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「良かれと思ったら逆効果」メンタル不調の子どもに絶対言ってはいけない"ある言葉"

プレジデントオンライン / 2021年6月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

コロナ禍が続く中で、子どもたちの心身に異変が表れるケースが増えている。認定ポジティブ心理学コーチの足立啓美氏は、「わが子の“レジリエンス(立ち直れる力、逆境を乗り越える力)”を鍛えることが重要。毎日の声かけでもその力を育むことは可能です」と指摘する。特殊な状況を乗り越えることはもちろん、「ストレスに弱い」「自信がない」「すぐあきらめる」といった課題克服まで、子どもたちの可能性を引き出す“ポジティブ教育”とはいったい──。

※本稿は、足立啓美『子どもの心を強くする すごい声かけ』(主婦の友社)の一部を再編集したものです。

■世界的に広がる子どもたちのメンタルヘルス危機

新型コロナウイルスのパンデミックの影響による子どもたちのメンタルヘルスの危機が世界的に報告されています。

日本でも、うつ病や自殺の増加が指摘されています。国立成育医療研究センターが2020年11月~12月に実施した調査(「コロナ×こどもアンケート」第4回調査報告)でも、小学4年生以上の子どもの15~30%に中程度のうつ症状が見られることが分かりました。

私自身、コロナ禍(か)以降、教育現場の先生方や子育て中の親御さん、そして小学生から高校生の子どもたちから相談を受ける頻度が増えてきています。中でも、「自分や家族が感染したらどうしよう」と強い不安を訴える子どもたちが目立ちます。

■大人の「大丈夫だから…」に反発

あるご家庭のケースです。

足立啓美『子どもの心を強くする すごい声かけ』(主婦の友社)
足立啓美『子どもの心を強くする すごい声かけ』(主婦の友社)

新型コロナに不安を訴える小学生の息子に対し、お父さんが「大丈夫だから」と言葉をかけたところ、息子さんが、「全然分かってない! 僕は大丈夫じゃないよ!」と強く反発。ふだんは温厚な息子さんの豹変(ひょうへん)する姿に、お父さんは困惑したといいます。

行動制限が長く続き、ニュースやネットでネガティブな情報に多く触れている子どもたちは、自分の力で変えられる、自分で決められるという感覚が少なくなってしまっています。自分の心身の状態に気がつく力も発展途上です。

そんなときにかけられる漠然とした「大丈夫」という言葉に、信頼が持てなくなっても不思議ではありません。それどころか、「その場しのぎの言葉だ」ととらえてしまいがちで、大きな変化や困難への対処能力を上げる機会をなくしてしまうことになります。

その結果、この小学生の息子さんの例のように、感情を爆発させる引き金になることさえあるのです。

■先の見通しが立たないことへの不安

子どもたちが抱く不安の原因は、先の見通しが立たないところにあります。

「この先も学校には通えるの?」
「感染するのに登校しないといけないの?」
「コロナに感染したらいじめられたりしない?」
「勉強についていけなくなったらどうしよう……」

具体的な解決策や見通しが見えない状況に対して、子どもたちは不安を高めています。

大人たちは、自分の心や体の状態や変化を自覚することができます。不安を覚えたら、その問題解決のために情報を集めたり、取捨選択をしたり、その先の対策について具体的にイメージを抱いたりすることができます。そのため、成長過程にある子どもたちに比べれば、自分の感情に振り回されてパニックを起こすことは少ないといえます。

ところが、不安感に押し潰(つぶ)されそうな子どもたちは、まず、そんな自分の気持ちを明確に把握し、言語化することが難しい面があります。

自分がストレスを感じていること、心や体の悲鳴に気がつくのも難しいため、正体の分からない不快さにさいなまれ、感情を爆発させたり、パニックを起こしてしまったりすることも珍しくありません。時に腹痛などの身体症状を訴えることもあります。

