「不信任案は出しても、五輪中止は求めない」誰にも期待されなくなった立憲民主党の体たらく
プレジデントオンライン / 2021年6月16日 9時15分
■なぜ枝野代表は五輪中止を求めなかったのか
6月15日午前、立憲民主党など野党4党は、共同で内閣不信任決議案を衆議院に提出した。菅内閣に対して不信任案が提出されたのは初めてだ。同日午後、不信任案は反対多数で否決された。
これに先立つ6月9日、菅義偉首相と野党4党の党首による「党首討論」が国会で行われた。党首討論は2019年6月以来2年ぶりで、菅政権では初めてである。立憲民主党の枝野幸男代表ら野党4党の党首が質問に立ち、新型コロナ対策と東京五輪・パラリンピックの開催の是非の2つが討論の争点となった。
枝野氏の持ち時間は30分と一番長かった。しかし、迫力に欠けていた。とくに東京五輪については「本当に命と暮らしを守れるのか」と質問するだけで、五輪開催の中止は求めなかった。
なぜ、枝野氏は五輪の中止を求めなかったのか。10月までには解散総選挙が行われる。開催の是非について世論が割れている現状では、「五輪中止」を打ち出すことで支持者を減らすリスクを取りたくなかったのだろう。国民のことよりも、「次期衆院選で1人でも多く当選させたい」という党利党略しか考えていない。今回の枝野氏の迫力の欠如は、そこに起因する。
■「東京五輪の思い出話」は国民の目にどう映ったか
一方、菅首相の答弁で具体的だったのは、「10月から11月には必要な国民、希望する方すべてを打ち終えることを実現したい」とワクチン接種の推進を打ち出した点に限られる。この裏側にも、ワクチンを切り札に東京五輪を成功させ、自民党が衆院選挙に勝つという党利党略が透けて見える。
異例だったのは、6分間にわたり、菅首相が1964年の東京五輪を振り返ったことだ。菅首相は「バレーボールの東洋の魔女の回転レシーブ、マラソンのアベベ、柔道で日本選手に敬意を払ったオランダのヘーシンク」と名選手の名前を次々に挙げた。これに対し野党は、「話が長い」「質問にまともに答えていない」とヤジを飛ばした。限られた時間のなかで、首相が「思い出」を振り返る姿は、国民の目にどう映っただろうか。
枝野氏以外の党首の持ち時間は5分だった。沙鴎一歩の目を引いたのは、共産党の志位和夫委員長とのやり取りだ。
■志位氏は菅首相から五輪中止についての言質を取った
志位氏は政府の新型コロナ対策分科会の尾身茂会長が五輪開催のリスクを問題視して「いまの状況でやるのは、普通ではない」と指摘していることに触れ、「新たな感染拡大が起これば、重症者、亡くなる方が増える。そうまでして五輪を開催しなければならない理由は一体何なのか」と菅首相に迫った。
菅首相は「国民の生命と安全を守るのが私の責務だ。守れなくなったら(東京オリンピックは)やらないのは当然だ」と答えた。この発言は菅首相の五輪開催への決意を示したものだが、裏を返すと、感染拡大が増大して中止することもあり得るという意味にも受け取れ、志位氏は菅首相から五輪中止についての言質を取ったことになる。
イギリス議会をモデルに1999年に導入された党首討論はここ数年、形骸化が指摘され、開催回数も減っている。野党にとって首相を追及できる時間が衆参の予算委員会に比べてかなり短いことがその理由である。
しかし、2年ぶりの開催とは言え、党首討論を開いた以上は、野党には首相から本音を引き出す義務があるし、首相にもきちんと答弁する責任がある。
■野党を軽んじるのではなく、堂々と答弁すればいい
6月10日付の朝日新聞の社説はこう書き出す。
「質問には直接答えず、一方的に長々と自説を述べる。これでは、到底その言葉は国民に響かない。菅首相が初めて臨んだ党首討論は、与野党のトップが国民の前で、大局的な見地から議論を深めるという、あるべき姿からは程遠いものに終わった」
安倍晋三前首相の意を受けた菅政権を嫌う朝日社説らしい書き出しである。見出しも「党首討論 首相の言葉が響かない」と手厳しい。
たしかに、その場しのぎでこれまでの主張を繰り返す菅首相の姿勢には問題がある。東京五輪についても開催一辺倒で突き進むのではなく、中止も考慮に入れ、いつでも中止を宣言できるように準備しておくべきだ。そうした準備を怠るから、対応が後手後手になるのだ。
