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GAFAが金融業界に参入すれば「銀行の窓口業務をする人」は全員クビになる

プレジデントオンライン / 2021年7月8日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/takasuu

今後、GAFAをはじめとする巨大テクノロジー企業が金融業界を浸食する恐れがある。ベンチャー投資家の山本康正さんは「そうなれば、すべての銀行手数料は無料になり、手続きは24時間365日可能になる。旧態依然とした銀行は淘汰されるだろう」という――。

※本稿は、山本康正『銀行を淘汰する破壊的企業』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■GAFAにとって金融サービスは食い扶持ではない

既存の銀行が行っているサービスならびに、同じく既存の証券・保険会社が行っている各種金融サービスは、時間の差はあるでしょうが進化しなければGAFAなどのテクノロジー企業によって淘汰されていきます。

今後、金融の世界には3つのメガトレンドが生まれるでしょう。それぞれ紹介していきます。

1つ目のメガトレンドが「銀行の各種手数料はすべて無料になる」です。なぜ、無料になるのか。大きくは2つの軸があります。

まずはGAFA。彼らは既存のサービスラインがあり、そちらで莫大な利益を得ていますから、金融サービスはあくまでユーザーの囲い込みが目的です。

言い方を変えると、宣伝費、サービスのような感覚です。金融サービスが本業であり、それが食い扶持の銀行にとっては、脅威になるのは当然と言えます。

銀行が手数料を取っていたのは、一昔前は各種業務がそれなりにコストがかかっていたからです。国際送金や為替などはいい例です。

しかし昨今のテクノロジーを使えば、簡単に行えるわけですから、いつまでも手数料ビジネスを行っている時代ではありません。

■フィンテックベンチャーが次々と現れている

もう一つはスマートフォンでの事業ローン完結サービスなど、既存の金融サービスにはなかった新たなサービスを提供することで、従来の銀行の収益柱であった手数料に依存することなく、ビジネスを展開していくフィンテックベンチャーが次々と現れている点です。

この流れこそ、現在のトレンドと言えるでしょう。中には市場価値が1000億円以上のユニコーンに成長するベンチャーも少なくありません。

実際、アップルカードの年会費は無料です。一方で、大手カード会社の多くはいまだに年会費を取っています。年会費に見合ったサービスが受けられればよいですが、アップルカードには買い物時の割引率がアップルカードを使うことで高くなるなど、実際に使いたくなる、使っていてうれしいサービスがたくさんあります。果たしてユーザーがどちらを選ぶのか、アップルが優れた顧客体験を提供し続ければ支持は広がります。

■アップルペイやグーグルペイの目的は「囲い込み」

アップルペイやグーグルペイなど、各種○○ペイの事業者側の手数料についても、同じことが言えます。こちらは0円ではありませんが、クレジットカードの数%に比べれば、はるかに安い利率で事業者は利用できるように価格競争が起こりつつあります。

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写真=iStock.com/400tmax
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/400tmax

さらに補足すれば、アップルペイやグーグルペイの手数料は、本来であれば無料で提供できるわけです。先に書いたとおり、決済サービスはあくまで本業への囲い込みだからです。既存の競合に合わせて手数料を取っているだけですから、開発が進めば、決済サービスの手数料も無料になることは十分考えられます。

余談ですが、役所などで住民票や戸籍謄本などをプリントアウトしてもらうと、数百円の手数料を取られます。同じように、学歴の証明書発行など、手数料が有料のものは多くあります。

これらの手数料も、今後ブロックチェーンなどのテクノロジーが浸透していけば、役所の担当者を介さずに、それでいてセキュア(安全)に簡単に取得できるようになります。その結果、無料になると私はみていますし、そのようなサービスを提供するベンチャーが、これからおそらく出てくるでしょう。

そして究極的なトレンドとしては、テクノロジー企業が銀行機能を持つ。このようなトレンドになっていくと思います。

■預金量だけに頼る銀行は投資家に見捨てられていく

ペイパルが、アメリカ屈指のメガバンク、バンク・オブ・アメリカの時価総額を抜きました。この出来事の背景には、まさにこれからの金融業界におけるトレンドが示されています。預金量が多いだけでは競争優位性を保てないということです。

言い方を変えると、預金量だけに頼っているビジネスを続けている銀行を、世界中の機関投資家たちは、「これから先、大きく伸びることはなさそうだ。だから投資するのは控えよう」。このように判断した、ということです。

銀行の収益柱の要はローンです。ローン事業による利益率は、おおよそ数%でしょう。バンク・オブ・アメリカの預金量は約2兆ドルですから、日本円にすると約200兆円。つまり預金を貸すことで得られる利益は、約2兆円以上になります。

それなりの金額ですし、一見すると優良企業のようにも思えますが、投資家の観点はまったく異なります。「わずか数%しかリターンがない」と思うからです。

■「データを持っていて、活用できるか」が投資家の判断材料

もう一つ付け加えれば、2兆円という金額や企業の規模、そして預金量には、投資家は興味がありません。

興味があるのは、投資したお金がどれだけ増えるか。現在の利益率ではなく、これから先どれくらいグロース(成長)し、どの程度の利益を生み出す可能性があるのか。そしてその成長の種を持っているか。そこが、ポイントだからです。