多くの親御さんは、そんな子どもたちの状況がよく分からず、その場を落ち着かせようと、つい「大丈夫、心配ないよ」と口にしてしまい、かえって子どもの敏感な部分を刺激してしまいがち。子どもの不安をケアする働きかけが、うまくできないケースが多いのです。

■子どもたちの危機に気づくのも「親」

しかし、子どもたちの心の危機にいち早く気づくことができるのは、いつもそばにいる親御さんたちでもあります。親御さんが家庭内で適切な子どものメンタルヘルスをサポートするには、いったいどうしたらいいのでしょうか。

その実践に役立つのが、逆境や困難に負けない力(レジリエンス)を育てる教育メソッドです。

たとえば、私の専門とする「レジリエンス教育」は、子どものメンタルヘルスのために、世界的に教育現場で広く導入されています。うつ病をはじめとする精神疾患の予防はもちろん、子どもたちの持つ心の力を育て、どんな時代でも、自分らしく、たくましく、幸せに生きることを目的とした教育メソッドだからです。

子どものレジリエンスを育むことは「心のワクチン」ともいわれており、コロナ禍にあっても、家庭内で子どもたちを良い方向に導くために使える方法がたくさんあります。

■繊細な子どもたちに必要な「親からの良い働きかけ」

私が代表を務める日本ポジティブ教育協会の理事らの研究によると、人一倍敏感な気質を持つ子どもたち(HSC=Highly Sensitive Child)は、その繊細な気質がレジリエンスを育てるうえで好ましい影響を与えることが分かっています。

現在のような大きな生活の変化は、とりわけ敏感で繊細な子どもたちにとって大きなストレスとなりえます。

その一方で、繊細さを持つからこそ、親からの良い働きかけによって、立ち直る力をより大きく伸ばしていくことができるともいえます。

■小学4年生の女の子の不安を緩和させた2つのコツ

「新型コロナのことを考えると不安で眠れない」という小学4年生の女の子がいました。母親は「大丈夫、何も心配することはない」と励ますように声をかけていましたが、改善が見られず、娘さんはますます元気を失っていったということでした。

そこで、私が母親に2つのことを実行してもらいました。

①子どもの気持ちをそのまま受け止める

娘さんの不安な気持ちをまず、「そうか、不安だよね」「そういう気持ちは我慢しないで話していいよ」「気持ちを話すってとても勇気がいることだね」と、否定せずに、ただ受け止めてもらいました。

家族愛、一体感、安全のイメージ
写真=iStock.com/Gajus
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Gajus

わが子が不安や悲しみ、怒りなど、ネガティブな感情を感じているとき、親は心配なあまり無理に前向きな方向に持っていこうとしたり、ネガティブな気持ちを打ち消そうとしたりしてしまいます。しかし、子どもにとっては、自分の気持ちを親から否定されるように感じてしまい、かえって「理解してもらえない」「受け止めてもらえない」と、つらく孤独な思いを深めてしまうのです。

子どもの心と体を守るためにも、まずは子どものどんな感情も受け止めることが大切です。それが子どもに安心感を与え、親に対する信頼感を育てていきます。

②体の緊張を和らげる

不安な状態が続くことで、子どもたちは心だけでなく、体も緊張状態が続いてしまい、呼吸が浅くなったり、体が固くなったり、夜眠れなくなったりしがち。

そのようなときには、ゆっくり深呼吸をしたり、背中を指先で軽くトントンとたたいたりするなどの「タッピング」が有効です。レジリエンスの授業で呼吸法の練習を子どもたちに実施する際、ストレスを多く感じている子ほど、「頭がすっきりした」とその効果を報告してくれます。

深呼吸をする際のポイントは、背筋を伸ばして、息をなるべく長く、ゆっくりと吐き出すこと。体や心のつらさや苦しさを一緒に吐き出すように行います。シャボン玉を大きく膨(ふく)らませるようなイメージを持つ、ピンポン球(卓球の球)を机の端から端まで転がすゲームをするなど、ゲーム感覚で行うのもよいでしょう。

