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EC決済の「10兆円ベンチャー」の名前を、ほとんどの日本人が答えられないワケ

プレジデントオンライン / 2021年7月16日 9時15分

2021年3月15日、iPhone上に表示された米国の電子決済サービス大手ストライプのアプリ - 写真=AP/アフロ

米国で急成長しているEC決済のベンチャー企業がある。その名は「ストライプ」だ。ベンチャー投資家の山本康正さんは「利用者側と事業者側の両方に対して、電子決済導入のハードルを一気に下げたのが画期的だ」という――。

※本稿は、山本康正『銀行を淘汰する破壊的企業』(SB新書)の一部を再編集したものです。

■中小企業をターゲットにシェアを広げたペイパル

ペイパルは電子決済を手がけているベンチャーです。創業者の一人は、スペースXやテスラを経営する実業家、イーロン・マスク氏です。

ただし、彼の個人的なミッションの代名詞とも言える宇宙事業などとは異なり、ペイパルでの電子決済事業は、これから世の中に必要なサービスと見越して設立されました。具体的には、インターネットの普及によりEC事業が拡大した、それに伴い電子決済事業も伸びるはずだ。このような思惑から設立された企業です。

そして彼の予想どおり、EC決済のプラットフォームとして、ペイパルは拡大していきます。アマゾンなどの巨大ECサイトは、独自の決済プラットフォームを持っています。

しかし、個人事業主も含め、規模がそれほど大きくない企業が決済プラットフォームを自社で構築することはハードルが高いですから、そのような中小企業をターゲットに、シェアを広げていきました。

プラットフォーム事業ですから、一度システムを構築すれば、あとは利用者を増やすだけのいわゆる座布団ビジネスです。そのため顧客数ならびに売り上げを着実に伸ばし続けていて、現在では電子決済プラットフォームとして、グローバルで使われています。

昨今のコロナ禍の影響を受け、巣ごもり需要でECサイトの利用は以前にも増して伸びていますから、その利用率の増加と呼応する勢いで、以前にも増して勢いのある企業となっています。

■ペイパルはデジタルバンクを立ち上げるのではないか

クレジットカード会社の決済サービスと近いですが、ペイパルの特徴であり優位点は、スタート当初からデジタルであったこと、データの収集・分析を念頭に置いたビジネスモデルであったことです。

クレジットカード会社も昨今は決済データを溜めて活用しようと動いているようですが、最初から決済データの蓄積を実装していたことが強みとなっています。

今後は、GAFAの動きに追従すると私は予測しています。デジタルバンクの設立です。現時点では決済の先には銀行口座があるからです。GAFAの思惑と同じく、ペイパルは特にデジタルに特化していますから、デジタルバンクを設立し、金融サービスを強化していくだろうと。

ペイパルとしては旧態の銀行が手がけている、リアルな銀行業務をインターネット上に置いただけのネット銀行とは異なる、はるかに利便性の高いデジタルバンクを設立することで、既存の金融サービスを破壊するのではないか。私はそのように予測しています。

デジタルバンクを自社単独で作り上げるのか、それとも買収や既存の銀行と手を組んで行うのか。このあたりの思惑はグーグルの箇所で詳しく解説したように、パワーバランスもありますから、あれこれと画策していることでしょう。

■兄弟で起業、30歳にしてビリオネアに

ペイパルと同じ電子決済事業で飛躍的な成長を遂げているのが、アメリカのストライプです。日本では岡山県を本拠地にしたストライプインターナショナルというアパレルの会社がありますが、関係はありません。

アイルランド出身のパトリック・コリソン氏は高校の頃から起業をし、地元のアイルランドの省庁からは出資を得ることができない一方で、シリコンバレーの投資家は興味を示したため、アイルランドを飛び出し、カリフォルニアに本拠地を移転。

その後会社をカナダの会社に売却しつつ、コンピュータサイエンスをアメリカのマサチューセッツ工科大学で学んでいたところを新しく電子決済事業の「ストライプ」を起業するために中退。

2歳下でハーバード大学で学んでいた弟のジョン・コリソン氏と共に2010年に創業しました。まだ兄が20歳の頃からの創業で、現在では兄弟ともに、まだ30歳ほどで最も若い年齢層で自力でビリオネア(1000億円以上の資産家)になった起業家です。

■オンライン決済の手間を排除したEC決済

オンライン決済では、カード番号を記入したり銀行口座を指定するなど、手間がかかります。先に紹介したペイパルを利用しても、ペイパルのアカウントならびにパスワードが必要です。

コリソン兄弟は、このような手間を排除した、より簡便にスマートに行える、それでいながらセキュリティもしっかりと担保されたEC決済を模索します。そうして作り上げたのが、同社の電子決済サービスです。

