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脳科学者が証明する「子供を持たない=生産性が低い」という考え方の大間違い

プレジデントオンライン / 2021年6月24日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

2018年7月、自民党の杉田水脈衆院議員が『新潮45』に「同性カップルには生産性がない」と寄稿して批判された。脳科学・AI研究者の黒川伊保子さんは「この考え方には二重の間違いがある」という——。

※本稿は、黒川伊保子『不機嫌のトリセツ』(河出新書)の一部を再編集したものです。

■子をなさないカップルが増えても、自然界には問題はない

あるとき、自民党の杉田水脈衆議院議員の「LGBTカップルには生産性がない」発言が、物議をかもした。

LGBT(レズビアン/ゲイ/バイセクシャル/トランスジェンダー)、すなわち性的マイノリティの人たちが、その性的指向によって差別を受けることは人権侵害に当たる、というのが、今の先進国の大半の見解である。宗教でそれを忌む立場の人でさえ、社会的に他の宗教の人々と共に生きることを受け入れるように、性的マイノリティを受け入れている。それが、21世紀という時代なのである。

愛し合って、共に生き、互いに財産を残したいという願いは、男女間であっても、男男間であっても、女女間であっても変わらない。結婚というものが、そういう気持ちの象徴なのであれば、まったく問題はない。

さらに、子をなさないカップルが増えても、自然界には、なんら問題はない。地球の人口は、今や80億に迫ろうとしている。私が大学で習ったときの地球総人口は40億ほどだった。ここ40年で約2倍に膨れ上がっているのである。自然界のバランスでいえば、多少子をなさないカップルがいても、しばらくやっていけるはず。

■人口増加を念頭に置いている為政者の闇

しかし、この国の為政者にとっては、結婚=子ども=次世代の納税者の創出、なのだろう。政治と経済の仕組みが、人口増加を念頭に作られているから。とはいえ日本列島に安全に住める人数は限られている。いつまでも「右肩上がり」で行けるわけがないのに。

政治や経済の観点からいえば、生産性がないということになるのに違いない。杉田議員の発言は、ある意味、その為政者としての姿勢を露呈しただけだ。そもそも、「国が立ち行かなくなるから、少子化対策」とおおっぴらに政府は言っている。その流れからしたら、この発言は、当然の帰結という気がする。だから、私は驚かなかった。しかし、ぞっとした。この発言は、空恐ろしい。道に置いてあった板がずれたら、そこにぱっくりと深い闇の穴がのぞいた感じだ。

■「LGBTには生産性がない」発言の二重の間違い

杉田議員の「LGBTカップルには生産性がない」発言には、二重の間違いがある。

性的マイノリティの人たちの脳は、社会生産性がけっして低くない。そして、そもそも、生産性がない人に税金を使うのに違和感があるという考え方もおかしい。

性的マイノリティは、脳科学的には、「生まれてくるのが想定内の脳スタイルの一つ」なのである。単なる少数派であって、なにかの間違いなのではない。男性の身体に、共感型の脳が搭載されている人、女性の身体に、問題解決型の脳が搭載されている人は、昔から、一定数いるのである。

白いワンピースを着た二人の女性が手をつないでいる場面
写真=iStock.com/imemei
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/imemei

つまり、人類はもともと、「男性脳型男性」と「女性脳型女性」の2種類だったわけじゃない。もっと多様な脳の組合せでできている。そして、それぞれの脳が、別々のものを見て、それぞれの行動を取り、人類の多様性を担保してきたのである。だからこそ、人類は、ここまでの繁栄を可能にしてきたのだ。

後に詳しく述べるが、女性脳型の男性は、「直感が鋭く、芸術や科学に秀でた天才型」である。私には、合理的でタフな男性脳の中に、ときに天才型を混じらせるための、自然界の摂理だと思えてならない。加えて、性的指向にかかわらず、子どもを持たないことが生産性が低いと断じるのは、あまりにも短絡的であろう。

■解剖学的な根拠=脳梁の太さの違い

男女の脳は、解剖学的に見ても、実は違いがある。

右脳と左脳をつなぐ神経線維の束=脳梁が、女性のほうが太く生まれついてくるのだ。

もちろん、太さの違いに個人差はあるし、年齢でも違うし、人種や、日常に使う言語によっても違ってくる。このため、「年齢幅を大きくとり、人種や母語を多数混ぜた調査対象」にすれば、脳梁の違いはないように見え、これを絞れば、あるように見える。つまり、論文なんて、「脳梁の太さに男女差はない」とも書けるし、「ある」とも書けるのである。このため、昔から、どちらの論文も存在し、論文ごとに太さの違いを表すパーセンテージも違っている。昨今では、男女平等や性的マイノリティへの配慮を意識してか、「違わない」派が優勢である。