子どもたちはタッピングも大好きです。親子のスキンシップになりますし、思春期の子どもたちもマッサージの一種として受け入れてくれるケースが多いといえます。

心と体は連携しているので、体の緊張をとることが、心の緊張をとることにつながります。体の緊張がとれると自然と心に余裕ができてきます。事実、小学4年生の女の子の状態も、これら2つのことを継続していただくことで、だいぶ落ち着いていきました。

■「わが子のレジリエンスを引き出す声かけ」3ポイント

心と体が少し落ち着いたら、次に、子どもたちが自分の考え方に対応できるようになり、かつ、どんな局面でも立ち直ることができる、「レジリエンス」の力を育てるための働きかけが大切です。

そのポイントは、次の3つです。

①「実際にそうなったときはどうすればよいのか?」をいっしょに話し合い、確認する

たとえば、「もし感染したら○○病院で治療してもらおう」「勉強は、先生が補講をしてくれるね」「検査で陰性になれば、人にうつすことはないよ」などと、具体的な解決策や対処法を親子で確認します。

こうすることで、子どもの不安の大きな原因となっている「先の見えなさ」を緩和(かんわ)することができます。子どもは「いざというとき」のイメージを具体的に持つことができ、「何があっても対処は可能」と実感することで、心が落ち着きます。

②日常的に子どもの考えや気持ちを言葉にして外在化する

「自分の考えや感情と距離を置き、変えることができる」と、認識する練習をします。そのために効果的なのが、気持ちを擬人化する方法です。

たとえば、「“イライラくん”が来た」とか、「“不安さん”がずっと胸のあたりにいる」などと自分の気持ちを擬人化したり、名前をつけたりすることで、子どもは感情を自分の心の外に取り出し、客観視しやすくなります。

親としても、「気にするのをやめなさい」とか「もっと前向きにならないと」などと子どもの考えや行動をどうにかしようとする意識から、「“不安さん”にいっしょに対応しようね!」などと、子どもと同じ目線でネガティブ感情に対処するような姿勢になることができ、子どもは親が自分の味方でいてくれる安心感を抱けるようになります。

③「どんな感情もずっとは続かない」ことを思い出させる

ネガティブ感情は、しっかりと感じることができれば不必要な部分を和らげることができ、長く続くこともありません。

そのため、お母さんには「小学校に上がったときや習い事を新しく始めたとき、不安だったよね。その不安はずっと続いたかな?」と質問してもらいました。すると娘さんは、「小学校に上がったとき、とても緊張したけど、すぐに慣れていったんだ……」と過去の事実を思い出すことができました。

このように、感情は変化していくこと、そして、「今のこの不安な気持ちにも終わりがある、ずっとは続かないんだ」とイメージすることも、困難を乗り越える力になってくれるのです。

小学4年生の母娘にこの一連の働きかけを実施してもらったところ、娘さんは気持ちが落ち着き、眠れるようになりました。「徐々に元気も取り戻していくことができました」と、お母さんはうれしい報告をしてくれました。

■「好きなこと」「楽しいこと」を意識する

また、問題解決だけに注目するのではなく、その子の「好きなこと」「楽しいこと」を意識的に取り入れる方法も有効です。

コロナ禍でのオンライン学習になじめず、友人たちとの交流がなくなり、気力を失い、学習へのモチベーションが下がってしまった男子高校生のケースです。

私は、このご家庭に、学習面にアプローチする前に、家族で映画を見たり、ゲームをしたり、いっしょに料理をするなど、家族のコミュニケーションを意識的に増やすことをすすめました。

そうすることで、高校生の息子さんは、誰かといっしょに時間を過ごす「楽しさ」という、彼にとってエネルギーとなるポジティブな感情が生まれ、心身の状態が良くなっていきました。とくに、彼は他者と楽しい時間を過ごすことがモチベーションになるタイプだったため、オンライン学習の時期は、ポジティブ感情のエネルギーが枯渇してしまっていたのです。

