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「世界でワースト2位」日本の男女賃金格差が全然埋まらない理由2つ

プレジデントオンライン / 2021年6月24日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/VladSt

性別を理由にした賃金格差の問題に正面から切り込んだ韓国の『失われた賃金を求めて』が話題だ。日本は、その韓国に次いで男女の賃金格差が大きい。その差はなぜ埋まらないのか、人事ジャーナリストの溝上憲文さんが解説する――。

■韓国に次いで世界ワースト2位の男女賃金格差

韓国の男女の賃金格差の実態を描いたイ・ミンギョン著『失われた賃金を求めて』が日本でも共感を呼んでいる。当然だろう。韓国の賃金格差はOECD諸国加盟国中ワースト1位であり、次いで日本がワースト2位だからだ。

OECDの統計によると、男女間の賃金格差は韓国が34.6%、日本が24.5%。欧米諸国が10%台なのに対して2国だけ突出している(フルタイム労働者の中位所得における男女間賃金格差、2017年)。日本の賃金格差は2005年は32.8%だったが、その後緩やかに減少傾向にあるが、それでも依然として格差は大きい。

男女の賃金格差の原因として欧米では性別による職業の偏りがあり、女性が多い職種で賃金が低いという「性別職業分離」が指摘されている。しかし、日本総合研究所の山田久副理事長の分析によると、女性労働者比率の低い職種で高賃金職種がいくつかあるものの、とくに女性比率の高い職種が大きく低賃金職種に偏っているわけではないとしている(「コロナショックが促すジェンダー平等」日本総研、2021年4月23日)。

■賃金格差の2大原因

では日本の男女賃金格差が大きい理由とは何か。山田副理事長は①正規・非正規の賃金格差と女性の非正規比率の高さ、②性別役割の固定化と就社型雇用システム――の2つであると指摘する。

「終身雇用を前提とする正社員雇用を守るため、非正規雇用との処遇格差が大きくなる。さらに終身雇用と表裏一体の長時間労働・会社都合の転勤は『男は会社・女は家庭』という男女分業(性別役割の固定化)を前提としており、女性の多くが非正規雇用で働くことになる。加えて、女性は正社員で働いても、結婚や出産を機に退職することが想定され、昇格・昇給が抑制される」(前出論文)

■非正規労働者の7割近くが女性

女性の非正規労働者は確かに多い。2019年の労働者数は6004万人(総務省「労働力調査」)。うち非正規労働者は2166万人で、女性は1475万人と68%を占める。産業別では卸売り・小売業全体の35%、344万人が女性非正規だ。続いて医療・福祉業の267万人(33%)、宿泊・飲食業の196万人(54%)、製造業の150万人(15%)、サービス業等の111万人(27%)と続く。

もちろん欧米でも非正規が少ないわけではないが、ヨーロッパでは企業横断的に同一労働同一賃金原則が浸透し、日本と比べて正規と非正規の賃金格差は大きくない。

そして日本ではご存知のように今回のコロナ禍では女性非正規が多数を占める卸売り・小売業、宿泊・飲食業、サービス業などを直撃し、女性非正規の賃金が下がるだけではなく、雇用まで奪われるという惨状を呈した。

労働政策研究・研修機構の調査によると、景気が悪化した2020年4~5月期の女性の労働時間と収入の落ち込み幅が男性より高かった。また労働政策研究・研修機構とNHKが合同で6万8000人の雇用者に実施した調査によると、20年4月以降の7カ月間に、解雇や労働時間の激減を経験した者の割合は、男性18.7%に対し、女性は26.3%と4人に1人以上が辛酸を舐めている。

■女性の実質的失業者、103万人超え

女性非正規の深刻ぶりは今年になっても変わらない。野村総合研究所が今年2月に実施した調査によると、パート・アルバイト女性のうち29.0%が「コロナ以前と比べてシフトが減少している」と回答。そのうち「シフトが5割以上減少している」人の割合は45.2%に上る。昨年12月の調査(シフト減少25.7%、シフト5割減40.6%)よりも高い。しかも5割以上減少したパート・アルバイト女性は昨年10.4%から13.1%に増えており、悪化のスピードが加速している。

シフトが減少した場合、経営者は「休業手当」を支払う義務がある。企業が支払わない場合は、自分で申請する特例の「休業支援金制度」もある。ところが驚いたことにシフト減のパート・アルバイトのうち休業手当を受け取っていない人が女性の74.7%、男性の79.0%に上っている。

野村総研は昨年12月、「シフトが5割以上減少」かつ「休業手当を受け取っていない」パート・アルバイト女性を「実質的失業者」と定義。総務省「労働力調査」を用いた全国の「実質的失業者」は90.0万人との推計を発表し、大きな話題になった。そして2月の調査では男性43.4万人に対し、女性は103.1万人とさらに増加している。多くの女性非正規の困窮ぶりがコロナで露呈している。

■1日の労働時間が半減

実際に首都圏青年ユニオンが実施した「ホットライン」に都内の飲食店で働く40代のパートの女性からこんな相談が寄せられている。

「土日祝日を中心に働いていたが、コロナの影響で2020年3月頃からシフトが減り、店舗が入っていた商業施設が休業になり、4~5月はシフトゼロで6月以降もシフトは完全に回復せず、半分ぐらいになっている。21年の1月以降は19時までと時短営業になっているので1日の労働時間がコロナ前と比べて半分くらいになっている」

また、カフェで働く30代のパート女性は「(昨年の)緊急事態宣言になったときに休業し、休業手当をもらったが、1カ月分5万円ほどしかもらえなかった。少なすぎて生活がままならない状態が続いている」と嘆く。

