テレビの見過ぎでバカになる人は、テレビにツッコミを入れずに見ている
プレジデントオンライン / 2021年6月23日 11時15分
※本稿は、和田秀樹『ストレスの9割は「脳の錯覚」』(青春新書INTELLIGENCE)の一部を再編集したものです。
■「やってみなければわからない」の姿勢が大切
ここでは、「脳の錯覚」から抜け出すためのヒントを紹介します。
自分が持っているスキーマを自覚し、「こうあるべき」をやめるための習慣を、いくつか提案します。
小さな習慣を数多く集めているのは、人によって効くもの、効かないものがどうしてもあるからです。万人に対して「これさえやればうまくいく」と太鼓判を押せるような習慣はありません。3つでも4つでも、ここから自分に合うものが見つかればOKとしてください。
1つ試して効果がなくても、そこで諦めず、次を試してください。うまくいかなければまた次に。そうして、あらゆる可能性を試すマインドさえあれば、得られるものはいくらでもあります。また最後には、自分にとってベストな習慣にたどり着けるはずです。
そんな風に「やってみなければわからない」とする姿勢こそ、スキーマの縛りを解くために一番大切なことであり、人生を面白くするコツでもあります。
心の治療はとくにそうですが、医療の世界にも「これで絶対治る」と約束できるような正解は、残念ながらありません。でも、試せることはたくさんありますし、どれが効くかは、やってみないとわかりません。
なので私も、「この習慣さえつければ、絶対、脳の錯覚を抜け出せる」とは言わないことにします(笑)。
読者の皆さんにお願いしたいのは、「これ合わないな」と思ったら、そこで我慢せず、次を試すこと。そして、「やってみなければわからない」の姿勢で、人生を楽しむことです。
■テレビにツッコミを入れることで思い込みを防ぐ
ヒント1 テレビは「ボケ」、自分は「ツッコミ」
私の両親は、テレビに向かって悪態をつくのが習慣でした。
「勉強ばかりしていると人間的に問題がある子が育つ」というコメントが流れてくると、親は「まともに信じたらバカを見るで。学歴はあったほうがいいに決まってるやないか。その証拠に、お前の通ってる塾にもテレビ局の子がいるやろ?」とツッコミを入れるのです。
我が家ではそれが日常の光景でした。私も、テレビはイチャモンをつけながら観ることにしています。なにしろ、テレビがスキーマを刷り込んでくる力は、強力無比です。
テレビに対して無防備でいると「こうするべき、ああするべき」「これもダメ、あれもダメ」と刷り込まれるばかりで、人生が窮屈になる一方です。
メタ認知的なモニタリングで「自分はメディアの影響を受けすぎている」「コロナ不安を煽る番組ばかりで、いつも不安を感じている」と自覚できているなら、刷り込みの供給源であるテレビやSNSを思い切って遮断するのもいいと思います。
テレビを見てもいいですが、そのときは必ず「疑いながら」視聴しましょう。自分がツッコミならテレビはボケ。ボケの言うことをまともに信じるから、おかしなことになるのです。
■善でも悪でもない「グレーゾーン」に目を向ける
ヒント2 事件の加害者の「弁護人」をしてみる
「テレビに反論する」のもいいと思います。
白と黒、善と悪をはっきり分ける二分割思考を押しつけてくるのがテレビのやり口ですが、たとえばそこで、「悪」の側を擁護してみるのです。
これにより、二分割思考から抜け出し、グレーゾーンを許容する態度を養います。たとえば「自分があの大事件の犯人を弁護するなら」と考えてみる。
テレビは、犯罪者の極悪非道ぶりばかりを報じますが、弁護人はそれを疑うのが仕事です。弁護人の目で事件を眺めると、犯人は経済的に困窮していた、毒親に育てられた、いじめにあった、精神疾患で通院していたといった、情状酌量する余地を見つけられるかもしれません。
あるいは、目撃証言が一致しているのは、じつは警察の誘導の可能性が高いのではないか、などと考えてみることもできます。
そうやって、善と悪のあいだにある「グレーゾーン」に目を向ける練習をするのです。だからといって犯罪が許されるわけではもちろんありませんが、グレーゾーンに目を向ける習慣を身につけると、「世の中には100%の善も、100%の悪もない」という発想にたどり着けます。
そういうスタンスで見てみれば、きっと、不倫騒動で謹慎中の芸能人も、コロナ対策で後手後手の首相も、弁護できる余地はあるはずです。
■悩みを抱えたときはひとまず書き出してみる
ヒント3 あれこれ考えるなら、「紙の上」で
ストレスを感じ、イヤな考えが頭の中をぐるぐる回っているときは、紙に書き出すか、スマホのメモ機能に残しましょう。これは、悩みをいったん頭から外に取り出すイメージです。頭のなかだけで考えていると、どうしても不安が不安を呼び、「こうに決まっている、こうに違いない」という思い込みにとらわれてしまいます。
そこで紙に考えを書き出すと、脳の負担が軽くなり、「別の考え方もできるかな?」と冷静に検討する余裕も出てきます。
何をどう書くかは、いくつかのやり方があります。
1つには、将来のことが不安なら「これからどんなことが起こりそうか、シナリオを書けるだけぜんぶ書いてみる」というやり方です。例えば、リストラにあい、再就職にも苦労している状況だと「このままでは家計が破綻する」「一生再就職できっこない」といった、極端に悪いシナリオばかりが思い浮かぶかもしれません。
それも全部、書き出してみましょう。良いシナリオも、悪いシナリオも等しく目の前に並べてみるのです。
こうすると、ほかのシナリオとも比較しやすくなり「家計が破綻するというのは言い過ぎかも」「次の面接も決まってるし、できることはたくさん残ってるな」などと、わかります。
彼女からLINEの返信がなく「あいつはおれを見限るにちがいない」「ほかの男と今デートしてるのかも」と心配でならないときも、同じです。
■書き出すのは早ければ早いほうがいい
紙に書き出してみれば「さすがに考えすぎ」「彼女も今、忙しい時期だと言ってたし」「夜にまた連絡してみよう」と考える余裕が出てくる。あれもある、これもあると、さまざまな可能性を検討できるようになります。
理想的には、ふだんから「書き出す」習慣があるといいのです。
心配ごとがあり、不安が少し膨らんできた、そういう早めの段階で書き出すと、メタ認知がうまく働きます。裏を返すと、うつ状態になってからでは遅いのです。ネガティブな感情が強すぎたり、本当にうつ病になってからでは、悲観的なことしか書き出せないかもしれません。
ですからこれは、治療ではなく予防と考えましょう。ストレスをそれ以上強くしないため、ストレスがたまりにくくするための習慣です。
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国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。
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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)
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