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「三菱グループでも異色」三菱地所がこの2年で7人の30代社長を誕生させたワケ

プレジデントオンライン / 2021年6月23日 9時15分

丸の内パークビルディングと三菱一号館、明治安田生命ビル=2014年6月15日、東京都千代田区 - 写真=時事通信フォト

伝統的な巨大企業では「社長」になれるのは50代が普通だ。その中で、三菱地所の子会社では、この2年に30代の社長が7人も誕生している。ビジネスプロデューサーの三木言葉氏は「三菱地所は、若いから登用するのではなく、成果を出すために発案者をリーダーにしている。これこそが新事業を創造するのに必要な考え方だ」という――。

■巨大企業がなぜ次々に新事業を立ち上げられるのか

変化の激しい時代、社会や市場の課題を解決する「事業開発」の重要性はますます高まっています。また、世の中の課題を見つけてそれに応えるために創意工夫する事業開発の経験は個人のキャリア形成にも優位に働きます。

しかし多くの巨大企業は、経営者あるいは事業開発担当者において時代状況や変化へのニーズを認識しながらも、新しい取り組みを俊敏に事業として打ち出せないことに苦しんでいます。

そのような中で私が事業開発を伴走する三菱地所では近年、30代の新事業子会社の代表取締役や役員、プロジェクトリーダーなどが続々と誕生しています。

代表的なのは、2019年に設立されたエレベーター内プロジェクション型メディア「エレシネマ」を展開する「spacemotion(スペースモーション)」(代表・石井謙一郎〔36〕)、住みながら新しい体験ができる賃貸住宅“コリビング(Co-Living)”を展開する「Hmlet Japan(ハムレット ジャパン)」(代表・佐々木謙一〔37〕)、五感を解放する脱デジタル空間メディテーションスタジオ「Medicha(メディーチャ)」(共同代表・長嶋彩加〔30〕、山脇一恵〔30〕)、フィットネス施設の都度利用プラットフォームサービス「GYYM(ジーム)」(共同代表・加川洋平〔35〕、橋本龍也〔32〕)など。

コロナ渦に入ってからも、その勢いは止まることなく2021年2月には、多様な働き方を支えるワークスペースのマッチング支援サービス「NINJA SPACE」(プロジェクトリーダー・那須井俊之〔37〕)もプレローンチされ、丸の内エリアでの休憩時間のレストランやカフェなどの空間を活用したワークスペース提供を行うトライアルサービスを開始しました。

さらにこれからも発表を控えている案件が登場する予定であり、その多くが30代、さらには20代の代表あるいはプロジェクトリーダーにより立ち上げられます。

では、なぜ三菱地所のような巨大企業がこのような動きを加速できるのか。本稿では、三菱地所を例に事業を生み出すためには何が必要かを解説していきます。

■「厳しい時代に立ち止まらず、どう挑戦するか」

「未来を切り開くためには、俊敏な挑戦と失敗を含めた経験の積み上げこそが成長への糧」

これは三菱地所の根底にある考えです。

同社新規事業創造部の部長・小林京太氏はこう話します。

「三菱地所という会社は、創業以来、時代に合わせて、常に新しいことをやってきた会社です。いつなんどきも時代の求めることを、俊敏に見分け、変化に応じ、挑戦をしていく。その一方で、それを諦めない粘り強さを発揮する。厳しい時代になれば立ち止まるではなく、常に、どう挑戦するかを考えてきました」

また、そうした活動を続ける中で最も大切なことは、「発案者自らが事業に継続して取り組み、粘り強く諦めずに想いを持って取り組むことだ」といいます。

「変化する時代の中においても成果を出すためには、事業企画の当初の想いを大切に、継続して粘り強く取り組むことが必要。そのためには、当事者意識がある事業の発案者が、最も想いがあり、執着して継続的に取り組み、責任を持って策を打ってゆくことが、もっとも成果を出しやすいと感じています。

