肚の据わり方が全然違う…東大生の親は「わが子が不登校になってもビクともしない」
プレジデントオンライン / 2021年6月21日 11時15分
■無名校のわが子を東大合格させる親が実践している「一発逆転」技
お金持ちの家庭でなくても、わが子を頭のいい子に育てるにはどうしたらいいのか。
前編では、この命題に関して書籍『ドラゴン桜「一発逆転」の育て方』(以下、一発逆転本)と、雑誌『プレジデントFamily2021年夏号』(以下ファミリー夏号、いずれもプレジデント社)の特集「249人の東大生の小学生時代」をもとに考察した。
引き続き、後編では、「賢い中高生を育てる親が実践している技」を考えてみたい。
「一発逆転本」に登場する10人の現役の東京大学の学生は必ずしも恵まれた環境で育ったわけではない。成績が低かったり家庭が経済的に苦しかったり、いろいろ問題はある。
「ファミリー夏号」のアンケートに協力した東大生の回答者の中にも「親戚縁者、東大どころか大卒もいない」「出身高校からは過去ひとりも東大進学者はいない」「住んでいる地域は高卒→就職が当たり前」「わが家は貧乏」というケースも少なくなく、「小中学生の時代には東大進学など考えてもいなかった」ということは珍しくない。
東大経済学部4年の西岡壱成さんは企画立案に携わった「一発逆転本」の対談記事で2浪の末に東大合格を決めた自身についてこう語っている。
「僕は中高時代、何をやってもうまくいかず、いじめられっ子で、何とかしなきゃいけないのは分かっているけど、ゲームが楽しいなって状態で……。でも、高校の時に先生が『人間は自分で線引きする。それは“なれま線”と“できま線”だ。しかし、その線は幻想で、おまえはその線を越えてどこまででも行ける』と言ってくれたのがきっかけで、2浪で東大に入りました」
「伸び悩んでいる選手はいわれなき自己限定をしている」
これはプロ野球の名監督・故野村克也氏の言葉である。はじめから「できません」「なれません」という「線引き」をしてしまうことはだれしもよくあるが、西岡さんのように「越えて行く」人もいる。
「一発逆転本」に登場する10人中9人が「東大に合格する」という決意をするのは高校生になってから。そのうち、2人は学校行事や部活に燃えていたので、高3夏前から本格的にスタートした。彼らは、残された時間で合格することは「できません」と線引きはしなかった。
■中学・高校で伸びる子の共通点は「親の期待値の低さ」
ただ面白いのは、親も子も「なぜ、ウチが東大に入れたんだ!?」といまだに考えていることだ。彼らの学校は進学校ではなく、いい意味で親の子供への期待感が薄かった。この「期待感の薄さ」は賢い子を育てる際、実はとても重要な要素のひとつだ。教育カウンセラーとして長年活動している筆者の元に寄せられる相談の中には「子供が引きこもり」という内容は際立って多い。
この子たちは、元有名私立中高の出身者であることがほとんどである。分析するに、彼らは「東大・医大を目指すことが当たり前」という環境に置かれ、彼らの親や親戚縁者もそれを強く期待している。最初から、飛ぶハードルがとてつもなく高いのだ。
逆に、期待値が高くない家庭では、そもそもハードルが低く、ノルマのようなものもない。仮に親がハードルを設定したとしても「まあ、別に飛んでも飛ばなくてもいいけど、飛びたければ飛べば?」といった感じ。どんな高さのハードルであっても、子供が少しでも挑戦した段階で、親は「いいね」と言ってあげられるメリットがある。
ドラマ「ドラゴン桜」(TBS系)に登場する元暴走族の弁護士・桜木建二は作品の中で「子供はみんなやればできる子だ」というセリフを言うが、はたしてどういう家庭の子たちが高いハードルを越えていくのだろうか。
■平凡な子が中学高校で急成長し東大へ「その時、親は何をしたのか」
本稿では、中高時代という、子育てする親からすると最もやっかいな“思春期”に、「一発逆転本」に登場する東大生の親は何をしていたのかを以下3つのポイントで紐解いてみたい。
1 紆余曲折を認める
男性のFさん(工学部3年)は元不登校生徒だ。神奈川の公立高校に入学したものの、次第に授業についていけなくなり、2学期からは完全不登校に。母親は当初心配し、病院に連れて行くこともあったが、次第に見守るようになっていく。
「きっと、自分の道を探っているんだろうなと思っていたんです」
Fさんの母親はそう話す。高1の終わりには単位不足で、留年か退学かの二択を選ぶ時がきたが、彼はやがて自分で島根県の山間部にある高校に転校し寮生活をスタートする。
もともと大学にさえ行く気がなかったFさんがその後、なぜ東大に挑戦したのか、そのプロセスは本書を読んでもらうとして、筆者は両親がどんな時でもFさんのことを否定せずに「成功しようが失敗しようが、親は息子の決断を尊重する」としたことが合格のカギだったと感じる。
Fさんの父はこう述べる。「親として思っていたのは元気でいてくれて、自立してくれたらいいなということだけです」。
世の中の親で、Fさんの両親のような対応ができる人はどれくらいいるだろうか。
筆者が受ける教育相談の事例では、成人した子供が経済的にも精神的にも自立しないという悩みはとても多い。そうした家庭に過去の状況を聞いてみると、「不登校は子育ての失敗」と親がひどく動揺し騒ぎ立て、かえって事態の悪化を招いてしまったという展開が目立つ。
