「成功する人」と「成功できない人」ではまったく違う"ある感情"の取り扱い方
プレジデントオンライン / 2021年6月24日 15時15分
■科学的に証明された日本人の意地悪さ
5月12日に配信された「ニューズウィーク」のネット記事に刮目しました。
タイトルは「日本経済、低迷の元凶は日本人の底意地の悪さか」で、いかにも煽情的なネーミングだなと思って読み始めたのですが、学術的なアプローチに基づいた内容であり、しかもとても共感を呼ぶ展開に膝を打ちました。
「バブル崩壊以後、30年以上も経済が成長していない日本の現実に対して、他国に目をやると、たとえばアメリカやイギリスなどは製造業の衰退後も内需を原動力に高成長を続けている」というのはなぜなのかとまず問いかけます。
そして「欧州各国が日本以上に高い消費税(15%から20%)を課しているにもかかわらず順調に成長している」事実を突きつけられると、これは一体どうしてだろうと興味はそそられる一方です。
答えとして、ズバリ「日本人には諸外国と比較して『意地悪』な人が多く、他人の足を引っ張る傾向が強いから」だと言い切っていました。
「ほんとかよ!?」と思ったのですが、大阪大学社会経済研究所を中心としたグループのきちんとしたエビデンスに基づく研究成果とのことです。
いわく、「被験者に集団で公共財を作るゲームをしてもらったところ、日本人はアメリカ人や中国人と比較して他人の足を引っ張る行動が多いという結果を得られた」ってんですから、これは認めざるを得ませんなあ。
近年とみに発達した経済学と脳科学を組み合わせた研究成果によるものだそうですが、いやあ、かなり納得した方は多いのではないでしょうか?
さらには「日本では何か新しい技術やビジネスが誕生する度に声高な批判が寄せられ、スムーズに事業を展開できないことが多い。その間に他国が一気にノウハウを蓄積し、結局は他国にお金を払ってその技術やサービスを利用する結果となる」と続いています。
つまり、以上をずばりまとめるのならば、「性格の悪さ」「意地悪」は、コスパ的にも最悪なのだよということでしょうか。
■意地悪さの正体は「嫉妬」
かような「性格の悪さ」「意地悪」に向き合うにはどうしたらいいでしょうか?
その前に、「性格の悪さ」「意地悪」というものって、一体何なのでしょうか?
しばし、考えてみた末に、この二つを統合し、また古来古典落語の中でも長年描かれて来ているかような感情を表す言葉が浮かび上がって来ました。
それが「嫉妬」です。
落語の中で「嫉妬」は「悋気(りんき)」という言葉に置き換えられています。
要するに「女性のやきもち」なのですが、「悋気」を扱った落語のその名も「悋気の独楽(こま)」という演目があります。
あらすじは、
大店の旦那がまだ帰って来ないのを「浮気かしら」と不安に思った女房が番頭たちに行き先を聞くが、知らないと言っている。一方妾宅の旦那はというと、「今日はここに泊まるから」と、お供の定吉に言って、続けて「佐々木さんのお宅で碁を打って夜明かしするという事にしておけ」とアリバイ工作を伝え、お妾さんは定吉に口止め料を渡す。
定吉は家に帰り、本妻に「旦那は佐々木さんの家で一晩中碁を打つから帰れない」と旦那から言われた通りのことを言う。続いて、本妻から饅頭を出され喜んで食べていると、本妻は「この中には熊野の牛王さんが入っていて嘘をつくと血を吐いて死ぬ」と言われてしまい、つい恐怖のあまりお妾さんのことを喋ってしまい、さらに袖の中に独楽があるのを見つかってしまう。
「これは旦那、本妻、お妾さんの三つの独楽だ」と定吉は訴える。つまり、旦那がこの独楽を回して、旦那の独楽が本妻の独楽にくっつけば店に帰り、お妾さんの方につけば泊まることにする独楽だということなのだ。
独楽を回すと旦那の独楽が妾の独楽にくっついてしまう。何度やってもみな同じ結果だ。本妻はきりきりして、「いや、どうしてそうなるの!」とくやしがる。定吉が独楽を調べてみると「あ、こりゃ何べんやってもだめですよ。旦那さんの独楽、肝心のしんぼう(心棒・辛抱)が狂っています」。
いかがでしたか? おそらく江戸時代にはこういう具合に女性の悋気、嫉妬にまつわる出来事多発していたからこそ、ネタにもなっていったのでしょう。
その昔は「悋気は女の慎むところ、疝気(漢方で腹や下腹部の内臓が痛む病気)は男の苦しむところ」と落語のマクラではいっていたものです。が、昨今のLGBTの立場で言うと、男性でも悋気、要するに嫉妬に駆られがちになるのは当たり前でもあります。いや、もっというと男性の嫉妬のほうが体力で勝る分だけ、かなりしつこいものなのかもしれません。
つまり、底意地の悪さを含む「嫉妬」とは、「とりわけ日本人が抱きがちなルサンチマン」なのではないでしょうか?