そのため現在は発案者をリーダーとして、プロジェクトを進めるように考えています。若い人をより登用しているよう見えるかもしれないですが、若いから、あるいは、その年齢を意識して登用しているわけではなく、成果を出すために発案者をリーダーにするという考えに至った結果、自然とそのような形になりました」

■Zoomすらも不動産業界のディスラプターになり得る

現代の新規事業を立ち上げるという活動は、“新事業提案制度”が1999年にスタートし、募集の形態や実行までのプロセスなど形を変えながらも、中座することなく今日まで活動が進められてきました。

当初は一部の特殊な人たちだけのものというイメージが強く応募が限られる傾向が強かったものの、現在はより多くの社員に浸透し、入社年次を問わずに広く多数の応募が生まれているといいます。

変化する時代の中にも、状況を俊敏にとらえ、あらゆる策を講じながら市場に喜ばれる事業を作り出し成果を挙げる。こうした考えのもと、新事業を担う会社の取締役が30代どころか、入社1、2年目で審査を通過し、入社数年目のスタッフがリーダーを担務していく予定の案件もあるそうです。

新事業創造部の統括であり前述の「NINJA SPACE」プロジェクトのリーダーも務める那須井氏は、こうも語ります。

「世界に目を向ければ、不動産テックの企業はもちろんのこと、コロナ渦で急速に伸びてきた米国のオンライン会議システム・Zoom社も、一気に時価総額13兆円となり、不動産業界のディスラプターともなり得る脅威です。名のある企業だからといって安心していられる状況ではありません。そうした中で、多くのサポートを得ながら、クライアントやパートナ、グループ会社らと、失敗を恐れずに挑戦できる環境をありがたいと思っています」

動画確認
写真=iStock.com/Lana2011
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Lana2011

イノベーションの多くは、挑戦と失敗から生み出される。積極的な失敗こそを評価し、「挑戦者」を応援し讃えていく文化も会社が育ててきたもと言います。

■必要な事業は、目の前の仕事の延長線上にある

一方、事業を生み出す側から見れば、挑戦するための課題意識や当事者意識はどこからやってくるのか。ここに同社が本業の不動産業を通じて培ってきた最大のアセット「お客様とのリレーション」が存在しています。

「事業の種は、常に現場にある。全てのスタッフが、当社のコアアセットである“顧客とのつながり”をベースに、感じたことを“事業”という形にするため、より声を上げる仕組みが新事業創造の制度だと考えています。新事業創造は一部の人のものではなく、全員のものです」(小林氏)

例えば、既存の顧客、既存の事業をよりよくする、という全社員に課せられていることを、徹底して考えてみる。今をより深く考えすればこそ、そこには時代の変化に伴い今の事業だけでは満たされない不足が見出され、「事業開発」という行為が必ず必要になってくる、ということです。

こうした考えから2021年度、社内事業提案制度は三菱地所本体だけではなく、広くグループ会社にもアイデアを募るべくリニューアルし、本取り組みに賛同するグループ会社の社員も対象に広げています。

早速、この春から公募を開始し、新制度“MEIC(Mitsubishi Estate Group Innovation Challenge)”として立ち上がりました。急速に変化する市場の中でも、「長期経営計画2030」で目指す「感動的な時間と体験」を顧客に提供すべく、従来の枠にとらわれず柔軟な発想による価値の創出を目指すものとして刷新されたということです。

本来の業務に真面目に向き合えば向き合うほど、生まれてくる新事業創造への意欲と想い。そしてその想いを俊敏に形にするものとして、同社の事業創造のプロセスは形成されているのです。

■その仕事、「心」と「数字」はつながっていますか

私は拙著でも述べたように、事業プロデューサーに必要なのは「数字」と「心」だと考えています。

まず何事も事業として実行する以上、「数字」のマネジメントは免れません。

三木言葉『事業を創るとはどういうことか』(英治出版)
三木言葉『事業を創るとはどういうことか』(英治出版)