現時点では小さなベンチャーであっても、この先伸びる技術やサービスを持っていれば、瞬く間に時価総額数千億円、中にはペイパルのように数十兆円規模にまで成長する時代であり、トレンドだからです。

伸びる企業の判断材料の一つが、データを持っているかどうかです。ただし、データは持っているだけでは意味がありません。保有しているデータを活用し、ユーザーや社会から評価される仕組みやサービスとして世に送り出すことのできる、技術力やインテリジェンス(洞察力)が必要です。

そして、このようなアセットを持つ企業に対して、市場が適切に評価する。ペイパルがバンク・オブ・アメリカの時価総額を抜いたことは、まさに現在のトレンドシフトを如実に表している出来事と言えます。

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写真=iStock.com/JasonDoiy
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/JasonDoiy

■データを活用できない銀行は合併の対象になっていく

データを活用した金融サービスが、社会に浸透した際の未来の姿はこれから詳しく紹介していきますが、データがあれば、EC、広告、与信など、いくらでもサービスの展開ができます。

一方で、いわゆる旧態の銀行は、これまで使えるかたちでデータをそもそも取っていませんでした。もちろん、○○円の入金が△月△日にあったといった類いのデータはあるでしょう。

しかしデータを自社の広告や営業に生かすようなAIなどの分析ツールを用意しなかった。そもそもそれ以前、別のサービスに活用するためにデータを取ろうとの考えがなかったと思われます。

このような姿勢やビジネスモデルは、現代のトレンドとは合致しません。

投資家目線で考えたら、アメリカの投資銀行であるゴールドマン・サックスがいち早くデータを活用したり、テクノロジー企業と組んでいる一方で、データが規制や慣例も関連し取れる状態でなかったり、あるデータを活用しようともしない。

預金量が劇的に増えない中で預金量×数%のビジネスがメインであり続ける。言い方を変えると変われない旧態の銀行では今後合併などの対象になってくるでしょう。

■すべての銀行サービスはスマホで完結できるようになる

テクノロジーの進化により、これからの社会では銀行は24時間365日開いているのが当たり前になるでしょう。ただし、ここで言う銀行とはリアルな店舗ではなく、スマートフォン内のデジタルバンクです。

つまり3つ目のメガトレンドは、

「すべての銀行サービスはスマホで完結する」

このように言い換えることができます。

このトレンドの結果、どのような未来になるのか。お昼休みにわざわざ銀行の窓口に足を運び、長い行列に並んでお金を下ろす。

15時までに何とか銀行に行き、番号札を取って、申込書類に住所や電話番号を記入し、印鑑を押す。しかもお金を下ろすのと同じように、数十分、手続きをしてもらうまで待たなければならない。

このようなストレスが溜まる、無駄に時間を使っていることが、これから先の未来ではなくなります。

先日、アマゾンのトップから退任することをアナウンスした創業者のジェフ・ベゾス氏の発言が、まさにこの3つ目のトレンドに重なっていました。次の言葉です。

「本当に新しい発明というのは、数年後にあくびをするような存在になる」

この言葉の意味するところは、あくびのように意識することなく、まるで空気のような存在のサービスや発明こそ、社会から本当に求められているものだと。アマゾンはこの先、そのようなサービスを目指していく、ということです。

■あらゆるサービスが24時間365日受けられる

現に、一昔前であれば何か商品を買おうとした場合、お店が開いている時間にリアルにお店に足を運ぶ必要がありました。

山本康正『銀行を淘汰する破壊的企業』(SB新書)
山本康正『銀行を淘汰する破壊的企業』(SB新書)

しかし、夜中でも開いているコンビニが登場し、24時間365日、買い物ができるように変わりました。そしてそのトレンドはコンビニだけでなく、スーパーマーケットやファミリーレストランにまで拡大しました。

その後、リアル店舗はインターネット内に移動し、店に足を運ぶことすらなくなりました。24時間365日物が買える便利さは変わらず、です。さらには自宅にいることなく、出先で、あるいは電車などで移動している最中でも、スマートフォンがあればいつでもどこでも物が買えるようになりました。

このような小売業でのトレンドシフトが、銀行業界でも起きます。テクノロジーのおかげです。そういった意味では、あらゆるサービスが空気のように、24時間365日受けられる。それも、本人が意識することなく自動で。

このトレンドは金融サービスに限ったことではなく、あらゆる業界、サービスでも起きるトレンドであるとも言えます。そしてそのようなサービスが浸透した社会が経済での競争力を持つでしょう。

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山本 康正(やまもと・やすまさ)
ベンチャー企業投資家
1981年、大阪府生まれ。東京大学で修士号取得後、米ニューヨークの金融機関に就職。ハーバード大学大学院で理学修士号を取得。修士課程修了後グーグルに入社し、フィンテックや人工知能(AI)ほかで日本企業のデジタル活用を推進。日米のリーダー間にネットワークを構築するプログラム 「US Japan Leadership program」フェローなどを経て、2018年よりDNX Ventures インダストリーパートナー。自身がベンチャーキャピタリストでありながら、シリコンバレーのベンチャーキャピタルへのアドバイスなども行う。ハーバード大学客員研究員、京都大学大学院総合生存学館特任准教授も務める。著書に『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』(講談社)、『シリコンバレーのVC=ベンチャーキャピタリストは何を見ているのか』(東洋経済新報社)がある。

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(ベンチャー企業投資家 山本 康正)

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