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世界最高のアウトプットを生む勉強法

プレジデントオンライン / 2021年6月23日 17時15分

クリエイティブディレクター/アートディレクター 佐藤可士和氏

名だたる企業のブランド戦略を次々に手掛け、成長につなげてきた佐藤可士和氏。なぜ彼のクリエイティブは失敗しないのか。一流経営者たちから愛される男の勉強法には、成功のヒントが詰まっていた。

■勉強とは解釈だ

僕の仕事は常にほぼ想定どおりに進行します。それはものごとを“文脈”で捉える習慣があるから。文脈というのは、言い換えると時代の流れのことです。どのような文脈の中で自分が仕事をしているのかをしっかりと理解し摑んでいれば、的外れなアウトプットをすることはないと思います。

勉強というとどうしても知識のインプットやスキルの習得に目を向けがちなのですが、僕の場合は違います。過去から現在に至るまでの文脈を読み解いて、自分なりの解釈を持つことを勉強だと捉えています。そして、その解釈をもとに未来の新しい文脈を創り出していくことが僕の仕事です。

たとえば、ユニクロのグローバル展開に向けたロゴを制作する仕事の場合、日本のカルチャーや日本のデザインが世界でどのように認識されているか、どこに位置付けられているのかという文脈を捉えようとしていました。

僕の中では、1990年代後半ぐらいから漫画やアニメといったジャパニーズポップカルチャーが世界のファッションとかアートシーンでも注目され始めたという認識があって。その中でも、アーティストの村上隆さんとハイブランドとのコラボレーションがすごく象徴的でした。2002年にはパリのカルティエ財団現代美術館において村上さんの大規模個展が開催され、それを機に、マーク・ジェイコブスが当時クリエイティブディレクターを務めていたルイ・ヴィトンでコラボしたという流れを目の当たりにしていました。

それまで日本のポップカルチャーはオタクの世界観というか、もっとアンダーグラウンド。ある意味、カウンターカルチャーであってメジャーではなかったんです。そのような中で、ルイ・ヴィトンが村上さんを起用するっていうのは、日本のポップカルチャーがアートを通してある意味でメジャー化したということだと解釈しました。この一連の流れを読み解く作業が僕にとっての勉強法なのです。

■ものごとの文脈が把握できていれば、本質が見えてくる

02年当時は、まだ時代の最先端になっただけで、マスブランドが何かを仕掛けるには時期が早すぎました。しかし06年の秋頃にはだいぶそれも浸透していたので、ユニクロのブランディングでは、感度の高いニューヨークのソーホー地区にグローバル旗艦店をオープンし、片仮名で「ユニクロ」とデザインされたロゴマークを考案しました。実際、アメリカ人に話を聞いてみると、アルファベットの「UNIQLO」よりも片仮名の「ユニクロ」をモチーフにしたロゴのほうがめちゃくちゃカッコいいという声が多かったんですね。日本語は読めないけど、形として素晴らしいと。もちろんこうした好意的なリアクションはすべて計算どおりでした。

片仮名のロゴはエッジが効きすぎてさすがの柳井正社長でも選ばないのではと佐藤氏は思っていた。しかし、数多のロゴ案の中から柳井社長が選んだのが片仮名。柳井社長の感覚の鋭さと想像力の深さに改めて感激したという。
写真=Rodrigo Reyes Marin/AFLO
片仮名のロゴはエッジが効きすぎてさすがの柳井正社長でも選ばないのではと佐藤氏は思っていた。しかし、数多のロゴ案の中から柳井社長が選んだのが片仮名。柳井社長の感覚の鋭さと想像力の深さに改めて感激したという。 - 写真=Rodrigo Reyes Marin/AFLO

当時も今も、日本発のグローバルブランドで片仮名のロゴを作るところなどありません。片仮名は日本ではどちらかというと野暮ったくてダサいというイメージをいだかれてしまうから、自然とアルファベットが主流となります。しかし、海外の先端都市の中で日本文化が置かれた文脈を理解し、それを自分なりにも解釈していた僕の目には、片仮名のほうがむしろブランディング上効果的だと見えていました。