朝日社説は指摘する。
「立憲民主党の枝野幸男代表はまず、前回の緊急事態宣言の解除が早すぎたことが、現在の第4波につながったとして、今回は東京で1日あたりの新規感染者が50人程度になるまで続けるべきだと主張。首相に対し、基準を明らかにするよう求めた」
「しかし首相は、ワクチン接種への取り組みを延々と説明しただけで、前回の解除判断への反省や今回の解除基準に触れることはなかった」
なぜ、菅首相は枝野氏の質問にきちんと答えないのか。そもそも答弁しようと思っていないからだ。党首討論を自らの主張を繰り返す場としか考えていないのである。それゆえ、生の言葉ではなく、用意された資料に目を通しながらの説明となる。その結果、言葉が響かなくなる。
朝日社説は「お互いが対等な立場で意見を交わす場であり、首相が野党の政策をただすことは当然あっていい。しかし、聞かれたことには全く答えず、自分の言い分ばかり述べたてるのではコミュニケーションは成立しない」とも指摘する。政治信条が異なるとはいえ、野党の党首も国民の代表のひとりだ。軽んじるのではなく、堂々と答弁することで、首相の株も上がる。その点で残念なやり取りだった。
■「菅首相から納得がいくような言葉は聞かれなかった」と毎日社説
「新型コロナウイルス禍のさなかで、なぜ東京オリンピック・パラリンピックを開催するのか。国民の安全は確保できるのか。菅義偉首相から納得がいくような言葉は聞かれなかった」
こう書き出すのは、「党首討論と五輪 開催の意義を語れぬ首相」との見出しを付けた毎日新聞(6月10日付)の社説である。
朝日社説同様に毎日社説も菅首相に手厳しい。沙鴎一歩も「納得がいくような言葉」は少なかった、と思う。
毎日社説は「首相は東京五輪を『平和の祭典』と説明している。しかし、そんな抽象的な表現では、国民の不安や疑問は払拭できない。開催ありきで突き進むことは許されない」と指摘したうえで、最後にこう主張する。
「五輪について『国民の命と健康を守るのが私の責任。守れないなら、やらないのが前提』と、首相は繰り返している。そうならば、どのようにして守るのか。分かりやすい言葉で語る責任がある」
オリンピックの開催に当たり、菅首相が国民の命と健康を守るのは当然だ。ただ、「守る」というだけで、どんな状況になれば「守れない」となるのかが示されていない。そうした姿勢では、そもそも中止という選択肢は存在しないのではないかと受け止められてしまう。
■持ち時間5分は、大局的な討論をするには短すぎる
朝日社説や毎日社説に比べ、東京五輪の開催に前向きな読売新聞(6月10日付)の社説は「党首討論 五輪開催へ情熱と具体策語れ」との見出しを立て、書き出しでこう主張する。
「スポーツの祭典の意義が損なわれないよう、菅首相は具体的な安全策を示して、国民の理解を求めるべきだ」
菅首相は「オリンピックを成功させたい」と国会や記者会見で繰り返すが、成功には国民の理解が欠かせない。開催までの短い期間に菅首相がどのように国民の理解を得ていくか、沙鴎一歩はしっかりと見とどけたい。
最後に読売社説は党首討論の在り方に言及する。
「枝野氏以外の野党党首の持ち時間は5分しかなく、大局的な討論をするには短すぎる。与野党は、時間を大幅に拡大するなど、国会活性化に努力してもらいたい」
今回の党首討論は全体が45分だった。党員数の多さから30分が立憲民主党の枝野氏に割り当てられ、日本維新の会、国民民主党、共産党はそれぞれ5分と短かった。全体の時間枠を広げ、各党に少なくとも30分の時間を与えるべきではないだろうか。
ただし、今回、野党が2年ぶりの党首討論を求めた背景には、国会終盤に差し掛かっても予算委員会の開催の目途が立たず、どこかで衆院選に向けてのアピールをしたいとの強い思惑があったからである。与党も野党も党利党略に走るために、党首討論は有名無実となっている。これでは政治不信が広がるのは避けられない。そして投票率が下がるほど、組織票を持つ政党が有利になる。メディアはそうした構図をもっと問題視するべきだ。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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