■嫉妬しやすい国民的気質にいかに対処するか
個性という概念が欧米諸国に比べて意識しにくい環境こそが日本でもあります。
「我思うゆえに我あり」というデカルトの教えのような考え方が根底にあるならば「他人と自分とを比べるのはナンセンスだ」という意識にもつながるのでしょうが、日本の場合は、まさに落語の構成からして「お前からはそう見えるけれども、こちらからはこう見えるんだ」という成り立ちから作られています。無論これは欧米と日本との優劣ではなく、環境の差なのでしょう。
つまり欧米の人々に比べて「嫉妬」しやすい体質を先祖代々受け継いでいるのが日本人なのかもしれません。
では、「持ったが病」のようなこの「嫉妬」という国民的気質に対して我々はどう対処すべきなのでしょうか?
ここでヒントとなるのが、わが師匠・立川談志の名言です。
いわく「嫉妬とは、己が努力・行動を起こさず、対象となる人間の弱みをあげつらって自分のレベルまで引き下げる行為なのだ。一緒になって同意してくれる仲間がいればさらに自分は安定する」。
いやはや、返す言葉はありません。けだし名言とはこのことでしょう。
■天才・立川談志も嫉妬に身をこがした
談志自身も実は相当なる嫉妬を感じ続けてきた人でもありました。その対象は最高のライバルとまで言われていた古今亭志ん朝師匠でした。
年齢では志ん朝師匠のほうが二つ年下でしたが、談志より5年遅れて入門したにもかかわらず、真打ち昇進についてはなんと談志より1年早いという逸材でした。しかも出自はと言うと父親が昭和の大名人とまで謳われた志ん生師匠の次男、つまりサラブレッドでもありました。
5年そこそこで真打ちにまで駆け上がってゆく志ん朝師匠に対して、談志は激しい嫉妬心を抱きました。志ん朝師匠の方に先に真打ち内定の声がかかった時にはその悔しさから「早すぎる! 断れ!」とまで本人に迫ったとのことでした。それに対し志ん朝師匠も志ん朝師匠で、談志に向かって「いや、アニさん、俺は実力で昇進したと思っている」と言ってのけたといいます(いやはや天才同士ですね)。
その後この二人はそれ以後の落語界の屋台骨を背負い続けることになりますが、その行く末はとても対照的でありました。志ん朝師匠は古典の王道から離れることなくひたすら正統派の道を邁進しますが、談志はその後、落語家として初めてのベストセラー『現代落語論』を著し、落語の理論化を唱え、さらには国会議員にまでなり、しばらくして落語協会から離れて立川流創立へと舵を切ってゆきました。
■悔しかったら前向きなエネルギーに変えろ
正反対のような二人の天才でしたが、この軌跡を俯瞰で見つめると、談志が「嫉妬」を前向きなエネルギーへと変換させ続けてきたからではと推察できないでしょうか?
談志が落語協会に居座り、ずっと自らが定義した「嫉妬」に縛られ続けていたのならば、立川流はできなかったはずですし、もし立川流ができなかったら、我らが一門は生まれなかったはずです。
ここで、冒頭からの話を持ってきます。
今談志が生きていたなら日本人の宿痾ともいうべき「嫉妬」について「悔しかったら前向きなエネルギーに変えてみろ。そこにしか活路はない」とハッパをかけるはずなのではと確信します。実際、他の一門で、私より先に昇進した落語家を挙げ、私に向かって「お前、悔しくないのか!?」と詰問されたことがありました。
誰もが抱く宿業のような「嫉妬」を、前進するための燃料へと転換……なんてなかなかできないのが人の常でしょう。せめて談志の爪の垢でも煎じるかのように、あの「嫉妬の定義」だけでも念仏のように唱えてみましょうよ。「前向きなエネルギー」にはできなくても、少なくとも「ブレーキ」にはなるはずです。
そう思う人たちが一人でも増えてゆけばきっと、この国はもっと住みやすくなるような気がします。談志を見習いましょう。詳しくは、私の談志関連本をお読みください(笑)。
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立川流真打・落語家
1965年、長野県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。ワコール勤務を経て、91年立川談志に入門。2000年二つ目昇進。05年真打昇進。著書に『大事なことはすべて立川談志に教わった』など。
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(立川流真打・落語家 立川 談慶)
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