世界的にみて異質「なぜ日本の家庭では妻が財布の紐をにぎるのか」
プレジデントオンライン / 2021年6月30日 8時15分
■家計「妻管理型」が35カ国中トップ
日本では、家計に関してよく「妻が財布の紐をにぎっている」と言われます。家計は資産と所得で構成されていますが、ここでいう「財布」とは所得のほう。そして「紐をにぎる」とは、日常的な家計管理業務を行っていたり、何にお金を使うかという決定権を持っていたりする状態を指します。
そして、日本の家庭に多いのは「財布=夫、紐をにぎる=妻」という形。家計管理は妻で決定権は夫というケースもありますが、いま何にいくらお金を使うべきかは、日常の収支を管理している人のほうがよくわかっているものです。そのため、この場合もやはり妻の発言権が大きくなる傾向にあります。
では、海外ではどうなのでしょうか。日本では一つの財布(所得)を共有する夫婦が多いのに比べ、欧米ではこのやり方は必ずしも一般的ではありません。
実際、2012年に行われた家計管理の国際比較データ(ISSP-2012)を見ると、日本は妻が家計を管理して夫に小遣いを渡す「手当(妻管理)型」が55.7%と、半数以上にのぼっています。これは調査が行われた35カ国の中では断然トップです。50%前後なのは、ほかに韓国とフィリピンのみで、最小値のスウェーデンに至ってはわずか1.9%となっています。
![【図表2】「妻が財布の紐を握る国」ランキング(13位~24位)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/a/3/670/img_a3585231aa4120de34d008e9e046e92c518054.jpg)
![【図表3】「妻が財布の紐を握る国」ランキング(25位~)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/e/8/670/img_e894fce0fceb12fc8983a9fea365c30d485303.jpg)
■欧米では「共同管理型」が主流
逆に、夫が家計を管理して妻に小遣いや生活費を渡す「手当(夫管理)型」は、日本は17.3%と少数派。このタイプは海外のほうが多い傾向にあり、特にトルコやメキシコ、韓国など夫の権力が強いとされる国では高い割合になります。
![家計](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/6/c/670/img_6cfad031fc5d65553635df008d92200a542107.jpg)
一方、欧米では上記2つのタイプは少なく、家計を互いの所得から出し合って一緒に管理していく「共同管理型」が主流です。2012年時点で50%以上にのぼっている国も多く、この傾向は共働き家庭が増えるにつれてますます強まっていくと考えられます。
ところが、日本も共働き家庭は少なくないはずなのに、「共同管理型」は35カ国中最低の11.2%。「妻管理型」が圧倒的に多く「夫管理型」が少ないことも考えあわせると、日本の家計管理スタイルは非常に特徴的であり、海外とはまったく違うということがわかってきます。日本は、家計管理に関してはかなり珍しいタイプの国と言えるでしょう。
■日本の「異質さ」は随所に
実は国際比較データを見ていると“日本の異質さ”によく遭遇します。さまざまな調査で、日本だけ海外とは違った数値・特徴になることが多く、まさにガラパゴスの国だなと実感することもしばしばです。なぜこうした結果が出るのかと、社会学者としては興味がつきません。
日本でも、多くの家庭が農業などの家業で生計を立てていた頃は、夫管理型がもっと多かったはずです。現在でも、自営業の家庭だと夫管理型が多くなる傾向があります。しかしその後、夫が会社で働き妻が家事育児を担う「専業主婦社会」に移行し、仕事で忙しい夫に代わって妻が家計管理をするようになりました。これがやがて慣習になり、それが共働きが増えた今でも続いているのではないかと思います。
こうした家計管理のありかたは、一見、妻にとってメリットが大きいように思えます。「夫が稼いで妻が消費する」と言われる通り、昼間のデパートに男性はほとんどいませんし、夫が仕事先でワンコインランチを食べている間、妻は友人とホテルランチという話もよく聞きます。
また、「小遣いが少ない」という愚痴も、夫側からはよく聞きますが、妻側からはあまり聞こえてきません。これらはある程度収入のある家庭に限った話かもしれませんが、妻にとっては、「主婦」の位置を確保しつつ財布の紐をにぎることが居心地のいい環境につながっている可能性はあるでしょう。
■女性の「一家を支える意識」が夫のストレスを下げる
しかし、こうした状況はデメリットも生み出します。「働かなくても家計を自由にできるなら働きたくない」と考える人が多ければ、女性の社会進出の伸びは頭打ちになってしまいますし、そうなれば男は仕事、女は家庭という旧態依然とした意識が、いつまでも残っていくことになります。
日本では、女性はたとえフルタイムで働いていても、自分の所得が家計を支えているという感覚が男性に比べて薄いとされています。専門的には「生計維持分担意識」と呼びますが、家計における妻管理型は、これに拍車をかけていると言えるでしょう。
海外のように家計を共同管理型にすれば、こうした分担意識は徐々に薄れていくはずです。これには、女性の社会進出以外の点でもメリットがあり、妻が「私の稼ぎも(夫とともに)一家を支えている」と考えている家庭では、夫のストレスが低いということが研究から示唆されているのです。
稼ぎ手であることにストレスを感じる男性は少なくありません。そうしたストレスを分散させる意味でも、共同管理型は非常にいい方法だと思います。
■時間をかけて共同管理型へ
今後、日本の家計管理のありかたは変わっていくのでしょうか。今のところ、夫管理型や共同管理型へと変わるような要素は見当たらず、家計も含めて完全に財布を別にする「個別型」も7.1%と少数派。今後もそれほど普及するとは思えません。
しかし、個別型は海外でもそれほど多くはなく、やはり共同管理型が主流になっています。日本が変わるとすれば、私はこの共同管理型へと時間をかけて進んでいくのではと考えています。
互いの収入の一部を家計に入れて一緒に管理し、残りは共有資産としてプールしたり、自分専用の財布に入れたりしていく──。そうした夫婦共同で財布の紐をにぎる形が、共働き家庭において普及することを期待しています。
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立命館大学教授
1970年福岡県生まれ。93年一橋大学社会学部卒業、99年同大学大学院社会学研究科博士後期課程満期退学。主な研究分野は家族社会学、ワーク・ライフ・バランス、計量社会学など。著書に『結婚と家族のこれから 共働き社会の限界』(光文社新書)『仕事と家族 日本はなぜ働きづらく、産みにくいのか』(中公新書)などがある。
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(立命館大学教授 筒井 淳也 構成=辻村洋子)
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