クレジットカードと携帯電話
写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SARINYAPINNGAM

彼らの考案したアルゴリズムならびにシステムは画期的で、ペイパルも含めたこれまでの電子決済導入のハードルを、一気に下げました。ハードルは、利用者、事業者どちらもです。

私は実際にアメリカのECサイトやアプリ内で何度かストライプの決済サービスを利用していますが(表立ってストライプとは書いていませんが、決済のスムーズさや、裏のコードを見ると分かります)、何かを購入し決済するときに、クレジットカードの番号を打ち込む必要はありません。たとえば、セキュリティコードを打ち込むだけで決済が完了します。

仕組みはクレジットカードの番号やローマ字の名前などの情報を、スマートフォンのカメラで読み込むだけで、AIが自動的に文字を読み込み入力してくれるのです。実際に利用してみると分かりますが、これまでの電子決済に比べ、はるかに楽に決済できます。

■「ストライプを利用している」と思わせない仕組み

「カードのローマ字を打ち込むのが面倒」。このような理由から、せっかく目の前に買いたい商品があるのに、決済が手間なために購入を諦めてしまう。いわゆる離脱者も、ストライプを使えば防ぐことができます。

離脱者を防ぐという点で、ストライプがペイパルと比べ優れている点がもう一つあります。ストライプを利用しているとの感覚や意識を与えないことです。ペイパルのスキームは、決済でペイパルを選択した時点で、ペイパルのプラットフォームに飛びます。

何度かペイパルを利用している人であれば不安はないですが、初めてペイパルを利用する人にとっては、アカウントを作ることの面倒さから、購入をやめてしまうケースがあるからです。

一方、ストライプは縁の下の力持ちです。カメラによるクレジットカードのスキャニングでも、別サイトに飛んだり、ストライプの文字やブランドロゴが出てくることはありません。あくまでいま利用している目の前のECサイトのプラットフォーム上で、決済できる仕組みです。

■決済システムを導入する手間も少ない

さらにストライプのサービスが素晴らしいのは、決済システムを導入する手間が、ペイパルに比べはるかに楽な点です。わずか数行のコードを、ストライプの決済を導入するサイトに加えるだけでよいからです。

山本康正『銀行を淘汰する破壊的企業』(SB新書)
山本康正『銀行を淘汰する破壊的企業』(SB新書)

自社のホームページにクレジットカード決済を入れたいと思った場合、ペイパルであれば、ペイパル専用のアカウントを作り、ソースコードを取って貼りつけるなど、それなりの手間と時間、プログラミング知識が必要でした。しかし、ストライプであれば楽になるのです。そのため特に、プログラミングに疎い人にとっても導入しやすいサービスと言えるでしょう。

決済手数料においてもペイパルより安く設定していることや、スマホでの決済へのいち早い対応もあり、設立からまだ10年ですが、ここ数年急激に成長。アメリカではもちろん、今や世界中にサービスを広げています。

正確には、グローバルでビジネスを展開している大手顧客を持つことで、世界中にそのサービスが広がっています。利用企業の顔ぶれも豪華です。ツイッター、簡便にホームページを構築できるサービスを提供するカナダのショッピファイ、ズーム、配車サービスのリフトやグラブなどです。中国にも進出し、「Alipay(アリペイ)」や「WeChat Pay(ウィーチャットペイ)」などもストライプを利用しています。

日本にも2016年から導入が進んでおり、全日空といった大企業から、DeNAやfreee、といったメガベンチャーなどでの導入が進んでいます。その結果、すでに年間数十兆円規模の決済高を誇り、時価総額もペイパルの約3分の1にまで迫る約10兆円にまで伸びています。

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山本 康正(やまもと・やすまさ)
ベンチャー企業投資家
1981年、大阪府生まれ。東京大学で修士号取得後、米ニューヨークの金融機関に就職。ハーバード大学大学院で理学修士号を取得。修士課程修了後グーグルに入社し、フィンテックや人工知能(AI)ほかで日本企業のデジタル活用を推進。日米のリーダー間にネットワークを構築するプログラム 「US Japan Leadership program」フェローなどを経て、2018年よりDNX Ventures インダストリーパートナー。自身がベンチャーキャピタリストでありながら、シリコンバレーのベンチャーキャピタルへのアドバイスなども行う。ハーバード大学客員研究員、京都大学大学院総合生存学館特任准教授も務める。著書に『次のテクノロジーで世界はどう変わるのか』(講談社)、『シリコンバレーのVC=ベンチャーキャピタリストは何を見ているのか』(東洋経済新報社)がある。

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(ベンチャー企業投資家 山本 康正)

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