「日本は男女格差が酷すぎる」そう主張する人たちは専業主婦をバカにしすぎだ
プレジデントオンライン / 2021年6月23日 15時15分
■「相変わらず男女不平等だ」と憤慨するが…
「人間は自分が見たいものしか見ようとしない。たとえそこに存在していても目に入らない」といわれます。しかし、度を超すと、「見たい願望があれば、存在していないものですら、存在すると信じてしまう」ということも起こります。
2021年3月31日に、「世界経済フォーラム」から世界各国の男女格差を測る「ジェンダーギャップ指数」が発表されました。簡単に説明すると、「経済」「教育」「健康」「政治参加」という4分野の男女格差をまとめて指数化したものです。2020年の日本の順位は156カ国中120位、G7の中でも最低だとマスコミはこぞって取り上げ、呼応して「日本は相変わらず男女不平等である」と憤慨する声がSNS上でも数多く沸き起こりました。
しかし、個人的には、正直このランキングにどれほどの意味があるのか疑問です。そもそも指標の取り方が独特で、作成者の恣意(しい)的なものが強く感じられます。
■このデータをよりどころに議論が飛躍している
同様の疑問は、「社会実情データ図録」の主宰者でもある統計分析家の本川裕氏も「世界120位『女性がひどく差別される国・日本』で男より女の幸福感が高いというアイロニー」で見解を書いています。その内容には大いに賛同します。
「ジェンダーギャップ指数世界120位」という言葉だけを取り上げて、政府や世の男性に対する糾弾材料として活用する向きが多いようですが、であるならば、本川氏のいう、国連開発計画(UNDP)が類似の調査を行った「ジェンダー不平等指数(2020年度、日本は162カ国中24位)」について、そうした論者もマスコミも完全に無視しているのは、まさしく不平等です。
本当に男女不平等が存在するなら、その是正は大事でしょう。しかし、この「ジェンダーギャップ指数」のデータだけをよりどころにして、「男女格差が少なければ少ないほど出生率は上がる」「少子化対策するなら、まず男女の賃金格差をなくせ、女性の管理職比率を上げろ、女性の議員数を増やせ」という飛躍しすぎた論まで出始めると、さすがに「ちょっと待て」と言いたくもなります。
そうした男女格差をなくせば本当に出生率は上がるのでしょうか?
■男女格差と出生率を結びつけるのは無理がある
中には、フランス、イギリス、スウェーデン、ドイツ、アメリカ、デンマークという国だけを作為的に抽出し、それに対して日本と韓国はランキングが低いから出生率が低いのだという論も見かけたのですが、国ってその8カ国だけなんでしょうか? 先進国に限定という注釈があったのですが、先進国も8カ国だけでしょうか?
先進国の定義は、世界銀行によれば、「1人当たりのGNI(国民総所得)が1万2235米ドル以上」(2018~2020年)としています。それにのっとり、「ジェンダーギャップ指数」と合計特殊出生率の先進国相関を求めてみました。
結論からいえば、先進国だけを抽出した場合では両者の相関係数は▲0.19919。ほぼ相関はないといってもいいと思います。さらに、全対象国でみた場合では、相関係数は▲0.42265となり、むしろ男女格差が改善されればされるほど出生率は低くなるというやや弱い負の相関すらあります。要するに、「ジェンダーギャップ指数」と出生率を結びつけるのは無理があるのです。
女性の就業率との関係も同様です。以下に、「ジェンダーギャップ指数」ランキングにおいて常に上位に位置する北欧3国と日本の比較グラフを作成しました。パートを除く女性の就業率推移も合わせて、「ジェンダーギャップ指数」の記録がある2007年以降をまとめています。
■“男女平等”北欧3国が示す現実
北欧は、「ジェンダーギャップ指数」が年々改善されているにもかかわらず、出生率は下がり続けています。パートを除く就業率に関して言えば、スウェーデンと日本はむしろ女性就業率が上がれば出生率が減るという負の相関すらあります。
日本では、出産ボリューム層の25~34歳女性の就業率が上がれば上がるほど出生率は減ります。当該年齢の就業率と平均初婚年齢の上昇も完全にリンクします。よく考えれば当たり前で、この年代の就業率の上昇はすなわち晩婚化を意味するからです。
つまり、「ジェンダーギャップ指数」が改善されれば出生率は上がるなどと統計上は到底言えません。そもそも、政策によって少子化が是正されることはありません。出産に対する金銭的なインセンティブを与えて一時期的に出生率が上向く場合もあるでしょう。しかし、人口転換メカニズムに基づけば、本質的には、「乳幼児死亡率が下がれば出生数は必ず減る」のです。
■乳幼児が死なない国になったことを意味する
事実、現在でもアフリカなど出生率が高い国々はまだ医療体制が盤石ではなく、そのため乳幼児死亡率も高い。母親が多数の子どもを産むのは、産んだ子どもを幼くして亡くしてしまうからです。
日本をはじめとする先進諸国の乳幼児死亡率は限界まで低く、生まれた子は、ほぼ無事に成人します。裏返せば、「少子化になるということは、生まれた子どもが死なない国になった」ことを意味します。それは悪いことではありません。
それでも、「出生率とは関係なく、日本の男女の所得格差はあるのだからそこは是正すべきだ」という声もあります。それが事実なら確かに是正されるべきでしょう。しかし、そういう人たちが持ち出すデータというのは国税庁の「民間給与実態調査」や厚労省の「賃金構造基本調査」などですが、あれは正規/非正規、未婚/既婚が合算されています。
既婚女性は非正規労働比率が高いため、総数で見ると女性の賃金が低くなってしまうのは当然です。一概にあのデータをもって男女で賃金格差があると言えるでしょうか?
