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「米国は病気」と罵りつつ、周庭さんは釈放…ついにG7を敵に回した習近平政権の行き詰まり

プレジデントオンライン / 2021年6月18日 18時15分

2021年6月11日、G7首脳会議の晩餐会前の写真撮影。左からメルケル首相(独)、マクロン大統領(仏)、中央のエリザベス女王を挟んでトルドー首相(加)、ジョンソン首相(英)。後方にいるのが菅義偉首相。 - 写真=PA Images/時事通信フォト

■G7首脳宣言が初めて「台湾問題」に言及

6月13日午後(日本時間同日夜)、イギリス南西部の保養地コーンウォールで開かれていた先進7カ国首脳会議(G7サミット)が3日間の日程を終え、首脳宣言を採択して閉幕した。

今回のG7の大きな目的は、国際社会が協力して覇権主義的かつ専制主義的な姿勢を強める一党独裁の中国・習近平(シー・チンピン)政権を抑え込むことにあった。首脳宣言は中国を意識し、民主主義と自由主義の考え方に基づき、「すべての人々のためのよりよい回復」が約束された。

首脳宣言では、中国が台湾に軍事圧力を強めていることを批判し、「台湾海峡の平和と安定の重要性を強く求め、両岸問題の平和的な解決を促す」と盛り込まれた。首脳宣言で台湾問題に言及したのは今回が初めてである。

G7各国が一致団結して中国の脅威に立ち向かう姿勢を示す絶好のチャンスだ。民主主義の国々が習近平政権に圧力をかけ、世界の平和と安全を維持することが肝要である。

■習近平氏は国家主席から最高ポストの「党主席」に就きたい

中国は軍事力を背景に、東シナ海や南シナ海のサンゴ礁の島々を埋め立て、軍事要塞化を進めている。日本古来の領土である沖縄県の尖閣諸島周辺の海域では、中国海警船が侵入を繰り返して、日本の漁船を追い回している。こうした中国の横暴についても首脳宣言では「深く懸念する」と憂慮の意を示した。

軍事的な脅しを受け続ける台湾、ジェノサイド(集団殺害)が国際問題になっている新疆(しんきょう)ウイグル自治区、民主派が暴力と悪法で強制的に排除された香港。中国は台湾、ウイグル、香港を絶対に譲れない「核心的利益」、他国の口出しを認めない「内政問題」と強調するが、首脳宣言は基本的人権を踏みにじる行為として糾弾した。

さらには中国の巨大経済圏構想の「一帯一路」に対抗するため、途上国向けのインフラ(社会基盤)の整備支援を先進7カ国で強化していくことも宣言された。

それにしても習近平政権は世界の平和と安定をどう考えているのか。世界平和を犠牲にして中国共産党が繁栄することを願っているとしか思えない。習近平氏本人は国家主席から毛沢東ら以来の「党主席」へと上り詰めたいのである。そのためにこれまで中国内部の対立勢力を徹底的に潰し、習近平氏に逆らう者を排除した。だが、すべてが習近平氏の思惑通りにいくとは限らない。

■「アメリカは病気だ。その病気は軽くない」と中国報道官

中国政府はG7の首脳宣言に強く反発している。中国外務省の趙立堅報道官は6月15日の記者会見で「中国を中傷し、内政に干渉するものだ。アメリカなど少数の国が対立と溝をつくり、隔たりと矛盾を拡大させようという下心を露呈させている。中国は強烈な不満と断固たる反対を表明する」と述べた。

さらにアメリカに対しては「アメリカは病気だ。その病気は軽くない。G7はアメリカの脈を測り、処方箋を出すべきだ」と強く非難した。

反発はこうした声明だけではない。台湾国防部によると、15日に中国軍の戦闘機や爆撃機など計28機が、台湾南西部に位置する防空識別圏に入った。進入が常態化した昨年来、1日に入った機数としては最も多い。台湾に対する脅しであり、首脳宣言が台湾に言及したことに対する軍事行動である。中国政府は国際社会を馬鹿にしている。

■なぜG7開催中に周庭さんを出所させたのか

奇しくもG7開催中の6月12日、2019年6月の無許可の抗議デモの集会を扇動したなどの罪で服役していた香港の女性民主活動家の周庭氏(24)が出所した。

昨年12月に禁錮10月の実刑判決を言い渡されて服役中だったが、今回、模範囚と認められて刑期が短縮されたという。

その背景には中国政府の思惑があるのではないか。G7開催中に出所させることで、表立った批判をかわそうとしている。中国政府としては先進7カ国などの国際社会と決定的に対立するわけにはいかない。アメとムチを使い分けているのだ。中国としては貿易に支障が出れば、経済が成り立たなくなり、国自体を維持できなくなる。習近平政権を制御するには、このあたりをうまく突くべきだろう。

