「仕事上手の共通点」三流は妥協し、二流は論破したがる、では一流は?
プレジデントオンライン / 2021年7月25日 9時15分
※本稿は、山口真由『東大首席が教える 賢い頭をつくる黄金のルール』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■他人も自分も疑ってかかる
これからの「正解のない」時代を生きるには、わたしたちは自分の頭で考え、努力を続けていかなければなりません。ただ、そんなとき、自分の主張を強固にしてくれる意見や情報ばかりを求める人がいます。
でも、「正解のない」時代だからこそ、本来もっとも避けるべきは、バイアスのある意見や価値観のはず。そこで、現実に起きていることを客観的に把握し、分析し、的確に行動へ変えていくためには、どうしても全体を見渡す力=俯瞰力が必要になります。
「自分に有利な意見だけを拾っていないだろうか」
「多数の意見が正しいと思っていないだろうか」
「自分の考えに疑わしい部分はないだろうか」
「相手はこの問題を、どんな背景から見ているのだろうか」
そんなことを、一つひとつ自分の頭で問い続けることが、いま求められているのです。
このような姿勢を身につけると、みんなが気づかない課題を発見し、関係者全員が受け入れられる方法を導くことができます。みんなが発想できないイノベーティブなアイデアは、いま組織がもっとも欲しているものではないでしょうか。
努力はもちろん大切。でも、その方向性をまちがえると、視野が狭くなることもあります。自分の立場に添うものだけを拾わずに、つねに疑ってみること。他人だけでなく、自分でさえも疑ってかかること。
それが本当の意味での、「考える」ということではないでしょうか。
■自分を客観視する方法
自分の考え方や、拠(よ)りどころにしている価値観をいちど疑ってみるには、どうしても自分を「客観視」する必要があります。でもこれは、いうは易く行うは難しですよね。冷静になって自分を疑うのは、けっこう難しいことなのです。
そこで、わたしがよく使う比較的簡単な方法をご紹介しましょう。それが、「自分の感情を自分で叙述する」ことです。
たとえば、ひどい出来事があって心が乱れてしまったとき。そんなときは、「わたしはいまショックで混乱しているみたい」と、自分に語りかけてみるのです。すると、それだけで不思議と心が落ち着き、自分を客観視できる態勢が整っていきます。
また、文字にして紙に書き出すのも効果的。わたしは自分の感情が乱れたとき、どんなことも、まず1日置くようにしています。そして、自分が「おかしい」と感じることを紙に書き出します。
なぜ、いちいち書き出すかというと、実際に言葉にしてはじめて、「自分が不満に思っているだけ」なのか、「本当に相手やまわりがおかしい」のかを冷静に判断できるからです。
■感情が揺らぐ「原因」を把握する
じつは、わたしは自分のことを感情的なタイプだと自認しています。まわりからも、「山口さんって気分屋だよね」とけっこういわれます。
ただ、感情のままに振る舞っていては、仕事にも人間関係にも支障が出てしまいます。そこであるとき、「自分はどんなときに不機嫌になるか」を客観的に探ってみました。自分の感情が揺らぐ原因を分析すれば、対策できるにちがいないと考えたわけです。
すると、ご多分に洩れず、「睡眠不足」「仕事が立て込んでいる」という、ふたつのイライラの原因が見つかりました。さらに、イライラしたときにどうなるかという「状態」も分析。そして、「人の話を最後まで聞けなくなり、つい遮ってしまう」という悪いクセに気づいたのです。
ここまでわかれば、なんとか対策できそう。まず、先に書いたように、イライラしたときは「わたしはいま苛立っている」と、自分にいうことで冷静さを取り戻します。
次に、「でもその感情を相手にぶつけるのはフェアではない」と考えるようにしました。簡単にいうと、八つ当たりをしないようにと自分に語りかけるわけです。
そして最後に、人の話を遮るクセが出ないように、意識して人の話を最後まで聞き、あえてゆっくり話すようにしました。
つまり、自分の感情の揺らぎをいったん認めたうえで、それを自分の態度で打ち消したわけです。
感情だから仕方ないと思うのではなく、感情が生まれる原因や状態まで掘り起こしていく。この習慣をふだんから身につけていくと、自分を客観視する思考が育まれていきます。
■「論破」は賢明な手法ではないワケ
さて、自分が信じること、あるいは単純に意見を表明するとき、「自分の主張を通そう」とする人はたくさんいます。最近では、それが「論破」などと持ち上げられることもありますが、さほど賢明なやり方とはいえません。
「自分の主張を通す」ことの裏には、「相手の主張を退ける」意図があります。勝つか負けるか。正義か悪か。そんな二項対立から、建設的な解決はほとんど生み出せません。
「まちがっていることは、まちがっている」
そう語る人は、自分こそがまちがっている可能性に気づけないという、致命的な陥穽(かんせい)に陥っています。
そもそも、人間や組織同士の関係はもっと複雑なもの。あたりまえですが、関係者すべてをふたつの陣営にわけられるはずもなく、そこには対立のかげで苦しむ人がいたり、全員を出し抜こうとしている人がいたり、もっと別の動機を持つ人もいたりします。
要するに、「自分の主張を通そう」としても対立があおられるだけで、ものごと全体をさらに混乱させるだけなのです。
では、どうすればいいのか?
