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「日当1万円なのに月給67万円を稼ぐ」35歳の交通誘導員の"儲けのカラクリ"

プレジデントオンライン / 2021年6月26日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shirosuna-m

工事現場では必ず見かける交通誘導員とはどんな仕事なのか。70代から交通誘導員を始めた柏耕一さんは「日当は1万円程度。ただし、資格や勤務数によって手当てが割増される。ある同僚は60勤務をこなして1カ月で67万円を稼いだ」という――。

※本稿は、柏耕一『交通誘導員ヨレヨレ日記』(三五館シンシャ)の一部を再編集したものです。

■女子大生よりも安い時給で働かされるベテランたち

これまで私が勤めた警備会社4社について言えば、自宅から現場への交通費が出ない会社が1社、70歳以上では日当が1000円安くなる会社が1社あったが、おしなべて9000円前後の日当を払っていた。

私はそれでも感謝していたが、同じように同僚で元営業マンの橋本は「会社が営業して、われわれに警備の仕事を取ってきてくれるんです。不満を言うなんて罰があたります」と真面目な顔をして言う。

私自身は出版編集の本業もあるので、これまで警備会社とは各社ともアルバイト契約である。社員契約の警備員は厚生年金や雇用保険料を天引きされるので、かなり頑張らないとさほど手元に残らない。

話を戻すと夜勤はプラス1000円、2級資格を持つ者はさらに1000円の手当がつく。隊長手当を月1万円、さらに年末には寸志(私は2万5000円)を支給する会社もある。とはいえ1社問題のある会社があった。

私が3番目に勤めた会社である。募集広告では他社との対抗上1万円の日当で警備員を集めていた。18歳以上なら未経験者でも最初から1万円だが、会社はこれを研修時に「同僚には聞かれても口外するな」と口止めしていた。

なぜなら10年以上のベテラン警備員が8000円で、遅刻ばかりして片側交通誘導がまったくできない女子大生のアルバイトが1万円という日当の逆転現象が起きていたからである。

口止めしてもムダである。「タウンワーク」などの広告媒体で大きく広告を打っているのだから隊員が知らないはずはない。ベテラン隊員の不満はたまる。

知り合いの70歳過ぎで15年の経験を持つ温厚な警備員は、我慢の限界を超えたため会社の副社長にこの件で抗議したところ、翌日になって辞めてほしいと会社から通告されてしまった(彼は常駐勤務地に参入している他の警備会社にそのまま転職した)。

■研修後の手当てや、入社祝い金を出す会社も

またこの会社のある支社では一時に20名以上の集団離職が起きたと聞いた。

こういう矛盾を抱えている会社は絶対大きくなれないし、将来他社との競争に勝ち抜くことはできないだろう。これが業界では中堅の会社というから、警備会社には口入れ屋的な前近代的な感覚がまだ残っているのだろうか。

募集広告を見ていると大手とされる警備会社では日当1万1000円以上出すところもあれば、8000円前後の弱小警備会社もみられる。とはいえ高齢者が手っ取り早く仕事をして収入を得たいと考えれば、警備員が一番かもしれない。

自己破産者でなく健康で日本語がしゃべれれば面接で落とされることはまずない。法定研修(4日間)を受ければ3万円前後の手当をすぐ受け取れる。入社祝い金も6万円ほど出すところもあり、その上、3000円、4000円の面接交通費を当日支給する会社さえある。

通帳と1万円札
写真=iStock.com/SB
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SB

私が2番目に入った警備会社はこの面接交通費を3000円支給していた。世の中にはとんでもないことを考える人がいるもので、ある男はこの会社に入るふりをして1日で千葉県や東京都の支社をいくつか回っているうちこれがバレてしまった。

今はパソコンで面接管理の共有もしているので、そういう輩(やから)の悪企みはすぐバレてしまうのだ。

■35歳で月に67万円を稼いだ同僚

再度、話は戻る。警備員も普通に働けば月18万円くらいになると書いたが、これはあくまでも一般論である。

転職2度目の会社に在籍していた頃、35歳くらいの同僚から聞いた話で、月67万円稼いだ警備員がいるという。彼の同い年の友人・芝浜で、その給与明細も見せてもらったとのことである。私はその話を聞いてにわかに信じられなかった。

