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精神科医の反省「うつ病がなかなか治らないのは、医師がすぐに薬に頼るからだ」

プレジデントオンライン / 2021年7月4日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Ca-ssis

うつ病の治療は長期化しやすい。それはなぜなのか。精神科医の亀廣聡さんは「医師がすぐに薬に頼るからだ。私のクリニックでは抗不安薬と睡眠薬はいっさい使わない。抗うつ薬投与は、この8年間で2症例だけ。患者に『薬漬け』を強いる治療を続ければ、精神科医療はやがて社会から見放されるだろう」という――。(第2回/全2回)

※本稿は、亀廣聡・夏川立也『復職後再発率ゼロの心療内科の先生に「薬に頼らずうつを治す方法」を聞いてみました』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

■科学的データと呼べば聞こえはいいが……

近年、臨床現場において「患者さんのストーリー」を社会資源として活用しようという動きがはじまっています。この患者さんの紡ぐ“ストーリーと対話にもとづく医療”は「NBM(Narrative Based Medicine)」と呼ばれており、生活習慣を把握し、患者が抱える種々の問題、個人の背景や価値観を共有するといった患者さん目線の治療が重視されます。

闘病記と呼ばれる書籍のなかにもNBMの原形を見出すことができます。また、古来漢方の伝承においては“口訣(くけつ)”と言って、その秘訣(ひけつ)が口伝えにより大切に伝承されてきました。まさに漢方薬は「NBM」の結晶そのものと言えます。

一方、従来の精神科医療は「EBM(Evidence Based Medicine)」が基本となっています。「EBM」とは科学的根拠にもとづく医療のことで、「科学的根拠(エビデンス)」「医師の経験・知見」「患者さんの価値観」の3要素を総合的に判断して治療方針を決める医療モデルを指します。

しかし、この「エビデンス」というものが“くせ者”なのです。効率的で高精度な医療のためにエビデンスは有効ではありますが、それは一般論・確率論にすぎず、すべての患者さんにあてはまるわけではないという問題を内包しています。それに、科学的データと呼べば聞こえはいいですが、数字は見ようによって変わるものです。悪意はなくても、エビデンスの目的が“薬”の販路拡大だとしたら恐ろしいことです。

■相互に補完しあうべき「NBM」と「EBM」

「NBM」は、「EBM」の3つの要素のひとつ“患者さんの価値観”へのアプローチとも言えます。「EBM」と「NBM」は対立ではなく補完し合うべきもので、患者さん中心の医療の両輪であり、そのバランスこそが大切です。ところが実態はエビデンス一辺倒の医療が氾濫しているように思えます。

「EBM」が大量生産されたファストファッションや既製品だとしたら、「NBM」はそれぞれのクライアントに合わせてつくり上げる、いわば「ビスポーク」だと言うと少し言いすぎでしょうか。

ただし患者目線の尊重と言っても、それは患者さんにおもねってばかりいるということではありません。甘言(かんげん)を弄(ろう)して患者さんをありのままで認めようとする、そんな医療のあり方では気分障害の寛解は望めません。

「ありのままを受け入れる」とか「自由意志の尊重」などということは、人が健康な状態である場合には然るべきことですが、不健康な状態である患者さんに対しては、そのままの状態で放置することにつながりかねません。それでは“病み終えない人たち”を生み出しかねないのです。

■精神科医療は「病み終えない人たち」を生み続けている?

2008年7月、福岡で開催された第5回うつ病学会のクロージングセッションを、私は今でも鮮明に覚えています。

演者は精神療法の第一人者であり稀代の治療者、指導者である神田橋條治(じょうじ)先生です。神田橋先生の姿を間近で見られることなんてめったにありません。最前列に近い席に陣取ると、目の前にはうつ診療や研究の第一人者である、坂元薫先生、井原裕先生、内海健先生、田島治先生、宮岡等先生といった、憧れの先生方の後ろ姿が見えます。まるでビートルズとストーンズとエルヴィスを一度に視界に入れるようなものです。

そんな感動のなか、登壇した神田橋先生は、静かに、しかし力のこもった声でこうおっしゃいました。「この2日間、うつ診療に関連する講演が多数行われたが、どれひとつとして治療終結をどうやって迎えるのかという内容のものがなかった……」

この言葉に、私は強烈なインパクトを受けました。自分自身も含め、現在の精神科医療は“病み終えない人たち”を生み続けているにすぎないのではないか……。この日から「治療終結をどうやって迎えるのか」、このフレーズが私の精神科医としてのテーマとなりました。こうして復職後再発率0%を目指す戦いがはじまったのです。

■薬に頼らず、生活習慣と考え方を変える

当院では、抗不安薬と睡眠薬はいっさい使いません。抗うつ薬投与は、この8年間で2症例だけです。気分安定効果が期待できる、非定型抗精神病薬や気分安定薬を一時的に使うことはあっても、最終的には漢方薬だけに絞り込みます。漢方薬の力を借り、生活指導を徹底的に行い、脳のコンディションを整え、認知を整えるためのコーチングを行います。そして対人関係に焦点をあてた具体的な介入を行います。

渓谷に木々の隙間から差す光
写真=iStock.com/EW_photo
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/EW_photo

