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「秋までに自動運転レベル3へ」トヨタの技術の粋を集めた燃料電池車MIRAIのすごさ

プレジデントオンライン / 2021年7月9日 9時15分

トヨタ「新型MIRAI」 - 筆者撮影

■温室効果ガス削減のために進む「電動化」

クルマ社会では、温室効果ガスの削減が効果的であるとして電動化が強力に推し進められている。

ご記憶の読者も多いと思うが、欧州各国の当局は2017年、内燃機関車の新車販売に対し「内燃機関のみを搭載した車両を段階的に廃止する」とした。例えばドイツでは2030年までに、イギリスでは2035年までに、フランスでは2040年までにそれぞれ内燃機関のみの車両を廃止すべきである、という趣旨だ。

議論の中心は「内燃機関のみを搭載した車両を廃止」である。つまり、内燃機関と電動化を組み合わせた「ハイブリッド車」は該当しない。

その後、手ぬるいと感じたのか、当局はハイブリッド車の販売も禁止する案を持ち上げた。しかし、いきなりの電気自動車(EV)化は性急で現実味に欠けるとして現時点ではトーンダウン。代わりに、簡易型で安価なマイルドハイブリッドシステムを搭載した乗用車が全世界で増えてきた。

■ディーゼルエンジンの排出ガスは技術革新で改善されてきた

とはいえ、ガソリンや軽油にはじまる化石燃料を燃焼させて動力源を得る内燃機関は、温室効果ガスのひとつであるCO2(二酸化炭素)を排出することに変わりはない。問題はその量をいかに減らすのか、具体的にはいかに燃費数値を良くしていくのか、これが課題だ。

内燃機関の排出ガスにはCO2以外にも、NOx(窒素酸化物)やPM(粒子状物質)といった人体や環境に悪い影響を及ぼす物質があるが、それらのほとんどは燃焼効率の改善と車載の触媒装置によって問題視されなくなった。

2003年、当時の東京都知事がペットボトルに入れたPMの実体である黒い煤を手に、1都3県での大気汚染解消を名目として商用車をメインとしたディーゼルエンジンの排出ガス規制強化を訴えた。

その後、技術革新は順調に進み、今や「クリーンディーゼル」が乗用車や商用車に搭載され、我々の移動や物流社会を支えているのはご存知の通り。

■ガソリンエンジンを小改良して、水素を燃焼させる

ガソリンエンジンを搭載した車両が世に送り出され135年、その数年後にはディーゼルエンジンが誕生した。そして今日まで、内燃機関は燃料を問わず、現在も進化し続けている。

マツダは「e-SKYACTIV X」としてガソリン/ディーゼルの両エンジンの長所を掛け合わせ、さらに24Vのマイルドハイブリッドシステムを組み合わせた電動化エンジンを実用化し、日産は熱効率50%を実現する1.5lのガソリンエンジンを開発、近い将来、実装する。

また、マツダやトヨタ、BMWなどでは既存の内燃機関であるガソリンエンジンを小改良して、水素を燃焼させる取り組みを行っており、2021年5月、トヨタはその水素エンジン搭載車で富士スピードウェイにおける24時間耐久レースを見事に完走した。

その一方で電動化である。ハイブリッド車も電動車であることは触れたが、その電動化における頂点であるかのように捉えられているのがEVだ。

かねてより筆者は、三菱「i-MiEV」や日産「リーフ」にはじまり、テスラの各モデル、トヨタ、ホンダ、マツダ、三菱ふそう、メルセデス・ベンツ、アウディ、プジョー、さらには内燃機関車両を改造したコンバートEVなど……、数え上げればキリがないほど各国各社が発売するEVに試乗し、可能な限り技術者への取材を行ってきた。

■EVは快適で乗って楽しいが、地球規模の課題もある

筆者のEVに対する主張(オピニオン)は、電動モーター駆動ならではのスムースな加速と低振動による上質な走りが人を虜にし、純粋に運転していて快適であるという点にある。

対する事実(ファクト)は、EVの普及にはハード(車両)の完成度のみならず、充電設備や発送電環境などインフラに継続的な課題が未だに残り、国ごとにエネルギー政策の転換が求められている点だ。

とくに、電力の需給バランスには国や地域による差が大きく残る。石炭を燃やして主に電力を得る国では、EVよりも高効率で燃費数値の良い小型の内燃機関搭載車を普及させたほうが計算上の環境負荷は低い。

また、リチウムや白金などバッテリーや制御部品に利用するレアメタルの確保や、それらの代替品の研究なども本格的な普及には求められる。

どのEVも快適なだけでなく乗って楽しい、これは確かだ。

EVではとかく充電一回あたりの航続距離や充電時間が取り沙汰されるが、これらの課題はバッテリーや充電設備の技術革新によって、たとえば20年先であれば現状より改善が見られるはずだ。

