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「99点は0点と同じ」大坂なおみ、深田恭子…頑張る人ほど自分を潰す"危うい思考癖"

プレジデントオンライン / 2021年6月25日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SIphotography

うつ症状に悩む人が増えている。精神科医の和田秀樹さんは「テニス選手の大坂なおみさんが苦しむうつ病や、女優の深田恭子さんのように適応障害を訴える人には『かくあるべし』『完全主義』の思考の持ち主が多い。『まあ、いいか』という気持ちを持てる人のほうがストレスに強い」と指摘する――。

■テニスの大坂なおみ選手と女優の深田恭子さんが苦しむ「心の不調」

プロテニスプレーヤーの大坂なおみさん(23)が東京オリンピックのテニス日本代表に決まった。

彼女は5月30日に開幕した全仏オープンで精神的負担を理由に1回戦勝利後の会見を拒否して罰金を課せられ、2回戦を前に、長らくうつ病に苦しんでいたことを告白して大会を棄権している。

このうつ病が、彼女の思い込みではなく、本当にその症状があるとすれば、オリンピックに間に合わない公算が大きい。もちろん、全仏1回戦で勝てたように、うつ病でもある程度の活躍はできるかもしれないが、五輪でもメディア取材の殺到は必至であり、精神的な負担も高まる。金メダルとなるとこれが治っていないとかなり困難だろう。

大坂さんとちょうど同じような時期に、女優の深田恭子さん(38)が適応障害という診断を受け、当面の間活動休止することを発表した。

うつ病と適応障害は似た症状もあるが、分類的には異なる病気である。

うつ病は、2週間以上抑うつ気分や不眠、食欲不振などの症状が続く。一方、適応障害は、ある種のストレス状況下でうつ病に似たような症状が出るが、特定の状況でない場面(たとえば家に帰った後)では、おおむね気分よく過ごすことができる。

この2人に関しては、ストレス状況やプレッシャーに起因する心の不調をきたしたのだろう、と私は考えている。

■同じ悪条件でも、心が不調になる人と全然平気という人がいる

今、プレッシャーに起因する(=ストレス因子)という言葉を使ったが、「ストレス因子」と「ストレス」は同じものではない。

ストレス因子は心理学の世界では、ストレッサーと呼ばれるもので、人間にストレスを生み出すものであり、ストレスというのは、それによって生じた心のゆがみのことである。

たとえば、ブラック企業のような長時間労働や、口うるさい上司などはストレスではなくストレッサーということになる。

それによって、心が不調になったらストレスということになる。というのは、同じストレッサーのもとでも、心が不調になる人もいれば、全然平気という人もいるからだ。

ただ、ここで誤解されてはいけないのは、同じストレッサーのもとでストレスが生じない人は心が強く、生じる人が弱いというわけではないことだ。

大坂さんの会見拒否についても、当初はプロだから会見するのが当たり前とか、ほかの選手はそれほどのストレスを感じずにやっているではないか、といった意見も少なくなかった。実際、主催者側は罰金を課し、4大大会を通じて追放する可能性にまで言及した。

■「かくあるべし思考」「完全主義」はうつ症状を引き起こしやすい

現在の精神医学では、同じストレッサーを受けた際、強い心の変調をきたしたり、逆にそれほどひどい心の変調をもたらさなかったりするのは、ものの見方、受け止め方の違いによるとされている。

現在、うつ病のカウンセリングの主流となっている認知療法は、うつになりやすい認知パターン・思考パターンを、なりにくいものに変えていくことを基本コンセプトにしている。

心に悪い思考パターンの一つに、「かくあるべし思考」とか「完全主義」というものがある。もちろん、こうした自分に厳しい姿勢があるから大坂さんも世界のトッププレーヤーになり、深田さんも長年トップスターでいることができたという側面はある。

しかし、自分は常に勝たないといけないとか、誰からも称賛される演技をしなければならないとかいった「かくあるべし」があると、プレッシャーのほうもどうしても強くなる。

そこで、たとえば治療場面では「あなたは一流選手で身体能力も高いから多くの試合に勝てるけど、たまに負けるのは自然なことだと思うよ」とか「人間、一人ひとり受け止め方が違うから、誰もが認めるなんてことは不可能だと思うよ」のような形で、完全主義やかくあるべし思考を緩和していく。

