米中の狭間で「いいとこどり」を続ける韓国・文在寅政権が世界から孤立する日
プレジデントオンライン / 2021年6月21日 11時15分
■G7サミットに韓国が招かれた意味
6月13日、英コーンウォールで開催された主要7カ国首脳会議(G7サミット)が閉幕した。今回のG7のポイントは、強力な対中包囲網が出来上がったことだ。共同宣言に、新疆ウイグル自治区の人権問題や、台湾海峡の平和と安定などが盛り込まれたことはその象徴といえる。
今回のG7サミットには韓国も招かれた。その意味は慎重に考えるべきだ。特に、中長期的な経済への影響は軽視できないだろう。足許、韓国では車載半導体の不足が深刻だ。その一方で、米国は日台との連携を強化し、半導体など経済成長と安全保障にかかわる重要資材のサプライチェーンの再構築を重視しているとみられる。
本来であれば、車載半導体の調達に加えて、ドル資金の確保など中長期的な経済の安定のために、韓国にとって米国などとの連携を重視する必要性は高まっていると考えられる。
しかし、依然として文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、安全保障を米国に依存する一方で、経済面では対中関係を重視、優先しているとみられる。韓国が米中のはざまで“いいとこどり”を続ける場合、世界経済の中で韓国経済が孤立するリスクは高まるだろう。足許、回復基調にある韓国経済ではあるが、中長期的な経済の展開は楽観できない。
■半導体不足は深刻さを増している
足許、世界的に半導体不足が深刻だ。それが韓国経済に与える影響は大きい。世界的な半導体不足の背景を確認すると、リーマンショック後、世界的にクラウドコンピュータやスマートフォンの利用が増えた。2015年ごろからはデータセンターへの投資が増加し、半導体需要が押し上げられた。
2018年に入ると米中対立が半導体の需給を逼迫(ひっぱく)し始めた。米国の制裁発動に備えて、中国の通信機器大手ファーウェイなどが世界最大のファウンドリーである台湾積体電路製造(TSMC)や韓国のサムスン電子への発注を増やし、在庫確保に動いた。
その結果、いち早く最先端の回路線幅5ナノメートルの(ナノは10億分の1)生産技術を確立したTSMCの生産ラインを、米中のIT先端大手企業などが争奪し始めた。さらに、コロナ禍によって世界経済のデジタル化が加速した。
2021年に入ると米テキサス州での寒波によるサムスン電子の半導体工場の被災、わが国半導体工場の火災も加わり、世界全体で最先端から汎用型まで半導体の不足が鮮明だ。2023年まで半導体不足が続くと考える半導体業界の専門家もいる。
■主力の自動車産業にも悪影響が
その状況下、汎用型の生産ラインを用いて生産される半導体の中でも、車載半導体の不足が深刻だ。その影響が大きく出ている国の一つが韓国だ。
韓国にはサムスン電子とSKハイニックスという大手半導体メーカーがあるが、車載半導体は輸入に依存している。車載半導体不足の影響は深刻とみられ、5月、韓国の自動車生産は9カ月ぶりの低水準だった。現代自動車では海外の一部工場の稼働も停止している。
韓国経済にとって、自動車は半導体に次ぐ主要輸出品目であり、雇用への影響も大きい。車載半導体の不足によって自動車生産の減少傾向が続くと、景気回復のモメンタム(勢い)は弱まる恐れがある。
その場合、労働組合の不満も増しやすい。半導体不足によって現代自動車の業績が市場参加者の予想を下回り、電気自動車(EV)生産強化の取り組みに遅れが出る恐れもある。韓国経済にとって、車載半導体の確保などのために日米との連携を目指すことの重要性は増していると考えられる。
■世界経済の“ゲームチェンジ”が起きようとしている
それに加えて重要なのが、中国の台頭に対応すべく、米国が日台などとの連携強化を重視しているとみられることだ。それが中長期的な韓国経済の展開に与えるインパクトは過小評価できない。以下、半導体のロジックとメモリ分野ごとにその影響を考察する。
ロジック半導体分野にてバイデン政権は、最先端の半導体製造技術が中国に伝わらないよう、補助金政策を用いてTSMCに対米投資の積み増しを求めたようだ。その政策の下、インテルやサムスン電子も米国での生産体制を強化するとみられる。見方を変えれば、米国は中国との競合に備えて、経済運営の在り方を自由放任から必要に応じて市場に介入するものに修正しつつあると考えられる。
