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「世界で一番ありえない男子」そんな父親が思春期の娘にも聞いてもらえる"唯一の質問"

プレジデントオンライン / 2021年6月22日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/sanjagrujic

父親が思春期の娘と良い関係を築くにはどうすればいいのか。脳科学・AI研究者の黒川伊保子さんは「相談事を持ちかけてみるといい。相談事は、相手への好奇心と信頼を同時に感じさせることができる」という——。

※本稿は、黒川伊保子『不機嫌のトリセツ』(河出新書)の一部を再編集したものです。

■うざい理由「あれこれ聞いてくるから」

2020年、コロナ禍の真っ最中に、『娘のトリセツ』という本を書いた。

「娘の育て方」「娘との付き合い方」は、何年も前から、幾度となくオファーをいただいてはいるものの、私には娘がいないので、書く資格もモチベーションもないとお断りしてきたテーマである。しかし、小学館の編集者の方が、ついに私の心を動かした。

というのも、可愛くてたまらない中学生のお嬢さん(男子2人の後に、10歳も離れて生まれた末娘なのだそう)から、先日、衝撃の事実を言い渡されたと嘆いたから。「友だちの間で、うざいパパ・ランキングをしたら、パパがNo1だった」と言われたという。理由を尋ねたら、「あれこれ聞いてくるから」だったとか。

「そんなに、しつこく聞いた覚えはないんですけど」とうなだれるお父さん、もとい編集者さん。私が「直近、彼女にどんな質問をしました?」と尋ねたら、「スマホのアプリに夢中だったので、それ何? と聞いたくらいでしょうか。無視されたので、それ以上は聞かなかったし。ぜんぜん、しつこくないでしょう?」と、自分には罪がないと言いたげな様子で答えてくれた。

しかし、それがビンゴ! だった。私は、その瞬間、この方のために『娘のトリセツ』を書こうと決心したのである。見事な「うざいパパ」ぶりで、あまりにも無自覚だったから。

■思春期以降の娘に「いきなりの5W1H」は危険

先に、妻に対して、いきなり5W1H(なに、どこ、いつ、だれ、なぜ、どのように)で話しかけてはいけない、と述べた。これは、娘にも当てはまる。

彼は、スマホアプリに夢中な娘さんに、無邪気に「それ何?」と尋ねているのだ。お絵かきに夢中な5歳の娘に、「それ何?」と尋ねたときのように。

5歳の娘は、機嫌を損ねることなく、「ウェディングドレスだよ。ののちゃんは、パパのおよめさんになるんだぁ」なんて、答えてくれたはずだ。あそこまでの愛らしさじゃなくても、せめてまっすぐな答えが返ってくるかと思いきや、15歳の娘は不機嫌のオーラをまとって、無言で自室に消えていく。お父さんたちのショックは、いかばかりかとお察しする。

とはいえ、こんなこと聞くなんて、危険すぎる。思春期以降の娘には、「それ何?」は、「何、くだらないことしてるんだ?」と聞こえているのである。そこまでではなくても、父親に、自分が感じている面白さが伝わるとも思えず、ことばを選びかねて困惑し、退散することにしたのだろう。それが、思春期以降の女性脳というものである。

学校の階段を上る2人の女子学生
写真=iStock.com/D76MasahiroIKEDA
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/D76MasahiroIKEDA

■世界で一番ありえない男子

思春期の娘が、父親に急に冷たくなるのには、脳科学上の明確な理由がある。

脳の警戒スイッチが入ってしまうからだ。爬虫類、鳥類、哺乳類のメスは生殖リスクが高いので、基本的には、オスを警戒し、排除しようとする本能がある。異性から向けられた言動に一瞬身構え、「攻撃か⁉」と疑うのだ。遺伝子相性の悪い相手との望まない生殖を避けるための、脳の辺縁系周辺に仕込まれた大事な“スイッチ”である。

このスイッチ、父親といえども、容赦なく入る。いや、父親にこそ、世界で一番強く働くのである。なぜならば、HLA遺伝子が酷似しているから。

黒川伊保子『不機嫌のトリセツ』(河出新書)
黒川伊保子『不機嫌のトリセツ』(河出新書)

思春期以降の女性は、異性に対し、基本的に警戒スイッチが働くのだが、そのままではつがえない。そこで、遺伝子相性のいい男性(免疫タイプを決める遺伝子=HLA遺伝子が自分と一致しない男性)だけに警戒スイッチを切るのである。HLA遺伝子が一致しない相手と生殖すれば、子孫に、さまざまなタイプの免疫力をもたらすことができるからだ。

このとき、女性は、主に父親からもらったHLA遺伝子を使うという。つまり、父親は、HLA遺伝子が最も近い相手。言い換えれば、「世界で一番ありえない男子」なのだ。

思春期というのは、娘にとっても残酷である。「世界で一番、大好きなパパ」が、ある日、「世界で一番ありえない男子」になってしまうのだから。警戒スイッチがうまくコントロールできるようになる18歳くらいまで、娘は、父親に不機嫌なのだが、それは許してあげてほしい。ここで関係がこじれなければ、やがて娘は父のもとへ戻ってくる。

■話したかったら、相談事から

というわけで、思春期の娘には、少し遠巻きでいてあげてほしい。話しかけるときは、5W1Hは厳禁と心得て。学校や友だちのことを根掘り葉掘り聞いたり、娘のスマホを覗き見て、「そのアプリ何?」と尋ねたりしないことだ。娘の理解できないファッションにも「何だそれ?」なんて言ってはいけない。気になることがあったら、妻に任せること。父親は、あくまでも全幅の信頼を寄せている態を装ったほうがいい。

かといって、「娘の変化点に気づいて、ことばにする」と、キモいと言われる。話の呼び水を使っても、ほぼ100%スルーされる。

そんな場合の、とっておきの奥義がある。「相談事」を持ちかけるのである。「ママへ花束を贈ろうと思うんだけど、何色の花がいいかな?」とか「会社の若い女の子にこんなこと言われたんだけど、意味がわからないんだ」とか、「菅首相って、若い人たちはどう思ってるの?」とか。相談事は、相手への好奇心と信頼を同時に感じさせる。5W1Hの質問が、好奇心とマウンティングを感じさせるのとは対極的に。お試しあれ。

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黒川 伊保子(くろかわ・いほこ)
脳科学・AI研究者
1959年、長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。近著に『共感障害』(新潮社)、『人間のトリセツ~人工知能への手紙』(ちくま新書)、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)など多数。

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(脳科学・AI研究者 黒川 伊保子)

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