この点においても三菱地所では、入社後10年間のキャリアにおいて、不動産業本来のプロジェクトからいかなるものにも通じる事業開発の基礎が、徹底して叩き込まれるよう組まれています。その過程を通じて、プロジェクトマネジメントに必要な全般的な知識に加え、事業の「数字」をしっかりと抑えるためのスキルも身につけていくのです。

そして望ましい「数字」、つまり「売り上げ」「コスト」双方を適正にマネジメントし「利益」を作り出すためには、関係者間の温度あるつながり、「心」の想いが合い、一体となり粘り強く未来へ走っていく状態を作り上げることこそが重要だということも学ぶのです。そこに未来の事業創造を担う事業創造家ことビジネスプロデューサーが誕生します。

企業経営を行う上で「数字」のマネジメントを丁寧に行い、理想とする財務諸表を目指して走っていくことは基本です。だからこそ、今見えている本業や既存の事業をしっかりやる必要があります。

しかし新規事業は一部のスタッフだけが担当といった企業も多く存在しています。また会社という組織に属していると、従業員自身も、新しいことは自分のことではないと感じ、意図的に目先に見えている決まったことだけをやろう、そうでなければならないと考えている場合もあるでしょう。

しかし、現在の顧客や本業に徹底して真摯に向き合う。それは何らかの事業に関わっている以上、誰しもに求められることであり、またそれこそが、事業創造の原点です。なぜなら、既存のことも、新しいことも、全ては人間同士の繋がりの中で生まれることであり、「心」と「数字」が適正につながらなければ、望ましいプロジェクトにはつながりづらいからです。

■顧客との「心」を継続してつなぐ事業を送り出し続ける

三菱地所の場合も原点は、本業、既存事業を徹底して大切にすること。それはつまり、社員が顧客と「心」で向き合い「顧客リレーション」を徹底して大切にする。誰か一人のことではなく、全員がやる。

しかし時代は常に変化しており、市場の求める事業も変化している。するとそこに、今のままの事業だけでは、望む未来へ前進しきれない可能性が見えてくる。変わらなければお客様が離れていってしまうだけ。

こうした状況下においても適正に打ち手を講じながら「数字」を維持し、適正な経営を行う。そのために顧客との「心」を継続してつなぐ事業を送り出し続けること。失敗をいとわず、こうではないかと思うことをいろいろやって模索してみる。

三菱地所は2020年代以降のまちづくりを「丸の内NEXTステージ」と位置付けていますが、2030年への「NEXT」(未来への種)はそこにある。そのための挑戦のひとつが三菱地所における新事業創造であり、若手であろうが当事者意識を持った人間が中心に各プロジェクト進めていくということなのです。

初夏の丸の内オフィス通り
写真=iStock.com/Moarave
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Moarave

現代の世の中には、様々な経営管理手法が展開されています。そうした技法を身につけていくことは必須である一方で、どのような事業においてもそこには常に「人」が存在しています。「人」が幸せ、喜び、感動を感じるものの結集体が大きな「数字」へと繋がり、結果的に収益を生む「温度ある経済の環」となる、ということを忘れてはなりません。

そしてそれを実行する事業創造家「ビジネスプロデューサー」は、変化する今の時代にこそ求められているのです。

◆訂正
初出時に30代社長は5人としましたが、正しくは7人でした。訂正します。

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三木 言葉(みき・ことば)
CROSS Business Producers社長
早稲田大学社会科学部卒業、早稲田大学商学研究科(MBA)修了、早稲田大学大学院商学研究科博士後期課程(商学専攻)、IMD“MOBILIZING PEOPLE PROGRAM(MP)”修了、アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)東京・ロンドンオフィス、富士通および富士通総研を経て現職。著書に『事業を創るとはどういうことか』(英治出版)。

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(CROSS Business Producers社長 三木 言葉)

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