そして、まずは海外から片仮名ロゴを使用し始めて、ユニクロのグローバルな成功の象徴として片仮名ロゴを逆輸入することで、日本人にとってもカッコよく見えるようになるという設計を当初から想定しています。これは5年くらいの時間軸で考えていました。繰り返しますが、ものごとの文脈が把握できていれば、本質が見えてくるので、数年がかりの計画を成功させることも雲を摑むような話ではなくなってきます。

グローバル展開を念頭に置いたロゴデザインをうまく浸透させるためには、片仮名のモチーフという画期的なデザインに加え、それを世に出すタイミングこそが決定的に重要でした。

これはクリエイターだけではなくて、一般のビジネスパーソンにとっても大切です。いくら画期的なアイデアでも、文脈から逸れていたり、あるいは早すぎたり、遅すぎたりすれば、それはヒットにつながらないでしょう。

国立新美術館で開催されていた佐藤可士和展もデザインという概念が一般の人にも広く認識されるようになった今、このタイミングだからこそ15万人を超える方に来ていただくことができました。自分の仕事を成功させたいのであれば、現在がどのような文脈の上に成り立っているのかを理解したうえで、新しい文脈を適切に創っていく作業が欠かせないのです。

■忘れてはいけない自然な感覚

世の中の動向だけではなく、自分自身も俯瞰する対象になります。たとえば、新型コロナウイルスの感染拡大とともに自分の認識がどのように変化したのかを考えてみると、当初は戦争でも起きたのではないかというような緊迫感がありました。

ところが今ではこうした状況に慣れてしまい、緊張感も薄くなっている。この感覚の変化が大事だなと思っています。こうやって物事って慣れていってしまうんだな、という具合に自分自身の行動や思考を俯瞰して観察します。これは僕の基本的なものの見方のひとつ。ぼんやりと生活している自分がいて、それをクリエイターの自分が俯瞰しているイメージです。そうすることで、僕の仕事が社会に出たときに、見た方が自然に抱く感覚を忘れないことを大切にしています。

ただし、現在に対する自分の解釈をそのまま放っておくと、解釈が独善的で他人から共感が得られないものになってしまいます。僕の仕事はコミュニケーションをデザインすることなので、勝手な解釈で暴走してしまったら、そこでお終い。そうならないために、自分の解釈を積極的に他人に伝え、相手との対話の中で解釈が独善的になっていないかどうかを確認するのです。幸いにも僕はそれをクライアントと共有するのが仕事ですが、自分の解釈を共有できる場を持つことは大事なことです。

加えて、より深く文脈の解釈をするために必要なのが、答えのない問題にひとまず答えを出す力です。僕の場合は美大生のころから今に至るまで「人は何のために絵を描くのだろうか」とか「コミュニケーションってなんだ」といった問いに考えを巡らせ続けています。大切なのは答えを出さないまま放置しておくのではなく、自分なりに仮説を持つこと。そして、それを不断に見直しながらアップデートしていくという訓練を積んでおくことです。そうすることで、時代の文脈に対してより精緻な解釈を与えることができるようになると思っています。

■佐藤可士和が一流から愛される理由

ユニクロの柳井正社長とは15年ほどご一緒させていただいていますが、僕の提案に対して柳井さんから「ノー」と言われたことは1度もありません。僕が一流の経営者の方々の求めるものを提案できるのは、それぞれの判断軸を理解しているからです。それぞれの方が大切にしていることがわかれば、事前に自分の中で提案をスクリーニングすることができます。多少の細かい修正は生じても、「可士和さん、それ全然違いますね」とはなったことがありません。

僕の提案に対してユニクロの柳井正社長から「ノー」と言われたことは1度もありません。

こうしたクライアントの判断軸は仕事の話をしているだけでは、なかなか見えてきません。最終的には感覚的に摑んでいくのですが、その際に役立つのが雑談です。特に趣味の話はお薦めです。たとえば、ゴルフが好きな相手なら「ゴルフの何が好きなんですか」と聞いてみる。好き・嫌いの話はその人の判断の物差しなので、その人の判断軸を探るのにとてもよいのです。