それは、世界の経済運営の“ゲームチェンジ”を示唆する。わが国では茨城県つくば市にTSMCが政府の助成を受けて半導体のパッケージング技術などの研究開発拠点を設ける。また、熊本県にてTSMCが半導体工場の建設を検討しているとの報道もある。ロジック半導体の生産能力強化を目指すサムスン電子がそうした変化に対応するには、国レベルでの姿勢の明確化が欠かせない。
■欧州でも「日米台」寄りの動きが
韓国企業が世界トップシェアをもつDRAMなどメモリ半導体分野でも日米台の連携が進む。注目したいのが米マイクロンだ。マイクロンは最先端の“1α(回路線幅10ナノメートル台)”のDRAM生産技術を確立し、世界のメモリ需要を取り込んだ。その結果、同社の営業利益率はサムスン電子を上回った。
さらに、わが国でマイクロンは、本邦半導体部材や製造装置メーカーと連携して次世代のDRAMの生産を目指す。マイクロンは台湾事業も重視している。それによってマイクロンは最先端の生産技術開発を加速し、中国企業との競合に備えようとしているのだろう。
欧州でも、日米台との連携を重視する動きが出始めた。現在、蘭ASMLは、回路線幅5ナノメートルの半導体生産に不可欠なEUV露光装置を供給できる唯一の企業だ。ASMLは米国の知的財産などを必要とする。オランダ議会は2月、中国におけるウイグル族の状況を欧州で初めてジェノサイドと認定した。それは、米国との連携強化が経済の安定に必要との考えに基づいた決定だろう。
■“中国包囲網”は着実に進んでいる
6月の北大西洋条約機構(NATO)の首脳会議は、中国を脅威と位置付け、加盟国間の連携を強化して中国に対応する方針を共同宣言に記した。そう考えると、今回のG7サミットに韓国が参加した意味は重い。豪、印、南アフリカ、韓国がG7サミットに招かれた背景には、国家資本主義体制を強化する中国への包囲網を整えようとする英国をはじめ主要先進国の狙いがあっただろう。
特に、豪印は中国との関係が冷え込んでいる。つまり、G7サミット参加によって韓国は、米国をはじめ主要先進国との連携にもとづく経済・社会・安全保障を目指すか否か、立場を明確にするよう国際世論から求められたといえる。
今後、台湾海峡、最先端の半導体生産技術、人権など多くの分野で米中の対立は激化する可能性が高い。中国では広東省にある台山原発の1号機で燃料棒の一部が破損した。中国は脱炭素のために原子力発電を重視し、仏企業との合弁で台山原発を運営している。
その一方で、米国は中国が原子力発電技術を軍事転用する恐れがあるとして輸出管理を強化した。燃料棒破損をきっかけに、米国が中国の原子力発電事業や脱炭素に関しても圧力を強める展開は否定できない。
■世界から孤立するリスクは高まっている
現時点で文氏は、安全保障を米国に頼りつつ、経済面で中国を重視する考えを持ち続けているようだ。近年、中国向けの輸出が韓国経済に与える影響は増している。足許、中国経済は回復している。経済面で対中関係を優先する文氏の姿勢は、短期的には韓国の景気回復を支える可能性がある。それは文氏の支持率にも影響する。
ただし、中長期的な経済と社会の安定を考えると、韓国は日米との関係を重視すべきと考える経済の専門家は多いようだ。半導体や車載バッテリーなどの先端分野で、韓国企業にとって中国企業は顧客から競争上の脅威になりつつある。また、韓国は車載半導体だけでなく、ドル資金、高純度の半導体部材、製造装置の調達で日米などに依存している。
逆に言えば、文氏の近視眼的な損失回避の心理はかなり強いとみられる。今後も為政者が米中のはざまで立場を明確化できないのであれば、中長期的に韓国が世界経済から孤立するリスクは高まるだろう。
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法政大学大学院 教授
1953年神奈川県生まれ。一橋大学商学部卒業後、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学経営学部大学院卒業後、メリル・リンチ社ニューヨーク本社出向。みずほ総研主席研究員、信州大学経済学部教授などを経て、2017年4月から現職。
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(法政大学大学院 教授 真壁 昭夫)
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