「金ピカのメジャーと激安麺」に隠されたワークマン、業スー絶好調の秘密
プレジデントオンライン / 2021年7月2日 8時15分
■業務スーパーとワークマンの共通点
こんにちは、桶谷功です。今回はスーパーマーケットの「業務スーパー」と、作業服の「ワークマン」について、マーケティングの観点から解説します。
「業務スーパー」と「ワークマン」。どちらも今、大人気ですね。
業務スーパーを運営する神戸物産は、2021年10月期の業績予想を発表。連結純利益は前期比33%増の200億円。最高益を更新する見込みです。
ワークマンも2021年3月期の営業総収入は、前年比14.6%増の1051億円、純利益は27.5%増の170億円と、いずれも過去最高を記録しています。
このようにいま絶好調の2社ですが、ここにはある共通点があります。それが何か、わかりますか?
そう。どちらも、プロ向けであるところです。
業務スーパーは「プロの品質とプロの価格」と謳っている通り、個人で飲食店を営んでいる人たちも仕入れに来るところ。だから普通のスーパーで売っている食材よりも、1パックの量が多い。でも、そのぶん割安です。
ワークマンは、建設現場や工事現場で働く人たちの作業服や安全靴のお店です。しかし近年はそれだけにとどまらず、「ワークマンプラス」「#ワークマン女子」など、一般向けにも進出し、成功を収めている。
■「中身重視」をブランドにまで高めた
マーケティングの観点からいうと、両者の共通点は、「中身重視」の姿勢をブランドにまで高めたところにあります。たとえば「業務スーパー」は一般名称のように聞こえますが、店名を聞いただけで「プロの料理人が仕入れに来るんだから、いいものが安く売られているんだろうな」という連想がすぐにはたらく。そのブランドネーム自体に、バリューが内包されているといえます。
ワークマンもそうですね。「肉体労働に従事する人たちが愛用するものだから、丈夫で長持ちする衣類が安く売られているに違いない」という連想がはたらく。そのあたり、中身重視と言いながら、うまくブランド名を使って価値を高めています。
■オリジナル商品がおもしろい
もうひとつ共通しているのが、両者とも、製造から販売までを一貫して行っていることです。いわゆるSPA(製造小売業)ですね。
「食」の分野でSPAをしているところは珍しいのですが、業務スーパーは自社グループ工場が25もあって、そこでPB(プライベートブランド)をつくっている。これが普通の商品に慣れた消費者からすると、斬新でおもしろいのです。
たとえば1リットルの紙パック入りのプリンやゼリー、杏仁豆腐のデザートなど、安さや量の多さに度肝を抜かれるような商品が多い。いまはコンビニやスーパーでもPBをつくっていますが、業務スーパーのような「おもしろい」商品は、ほとんどありません。
PBではありませんが、有名な「19円麺」(※1)シリーズの価格には驚かされます。
※1:税込みでは20.52円。店舗により取扱いや価格が異なる
また業務スーパーの店内にはダンボール箱がそのまま陳列されていて、そんな中で見たこともない輸入食材を見つけるのは、宝探しのような楽しさがある。店内の装飾にまったくお金をかけていないにもかかわらず、「ショッピングとはエンタメだ」ということを思い出させてくれるのです。
■なぜワークマンプラスに「金ピカのメジャー」が?