わたしの答えは、「全体がより良い結果を得る」ことを目指すこと。これは、妥協ではありません。そうではなく、相手の立場を理解し、互いの主張を少しずつ取り入れながらも、まったく新しい第三の道を探っていくということです。
このような視点を持つと、次元の高い解決策を生み出すことができ、個人でも組織でも、より向上することができるでしょう。
■不可欠なマイノリティの視点
相手の立場を理解するために、覚えておきたいポイントが、相手が「マジョリティ」なのか「マイノリティ」なのかという点です。
たとえば、日本人は、国内にいると自分が日本人であることを意識することはほとんどありません。でも、いったん海外へ行くといきなりマイノリティとなり、感受性が鋭敏になることで、他者の悪意がない言動にも傷ついてしまうこともあります。
このように、誰にでもマイノリティの部分があります。また環境や条件によって、自分のなかにマイノリティの部分が生じることもあるわけです。
大切なのは、なにかを判断したり表現したりするときに、必ず「マイノリティ」の視点を持とうと意識することです。
「悪気なんてなかったんだ」
それは、マジョリティの傲慢(ごうまん)に過ぎません。無邪気だったり無神経であったりすることが、マイノリティを深く傷つけていることにもっと自覚的になるべきなのです。
今後、社会はますます多様性を増していくでしょう。そんな時代に、「自分はいつでもマイノリティになり得るのだ」と思える感受性がない人は、多種多様な人とコミュニケーションができず、活躍の場所はどんどんなくなっていきます。
自分のなかの「マイノリティ」に耳を澄ますことは、これからの時代にとても大切な態度になると思います。
■「俯瞰力」でバランスの取れた視野と思考を
残念ながら、いまの日本社会には、目立つ個人を徹底的にバッシングする傾向があります。そこにあるのは、「みんなと一緒でいたい」という潜在的な不安感なのかもしれません。
人を貶(おとし)めることで溜飲を下げ、自身の心の奥底にある不安感をなぐさめる。そんな風潮が蔓延(まんえん)していくと、社会はどんどん狭量な生きづらい場所になっていきます。
だからこそ、良識ある人は、偏った考え方や価値観にとらわれずに、社会や集団から外れた人たちを受け入れることができる「俯瞰力」を持つ必要があります。
努力によって「自己の成長」へと踏み出しながら、同時に、バランスの取れた視野と思考を育む必要があるのです。
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信州大学特任教授/ニューヨーク州弁護士
1983年生まれ。北海道出身。東京大学を「法学部における成績優秀者」として総長賞を受け卒業。卒業後は財務省に入省し主税局に配属。2008年に財務省を退官し、その後、15年まで弁護士として主に企業法務を担当する。同年、ハーバード・ロー・スクール(LL.M.)に留学し、16年に修了。17年6月、ニューヨーク州弁護士登録。帰国後は東京大学大学院法学政治学研究科博士課程に進み、日米の「家族法」を研究。20年、博士課程修了。同年、信州大学特任准教授に就任。21年より現職。著書に『「ふつうの家族」にさようなら』(KADOKAWA)などがある。
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(信州大学特任教授/ニューヨーク州弁護士 山口 真由)
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