■条件をそろえてみると興味深い結果が
例えば50代をひとくくりにして男女所得格差を比較すると、図表3の左のグラフのように、明らかに男性の所得が女性を大きく上回ります。が、これを50代の正規雇用未婚男女だけに絞って抽出すると、右のグラフのように、男女ともほぼ所得構成は変わりません。40代で比較しても同様です。
さらに、50代世帯主の世帯所得を夫婦の有業無業にかかわらず2人分の所得であるとみなし、単純に二等分して一人分換算の所得として区分けると、これも正規未婚男女の所得構成比とほぼイコールになります。
もちろん、実態として、特に男性の場合は、未婚より既婚の個人所得が多いので、厳密に夫婦それぞれの個人所得分布で分けると違ったものになりますが、一馬力であろうと二馬力であろうと、結局は夫婦一人当たりの所得も未婚男女の所得もほぼ同じであるというのは興味深い結果です。
男女には絶対的な所得格差があるわけではなく、条件を同じにして冷静に比較してみれば、こういうファクトが明らかになります。
■「共稼ぎで家事も同等に負担」が男女平等なのか
一方、夫だけが働いていると、妻は夫に頭が上がらなくなるという話も聞かれるのですが、それも果たして実情と合っているでしょうか。コンサルティング会社の調査によると、日本では62%の夫が小遣い制といわれています。実際に稼いでいようがいまいが、家計の実権を握っているのは妻のほうではないでしょうか。日本には女性の管理職が少ないと言いますが、そうした家計を取り仕切る専業主婦は家の管理職だと思います。
なんでもかんでも夫婦が外で共稼ぎをして、家事も育児も同等に負担することが、男女平等なんでしょうか。それが、すべての夫婦が望む普遍的な価値観であるとは思いません。誇りとやりがいをもって家事育児をこなす専業主婦もいるでしょう。夫婦が夫婦間において納得した上で役割分担を決めているのなら、外野がとやかく言うことではありません。
サッカーのチームで夫が点を取るフォワードだからと、自分もフォワードをやっていたら、チームは機能しません。片方が選手なら、片方はマネジメント側として支えるという視点もあります。平等ではなく、支え、支えられという対等の関係性が夫婦にとっては大事で、それは個々の夫婦がそれぞれ築き上げればよい話だと思います。
■専業主婦だって「共働き」である
そもそも、自らバリバリ働くキャリア女性に限って、専業主婦に対して「働いていない」とマウントをとることがあります。女性が全員外で働いていないといけないのでしょうか。しかも、専業主婦は働いていないわけではありません。夫婦共に外で就業することを「共働き」という言葉の使い方がおかしい。それは「共稼ぎ」です。
外で稼いでなくとも、専業主婦は、家事や育児で日々働いています。つまり、外で働いて稼いでいるかは関係なく、すべての夫婦は「共働き」なのです。
残念ながら、この世は平等ではありませんし、格差は生じます。同じ条件の下で同じ競争をする場合なら不公平にならない手立ても可能ですが、そうだとしても個人の能力差やさまざまな環境の違いによってすべての条件を同一にすることは不可能です。よって本質的な平等なんて実現不可能です。だからこそ、人と人とが支え、助け合う社会やコミュニティーが生まれたわけです。
誰にも頼らず、個々人が自分の足だけで立つことを自立だと考えている人がいるとしたら、それは大きな間違いです。それは自立ではありません。それこそが孤立というのです。
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コラムニスト・独身研究家
ソロ社会論及び非婚化する独身生活者研究の第一人者として、テレビ・ラジオ・新聞・雑誌・Webメディアなどに多数出演。海外からも注目を集めている。著書に『結婚滅亡』(あさ出版)、『ソロエコノミーの襲来』(ワニブックスPLUS新書)、『超ソロ社会―「独身大国・日本」の衝撃』(PHP新書)、『結婚しない男たち―増え続ける未婚男性「ソロ男」のリアル』(ディスカヴァー携書)など。韓国、台湾などでも翻訳本が出版されている。新著に荒川和久・中野信子『「一人で生きる」が当たり前になる社会』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)がある。
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(コラムニスト・独身研究家 荒川 和久)
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