ところで、テレビのニュースで出所する周氏を見た。集まった報道陣には何も答えず、終始無言だったが、強い視線は何かを訴えているようだった。白い大きなマスクを掛けていても分かるほど、ほほがやせこけ、それが服役の過酷さを物語っていた。民主活動をしないように厳しい洗脳教育を受け、精神と肉体が限界に来ていただろう。

この日の夕方、周氏は自身のインスタグラムに真っ黒な画像を投稿し、「苦しみの半年と20日が終わりました。やせて体が弱くなってしまったので、十分に休みたいです」と書き込んだ。

沙鴎一歩はこれまで周氏にエールを送る記事を度々書いてきた。今後は、できる限り早く、自由と民主主義が守られる国に亡命したほうがいいだろう。その国で世界の民主活動家らとともに香港の自由と民主主義を取り戻す運動を続けてほしい、と思う。

■専制主義の中国やロシアへの対抗軸となることを鮮明に

6月15日付の産経新聞の社説(主張)は大きな1本社説の扱いで、「G7サミット 中国抑止へ行動の時だ 民主主義陣営の結束示した」との見出しを掲げ、こう書き出している。

「自由や民主主義、法の支配といった普遍的価値観を共有するG7が、専制主義の中国やロシアへの対抗軸となることを鮮明にした」
「日本や世界の自由と民主主義、平和、繁栄を守ることにつながる。高く評価したい」

見出しも書き出しも、概ね理解できる。

産経社説は台湾問題などを取り上げた後、「(G7は)新型コロナウイルス対策では中国の『ワクチン外交』を意識し、ワクチンの10億回分供与相当の途上国支援を決めた。ウイルスの起源についての調査を中国などで改めて実施することも世界保健機関(WHO)に求めた。どちらも極めて重要である」と指摘し、次のように主張する。

台湾海峡付近のクローズアップ
写真=iStock.com/Juanmonino
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Juanmonino

■中国の腹の底にある「債務のわな」という思惑

「自らに都合の悪い事実を隠蔽するのは、中国政府の常套手段である。ウイグル人の強制収容所の実態も明かされない。世界の人々の生命と健康、人権を守るため、これらの徹底解明が必要だ」

隠蔽体質は中国の根本的問題である。日本と欧米各国はその体質の弊害を中国に理解させるべきだ。

さらに産経社説は「中国の在英大使館は『少数の国が操るべきではない』とし、G7サミットに反発した。だが『債務のわな』で、途上国をがんじがらめにして影響下に置こうとしているのは中国である」とも指摘する。

「債務のわな」。途上国にワクチンなどの支援をする裏で政治的経済的に支配下に置き、その国から富をかすめ取ろうと企む。なるほど、これも中国の腹の底にある大きな思惑である。

■メルケル独首相は米中「新冷戦」を懸念

「G7の対中国政策 世界の分断招かぬように」との見出しを立てるのは、6月15日付の毎日新聞の社説だ。

その毎日社説は中盤で「しかし、長時間の議論では、G7内の温度差も鮮明になった」「中国を強い表現で非難するよう主張した米国に英国とカナダが同調し、ドイツ、フランス、イタリアが慎重な姿勢で足並みをそろえた。日本は『深い懸念』を表明し、G7の連携を促した」と指摘したうえで、こう解説する。

「耳を傾けたいのは、メルケル独首相の主張だ。国際ルールの重要性を指摘する一方、協調にも配慮したアプローチが必要だと訴えたという」
「メルケル氏の念頭にあるのは米中『新冷戦』への懸念だろう。『世界を再び二つの陣営に分けるべきではない』というのが持論だ」
「冷戦時代にドイツは米ソ対立の最前線に置かれた。緊張にさらされ続けた国のリーダーならではの調和を求める世界観だ」

ドイツがその過酷な経験から米中の「新冷戦」を避けたい気持ちはよく分かる。しかし、それだからと言って中国の覇権主義と専制主義をそのままにしておくわけにはいかない、と沙鴎一歩は考える。

中国の兵士と紫禁城(2012年4月6日)
写真=iStock.com/xingmin07
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/xingmin07

■菅政権の外交力が東京五輪で試される

毎日社説はさらに指摘する。

「G7が団結して中国排除に動けば世界の分断を招く。結束が緩めば中国の影響力の増大を許す。問われるのは、安定につながるバランスをどうとるかだ」

国際社会ではこのバランス感覚が欠かせない。いま世界は「欧米」対「中国・ロシア」、「民主主義」対「専制主義」に分かれ、「分断」はすでに起きている。対中国ではアメとムチをうまく使い分け、なるべく分断を少なく抑え込む必要がある。

最後に毎日社説はこう主張する。

「日本も人ごとではない。『新冷戦』になれば米中対立の最前線に立たされる。それを回避する外交努力こそが、菅義偉政権に求められるのではないか」

菅政権の外交力が試される。直近の舞台は東京五輪になるだろう。問題の中国をどのように対処するのか、沙鴎一歩はしっかり見届けたい。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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