なぜか妻をイライラさせてしまう「ダメな夫」に共通する"話し方あるある"
プレジデントオンライン / 2021年6月18日 11時15分
※本稿は、黒川伊保子『不機嫌のトリセツ』(河出新書)の一部を再編集したものです。
■母と子の対話が弾まない理由
先日、友人から、悩みを聞かされた。
息子と、心を通わせる話ができない、と。
20代半ばのご子息が、会社の転勤で、実家に戻ってきたのだという。喜ばしいことなんだけど、まったく、会話が弾まない。自宅にいても、携帯端末を見ているばかりで、自発的に話すこともない。こちらの投げかける話題にも、「ふ~ん」「わかった」と紋切り型に返すだけ。
まるで、対話の消火器なのよ。あれじゃ、女性にモテるわけもなく、どうしてあげたらいいのかしら……と、美しく賢くエレガントな彼女が、珍しくため息をついた。
私は、ふと、過日、若い女性から寄せられた質問を思い出した。曰く、8歳の息子が、私と会話してくれなくなった。少し前まで、小さな恋人のように、何でも話してくれたのに。父親とは嬉しそうにしゃべるのに、私にはめんどくさそうにする。「私なんて、もういなくてもいいのかと、悲しくなります」と、彼女は涙ぐんだ。
私は、「あれ?」と思った。8歳の男の子なんて、好奇心に溢れていて、母親に何でもしゃべりたくてしかたないころだ。母親と断絶するのは珍しい。
■賢い母親がしがちな会話
そこで私は質問した。「日ごろ、どんなふうに話しかけてますか? たとえば、昨日、学校から彼が帰ってきたときの会話を教えてください」
彼女は、「学校どう? 靴、揃えたの? 早く宿題やりなさい、でした」と答えてくれた。日ごろの会話が透けて見えるようである。「食べ終わったら、さっさとお風呂に入って」「明日の用意はできたの?」「なんで、○○しないの?」「だから、言ったじゃないの」
真面目で、一生懸命で、子どものことを何よりも大切にしている賢い母親がしがちな会話。5W1H型の質問(なに? いつ? どこ? 誰? なぜ? どのように?)と、命令と叱責で構成されている。
でもこれ、よく考えてみて。「学校、どう? 靴、揃えたの?」という会話、帰ってきた夫が「今日、何してた? めし、できてるのか?」と聞くのと、まったく同じ話法なのである。話が弾むわけがない。
実は、家族との対話は、基本5W1Hで始めてはいけないのだ。それは、ゴール指向問題解決型といって、「目標を合理的に達成するための手段」としての会話の始め方。心を通わす会話にはなりえない。
■共感型対話と問題解決型対話
対話には、2種類ある。
共感し合うための対話と、問題解決のための対話。前者は、通常、質問から始めない。
私は、「息子が話をしてくれない」と嘆いた二人の友人に、同じ質問をした。──あなたは、久しぶりに会った親しい友人が、素敵なスカートをはいているのに気づいたとき、いきなり「そのスカート、いつ買ったの?」なんて、問い詰める? 普通は、「そのスカート、素敵ね」と声をかけるのでは?
二人とも、「たしかに」とうなずいた。言われた身になってみれば、いきなり「いつ買ったの?」と質されたら、ちょっとひるむに違いない。「何か問題でも?」と不安になるからだ。似合わない? 季節はずれ? 誰かと被った? まさか、今日になって、半額になったとか?
そう、女は、「心を通わせるために会った」友人に、いきなり5W1Hの質問なんかしない。何か問題があって、それを指摘しないわけにはいかない場合を除いて。なのに、子どもにはこれをする。
■夫の話法が、妻を不機嫌にさせる
そもそも、いきなりの5W1Hは、男たちがよくやる話法である。
あるとき、50代と思しき管理職男性からの質問を受けた。「なぜ、女性は質問にまっすぐに答えないのでしょうか」
先日家に帰ったら、妻が見慣れないスカートをはいていた。新しいのかなと思い、「そのスカート、いつ買ったの?」と聞いたら、少し不機嫌そうに「安かったから」と答えた。妻が5W1Hに答えないのはよくあることで、ずっと不思議だった。なぜ、まっすぐに答えないのだろうか?
やれやれ、お気の毒に、と私は思った。この男性は、「(このスカート、新しいのかなぁ)いつ、買ったの?」と尋ねているのだ。しかし、この質問、家計を預かっている者にとっては、「(俺に黙って)いつ買ったの?」と聞こえる。だから、「(あなたに黙って買ったのは)安かったから」と答えているのだ。妻の側には、マウンティングされたような不快感が残る。当然、話は弾まず、こんなことが度重なれば、夫は、妻に話しかける勇気を失っていく。
あるいは、妻がしたことに対して、夫が「どうして、こうしたの?」と質すことがある。たとえば、新しい三段ボックスをリビングに置いたときとか。妻にしてみれば、「なんか、文句ある? この辺がいっこうに片付かないのに、あなたが、何もしてくれないからじゃないの!」と逆上しそうになる。
けれども、多くの場合、夫は、純粋に「そうした理由」を聞いているのである。妻は、明るく「この辺が片付かないから、こうしてみたの。いいでしょ?」と答えればいい。「うん。あ、もう10センチ、こっちにずらせば、これも置けるよ」「ほんとね!」なんて話が弾むかもしれない(保証の限りではないけど)。
■夫の言うことを深読みしない
ここには、二つの教訓がある。夫は、妻に、いきなり5W1Hで話しかけてはいけない。
そして、妻は、夫のことばを裏読みしてはいけない。
「おかず、これだけ?」も「おかず、これだけ?(じゃ、これで、ご飯2杯食べられるように工夫するね)」なのである。「おかず、これだけ?(一日家にいて、これっぽっちかよ)」なんて言ってない。万が一、皮肉だったとしても、「そうよ。卵でもかける? ふりかけもあるわよ」と明るく応えれば、皮肉は宙に浮かんで、消えてしまう。
夫の言うことを深読みしない。それだけで、家庭が一段、明るくなる。ぜひ、お試しください。
もちろん、夫である人は、“心の通わない対話”を誘発してしまう5W1Hに気をつけて。
家にいる夫が、出かける妻に「どこ行くの? 何時に帰る?」と聞くのもご法度。
実はこの質問、夫の定年退職後に、妻の心拍数が最も上がる質問と言われているくらいだ。つまり、ストレスが高い質問。「家にいるべき主婦が、ふらふらどこへ行く?」と聞こえるのだそう。
化粧してよそ行きに着替えた妻には、「きれいだね」と声をかけよう。「出かけるの? 楽しんでおいで」と微笑めば、向こうから「デパートに行ってくる。何か美味しいもの買って、夕方には帰るね」と優しく言ってくれるはず。
もちろん、「お母さんの七回忌、いつだっけ?」とか「バターはどこ?」のような、第三者が主語の5W1Hに関しては、この限りではない。妻が主語の、“いきなりの5W1H”だけ、気をつければいいだけだ。
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脳科学・AI研究者
1959年、長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。近著に『共感障害』(新潮社)、『人間のトリセツ~人工知能への手紙』(ちくま新書)、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)など多数。
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(脳科学・AI研究者 黒川 伊保子)
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