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「いまEVを買ってはいけない」ドイツのランキングが示す"不都合な真実"

プレジデントオンライン / 2021年7月5日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/SimonSkafar

■EV比率が10%を超えたドイツ

ドイツの自動車メーカーはEV(電気自動車)の開発に熱心で、ここ数年の間に多くの新型車が発表されている。

ドイツ政府もEVの普及に積極的で、4万ユーロ以下のEVに対して9000ユーロの補助金を出している。購入時の補助金だけでなく、2030年まで自動車税を無料化、都市部における駐車料金の無料化、バスレーン走行の許可などの使用時のアドバンテージも与えている。

そのため統計を見ると、直近ではドイツの自動車市場におけるEVの比率は10%を超えるまでになっている。日本のEV比率は1%未満なのでその差は大きい(ただしハイブリッドも含めた電動車全体のシェアは40%弱で互角である)。

■3位テスラ3、2位ID.3、ではトップは?

ドイツではどのようなEVが売れているのか、車種別の販売状況を調べてみた。CleanTechnicaというサイトに今年1~5月のEV/PHEVの車種別販売台数ランキングが掲載されている。

フォルクスワーゲンが満を持してゴルフに代わる主力車種として売り出したID.3は2位、世界中で売れているテスラ3は3位にとどまっていて、1位はなんとフォルクスワーゲンのe-Up!。フォルクスワーゲンのラインアップの底辺をなすガソリン車のUp!をEVにした車である。

ID.3の航続距離250~550km、テスラ3の航続距離430~580km(グレードによってバッテリー容量が異なる)に対し、e-Up!は180~260kmと大幅に少ないにもかかわらず、である。航続距離が130kmしかないSmart FortwoもEVランキング5位と健闘している。

■ランキングが示す「消費者の現実的な選択」

「EVの最大の問題点は航続距離の短さ」といわれていたのではなかったか? それにもかかわらず航続距離の短いe-Up!がなぜ売れているのか? その最大の理由は、現実的なEVの使用目的であると私は考えている。

ちょっと古い2015年の資料になるが、電動車両関連の国際シンポジウム、EVS28で発表された資料によると、ドイツでのEVユーザーの多くは高所得で、遠出する場合はほかに所有している内燃機関の車を使用している。つまり、現在のEVユーザーは使用目的によって車を使い分けられる、自動車複数保有の人たちが主だ

車の使用場面の多くは短距離の通勤や買い物等で、それであれば航続距離は150kmもあれば十分以上だ。そういう使い方であれば、自宅で充電できるEVはガソリンスタンドに行く必要がなく使い勝手もよい。

都市部での使用なら、車体は小さければ小さいほどよい。ヨーロッパの都市部は道路端の縦列駐車が多く、大きい車だと駐車スペースを見つけるのに苦労するからだ。

■航続距離の長いEVは「現状では使いにくい」

さらに、現状では航続距離の長いEVを買っても、現実は使いにくいのである。

ドイツでのテストによれば、現在最も高性能なEVでも、速度110km/hの走行で現実的に走れる距離は400km程度である。アウトバーンらしくスピードを上げればより短くなり、暖房が必要で電池の効率も悪くなる冬場はさらに短くなる。

Ev-database.orgというサイトのデータでは、フォルクスワーゲンID.3の最高性能版の場合、季候が良い時の都市部での使用では660km走行できるが、高速道路では415km、冬場の高速では320kmしか走れないという。テスラ3のデータもほぼ同様の値だ。

この事実から、高速道路主体の都市間移動では出先での充電は必須と考えてよい。

現在ドイツで主流の50kWの急速充電器では、30分充電しても最大25kW分しか充電できない。現実的には車両側の保護回路が働いたりするため20kW程度しか充電できないだろう。

■ドイツ人の冷静な判断

ID.3高性能版は77kWhのバッテリーを搭載しているが、30分で4分の1程度しか充電できないわけだ。そのうえ航続距離の長いEVはバッテリーをたくさん積んでいるのでその分重くなり、消費電力も大きくなる。30分充電しても100km以下の航続距離しか稼げないのだ。そうなるとかなり頻繁な充電を強いられることになる。

EVで遠出した場合は、大出力の急速充電器(まだ少ない)がある場所を探す必要があるが、ID.3の急速充電対応は最高性能版でも125kWまでなので、150kW以上の大出力充電器が見つかっても30分の充電では容量の3分の2程度しか充電できない。出かける前に綿密な計画を立てないと痛い目に遭うだろう。

こうして考えると、現時点でEVを買う場合、セカンドカーとして航続距離は短くても小さくて安価なe-Up!を買うのはきわめて合理的な選択なのである。

展示場のフォルクスワーゲン「e-up!」
写真=iStock.com/Sjo
フォルクスワーゲンのe-Up! - 写真=iStock.com/Sjo

補助金の額は一定なので、安い車のほうが価格的アドバンテージは大きくなり、e-Up!の場合はガソリン車のUp!にかなり近い金額で購入できる。前述の通り、都市部の足としては小さいe-Up!のほうが使い勝手も良く、ガソリン車に対して使用上の優遇措置もある。

さすがドイツ人、冷静な選択をしているのだ。

■日本でEVを買う経済合理性は…

翻(ひるがえ)って、現在日本でEVを買うことは合理的だろうか。

日本の場合、EV新車購入で最大80万円の補助金を得ることができる。自治体によっては独自の補助金を出しているところもあり、たとえば東京都は60万円が出る。合計140万円もの補助金が出れば内燃機関車との価格差はかなり少なくなる。