この判断軸というのは、あくまで価値観なので、正しい・間違っていると判定すべきものではありません。ある人がAというアイデアを高く評価しても、ほかの人はまったく価値を感じないということは起こりうるからです。

ユニクロの柳井正社長と楽天の三木谷浩史社長では、判断軸はまったく異なりますし、クリエイティブの方向性も当然変えます。当たり前のことのようですが、自分の判断軸でクライアントと仕事をしてしまっている人は意外と多い。判断軸を自分の中に置くのではなく、外に出すことで提案が通る確率はグンと上がるのではないでしょうか。

よく仕事がデキる人、デキない人というトピックがありますが、両者の違いは想像力の差だと思っています。イメージする力が強い人は、事前に頭の中で何度もシミュレーションをすることで、事前に検討した多様な選択肢の中から選ぶことができる。これによって、誤った選択が減りますし、アウトプットの厚みが断然変わってきます。これは能力というよりは習慣の問題なので、誰でもトレーニングすることができます。具体的な訓練方法として“空想”はひとつの効果的な手法です。

たとえば、緊急事態宣言は回数を重ねるごとに緊迫感を失ってきていますが、もし自分だったら、社会の緊張感を保つためにどのようなコミュニケーションを取れるだろうかと想像してみたりします。企業ブランディングとはまったく違う世界なので、実際には実現性のないことしか考えられないかもしれない。だけど、何か学習できることはあるかもしれないと考えて、思いついたときにさまざまなことを空想してみるという習慣をつけることでアウトプットの質は上がっていくはずです。

■リアルには莫大な量の情報が詰まっている

どんなメディアを読んでいるのかと聞かれることがよくあります。広く知られていない秘密の情報源を持っていることを期待して質問してくれているのだと思いますが、実際に目を通すのはYahoo!ニュースやテレビ、新聞、雑誌といったみんなが読んでいるもの。たしかに昔は自分しか知らないような情報源を持つことを意識していましたが、今は目についたものからぼんやりと眺めていくことが多くなりました。

インターネットが普及するにつれて、誰も知らない情報というものが世の中からなくなってきているし、そもそも誰も知らないということは、必要とされていないということなので、情報としてあまり価値がないのではないかと考えるようになりました。

むしろ、意識すべきは現地に足を運んだり、本物に直に触れたりするリアルから得られる情報の重要性です。リアルには莫大な量の情報が詰まっています。

たとえば、村上隆さんがパリで個展を開いたときも、僕は現地まで観に行っています。本当に素晴らしかったし、現地でどのくらいの熱量で受け入れられているかも肌で感じました。テキストにならない情報を現場や本物からは得ることができるのです。

ユニクロのグローバル旗艦店をニューヨークにオープンする際も、頻繁に現地まで足を運んで、ソーホーをはじめほかの地区も回りました。日本の店が増えていたりとか、アニメのショップが出始めていたりして、それを目の当たりにすることで、日本文化が現地に広がっていく様子を自分自身で体感しているのです。文字や写真でそのことを知るのとは、感じ方も記憶への残り方もまったく違います。

ほかにも佐藤可士和展は画像がSNSにたくさん上がっていましたが、やはりあのロゴのオブジェを展示した部屋は、実際に行かないとわからないことが多かったと思います。あの広さの空間に巨大なロゴを配置したときの迫力や、近づくと見えてくる質感の違いなど、平面で切り取られた写真や動画では体験できない強さが現地にはあります。情報を視覚だけではない身体感覚で得ているからです。

新型コロナウイルスの感染拡大によってリモートが生活や仕事の中に急速に広まりましたが、リアルが持つ価値を低く見積もらないようにしてほしいですね。

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佐藤 可士和(さとう・かしわ)
クリエイティブディレクター/アートディレクター
1965年、東京都生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒。博報堂を経て2000年独立。同年クリエイティブスタジオ「SAMURAI」設立。ブランド戦略のトータルプロデューサーとして名だたる企業の課題をクリエイティビティで解決してきた。著書に『佐藤可士和の超整理術』(日本経済新聞出版)など多数。

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(クリエイティブディレクター/アートディレクター 佐藤 可士和 構成=プレジデント編集部 撮影=宇佐美雅浩)

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