3位大分、2位沖縄、1位は…コロナで広がる「都道府県」幸福度格差の実態
プレジデントオンライン / 2021年6月18日 11時15分
■日本で進む幸福度の二極化
『99.9%は幸せの素人』(KADOKAWA)の共著者である、幸福学の第一人者・前野隆司慶應義塾大学大学院教授を中心に行った「あなたの幸福度はコロナによってどう変わりましたか?」という調査があります(2020年5月)。日本で初めて、新型コロナウイルスによる緊急事態宣言が発令された時期に行われたものですが、その結果は驚くべきものでした(図表1参照)。
多くの人たちが、新型コロナウイルスの影響で生活形態が変化し、さまざまな制限を強いられました。そのため、「幸福度は下がっているだろう」というのが大方の予想でした。
ところが、未知のウイルスとの戦いで大きなストレスを感じている最中にあっても、幸福度が「上がった」と答えた人が42.5%もいました。その一方で、「変わらない」「下がった」人を合わせると57.5%という結果が出ました。
社会・経済活動がストップし、ほとんどの人が下がってもおかしくない状況下にあって、なお幸福度が上がる層、一方で横ばいか下がる層……この調査から、コロナ禍において日本人の幸福度の二極化が進んでいることが明らかになったといえます。
■「コロナが人類の幸福度に与えた影響は限定的」は本当か
新型コロナウイルスと幸福度の関係性、また、日本国内での幸福度格差──この2つの点で、もう1つ注目すべきレポートがあります。それが、毎年国連から発表される「World happiness Report」です。
毎年3月に発表される世界幸福度ランキングなど、人類の幸福度についての報告がされる同レポートの最新版「World happiness Report 2021」では、「新型コロナウイルスは人々の幸福度に思ったほど大きな影響を与えなかった」とし、「驚くべきことに、平均として幸福度が低下していなかった」とまとめているのです。
事実、最新版の世界幸福度ランキングでは、先進国中最下位ではあるものの、日本も前年の60位からわずかながら上昇して56位になっています(「『世界56位』日本が幸福度ランキングで毎年惨敗する根本原因」参照)。
では、世界的にも幸福度に対する新型コロナウイルスの影響は大きくなく、かつ、国レベルでは日本の幸福度ランキングがやや上昇しているにもかかわらず、なぜ、国内では幸福度格差が進んでいるのでしょうか?
そこには、「数値だけではわからない深刻な問題」があります。
■不幸な人はさらに不幸に、幸せな人はもっと幸せに…
国連の同レポートでは、新型コロナウイルスの幸福度に与える影響は、たしかに限定的でした。しかし、日本国内の調査では、幸福度に格差が生まれている──。
ここから言えることは、日本人全体では総合的に幸福度は上がっている。しかし、細かく分析すると、「幸せな人はどんどん幸せになり、不幸せな人はどんどん不幸せになる」という現象が起きているのです。
「不幸せになっている人」たちの中で下がった分の幸福度の総量を、「ますます幸せになった人」の幸福度の上昇分が上回っている。そのようにイメージすることができます。
つまりは、不幸せになっている人たちがいるにもかかわらず、それを上回るだけの、ますます幸せになっている人がいるのです。これが日本における「幸福度格差」の正体です。
■幸福度日本一は「宮崎県」
では、コロナ禍(か)でなぜ、幸せな人はますます幸せになり、不幸せな人はますます不幸せになっているのでしょうか。
この現象を読み解くヒントが1つあります。「都道府県SDGs調査2020」(ブランド総合研究所)で示された、都道府県別「幸福度」ランキングです。
住民による幸福度、生活満足度、満足度、定住意欲度など、地域の持続性を調べるために実施されたこの調査によれば、2020年の「都道府県の幸福度ランキング」は1位宮崎県、2位沖縄県、3位大分県でした。一方、ワースト3は、45位福島県、46位佐賀県、47位秋田県でした。
1位の宮崎県は2年連続です。しかも宮崎県は、コロナ禍にあってもスコアが前年の72.7点から74.0点へ上昇しているのです。
ただ、都道府県別幸福度ランキングが1位になったからといって、宮崎県民にはまったく悩みがないのかといえば、けっしてそうではありません。
本調査では、「個人の悩み」についてもアンケート調査を行っています。宮崎県は「悩みがない」と答えた人の割合が11.6%で、全国最少でした。つまり、全国で最も悩みを抱えている人の割合が多い県でもあるのです
それなのに、なぜ、都道府県別の幸福度ランキングでは2年連続1位を獲得しているのでしょうか? まさに“ここ”に、コロナ禍における「幸福度の二極化」の原因が垣間見えると私は思います。
同調査によると、宮崎県民は確かに個人の悩みを抱えた人が多いのですが、しかしながら、その「悩みの内容」に大きな特徴があるようです。
■宮崎県は「人間関係の悩みが極端に少ない幸福県」
