「海に散骨、墓の撤去で各数10万円」爆増中の"墓じまい"を強行して痛い目にあう人の特徴
プレジデントオンライン / 2021年6月17日 11時15分
■この15年間で約2倍「墓じまい」の知られざる落とし穴
「墓じまい」が増えている。
墓じまいとは、先祖代々、継承されてきた墓を撤去し、遺骨を別の場所の永代供養墓に移したり、海洋散骨したりすることである。
しかし、そこには落とし穴が隠されている。近年の「ブーム」に乗って、安易に墓じまいをしてしまったがために、むしろ金銭的にも精神的にも大きな負担を強いられるケースが出ているのだ。そうした事実を知らぬまま強行して痛い目にあう人も少なくない。もし、墓じまいしたいと考えているなら、今一度立ち止まって、冷静にこの記事を読んでから判断しても遅くないはずだ。
近年の墓じまいの急増ぶりを数字で示そう。
厚生労働省「衛生行政報告例」によると、最新の調査である2019年度の改葬(事実上の墓じまい)の数は全国で12万4346件。5年ごとに遡って改葬数の変化を見てみると、2014年度では8万3574件。2009年度では7万2050、2004年度では6万8421件だった。15年前の水準の倍近くになっている。
墓じまいとは、かつては絶家に伴う「無縁化」のことを指した。だが、墓地継承者(縁者)が存在するのに墓じまいする動きが近年目立っている。あえて厳しい言い方をすれば、縁者がいるのに墓じまいする行為は「墓暴き」に近い。
■墓じまいを希望する人の5つの共通項
墓じまいを希望する人の共通項としておおむね、以下の5つが挙げられる。
①「墓を承継する子や孫がいない」
②「お墓の維持にはコストがかかるうえ、管理が大変。子や孫に迷惑をかけたくない」
③「都会に移り住んでいるため、故郷の墓の管理ができない」
④「そもそも墓は不要。散骨でいい」
⑤「菩提寺の住職が気に入らない」
■「何10万円もの離檀料を請求された」「住職が離檀させてくれない」
それぞれが、もっともな理由のようにも思える。
墓じまいは、墓が菩提寺にあるか、公共霊園にあるかにより対応が変わってくる。より厄介、と思われているのは前者、寺院に墓がある場合だ。
菩提寺に先祖代々の墓がある場合、墓じまいと同時に離檀(檀家をやめること)することになる。その際、住職と檀家との間で、「何10万円もの離檀料を請求された」「住職が離檀させてくれない」などのトラブルが報告されている。
高額の離檀料を払わなければ、改葬許可証(墓じまいの場合は墓地管理者の同意が必要)にサインしないというのは、人質ならぬ「骨質」を取っているのと同然であり、もってのほかである。
そもそも「離檀料」の法的根拠は存在しないので、仮に菩提寺から非常識な料金を請求された場合は断ってよい。一方で、菩提寺に長年お世話になったお礼として、常識の範囲内(数万円程度)でお布施を包むのは最低限の「マナー」というものだろう。
住職がどうしても離檀を受け入れない場合は、行政書士や弁護士などの代理人を立てるのもよいし、あるいはその寺院の檀家総代(檀家の代表)や、所属する包括宗教法人(寺院が所属する宗派の宗務庁)に苦情申立てしてもよいかもしれない。
![日本のお寺](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/8/c/670/img_8c69dae8ada91b794890e6729de61afd725841.jpg)
以上のような事例は、前出リストの⑤「菩提寺の住職が気に入らない」に該当する。明らかに寺院側に問題があり、改善の余地がない場合は、菩提寺からの撤退を考えても致し方ないかもしれない。そのようなトンデモ和尚のいる寺院は早晩、潰れてしまうのがオチだろう。公共霊園での場合、墓じまいはこうした面倒なことはない。
■「お墓の維持は高コストで管理が大変」という人が一番損する恐れ
対応が比較的簡単なのは、①「墓を承継する子や孫がいない」場合だ。菩提寺住職に相談し、先祖代々の遺骨はその境内にある永代供養塔などに移し、最後に納骨される自分や配偶者も永代供養塔への納骨予約をしておけばよい。
墓じまいを希望する理由の典型例は、②「お墓の維持にはコストがかかるうえ、管理が大変。子や孫に迷惑をかけたくない」かもしれない。しかし、このコスト重視での墓じまいを考える人こそが結果的に一番、損をする恐れがある。
そもそも墓にかかるコストとは、年間の管理費(に加えて護持費を設定している寺も多い)と法事の際のお布施だ。管理費は年に1万~2万円程度が多い。
管理費の根拠は、常日頃の墓地・境内清掃の人件費や水道代などの固定費を、檀家の頭数で割った数。墓地の管理費を寺院だけで負担するのは不可能なのだ。清掃にかかる費用だけで、小規模な寺院ですら年間100万円以上はかかる。
だが、管理費を取っていながら、墓地の雑草はボーボー、いつもゴミが散乱しているような寺の場合、「管理費を払っているのだから、きちんと清掃してもらいたい」とクレームをつけるべきだろう。
護持費は伽藍の修繕積立金のようなものだ。一般的には管理費・護持費を合わせてもせいぜい2万~3万円だ。お墓の年間コストといえば、これだけである。
法事は1周忌や7回忌、33回忌などそうは頻繁にあるものではないし、法事のお布施も払う側が決めればよい(常識的には3万~5万円程度)。
この年間数万円のコストを「払い続けることはできない」と考え、墓じまいに到る人が出てきているのだ。だが、墓じまいをするというのは、「寝た子を起こす」のと同然である。住職や墓地管理者が改葬許可証にあっさりサインしてくれたからといって、「やれやれ、これで将来的にコストがかからずに済んだ」と考えるのは早計だ。むしろ逆である。