わが子がドロップアウトした時に「ただ見守る」ことは難しい。心配のあまり叱咤し、あれこれ指示したくなる。だが、そこをぐっとこらえ、Fさんの親のように「きっと自分の道を探っているんだろうな」と自制できるか。どんな結果であれ、わが子を引き受けるという親の覚悟の有無が、迷い道に入り込んだ子供の心の強い支えになるのだろう。
■突然、子供が不登校になったら、あなたならどう対処するか
2 子供扱いはしないが、見放しはしない
元不登校だったという事例はもうひとりいる。男性Gさん(理科1類2年)だ。彼は中学受験を経て、名門の大阪教育大学附属池田中学に入学するが、頑張っても成績が伸びないという現実にぶちあたり、やる気は失せる一方。その心の穴を埋めるためにネットゲームにハマり、やがて昼夜逆転。学校にも塾にも行けない日が続き、中3では完全な不登校状態に陥った。一大事である。だが、Gさんの母親も落ち着いていた。
「布団をはがしたり、車で学校に送ったりしたこともありますが、ああせいこうせいと言っても無理なので、『家にいたいならいればいい』と見守っていました」
当然、附属高校へは進めなかったが、彼は、母の勧めで自宅から近かった箕面(みのお)自由学園高校に入学し、こう考えたそうだ。
「中学では散々サボったから、この生活は中学まででリセットだ」
Gさんは、「両親は不登校気味の僕を見放さなかった。『好きにしろ』と放っておくこともできたと思うんですが、いい距離感で関わってくれた」と感謝の言葉を述べている。
ちなみに、大学に入ってからネットゲームはほとんどしていない。ゲームの世界のつながりよりも、大学でのリアルなつながりのほうがずっと面白いからだそうだ。
子供はわがままだ。一方で「好きにさせてくれ!」と自由を欲するが、一方では親が放置・放任という態度を取ると途端に不安な気持ちになる。
親が過度に面倒をみたり、「ああしろ、こうしろ」と無理強いしたりすることは避けるべきだが、「勝手にしろ!」と子供を「いないもの」または「腫れ物に触るような扱い」にすると、うまくいかないケースのほうが多い。
このバランスが子育ての難しい点だが、思春期以降はわが子を信じて、少し離れた位置から、我慢強く観察するというスタンスが吉をもたらすと筆者は思っている。
■「どんなことでも否定せずに応援しようと思っています」
3 小言を言ったり叱ったりするのではなく応援する
岡山柏陵高校に通っていた男性Hさん(理科3類2年)は、高1の時に高校主催で出かけた「東大見学ツアー」に参加し、すっかり東大に魅了された。高3夏まで野球部漬けということもあり、それから毎日13時間の猛勉強をしたものの浪人。東大理1を狙っていたものの、直前で別の国立大学の医学部を受験し合格する。ところが、やはり「自分には東大が合っている!」と思い直し、最難関の理3を狙う宣言をする。
合格した医学部には休学届を出し、Hさんはアルバイトでホテルマンや塾講師をしながら2浪めに突入したという。弟が大学生になり、家計が厳しくなったための選択だったが、働きながらの受験生活は過酷を極め、結局、5回目のチャレンジで理3に合格した。
当時のことを母親はこう述懐する。
「小学生の頃、公文に通わせていたのですが、プリントをしないので叱ったんです。そしたら、先生からこう言われたんですよ。『お母さん、子供をやる気にさせたら勝ちなんですよ』って。難しい時はやる気をなくしちゃう。以来、そんな時は励ましていました。私は18歳までは子供は天からの授かり物だから大切に育てる。でも、成人したら神様の元へ返すものと思っていましたから、それからは息子が選んだ人生。どんなことでも否定せずに応援しようと思っています」
■「ウチの子は大丈夫」“道”を外れても東大生の親は肚が据わっている
思春期以上の年齢の子供が「こうしたい」と言って来た時に「オマエならやれるさ」と即答できる親は案外少ない。親は自分の意識をアップデートできずに、過去の成功体験、あるいは世間常識に当てはめて「反対」するのだが、やる気や自尊心を削られた子供は人生の迷子になってしまうことがある。
以上、「一発逆転本」から3組の親御さんを紹介した。共通しているのは、親の胆力の練り方だ。遠回り、寄り道と思えるルートを子供が歩いても、オロオロしない、メソメソしない。どこまでも肚が据わっている。彼らはいい時も悪い時も変わらずに「わが子は何があっても絶対に大丈夫」という信念を持っているように見える。
もしかしたら、己の未来を信じ続ける子と、少しだけ遠目で子の未来を信じ切る親こそが「東大逆転合格」という大仕事をやってのける最高のコンビなのかもしれない。
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作家
執筆、講演活動を軸に悩める女性たちを応援している。「偏差値30からの中学受験シリーズ」(学研)の著者。近著に『親の介護をはじめる人へ伝えておきたい10のこと』(ダイヤモンド社)、近刊に『神社で出逢う私だけの守り神』(企画・構成 祥伝社)、『1日誰とも話さなくても大丈夫 精神科医がやっている猫みたいに楽に生きる5つのステップ』『たった10秒で心をほどく 逃げヨガ』(取材・文 いずれも双葉社)など。
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(作家 鳥居 りんこ)
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