具体的には、電動化の三種の神器と呼ばれるバッテリー/インバーター/モーターの各性能が向上すれば、内燃機関の有害な排出ガスが徹底的に低減されたように、課題の程度は徐々に低くなるからだ。

しかし、充電する電力そのもののあり方(発電の仕方)は、20年では根本的に解決せず、使用済み燃料の後処理を見越したクリーンな原子力発電のあり方や、自然相手のグリーン発電の高効率化などとともにEVは地球規模での普及が見出せる。

■これからの電動化は、裾野を広げることが重要

乗り物の電動化は、この先、もっと大きな波になる。これまで何度もブームが来ては収束していったが、今回は各国での優遇税制が牽引役となり、さらに各社が魅力的な電動化車両を出し続けていることなどを追い風に主流になることは間違いない。

ただし、その大前提としてEVのみでその波は作れないし、継続しない。これからの電動化は、裾野を広げることが重要である。

その意味で筆者が注目しているのが燃料電池車(FCV)だ。2014年12月に販売が始まった、トヨタの世界初の量産型FCV「初代MIRAI」は、日本・欧州・北米市場を中心に約6年間で約1万1000台が販売された。

そして日本では2020年12月9日に2代目となる新型MIRAIが発売した。執筆時点(2021年6月25日)での車両価格は710万円~(「G」グレードの価格)だが、エコカー減税[100%]+環境性能割[3%]+グリーン化特例[概ね75%]+CEV補助金(クリーンエネルギー自動車導入事業費補助金)であれば約139万5700円の優遇が受けられる。

なお、エコカー減税[100%]+環境性能割[3%]+グリーン化特例[概ね75%]+令和2年度二酸化炭素排出抑制対策事業費等補助金の場合は優遇額が増え、約162万5700円となる。

■MIRAIに高度運転支援技術が搭載された

さらに2021年4月8日には、将来の自動運転社会に向けた高度運転支援技術である「Advanced Drive」がMIRAIに搭載された。こちらは845万円~(「Z“Advanced Drive”」の価格)。非搭載車とグレードを合わせれば、Advanced Drive分の差額は55万円だ(価格はいずれも税込み)。

豚の貯金箱と車
写真=iStock.com/zahar2000
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/zahar2000

Advanced Driveは現時点、自動化レベル2の段階(運転支援車)だが、ハードウェア(機械)とソフトウェア(システム)のアップデート(更新作業)によってレベル3(条件付自動運転車)へ進化することがトヨタから公表されている。

レベル3は、2021年3月5日に発売されたHonda SENSING Eliteを搭載のホンダ「レジェンド」が世界初の市販車である。このレベル3の定義は国連の自動車基準調和世界フォーラム(WP29)での決定を受けたものであることから、システムの稼働条件や構成要件に違いはない。ただ、安全性能を重視したホンダは独自基準としてレベル3を稼働させる上限速度を規定の60km/hから50km/hへと下げている。

その点、トヨタのアップデートで対応するレベル3の上限速度がどうなるのか。筆者の予想であるが、これまでの先進安全技術の開発スピードやその内容からして、おそらく上限である60km/hまで稼働させてくるだろう。

筆者はこのMIRAIを、「世界一実用的な自動化レベル3技術を搭載する燃料電池車」であると考えている。その理由は以下の3つだ。

■心臓部は「小さな発電所」だから充電不要、給電もできる

理由その1:充電を必要としないEV

燃料電池と電池の名の付くFCVだが、EVのような外部からの充電は必要ない。代わりに燃料として高圧縮した水素(気体)をタンクに充填(所要は約3分)し、その水素と空気中の酸素をMIRAIの心臓部「FCスタック」で化学反応させて発電(水/H2Oがここで発生)、得られた電気でモーターを回して走る。

何も燃やさないからCO2ゼロで走って、残るのは水のみ。100%電動モーター駆動なので走行性能はEVそのものだ。

水素ステーションでは資格を有する係員により水素が充填される
画像=筆者撮影
水素ステーションでは資格を有する係員により水素が充填される - 画像=筆者撮影
MIRAIのFCスタック類一式。車体中央に1本、後部に2本、計3本の水素タンクに水素を充填し750~850km走る
画像=筆者撮影
MIRAIのFCスタック類一式。車体中央に1本、後部に2本、計3本の水素タンクに水素を充填し750~850km走る - 画像=筆者撮影
理由その2:燃料電池は乗り物問わず

これまで乗用車の内燃機関は車同士で流用できても、商用車や他のモビリティにはそのまま使えなかった。その点FCスタックは「小さな発電所」なので大・小型トラックやトラクター、電車、船などにも転用可能で、緊急時には得られた電気を外部へ給電することもできる。

さらにトヨタはFCスタックをパッケージ化した燃料電池システムを商品として事業者向けに販売し転用先を拡大。使う先がいっぱいあるから改善サイクルも早く、早期の大幅コストダウンも視野に入る。