■100点でなければ許せない、だから99点でも0点と同じ

「かくあるべし思考」「完全主義」の思考パターンに「2分割思考」が加わると、さらにうつ病になりやすくなるとされている。

2分割思考というのは、味方でなければ敵、正義でなければ悪、というふうに物事に中間を認めず、2つにすっぱり分けてしまう思考パターンだ。

この場合、たとえば味方と思っていた人が、ちょっと自分の批判をしただけで、敵になったと思ってしまう。100%味方なのが80%になったとは考えない。

ブルズアイに的中したダーツの矢
写真=iStock.com/AZemdega
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/AZemdega

だからうつになりやすいわけだが、それ以上に完全主義者が2分割思考も併せ持っている場合、100点でなければ許せないわけだから、99点でも0点と同じように感じてしまう。

これはものすごいプレッシャーになるし、うつになりやすいのは言うまでもない。

私は医療の傍ら、長年大学受験の指導をしているが、満点主義より合格点主義(合格最低点を取ることが目標)にしたほうが不思議と合格の確率も高まり、受験の際のプレッシャーも緩和でき実力を発揮しやすい。

わが国の最難関・東京大学の理科3類(医学部)の場合、大学共通テストのあとの個別(2次)試験は難しい問題が多いとはいえ、440点満点中290点(正解率約66%)とさほど高得点でなくても合格できる。

■「まあいいや」と肩の力を抜いたほうがストレス耐性が高まる

私の見立てでは、受験勉強であれ、スポーツの世界であれ、ある時期までは完全主義を自らに課したほうが伸びる。だから、どの世界でもエリートの多くは完全主義者であり、「かくあるべし思考」が強い人が多い。

しかし、相対的に重い責任を負う仕事をしたり、実力レベルの高い世界に所属したりする人ほど、大坂さんや深田さんのように壁にぶち当たることが多い。その際、壁を乗り超えようと試みるのは立派なことだ。しかし現実問題としては、自分の能力の限界を自覚して、「これだけできているから、まあいいや」と肩の力を抜いたほうがストレスに対する耐性は強くなる。

そのほか、いろいろな決めつけや思い込みを持っていると、感じるストレスはより強まり、うつにもなりやすくなる。

「会社をクビになったら人生終わり」「この仕事ができなかったら自分はもうチャンスがない」などと決めつけていると、仕事のプレッシャーはどうしても高いものになる。

「会社をクビになっても、ほかに生きる道があるはず」「この仕事ができなくてもクビになるわけでない」……そうやって気楽にかまえたほうがうつにはなりにくい。

■「人に頼ってはダメ」「人に泣きつけない」思考パターンは危うい

もう一つ、うつになりやすい思考パターンに、「人に頼ってはダメ」「人に泣きつけない」というものがある。

『VOGUE JAPAN』2021年8月号
『VOGUE JAPAN』2021年8月号

ストレスに強い人間というのは、実は、素直に人に頼り、人に泣きつける人間である。与えられた仕事は自分には荷は重すぎて、どれだけ残業すればいいかわからない状況になったとき、「ちょっと僕には能力の限界だから」と、素直に人に助けを求めたり、泣きつけたりする人間であれば、少なくともつぶれることはない。

そこで人に頼ることで難局を乗り切った経験があれば、次からも素直に人に頼れるし、いろいろなストレス状況下でも生き残っていける。

ところが、人に頼るなんて情けない、どうせ誰も助けてくれない、という不適応な思考をもっていると、個人の限界を超えた仕事で、心がつぶれてしまうということがままある。

和田秀樹『ストレスの9割は「脳の錯覚」』(青春新書INTELLIGENCE)
和田秀樹『ストレスの9割は「脳の錯覚」』(青春新書INTELLIGENCE)

大坂さんや、深田さんがその手の思考パターンにいたかどうかは、本人の診察をしたわけではないからわからない。

ただ、そうしたメンタリティーだったとすれば、周囲の期待が大きくなればなるほど、精神的なストレスは大きなものになるだろうし、うつ病や適応障害になったとしても不思議ではない。

少なくとも読者の皆さんは、この手の思考パターンに当てはまっていないか自問してそこから抜け出すことが精神的なサバイバルに役立つことは知っておいて損はない。

以上のような不適応思考とその対応法をまとめた『ストレスの9割は「脳の錯覚」』(青春新書INTELLIGENCE)という本を出したので、参考にしていただければ幸いである。

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和田 秀樹(わだ・ひでき)
国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。

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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)

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