たとえ5分、10分でも、夢中になって楽しむ時間をつくることで、ポジティブ感情が生まれます。それにより、気力を取り戻すきっかけになることはよくあることなのです。

エネルギーを蓄えた彼は、徐々にオンライン学習に前向きに取り組むことができるようになりました。心身のコンディションが良くない中で無理に学習を進めようと躍起(やっき)になるより、ポジティブ感情を呼び覚まし、心のエネルギーが向上する活動をすることが、“急がば回れ”で有効なケースも多いのです。焦ってはいけません。

■わが子の「ポジティブ感情のスイッチ」を見つけよう

見てきたように、子どもたちのポジティブ感情を引き出すことで、ネガティブ感情は緩和され、思考(視野)を広げる効果が生まれます。

ポジティブ感情は免疫力を高めるという研究報告もありますから、心と体のエネルギーをアップしてくれるものであることは間違いありません。

ポジティブ感情といっても、ワクワク、興味、感動、リラックス、感謝など、種類はたくさんあります。親御さんたちには、お子さんがどんなポジティブ感情を経験するとエネルギーがアップするのか、お子さんが持つ“ポジティブ感情のスイッチ”に注目してみることをおすすめします。

もちろん、冒頭にお伝えしたように、ネガティブ感情を無視しないことは大前提です。

先の男子高校生の場合は、家族の交流の中で「こんな状況で不安になったり、とまどうのは当たり前だよ」と、彼の感じている焦りや孤独感は、誰もが持つ感情であることも伝えてもらいました。

手をつないで砂丘を登る家族
写真=iStock.com/DGLimages
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DGLimages

子どもたちが感じる「焦り」や「孤独感」は、自分だけでなく、誰もが感じているものだと知ることで、子どもたちは安心します。「ありのままの気持ち」を受け止めながらも、ネガティブ感情に対応できる力を育てていくことの重要性を親御さんたちが理解するだけで、子どもたちは必ず良い方向に進みます。

■親の「言葉かけ」で子どもは変わる

今回のパンデミックだけではありません。環境の変化や学校での人間関係など、生きていくうえで、社会には「見通せないこと」「変えられること」「変えられないこと」がさまざまあります。困難に直面しながらも、その都度、自分の気持ちをあるがまま受け止めて、理解し、良い方向へ変化させていく力を育てる、それが「レジリエンス教育」です。

それを家庭で実践できるシンプルな方法が、親の言葉かけです。

親御さんがかける言葉ひとつで、子どもたちは、はっきりと自覚していなかった自分の感情と、そうした感情が生まれた理由に気がつくことができます。

自分の感情に気づくことができれば、その感情を受け入れ、対処することができるようになります。また、自分の気持ちを理解することは、自身が何を大切だと思っているのかを知ることにもつながります。感情はときに、自分にとって大切なものを教えてくれるのです。

家庭でこうした働きかけを繰り返すことで、親子のつながりも深まっていきます。

子どもが自分自身を知り、親子のつながりも強化する。そのプロセスが、子どもの逆境や困難から立ち直る力となって、人生を力強く歩んでいく強力な武器となるのです。

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足立 啓美(あだち・ひろみ)
一般社団法人日本ポジティブ教育協会代表理事
認定ポジティブ心理学コーチ。メルボルン大学大学院ポジティブ教育専門コース修了。国内外の教育機関で10年間の学校運営と生徒指導を経て現職。現在は、ポジティブ心理学をベースとした教育プログラムの開発、小学校~高校、適応指導教室などさまざまな教育現場で、レジリエンス教育の講師として活躍中。ポジティブメンタルヘルスや組織開発にかかわる企業研修、ポジティブ心理学コーチとして管理職向けコーチングも行う。共著に『子どもの「逆境に負けない心」を育てる本』(法研)、『イラスト版 子どものためのポジティブ心理学』(合同出版)、『見つけてのばそう! 自分の「強み」』(小学館)がある。

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(一般社団法人日本ポジティブ教育協会代表理事 足立 啓美)

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