しかしながら、脳外科医の中には、「実感としてたしかに違う」とおっしゃる方もいるし、男女の脳の写真を読ませて学習させたAIも、未知の脳の写真を判定して、ほぼ間違いなく男女を見分けるという。人工知能の開発者として言わせてもらえば、男と女、これだけ出力の違う二者間で、脳梁の太さに差がないとは思えない。

右脳は、五感から上がってくる情報を統合してイメージを創る場所、左脳は顕在意識と直結して、ことばや記号を司る場所。これらの連携がいいということは、察しがよく、共感力が高く、臨機応変であるということだ。連携が悪いと、空間認知力が高くなる。俯瞰力、戦略力に長け、危険察知能力が高く、複雑な機構を考案したり、組み立てたりすることが得意だ。

この脳梁の役割からしても、女性は連携頻度が高く、男性は連携頻度が低いのが明白であろう。女性の高い連携頻度を支えるために、太い脳梁が必要なのである。

■男性脳は後天的に作られる

さて、この脳梁だが、妊娠28週までは、男性も女性と同じ太さなのである。妊娠の中期から後期にかけて、男性の胎児には、お母さんの胎盤から男性ホルモンが供給される。その作用で、男性の脳梁は日々細くなり、生まれるまでに5〜10%ほど細くなると言われている。

こうして、後天的に作られる男性脳なので、当然、母胎や子の特性やコンディションによっては、細くなり切らない男子が生まれてくる。

太めの脳梁の男子は、直感力が鋭く、芸術に秀でたり、新発見をしたり新事業を開拓するのに長けている。アインシュタイン博士の脳は、76歳で死亡したのち、研究のために解剖されているのだが、脳梁は、一般男性よりも10%ほど太かったのだそうだ。

黒川伊保子『不機嫌のトリセツ』(河出新書)
黒川伊保子『不機嫌のトリセツ』(河出新書)

その言動から、スティーブ・ジョブズも、脳梁は太めだったと推測する。多くのダンサーや音楽家、デザイナーに、その傾向が見て取れる。

アインシュタイン博士もジョブズも愛妻家として知られた。しかし、脳梁太めの男子の中には、女性のようにしゃべったり、ふるまったりしたほうが自然だと感じる方もいるに違いない。ときには、自分にない感性を求めて、男性を愛する人がいても、まったく不思議ではない。どの生き方も、脳に素直な生き方。なにも間違ってなんかいない。

女性脳は、基本太めの脳梁で生まれてくるが、育つ環境によって、男性脳型に機能することがある。

■市民とは、生きているだけでありがたいもの

他人と違う脳は、他人と違うことができる。生産性という表現をあえて使えば、子どもを持たなくても、社会に変革を起こして、多くの生産に寄与している。実は、子どもを産まない女性の脳も、子どもを産む女性とはまた違う成熟のしかたをするので、同じことが言える。

そして、たとえ、本人がお金を稼いでいなくても、その人のためにがんばろうとする誰かがいれば、それはまた生産性を上げることになるのではないだろうか。働くことができない、障害のある人であっても、生産性がないなんてとんでもない。

為政者は、「市民とは、生きて、誰かと関わっていてくれるだけで、ありがたいもの」と思わなきゃ。それが人間社会の基本、政治の基盤なのではないだろうか。

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黒川 伊保子(くろかわ・いほこ)
脳科学・AI研究者
1959年、長野県生まれ。人工知能研究者、脳科学コメンテイター、感性アナリスト、随筆家。奈良女子大学理学部物理学科卒業。コンピュータメーカーでAI(人工知能)開発に携わり、脳とことばの研究を始める。1991年に全国の原子力発電所で稼働した、“世界初”と言われた日本語対話型コンピュータを開発。また、AI分析の手法を用いて、世界初の語感分析法である「サブリミナル・インプレッション導出法」を開発し、マーケティングの世界に新境地を開拓した感性分析の第一人者。近著に『共感障害』(新潮社)、『人間のトリセツ~人工知能への手紙』(ちくま新書)、『妻のトリセツ』『夫のトリセツ』(講談社)など多数。

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(脳科学・AI研究者 黒川 伊保子)

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