しかし、問題は売却時だ。現在中古車市場でのEVは不人気で(バッテリーが劣化しているかもしれない中古EVを買いたい人が非常に少ないため)、値落ちが非常に大きい。電気代で節約した分などすぐに消し飛んでしまうような価格差である。

さらに5年後には現状のバッテリーよりはるかに高性能な全固体電池が市販化されているかもしれず、その際には旧世代バッテリーのEVの価値は大幅に下がってしまうだろう。

全固体電池でなくても、ここ数年でバッテリーの性能や価格は大きく改善される可能性が高く、旧型の下取り価格が大きく下がる可能性は非常に高い。つまり、いまEVを買う金銭的ベネフィットは全くない。さらにはドイツとは異なり、日本では使用時におけるEVの優遇措置もない(低燃費ハイブリッド車と同じ扱い)。

■マツダやホンダのEVが「小さめのバッテリー」である理由

結果的に割高な買い物になったとしても地球環境を重視してEVを選びたい、という人もいるかもしれない。

確かにイメージ的には一切排気ガスを出さないEVは環境に優しいように感じる。しかし現実はかなり異なるのだ。現在のEVに使われているリチウムイオン電池の製造には多大な電力が必要で、その電力が火力発電の場合、製造過程で大量のCO2を発生してしまう。

マツダの試算では、日本で製造する場合35kWh程度のバッテリー容量に抑えることでようやくガソリン車に対するアドバンテージが生まれるという。

マツダの試算はやや厳しめのようなので、実際はもう少し大きくてもアドバンテージはあると思われるが、テスラのように70kWhを超えるような巨大なバッテリーを積んだEVは、生産から廃棄まですべて考えた場合通常の内燃機関の車より多くのCO2を排出してしまうのである。

マツダだけでなくホンダのEVも小さめのバッテリーを搭載しているが、この事実をふまえての判断と思われる。

■環境負荷が小さいのは「小型・軽量・小容量」のEV

このように、真に環境のことを考えるならば、EVを選ぶならできるだけ小型軽量のものにしなくてはならない

現在日本で売られているEVは欧米に引きずられてファーストカーで使えるような比較的立派なサイズのものが多いが、それでは地球環境に貢献しない。本来あるべきEVとは、遠乗りは最初から想定しない小型のものだろう。

山崎明『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)
山崎明『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)

それならバッテリーは小容量のもので済むし(=生産時のCO2排出を抑えられる)、走行時の消費電力も小さく、真に環境に優しいEVとなるだろう。自宅で充電しその範囲だけで運用すれば、外部での充電施設の不足も気にならない。短距離走行だけなら電力消費量も限定的で済む。

トヨタが来年一般的に発売(現在は法人や自治体向けにのみ販売)する超小型EVのC+podは1つの回答だ。この車は軽自動車よりもさらに小さい、国交省が新たに制定した「超小型モビリティ」という新しい規格に合わせて作られている。2人乗りで最高速度は60km/hに制限され、高速道路は走れない。

しかし現状では普通免許が必要で税制上は軽自動車と同じ扱いになるため、普及は限定的にならざるを得ないだろう。このあたりは税制や免許制度の改定を期待したいところだ。

■ベストアンサーは「軽のEV」なのか?

日本の現状を考えると、理想は軽のEVではないだろうか。

残念ながら軽自動車唯一のEVだった三菱i-MiEVは今年3月で生産中止になってしまった(商用車のミニキャブ・ミーブは継続生産されている)。2009年の発売ですでに10年以上経過した車種のため致し方ないが、それに続く軽EVは登場していない。

三菱「I-Miev」
写真=iStock.com/Tramino
三菱i-MiEVは今年3月で生産中止に - 写真=iStock.com/Tramino

日産と三菱が開発中らしいが、最新技術による最新の軽EVの登場を期待したいところである。

繰り返しになるが、現在の火力を中心とした発電構成のままいたずらにEV(とくに大型・高性能EV)を増やすことはCO2削減に貢献しないだけでなく、電力需給の逼迫(ひっぱく)を招きかねない。その時点での現実的な最適解を探りながら、メーカーは商品供給し、消費者は賢く選択する必要があると思う。

現状の日本では軽以下の小型車であればEVも選択肢に入るが、それ以上の車はハイブリッドが最適解なのではないだろうか。

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山崎 明(やまざき・あきら)
マーケティング/ブランディングコンサルタント
1960年、東京・新橋生まれ。1984年慶應義塾大学経済学部卒業、同年電通入社。戦略プランナーとして30年以上にわたってトヨタ、レクサス、ソニー、BMW、MINIのマーケティング戦略やコミュニケーション戦略などに深く関わる。1988~89年、スイスのIMI(現IMD)のMBAコースに留学。フロンテッジ(ソニーと電通の合弁会社)出向を経て2017年独立。プライベートでは生粋の自動車マニアであり、保有した車は30台以上で、ドイツ車とフランス車が大半を占める。40代から子供の頃から憧れだったポルシェオーナーになり、911カレラ3.2からボクスターGTSまで保有した。しかしながら最近は、マツダのパワーに頼らずに運転の楽しさを追求する車作りに共感し、マツダオーナーに転じる。現在は最新のマツダ・ロードスターと旧型BMW 118d、1966年式MGBの3台を愛用中。著書には『マツダがBMWを超える日』(講談社+α新書)がある。

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(マーケティング/ブランディングコンサルタント 山崎 明)

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