「漢方薬だけで治るんだろうか? 生活習慣や考え方を変えるというだけで本当に今のつらさから解放されるんだろうか?」

自らが選んだはずの“薬に頼らない治療”なのに、治療の初期段階においては、必ずこう疑ってしまう時期があるのです。そんな迷いを消し去ってくれるのは、グループセラピーに参加する多くの先輩患者さんの存在です。彼らの回復を目のあたりにして、迷いがなくなっていくのです。そして“治療終結”に向かって自ら舵を切り、自らのモチベーションを動力として進んでいくのです。

■「復職後再発率0%」という圧倒的効果

当院での治療後、復職時によく起こる象徴的な出来事をご紹介します。

患者さんの職場の上司や産業医などは、よくこう言います。

「薬なしで、生活指導や呼吸法で病気が治るなら苦労しないよ」

再発必至だと彼らは思うのです。生活指導やコーピング、認知行動療法といった非薬物療法に対する世間一般のとらえ方はその程度にすぎないのです。

産業医が精神科医の場合は、その傾向はもっと強まります。

「漢方薬だけで病気が治せるか! それで治るなら苦労しない! ちゃんと薬飲め!」

復職時面談で患者に突然怒り出す精神科産業医もいました。患者さんは当然ながら困惑することになります。長く厳しい治療に耐えて、ようやく主治医である私から復職許可が出たというのに、褒めてもらえるどころか、思わぬ攻撃を受けるのですから……。

ところが復職後、1年、2年と経過するうちに、精神科産業医が「君の飲んでいた漢方って何だったっけ?」と尋ねてきたり、人事課長が「君の通っていたクリニックに○○君も受診させたいと思うんだが」と言い出したり、会社の食堂で上司から突然「じつは、うちの娘も精神科へ長い間通院しているんだが、なかなかよくならないんだ……」と相談を持ちかけられたりするようになるのです。

治療終了後1年以上経って、職場がやっと治療効果に気づきはじめます。そして従業員を大切にしている会社は、第2、第3の患者さんを当院へ送ってきます。こうして当院は少しずつアライアンス企業を増やしてきたのです。

■多数の人々が薬に頼らず寛解に至っている事実

一方で、産業医が内科医など非精神科医の場合は、しばしば従業員が紹介され当院を受診します。笑い話に聞こえるかもしれませんが、当院に製薬会社の社員が営業に来ることはありませんが、こっそり患者として受診することはよくあるのです。

誤解なきようつけ加えておきますが、精神科産業医のなかにも当院の治療方針に共感してくださる先生はいらっしゃいます。長年安定就労できていない職員に、こっそり当院への相談を勧めてくださったり、復職後も職場で呼吸法を指導してくださったりするのです。しかし、このような例はまだまだ本当にわずかなのです。

亀廣聡・夏川立也『復職後再発率ゼロの心療内科の先生に「薬に頼らずうつを治す方法」を聞いてみました』(日本実業出版社)
亀廣聡・夏川立也『復職後再発率ゼロの心療内科の先生に「薬に頼らずうつを治す方法」を聞いてみました』(日本実業出版社)

先日、日本うつ病学会が、働く双極性障害の患者さんの治療体験記を、学会フェロー医師に対して募集しました。学術学会がこのような取り組みをすることは、過去になかったように思います。これは、まさに前述の「NBM」の応用になるものと期待しています。

当院からも多くの患者さんにご協力いただき、提出させていただきました。体験記を読めば、医師がどんな治療を行って、その結果がどうなのか一目瞭然です。

当院の患者さんの共通点は、その多くが最終的に漢方薬以外の薬を使っていなかったという点です。漢方薬で治るというエビデンスはない、という専門家もいるかもしれません。しかし1~2例ではなく全症例が、同じ治療を受けて同じ結果となっているのです。多くの患者さんが、薬に頼らず寛解に至っているという事実は誰にも否定できません。まさに“The proof is in the pudding.(編集部注:プディングの味は食べてみなければ分からない=「論より証拠」)”なのです。

もちろん、私は精神科医療のすべてを否定しているわけではありません。既に医療崩壊を起こしつつある現場において、今この瞬間も身を削るような思いで臨床・研究に取り組まれておられる先生方を尊敬しています。それに、来る患者さんを断らない医療の大変さは、過去に私自身が身にしみて知っていることでもあります。

しかし精神科医療批判は、すでに外部から静かに確実に精神科医療の世界に染み込んできているのです。このままでは精神科医療が社会から何も期待されなくなるのではないかという危機感を覚えるのです。

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亀廣 聡(かめひろ・さとし)
ボーボット・メディカル・クリニック院長
精神科医。日本うつ病学会双極性障害委員会フェロー、日本医師会認定産業医、日本精神神経学会認定精神科専門医、精神保健指定医。うつ診療の構造化と休職者リワークを先がけて試行。2013年リワーク専門の心療内科「ボーボット・メディカル・クリニック」を設立、薬に頼らない治療モデルを展開。約8年間で200人以上の復職者を支援し、現在もなお再発、再休職率0%を維持している。現在30数社の企業、団体とアライアンス契約を結び、企業のメンタルヘルスの主治医として活躍している。

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(ボーボット・メディカル・クリニック院長 亀廣 聡)

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