■レベル3へのアップデートは秋までに行われるだろう

理由その3:人に寄り添って安全運転

Advanced Driveは、ステアリングから手を離した「ハンズフリー走行」、その状態での「前走車の追い越し」、ドライバーのウインカー操作による「車線変更」、システムが判断した「分岐路での車線変更」が行える。

Advanced Driveを使った前走者の追い越し
画像提供=トヨタ自動車
Advanced Driveを使った前走者の追い越し - 画像提供=トヨタ自動車

ここまでの機能であれば、同じくレベル2技術を実装する日産スカイラインの「ProPILOT2.0」や、スバル・レヴォーグの「アイサイトX」と同じだが、Advanced Driveでは、ドライバーとシステムの意思疎通手段に、「ドライバーの目視による安全確認を求める」ことが織り込まれた。

先に記した高度な運転支援を得る時点では、必ずシステムとのアイコンタクトとも言うべき所作が求められる。

いわば人と機械が協調して安全な運転環境を築き上げることを目指すわけだが、この人に寄り添い安全な運転環境を作り出すことこそ、トヨタが自動運転技術の礎とする「Toyota Teammate」の考え方だ。

前述したレベル3へのアップデートは、おそらく2021年内の秋までに行われるだろう。そのため、MIRAIこそ「世界一実用的な自動化レベル3技術を搭載した燃料電池車である」とした。

■ホンダもFCVをリース形式で展開

ちなみに、ホンダもFCVをリース形式で発売している。2016年3月10日に発売された「CLARITY FUEL CELL」は当初法人リースのみだったが、2020年6月11日からは個人リースにも対応。水素を満充填した際の走行距離は約750kmだ。

なお、CLARITY FUEL CELLの生産は2021年をもって終了する。国内市場においては一旦、e:HEVに代表されるシリーズハイブリッドシステムに注力する方針なのだろう。

しかしながら、2021年4月23日にホンダの三部敏宏社長が公言した通り、FCVの世界から手を引くわけではなく、従来から協業を進めているGM(米国)と燃料電池システムの開発そのものは継続する。

「新型MIRAI」の車内
画像=筆者撮影
「新型MIRAI」の車内 - 画像=筆者撮影

■水素の単価が下がれば、ガソリン車と燃料コストは同等

最後にFCVの燃費性能にも触れておきたい。現在、水素1kgは1210円(充填したスタンドでの価格)で販売されている。筆者による試乗では平均133km/kg走ったので約9.1円/kmのランニングコストが掛かった。この値をガソリン車(ハイオクガソリン166円/lで計算)に置き換えると約18.5km/l。

なんだかあまり燃費数値が良くないように思えるが、そもそもMIRAIは走行時にCO2を一切排出しない。18.5km/lのガソリン車の場合は概算で125.4g-CO2/km排出するわけだから、MIRAIで走ればその排出されるCO2をまるごと削減しているともいえる。

経済産業省では2030年までに水素の単価を3分の1、最終的には5分の1にする計画で、実現すれば55~92km/l走るガソリン車と燃料コストは同等になる。

もっとも2030年以降のガソリン価格は不透明で、一般流通量も定かではない。肝心の水素にしても良いことばかりでもなく、天然ガスや石炭などから水素を取り出す「グレー水素」の場合、製造時にCO2が排出されるから、石炭でEVを走らせることと同じスパイラルに陥る。

また、天然資源から水素を取り出し、取り出す際に発生したCO2を回収や貯蔵して実質CO2排出をゼロにする「ブルー水素」や、再生可能エネルギーを使って製造する「グリーン水素」では、CO2の課題はクリアする。だが、日本のグリーン水素は1kgあたり約9ドルと製造原価が欧米と比べて3倍ほど高い。原価でこれだから売価ではこの2~3倍になるはずで、これでは到底普及は望めない。

しかしながら、FCVもEVと並び100%電動モーター駆動の紛れもない電動化車両。乗って楽しく快適で、単体での完成度はとても高い。

このようにEVやFCVなど電動化率が高まる車両ほどインフラ面の課題は残るが、同時にCO2削減方法に幾度かの技術革新が訪れるとすれば、温室効果ガス削減と共に、安価な移動への希望が持てる。これもまた事実である。

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西村 直人(にしむら・なおと)
交通コメンテーター
1972年1月東京生まれ。専門分野はパーソナルモビリティだが、広い視野をもつために「WRカー」や「F1」、二輪界のF1と言われる「MotoGPマシン」でのサーキット走行をこなしつつ、四&二輪の草レースにも精力的に参戦中。また、大型トラックやバス、トレーラーの公道試乗も積極的に行い、ハイブリッド路線バスやハイブリッド電車など、物流や環境に関する取材を多数担当。著書には『2020年、人工知能は車を運転するのか』(インプレス刊)などがある。日本自動車ジャーナリスト協会(AJAJ)理事、2020-2021日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。

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(交通コメンテーター 西村 直人)

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