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「40℃超えの日本列島でヒトは生きていけるのか」早大教授が出した結論

プレジデントオンライン / 2021年6月25日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/rockdrigo68

仕事の視野を広げるには読書が一番だ。書籍のハイライトを3000字で紹介するサービス「SERENDIP」から、プレジデントオンライン向けの特選記事を紹介しよう。今回取り上げるのは『40℃超えの日本列島でヒトは生きていけるのか』(DOJIN選書)――。

■「命に関わる危険な暑さ」に体は耐えられるのか

日本の夏の暑さが、尋常ではなくなっていると感じる人は多いだろう。

最高気温35℃以上の「猛暑日」も珍しくなくなり、30℃くらいでは「それほど暑くない」という人も。

しかし、「命に関わる危険な暑さ」と天気予報で注意喚起が連呼される日々に、日本人の体は耐えていくことができるのだろうか。

本書では、主に「人体の体温調節」のメカニズムに焦点を当てつつ、タイトルの「40℃超えの日本列島でヒトは生きていけるのか」の答えを科学的に解き明かす。

気温の上昇は、湿度、風、日光などの他の環境要因と合わせて、皮膚の表面近くにある空気の温度を上げる。

人間は生命維持に重大な体の中心部の温度を一定に保つために、皮膚血管などを通じて外部に熱を発散しているのだが、皮膚の回りの温度が上昇すると、その発散がうまくいかなくなる。

そのために体の中心部が高温になると、場合によっては生命に関わることもある。

著者は早稲田大学人間科学学術院の永島計教授。専門は生理学、とくに体温・体液の調節機構の解明である。

1.環境と人の関係
2.カラダの温度とその意味
3.カラダを冷やす道具たち
4.温度を感じるしくみ
5.脳と体温調節――考えない脳の働き
6.フィールドの動物から暑さ対策を学ぶ
7.熱中症の話
8.運動と体温
9.発達、老化、性差など
10.温度や暑さにかかわる分子や遺伝子
おわりに 40℃超えの日本列島でヒトは生きていけるのか

■人のカラダは温度の変化に対して非常に脆い

人はもともと生存に適さない環境でも、衣服や居住構造や建築物、広範に土地改良を加えることによって、生存可能な場所にしてきた。『40℃超えの日本列島でヒトは生きていけるのか』の答えは、私のような生理学の研究者が答えなくても、人類の歴史が答えてくれている。それは、“イエス”である。人はどこへでも工夫を凝らして到達する。選ばれた人たちだけではあるが、宇宙でも暮らしているのであるから。

アフリカ大陸のチュニジアにあるケビリ県は、約15万人の居住人口を持つ。7、8月の平均最高気温が42℃程度。ロシアのオイミャコンは、500人程度の定住者がいて、12、1月の平均気温がマイナス50℃程度である。特別な人でなくてもどこでも暮らせるものである。

しかし、人の「体温」の許容範囲が、居住地域の気温と同様に幅広いかというとそうではない。体温が34℃以下になると低体温症で、生命活動の維持が危うくなってくる。高いほうの体温は、個人差が大きいが、43℃を超えて長くカラダが耐えられる能力を持つ人はまずいない。細胞の構造的、機能的に不可逆的な(温度が正常に戻っても元どおりにはならない)変化が生じる。

生きている人の体温の許容範囲は大きく見積もっても10℃以内の変化である。普通の生命活動と定義した場合は6℃以内である。人のカラダは、基本的に温度の変化に対して非常に脆い。極限で生きていけるのは、ほかの動物に比べて、自分の体温を維持するためのより優れた方法、正確にはカラダの周囲の環境を適切に維持する能力を持ち合わせているからにすぎない。

■人間にとって重要なのは「中心の温度」

気温は正確には人の体温には直接、影響を与えない。体温に影響するのは皮膚の表面近くにある空気の温度である。

人の環境をとりまく温度は、皮膚温より低いため(最近は例外が多くなっているが)、熱がカラダから環境へ逃げている。この状態で、カラダの熱のバランスが取れている。安静にしていれば人がつくる熱と皮膚から逃げる熱は同じはずである。このバランスが取れた状態にあるとき、人は暑くも寒くもないと感じる。一般に、この暑くも寒くもない環境温度では、人が体温調節に要するエネルギーがもっとも低くなるといわれている。

人間にとって重要な温度とは、脳や心臓、肝臓や腎臓の存在する中心の温度である。生命活動の維持のために正確に管理されるべき温度は、この中心の温度である。

生理学者であるアショッフは、カラダの中心の温度を「深部体温」もしくは「中心(コア)温」と定義づけている、一方、体表近くの温度を「被殻(シェル)温」と呼び、今でもこの用語が用いられている。通常の環境(薄めの衣服を着て暑くも寒くもない25℃前後の気温)で、コア温は37℃前後、皮膚温は30~35℃程度である。

人は多くのエネルギーを摂取し(飯を食い)、エネルギーを消費し、そのほとんどが熱に置き換わるとともに、その分布をカラダの中心部(コア)に集めておくことで体温を高く保っている。この中心部の熱も、ずっとコアにとどまっているわけではないので(なぜならカラダの周囲の温度はずっとコア温より低いから)、環境へと逃げていくわけである。高いコア温を維持するためには、せっせと食物を確保し、食べ、燃やし、コアに含まれる熱を一定に保つ必要がある。