いっぽうワークマンもSPA売上比率が59.7%と高いので、ここにしかないユニークな商品がたくさんあります。たとえば炎天下で肉体労働をする人のためのファンつき作業服や、作業服を裏返すとスーツになるウェア。「あのワークマンが、スーツ?」という驚きもさることながら、ふだん作業服を着ている人が、急にスーツを着なければいけなくなったときでも、いま着ている服を脱いで裏返すだけでいいというのは画期的です。
また私が「さすが」と思ったのが、一般向けの「ワークマンプラス」の店頭に、建設現場などで働く職人さん向けの「メジャー」が置いてあって、しかもそれが金ピカだったこと。職人さんたちの中には、金の太いネックレスをしている人たちがいますが、この金のメジャーはそれとコーディネート的に響き合う。
「やっぱり、もともとのターゲットである職人さんたちのことを忘れていないんだな」と、ちょっとジーンとしてしまいました。
ワークマンはいま一般向けのカジュアルウェアが好調ですが、あまりにもそちらのほうに走ってしまうと、もともとのターゲットだった職人さんたちが離れていく。いちばん大事にしなければいけない、根幹の部分がずれてしまいます。そこはちゃんと、消費者の気持ちをわかっているのです。
■お客さんは、いくらだったら驚くか
業務スーパーとワークマンは、どちらも「低価格」が魅力のひとつ。自社で企画から販売までを一貫している両者だからこそ、低価格が実現できているのでしょうが、私はおそらく「これはいくらで売る」というように、価格を先に決めているのではないかと思います。
一般的に商品の値付けは、原価に利益を足す「積み上げ式」で決めていきます。しかし私が一時期関わっていた安いことで有名な某メーカー小売では、「これがいくらだったら、お客さんは驚くのか」という発想で、先に価格を決めていました。
消費者がびっくりするということは、今まで世の中になかったということです。常識的に考えれば、そんな値段でつくれるわけがありません。「この値段でつくれ」と言われた担当者は、椅子から転げ落ちるくらいびっくりしていましたが、トップが「少し安い程度の値段だったら世の中に出す意義がない」と言う以上、つくるしかない。担当者は小さなパーツの一つひとつを見直して調整を繰り返すことで、目標の価格を実現していました。
■実質本位のコスパ重視
こんなふうに業務スーパーやワークマンも、値段を先に設定しているのではないでしょうか。
最近の消費者は「実質本位のコスパ重視」。安くていいものを求めます。その点、業務スーパーもワークマンも「プロ向け」なので品質は保証済み。だから業務スーパーで買い物をしても「節約している」という引け目を感じません。実際にプロの料理人らしき人たちがやって来て、大量の食材をぶら下げて帰る姿を見ていると、「目利きが選んだ、いいものを買っているんだ」と胸を張ることができるのです。
■広告より信憑性のあるクチコミの力
ワークマンと業務スーパーの更なる共通点は、消費者が自分なりに使い方を工夫して、それをSNSなどで発信していることです。
たとえばバイクに乗るのが趣味だという人が、SNSに「ワークマンの職人向けのレインスーツは、安くて丈夫で長持ちだから、ツーリングにぴったりです」と書く。あるいはキャンプが趣味だという若い女性が、「溶接工向けの『綿かぶりヤッケ』は、火の粉を浴びても服に燃え移らないから、キャンプに最適」と、自分がそれを着ている写真を投稿する。
このように企業側が意図しない意外な使われ方は、「お得な情報」としてインターネットの世界を駆け巡り、ときに商品が売り切れるほどのムーブメントを起こします。この動きに着目したワークマンは、ブロガーやインスタグラマー、ユーチューバーなどを「アンバサダー」に任命し、商品開発の際に意見を聞いたり、情報発信に務めてもらったりしている。
ワークマンにとって、アウトドアやスポーツウェアは専門外です。しかしアンバサダーの意見を取り入れれば、その分野での消費者のニーズをつかめる。さらに「三度の飯よりキャンプ好き」みたいな人に、「この袖に折り返しがあることで、雨が入ってこないんです」と言ってもらえれば、タレントが広告で薦めるよりも情報の信憑性が高い。
■情報発信するところまで楽しめる
業務スーパーのほうは、SNSで発信力のある人をアンバサダーにしたりはしていないようですが、「業務スーパーではこれを買うべき」「業務スーパーの大容量の冷凍野菜を使い切るにはこのレシピ」などの情報は、主婦のブログやインスタグラムでは、もはや定番ネタ。そこでは業務スーパーは「業スー」と略され、親しまれています。
安くて品質がいいのは、もはや当たり前。自分で工夫する余地を残し、情報発信するところまで楽しめる。これも業務スーパーとワークマンに共通する強みなのです。
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株式会社インサイト 代表取締役
大日本印刷、外資系広告会社J.ウォルター・トンプソン・ジャパン戦略プランニング局 執行役員を経て、2010年にインサイト社設立。初著『インサイト』(ダイヤモンド社)で、日本に初めてインサイトを体系的に紹介。商品開発・ブランド育成などのコンサルティングを行っている。
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(株式会社インサイト 代表取締役 桶谷 功)
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