彼の話によると芝浜は月60勤務をしたそうだ。ということは昼夜1カ月働き詰めで60勤務になる。そんなことが可能なのか。眠る時間もないではないか。

普通は昼の勤務は午前8時から夕方5時まで拘束される。夜勤は午後8時から翌朝5時までとなる。会社によっては午後10時開始のところもある。忙しい時期の警備会社は人手不足だ。日勤のみならず夜勤まで頑張る隊員は大事にして優先的にいい現場を回すはずだ。

いい現場とは、「警備の仕事がラク」「時間が早く終わる」「精神的肉体的ストレスが少ない」ということで、会社はその辺はよく把握している。となると芝浜のような人材は優先的にそういう現場に回してあげる。

周囲の警備員も昼夜勤務の芝浜に配置や時間で負担が少ないように配慮する。その上、その会社では月22勤務以上は2300円から2500円前後の割増手当が1勤務ごとにつく。クルマで現場を移動すれば睡眠は車内でとれる。早終いなら家に帰ることもできる。

2級資格を持っていればなおさら好都合だ。それやこれやで67万円ということらしい。しかし、これは若い人しかできないことだろう。体力プラスどうしてもまとまった金が必要というモチベーションがなければできることではない。

■7連続勤務で新車を買い替えた50代の同僚

働くモチベーションは人それぞれである。元タクシー運転手の同僚は50歳を少し過ぎた年齢だが、「昼夜7連続勤務は当たり前」と豪語していた。しばらくすると彼が新車を買ったと警備員仲間で話題となった。私と同じ町内に住んでいた同僚は競輪が趣味で、ほとんど働いたお金を注ぎ込んでいた。

柏耕一『交通誘導員ヨレヨレ日記』(三五館シンシャ)
柏耕一『交通誘導員ヨレヨレ日記』(三五館シンシャ)

私がこの会社で現任教育(再教育)を受けた際に、ある講師は「月に57勤務をした女性隊員さんがいましたが、勤務中に倒れ救急車で病院に運ばれました。会社としては勤務中でありがたかったですね」と意味不明の感謝をしていた。

何が「ありがたかった」のかよくわからない。それ以上の説明はなかったからだ。労災がらみなのか、それとも単に撃ちてし止まんと会社に貢献してくれたからなのか。今は過労死問題が大きな社会的テーマとなっているので、この種の発言は即レッドカードだろう。

ともあれどんな世界にも常識を超えた働き方をする人はいるものだ。しかし、自分の肉体を酷使していいことはないと思う。いずれそのツケは自分が払わなければならないからだ。だが、こればかりは人それぞれの事情があるから野次馬的な発言は慎まなければならない。

■交通誘導員は社会との最後の“蜘蛛の糸”

余計なお世話かもしれないがテレビを見ていると、失業してホームレス寸前の人やマンガ喫茶に寝泊まりする人たちの姿がよく取り上げられている。

肉体的に健康で精神的にも病んでいない人々を見るにつけ、この人たちの何割かはこれほど苦しい生き方を余儀なくされるなら警備の世界に活路を見出せるのにと思うこともある。

警備を一生やりなさいと勧めるわけではない。働けば日払いもあり家がなければ寮もある。否が応でも社会とのつながりもできる。とりあえず就業すれば最低限の社会生活が可能なのが警備員かもしれない。

仕事として楽しい楽しくないは別として、決して悪い選択ではないのではないか。土壇場に追いつめられた人にとって交通誘導員の仕事は社会との最後の“蜘蛛の糸”かもしれない。

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柏 耕一(かしわ・こういち)
交通誘導員
1946年生まれ。出版社勤務後、編集プロダクションを設立。出版編集・ライター業に従事していたが、ワケあって数年前から某警備会社に勤務。

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(交通誘導員 柏 耕一)

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