![墓じまいの風景](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/3/670/img_23afc653e8602d04ce7dd074e7968f221730078.jpg)
■「墓じまい=寝た子を起こす行為」と言える理由
なぜなら、墓じまいを決めた段階で新たな費用が、次々と発生するからだ。
まず、墓じまいのための撥遣式(性根抜き、魂抜き)の儀式と、さらには移動先の墓所の開眼式(性根入れ、魂入れ)をやる必要がある。この代金は、「お布施」であるが、施主の事情で改葬するわけだから儀式1回につき、法事1回分(3万~5万円程度)くらい払うのが常識的だろう。
さらに、古い墓の撤去費用がいる。遺骨を取り出したはよいが、墓石を放置して去っていくのは許されない。これは墓石店に払う。その費用は一般的な大きさの墓で30万円ほどはかかる。
無事に菩提寺から遺骨を持ち出せたとしても、手元に残った先祖の骨壺をどうするのか。どこかの永代供養墓を見つけ、改めて納骨するしかないのだ。都会の永代供養墓の場合、1柱あたり50万円以上が相場。複数の骨壺がある場合は、数百万円にものぼる可能性もある。しかも、改葬前の菩提寺同様に、永代供養墓でも年間管理料等が発生するケースも少なくない。
開き直って「墓なんかいらない」と、ゴミとして捨てるのは犯罪である前に、人として許される行為ではない。野山や川に「勝手に散骨」すると「遺骨遺棄罪(3年以下の懲役)」に問われる可能性がある。
遺骨の埋葬は、「墓地、埋葬等に関する法律」(墓埋法)によって、都道府県知事の認可を受けた墓地にしかできないことになっているからだ。つまり、墓じまいして遺骨を取り出したからといっても、霊園指定された場所に埋葬しなければいけないのだ。
■「海洋散骨」は法律上グレーゾーンで船チャーター代もかかる
「海洋散骨なら大丈夫」という人もいるかもしれない。しかし、やはりコストがかかる。パウダー状に粉骨する費用、船をチャーターして撒く費用など、遺骨の分量によって変わるが最低で数万円、場合によっては数十万円が必要となる。そもそも、海洋散骨は法律上グレーゾーンであり、また、親族の合意形成がないとトラブルにも発展するケースも少なくないので、より慎重になるべきだ。
つまり④「そもそも墓は不要。散骨でいい」は、自身の信念で散骨するのはよいが、あくまでも親族の合意形成がなされていることが前提となってくる。これは、なかなか面倒臭い。結果的に合意形成できず、折衷案として「分骨」することも多いが、こうなれば散骨と永代供養墓との二重コストとなってしまう。
「手元供養」という手段もある。遺骨を人工ダイヤモンドなどの宝石にしたり、しゃれたガラスケースなどに入れたりして手元に置いておくのだ。しかし、手元供養は安くはない。
インターネットなどで調べてみればわかるが、1柱あたり数十万円のコストがかかる。愛する配偶者や子供を先に亡くした場合、ずっと身につけておいておきたいという心情は理解できないでもないが、それも、遺骨ダイヤモンドの後々の継承のことを考えると、いずれはお墓に埋葬したほうがよい。
![お墓参り](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/d/670/img_ed2fc665b326571b435ab7fec0d32fcc759489.jpg)
■墓じまいを決断した段階で家族や先祖の「遺骨が彷徨(さまよ)う」
一番、コストを抑えたいのなら、自宅の仏壇に骨壺に入れた状態で祀り続ける、という手段はあるにはある。しかし、古いご先祖様の遺骨をずらりと自宅に保管しておくことは、物理的、心的に負担が重く、同時に衛生面の観点からオススメできない。
墓じまいしたい人にはそれぞれ深い事情はあるだろう。だが、墓じまいをした段階で、どうしても家族やご先祖様の「遺骨が彷徨(さまよ)う」ことになるのだ。結果的に改葬にかかる総費用は、1柱あたり最低50万円とみてよい。ケースによっては100万円以上のコストが発生してもおかしくない。
最後に③「都会に移り住んでいるため、故郷の墓の管理ができない」の場合であるが、このケースは管理費だけを滞ることなく納め、何年かに一度でも墓参りすればよいだけの話だ。必ず墓参りしなければいけない、と思うと窮屈なので、可能な範囲でやればいい。それもできなければ、年に一度でも菩提寺に電話で近況報告すればよい。
墓じまいをしたい、と考える人は概して、責任感が強い。自分の代で墓問題を決着させ、次世代にツケを回したくない、と考えられているのだろう。
その気持ちを否定はしない。だが、上記で紹介したような墓じまいを巡る想定外のコストに困惑する人も少なくない現状を見ると、筆者は、いっそ逆転の発想で墓問題を「次世代にツケを回す」くらいの感覚を持ってもいいのではないかと思っている。
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浄土宗僧侶/ジャーナリスト
1974年生まれ。成城大学卒業。新聞記者、経済誌記者などを経て独立。「現代社会と宗教」をテーマに取材、発信を続ける。著書に『寺院消滅』(日経BP)、『仏教抹殺』(文春新書)など多数。近著に『仏具とノーベル賞 京都・島津製作所創業伝』(朝日新聞出版)。浄土宗正覚寺住職、佛教大学・東京農業大学非常勤講師、(一社)良いお寺研究会代表理事、(公財)全日本仏教会広報委員など。
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(浄土宗僧侶/ジャーナリスト 鵜飼 秀徳)
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