宮崎県民の個人の悩みの上位を占めるのは、「低収入・低賃金」(41.5%、全国7位)、「貯蓄・投資」(28.7%、同4位)、「借金・ローン」(19.7%、同1位)など、経済や金銭に関する内容であることが、今回のブランド総合研究所の調査でわかっています。
その一方で、特筆すべきは、宮崎県では「人間関係に関する悩みが少ない」ということです。
人間関係に関する悩みを項目別に見てみましょう。宮崎県は「不登校・ひきこもり」全国42位(0.7%)、「家庭内暴力・DV・虐待・非行」同42位(0.2%)、「孤独」同44位(1.7%)、「パワハラ」同47位(1.6%)と、いずれの項目も、他県と比較して人間関係に関する悩みが少なかったのです。
都道府県別の「幸福度ランキング」1位の宮崎県は、個人としてはさまざまな悩みを抱えながらも、夫婦や親子、職場など、人と人とのつながりや人間関係でカバーし合っている可能性が考えられます。そしてこれは、世界幸福度ランキング4年連続1位に輝いているフィンランドと同じ現象でもあるのです。
■幸福度を左右する「人とのつながり」
国連による「World happiness report 2021」でも、フィンランドは「パンデミックの最中、人命と生活を守るのに役立つ、他者との相互の信頼関係に関する複数の指標で非常に高い順位を示した」と、その幸福度の高さの秘訣(ひけつ)が「人とのつながり」だと報告されています。
コロナ禍において、外出や移動など人との交流が制限されている中でも、人とのつながりを実感できている人・地域は、幸福度がさらに高まり、一方、人とのつながりが分断され、孤独状態に陥(おちい)っている人・地域では、幸福度が低下しているといえるわけです。
事実、米ハーバード大学が75年間にわたり、約700人を追跡調査した研究でも、人の幸福度に最も影響を与えるのは「よい人間関係である」と結論づけています。
■人間関係のベースは家庭内での助け合い
私たちがどのようなことに取り組んでいけば、この幸福度格差はなくなるのでしょうか? そのカギは、「人とのつながり」「温かい人間関係」にあります。
日本の幸福度格差にはもちろん、現代日本が抱える社会構造の問題も影響していることは間違いありません。しかしながら、社会構造を変えるのは、とてつもない時間や労力を要することになります。
そんな中で、「私たちが日常でできる取り組みは何か?」と考えたときに、大きなヒントとなるのが宮崎県の夫婦間における家事に対する認識だと思います。
都道府県別「幸福度ランキング」1位の宮崎県を取材したところ、夫婦間で家事の分担がよくされているという印象を強く受けました。家族で、夫婦で助け合っている家庭が非常に多いのです。
■大人たちが「助け合う姿」を示そう
そして、幸福度格差をなくしていくうえで最も重要だと感じるのが、「その夫婦間の姿を子どもが見ている」という点です。
そこには、「男性だから」「女性だから」という思い込みなどなく、家族・夫婦は互いに助け合うのが当たり前──という思考が、小さいときから根付いている。そうした子どもが大人になり、家庭を作れば、互いに支え合う家庭がまた増えていくことになります。
こうした“よい循環”が、小さな力かもしれませんが、今すぐにできる日本の幸福度格差を解消する取り組みの1つになるのではないでしょうか。
つまりは、われわれ大人が、助け合う姿を子どもたちに見せていくのです。
ひと昔前の日本では当たり前のように思えた光景が、案外、これからの日本の幸福度を左右するように私には思えてなりません。宮崎県の事例からも、フィンランドの「相互協力が幸福度世界1位の秘訣」とするレポートからも、その方向はあながち間違いではないのではないと考えますが、あなたはどう感じましたか?
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作家、ビジネスコンサルタント
1983年仙台市生まれ。大手企業で働いていたが岩手県で東日本大震災に被災。生死を問われる経験を経て「自分の人生の時間はすべて好きなことに費やす」と決め、独立起業し、心理療法やNLP、認知心理学、脳科学を学び始める。それが原点となり、個人の起業家を対象に「心を科学的に鍛える」ことを中心に置いた独自のビジネス手法を構築。日本や海外で数千人規模の講演会を実施し、グローバルに「好きな時に、好きな場所で、好きなシゴトをする個人を創る」ための活動をしている。『神メンタル』『神トーーク』(KADOKAWA)はシリーズ累計20万部突破のベストセラー。最新刊は慶應義塾大学の前野隆司教授との共著『99.9%は幸せの素人』(KADOKAWA)。
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(作家、ビジネスコンサルタント 星 渉)
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