卵かけご飯
写真=iStock.com/Yuuji
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuuji

■カラダの体温調節機能は「エアコン」で理解できる

カラダの温度を高く保つ必要性の一つは酵素の活性と関係がある。酵素は生体にある触媒である。触媒とは、物質の合成や分解を促進するもので、これらの反応の前後で触媒そのものは何ら変化しない。

酵素には、至適温度が存在する。至適温度とは、酵素の活性(触媒作用)が最大になる温度である。一般に至適温度は、われわれの体温より少し高いあたりで働き(活性)が最大となる。また、温度が42℃を超えてくるとタンパクの変性に伴い、酵素としての作用は減弱してしまうことが多い。体温は密接に、酵素活動、そして生命活動に影響を及ぼす。

体温調節を理解するにあたって、もっともよく使われる言葉は「セットポイント体温(設定温度)」である。これは、われわれが使う家庭のエアコンと同じ調節の概念である。エアコンは、セットポイント室温を決める手元のコントローラー(リモコン)、室温測定のためのセンサーと、熱の交換機(機能的にはクーラーとヒーター)からなっている。

体温調節は、カラダが決めたセットポイント体温に従い、設定温度と実際の体温のズレを感知しながら、カラダにあるヒーターやクーラー機能を動かしていくという概念である。37℃前後よりコア温度が上がってしまうとカラダのクーラーが作動する。体温調節のために熱を逃がしたり、産生したりする実際の器官や組織を、「体温調節の効果器(エフェクター)」と呼ぶ。

■もっとも重要なカラダを冷やす道具は「行動」

人において、夜も昼も生きている間、ずっと働いている健気な体温調節のエフェクターは皮膚血管である。ほかの組織にある血管と比較して皮膚の毛細血管の絶対数は非常に多く、流れる血液は時々刻々、状況に応じて増減している。血液は毛細血管に至る前に、細動脈という血管を通る。細動脈は、平滑筋(われわれの意思で収縮弛緩が可能な骨格筋と異なり、意識外で調整がなされている筋肉)によりその径がコントロールされている。

体を短時間で効率よく冷やすにはコアの温まった血液を体表に短時間で再分布させる必要がある。(※平滑筋によって血管が拡張され)血管径が2倍になると、血管の抵抗は、その4乗小さくなる、すなわち16倍小さくなることが知られている。16倍血が流れやすくなるのである。

また、人が暑熱環境で生存するだけでなく、運動や労働などカラダで生まれる熱の処理を行うには、汗腺からの汗の分泌、すなわち「発汗」は欠かせない。

ところが、大量の発汗は体液、とくに水の喪失につながる。いわゆる脱水である。汗はとめどなくかけるものではない。その理由は当たり前だが、汗はカラダの水分、すなわち体液から産生されていることである。暑いときに水分補給が大事であるというのはこのためである。汗をかくということは、実は人の体液の調節と体温の調節の間のせめぎ合いである。

さらに、もっとも重要なカラダを冷やす道具は行動である。行動は人に限らず、すべての生物が行っている体温調節の方法である。人の場合、服を脱ぎ、水浴びをし、うちわであおいでカラダを冷やす、涼しいところへ移動することが含まれる。動物も、日陰に逃げたり、昼寝を決め込んだりする。人と、それ以外の動物の行動性体温調節の大きな違いは、人のみが、その道具の一つとして空調(エアコン)を用いることである。

うちわ
写真=iStock.com/Wako Megumi
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wako Megumi

■地球上には、本当に暑さに強い生物が存在する

暑さ対策として一番大事なことは、(体の)コア温を上げないということである。たとえば人のコア温が40℃を超えてくると熱中症のリスクは非常に高まり、43℃に上昇してしまえば、重篤な生命のリスクとなる。

永島計『40℃超えの日本列島でヒトは生きていけるのか』(DOJIN選書)
永島計『40℃超えの日本列島でヒトは生きていけるのか』(DOJIN選書)

しかし、地球上の生物を見渡すと、本当に暑さ(熱さ)に強い生物が存在する。たとえば、至適な生育環境が45℃以上の好熱菌と呼ばれる微生物が存在する。

好熱菌ほどではなくても、いくつかの温度に耐えうるしくみを生物は持っている。発熱などは自ら高熱になることで感染症に対する防御を強めているのではないかと考えられている。これらのしくみを知ることで、真の意味で暑さに強い人間をつくることができるかもしれない。薬の服用、なかなか難しいと思うが遺伝子の人工的な改変などは、高温環境が生存にかかわる問題になれば選択をせざるを得ない方法なのかもしれない。

■コメントby SERENDIP

暑さをしのぎ、熱中症を防ぐには、人間が本来有している、自律神経による体温調節メカニズムをいかに正常に働かせるかが重要ということだ。環境面では、体感温度を一定に保つことが重要であり、やはり空調(エアコン)の使用がベストといえる。また、アルコールは血流に影響を与えるため、皮膚血管による体温コントロールを阻害する可能性があるのだという。暑い時のビールなどは気分を爽快にするかもしれないが、飲みすぎると暑さ対策としては逆効果になるかもしれない。いずれにせよ、一人ひとりの体は異なり、その時々の体調の変化もあるので、本書で解説されている基本メカニズムを理解した上で、自分に合った暑さ対策を経験的に編み出していくしかないのだろう。

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