こうした状況について日本総合研究所の山田副理事長は筆者の取材に対し、こう指摘する。

■失業率回復の裏に女性の「非労働力化」

「飲食・宿泊業など女性が多く働いている対面型のサービス業が大きな打撃を受けたが、これは世界共通の現象であり、“She-cession”(女性不況)と呼ばれている。加えて日本は非正規が多く、女性の多くが失職した。その後、女性の失業率は改善しているように見えるが、これは失職者の多くが非労働力化、つまりあえて仕事を探さない人が増えているためだ。

統計上は就業者であっても就業時間や日数の大幅減少を余儀なくされている人々が多く発生している。中には夫の雇用が保障されているので働かなくてもいい人もいるかもしれないが、最近は家計を支える女性も増えており、とくにシングルマザーは厳しい。リーマンショック時に非正規の脆弱なセーフティネットが露呈し、国はさまざまな雇用安定策を講じたはずだったが、結局、穴が空いている実態が浮き彫りになっている」

増え続ける非正規労働者の不安定な雇用と低賃金を放置し続ければ男女の賃金格差をさらに拡大させることにつながるだろう。

■かつては「初任給差別」が存在した

もう一つの日本の男女賃金格差の原因である性別役割の固定化と就社型雇用システムは相当に根が深い問題だ。

男女雇用機会均等法(雇均法)によって女性社員に対する採用・昇進・評価やマタハラなどの差別は許されなくなっている。しかし、少なくとも1980年代までは女性は入社しても長く勤務することはなく、結婚・出産後に家庭に入るものという風潮がずっと続いてきた。

いわゆる男性が外で稼いで、女性は専業主婦として家庭を守るという性別役割分業意識が企業文化として広く浸透していた。もちろん退職して専業主婦になることは決して悪いことではない。最大の問題は厳然とした男女の賃金差別が横行していたことである。

1970年代に大手繊維会社に入社した元人事部長はこう語る。

「私が入社した1970年代から80年代にかけての女性社員の賃金はメチャクチャ低いものでした。紡績業なので当時は中卒、高卒の女子を多く採用していたので、他社との競合もあるので初任給の設定には気を遣っていましたが、大学卒の女性には全然神経を使うことはありませんでした。事務職で採用する大卒女性は少なかったこともありますが、高卒初任給にちょっと毛が生えた程度の給与で、男性大学卒より3割程度低かったと思います。その背景には当時の女性は何年かしたら辞めていくので、その程度でよいという暗黙の了解があったように思います」

今から考えると信じられないような話であるが、初任給差別が存在した。それだけではない。入社後の給与の上がり方も違った。

■昇格、昇進の差別

「ベースアップ分と定期昇給で毎年昇給するのは男女同じですが、大卒の男性は3年後に給与等級が一段上に上がります。つまり主任に昇格するのですが、女性はそのままです。男性は等級に応じた定期昇給の金額も増えるうえに主任手当もつきます。そして入社8年目には係長に昇格し、さらに給与は上がっていきますが、女性は据え置かれたままですから、男女の給与格差はどんどん開いていくことになります」

入社後は男女ともに賃金は上昇していくが、女性は緩やかな賃金カーブを描くのに対し、男性は年齢とともに上昇カーブを描き、格差が拡大していく。給与格差の原因は明らかな昇格・昇進差別にあった。

その差別の構造は1986年に雇均法が施行されて以降もしばらくは変わらなかったという。当初の雇均法は採用・配置・昇進などの性別を理由とした差別を禁止していたが、努力義務にすぎなかった。1999年の改正でようやく義務化されることになる。

「雇均法以降、女性も昇格するようになりましたが、それでも男性に比べて昇格も遅かったし、何より幹部の意識が低かった。上司の人事部長は『さあ、これからは男女雇用均等の時代だ。公平に扱わなくてはいけない』と公言していました。でもその部長は『これからは皆で交代で机を拭くからな、お前たちも拭け』と、率先して雑巾で机を拭いていました。私などは『これまで女性がやっていた拭き掃除を男がやるだけで、どうして男女均等なのか』と思いましたね。結局、その程度の認識でしかなかったのです」(元人事部長)

■表向きの差別は解消されても残る昇進の壁

その後、改正雇均法が施行され、採用や昇進・昇格においては表面上の差別はなくなったという。しかし、女性に対する会社の姿勢が変わったのかといえばそうではない。元人事部長は「女性総合職にも優秀な人材が入ってくるようになりましたが、管理職は男性部下と違い、女性には腫れ物に触るような感じで積極的に指導をする人が少なく、重要な仕事を任せようとしない。結果的に同期で課長に昇進するのは男性が多く、女性が少ない。昇進のカベがあるために結果的に賃金格差も開いた状態が続いた」と語る。

では現在はどうなのか。図表1を見ていただきたい。

資料出所:厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を元に労働政策研究・研修機構が作成。性別、年齢階級による賃金カーブ[ 1976年、1995年、2019年 ] (一般労働者、所定内給与額)
資料出所=厚生労働省「賃金構造基本統計調査」を元に労働政策研究・研修機構が作成。性別、年齢階級による賃金カーブ[1976年、1995年、2019年](一般労働者、所定内給与額)

20~24歳の所定内給与額を100とした場合の男性と女性の年齢別の賃金カーブを描いたものだが、1976年、1995年に比べて2019年はだいぶ賃金格差は縮小してきているが、それでも大きな格差が開いている。

日本企業に長年染みついた性別役割分業意識と女性の昇進などに対するアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)が簡単に抜けきれるものではないことを物語っているといえるだろう。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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