は、こういった兄弟の犠牲の下で事業を営むことがあるのも事実だ。せめて退職時には、相手の要求にできるだけ応じたほうがいい。

夕暮れ時の空港、歩く歩道をゆくビジネスマンの後ろ姿
写真=iStock.com/allensima
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/allensima

■会社を去る側への配慮を忘れてはいけない

立ち去る側が自社株を保有している場合には、これもすべて買い取るべきだ。

自社株の価格についても、あまり交渉をしないほうがいい。価格で交渉して「それなら売却しない」となれば、いつまでも会社の経営に口を挟んでくることになりかねない。立ち去るときには、事業に関することはすべて整理させるようにしておくべきだ。事業から完全に離れることで、いったん傷ついた人間関係も修復させやすい。

もっとも、場合によっては、年齢や経験からいって、退職して別の仕事をすることが難しいということもあるだろう。そういう場合には、自社の事業の一部を切り分けて、別会社を設立させたうえで、社長に据え置くこともひとつの方法だ。事業の一部を切り分けるのが難しければ、資産管理会社のようなものであってもいい。

大事なのは「社長」という肩書きを用意してあげることだ。本社に籍を置かせず、「グループ会社のトップ」というかたちで任せることで、適度な距離感を保ちつつ、生活を支えることになる。

■「カネの管理は一番信頼できる人に」が裏目に

事業承継における親族間のトラブルは、なにも兄弟間だけで発生するものではない。後継者と先代の妻、つまり母親とうまくいかずに困ってしまうケースもある。

兄弟と違って、社長の椅子を狙って後継者と母親が対立するということはない。むしろ母親としては、後継者を支えて自社を守ろうとするものだ。ただ、会社の守り方がときに後継者にとって疎ましくなる。

先代が亡くなれば、たいていの場合、先代の妻ではなく子が社長として事業の采配を振ることになる。後継者が若い場合は、一時的に先代の妻が社長になるものの、実質的には後継者が現場を仕切ることが多い。

女性にも経営手腕が優れている方がいらっしゃるが、個人的な経験から言って、先代の妻がいきなり経営の最前線に出て、ひとりで采配を振るのはあまり見たことがない。年齢的な課題もあるうえに、なにより経営に本格的に関与したことがないため、「いざ社長を」と言われても、対応に苦慮してしまうだろう。

オーナー企業においては、社長の妻が会社の経理を担当していることが珍しくない。社長としては、「もっとも信用できる人物に会社のカネを管理させよう」という判断からであろう。こういった判断こそ、事業承継におけるトラブルの原因になる。

■カネの管理を長期間一人に任せてはいけない

長年にわたり経理を同じ人が担当していると、いつのまにか「カネの管理が特定の人にしかできない」という事態になる。しかも長年にわたり担当しているため、他の業務をすることができなくなり、「誰かに教える」ということにも消極的になってきてしまう。自分の存在意義を失いかねないからだ。結果として、「その人にしかできない経理」ということになって、実質的に会社のカネの動きを掌握することになる。

中小企業でバックオフィスのIT化が進行しない大きな理由が、ここにある。IT化を推進するには、現在の業務内容をまず棚卸しして確認する作業が必要である。担当者は、IT化によって自分の仕事が失われることを恐れるあまり、既存のシステムに固執して、新たな仕組みを導入することを断固拒否する。こういった傾向は、経理を妻が担当していたら、なおさら強い。妻として夫である社長に気兼ねせず、物を言うことができるからだ。

会計を見直す女性の手元
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

妻は「早く自分の業務を誰かに引き継ぎたい」と口ではこぼしつつ、自分の存在意義が否定されないよう、周囲の人材をなかなか育てていかない。後継者は、母親の代わりに自分の妻に経理を担当させたい。そこで、子育てをしながら、妻には経理担当者としてまずは会社に関わってもらうことがある。

このとき、ちょっとしたことで、母親と妻の間に感情的な対立ができてしまうことがある。後継者は、母親と妻の板挟みになってしまい、対応に悩む。こういうときは、無理に仕事を引き継ぎさせようとすると、たいていうまくいかない。いったん、後継者の妻に仕事から離れてもらうことが多い。

■母親は「家計簿」感覚で会社の経理をみてしまう

ある会社では、後継者の妻が夫の曖昧な態度に激高し、夫婦関係の修復に相当の時間を要してしまった。妻としては、単に義母と性格が合わないだけでなく、夫である後継者が自分を守らなかったことが不信感になったようだ。人間は難しい。

他にも、先代の妻が会社のカネを管理しすぎてしまうことによる弊害もある。あるサービス会社では、先代が亡くなり、長男が社長になった。先代の妻は、会長として残っていた。問題は、先代の妻が会社の印鑑と通帳をすべて自分で保管し、後継者に渡さなかったことだ。

後継者は、新しいことを始めようとしても、いつも母親の了承が必要であった。しかも、母親は、新しいことに対して極端に消極的だった。「そんなお父さんがしていないことをはじめてどうするの。うまくいくのかわからないことに投資すべきではない」と言われるばかりだった。これではいったい誰が社長なのかわかったものではない。

島田直行『社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれます』(プレジデント社)
島田直行『社長、その事業承継のプランでは、会社がつぶれます』(プレジデント社)

社長は、カネとヒトを自分の判断で動かすことができるからこそ、社長である。そのカネを自由に動かすことができないとなれば、社長とは言えない。後継者が母親の顔を立てつつ、通帳と印鑑を渡すように説得しても、「お父さんのときから私が管理していました。お父さんの会社を守らないといけない」ということで、一向に渡すことがなかった。

結果として、社員も「カネを掌握している人=偉い人」ということで、会長の顔色ばかりうかがうようになってしまった。先代の妻としても、悪くない気分でさらに問題を複雑なものにしてしまった。

先代の妻としては、「夫の会社をなんとか守らなければならない」という意識が強すぎた。これまで経営に実質的に関与したことがないため、会社の資産を守ることを家計の延長線上で捉えていた。つまり、出費を抑えることこそが、彼女にとっては会社を守ることであったわけだ。ここに大きな間違いがある。

■代替わりこそ、経理担当者変更のチャンス

事業は、家計の延長線上にあるわけではない。事業は、投資をしてこそ、発展させることができる。もちろん、すべての投資が成功するわけではない。むしろ、成功する投資のほうが少ない。それでも投資をし続けるからこそ、成功の機会を手にすることができる。変化の激しい現在においては、既存の資産価値を維持するだけでは、企業は自ずと衰退していく。気がつけば、取り返しのつかない状況になっていることもある。

先の事例では、先代の妻を説得して、なんとか印鑑を渡してもらえたからよかった。それができなかったら、今でも後継者は何かするたびに、母親の顔色をうかがわざるを得なかったであろう。

社長は、自分の配偶者を会社の経理担当者にしていたら、代替わりを契機に、別の者に変更するべきだ。このとき、頭ごなしに変更を指示すると、配偶者としても自分を否定されたようで腹が立つ。「自分もそろそろ引退を考えている。これを機会に経理担当者も変更していこう」と話を広げていくことが穏当である。

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島田 直行(しまだ・なおゆき)
島田法律事務所代表弁護士
山口県下関市生まれ、京都大学法学部卒、山口県弁護士会所属。著書に『社長、辞めた社員から内容証明が届いています』、『社長、クレーマーから「誠意を見せろ」と電話がきています』(いずれもプレジデント社)がある。

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(島田法律事務所代表弁護士 島田 直行)

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