橋下徹「結果を出せるリーダーが必ず守っている3つのポイント」
プレジデントオンライン / 2021年7月15日 9時15分
※本稿は、橋下徹『決断力 誰もが納得する結論の導き方』(PHP新書)の一部を再編集したものです。
■意思決定の仕組み作りのポイントは3つだけ
そもそもビジネスにおいては、決断するための手続き・ルールがはっきりと決まっていないことが多々あります。したがって、リーダーは決断に至るまでのルールを自分で作り上げていかなければなりません。手続的正義(※)に沿った決断をするためのルール作りには、ポイントが3つあります。
※注釈:手続的正義……結果に至る過程・プロセスに正当性があるなら、正しい結果とみなす、という考え方。詳しくは7月8日配信「橋下徹『大接戦だった大阪都構想で米大統領選のような紛糾が起こらなかったワケ』」参照
1.立場、意見が異なる人に主張の機会を与える
2.期限を決める
3.判断権者はいずれの主張の当事者にも加わらない
1つ目は、立場や意見が異なる人にきちんと主張の機会を与えること。法律の世界では、意見の異なる者に、それぞれ主張をする機会が必ず与えられます。裁判においては、原告、被告の一方だけではなく、双方ともに主張機会が与えられます。主張機会の保障は、手続的正義の大原則です。
■世の中にある様々なプロセスは3点の原則に基づいている
2つ目のポイントは、期限を必ず定めること。主張する機会の保障は重要ですが、期限を決めないと延々と議論が続いて物事が決着しなくなります。新聞社などのマスコミや、一部の学者はよく「議論が尽くされていない」「もっと協議を続けるべきだ」と主張します。彼ら彼女らは議論をすることが仕事ですから、2年でも3年でも、あるいは10年でも、延々と議論しても何の問題もありません。しかし、現実の実務をしている人たちは、仕事には必ず納期があるわけですから、期限を定めなければいけません。
![オフィス](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/1/b/670/img_1bdc3c4d7c2c9a225ff4e6b9ee1becdb633042.jpg)
3つ目は、リーダーなどの判断権者はいずれの主張の「当事者」にも加わらないこと。これは、裁判においては当たり前のことです。裁判官が、原告、被告のどちらかの当事者に加わってしまったら、公正な裁判は成り立ちません。行政やビジネスの場合も、適切な手続きだと多くの人から信頼してもらうためには、判断権者は片方に与することなく、中立的な裁判官のような役割を担うことが必要です。
実は、世の中にある様々なプロセス・手続法は、以上の3点を原則にしています。民事手続法や刑事手続法は複雑そうな取り決めに見えますが、この3点の原則に基づいて細かくルール化しているだけです。
■なぜ実現不可能と言われた大阪府の財政再建は成功したのか
僕は、2008年に大阪府知事に就任後、大阪府の財政再建をする際には、3つ目のポイントを意識して「裁判官役」に徹しました。毎年約1100億円もの収支改善を成し遂げるために、府の予算を徹底的に見直す財政再建プロジェクトチームを作り、そこに精鋭を集めました。ただし、僕はプロジェクトチームには入りませんでした。
財政再建プロジェクトチームの精鋭たちに対峙するのは、予算を要求する各部局の役人たち。大阪府庁の各部局を支えている人たちで、同じく実力者揃いです。そして、判断権者である僕と副知事はどちらの側にも加わらずに裁判官の席に立って、予算見直しの財政再建プロジェクトチームと予算要求の部局チームに、目の前で議論させました。
手続的正義の観点から、みんなに傍聴してもらうことが重要だと考え、フルオープンの場でガチンコの議論を戦わせました。まったくシナリオなしです。
予算見直し財政再建プロジェクトチームは、「これは必要ないのではないか」「これも無駄ではないか」と鋭く切り込み、対する各予算要求部局の担当者たちは「この予算はこういう理由で絶対に必要だ」と主張しました。僕は、当事者同士の議論には一切口出しせず、黙って聞いていました。
■適切なプロセスを踏むからこそ「正しい」結論になる
お互いにプロ同士が議論をしていますから、どちらの意見も一理あります。聞いていても、それこそ51対49に思えるような議論でした。「明らかに無駄であり、削減すべき」「明らかに必要であり、予算を残すべき」という結論を簡単に出せる案件は、すでに課長レベルで処理されています。お互いに譲れなかった案件が、知事にあがってくるわけですから「明らかにこちらが正しい」と言えるようなものはほぼありません。
僕は議論をじっと聞き、お互いに主張が出尽くすまで徹底的に議論させました。主張機会の保障です。しかし一定の時間制限も設けています。そして主張が出尽くし議論が熟したなと感じたところで、「もう言いたいことはないですか」と聞いてから、最後に僕が「割り箸」の役になって「これについては予算を削減する」「これについては予算を維持する」と結論を出していきました。
双方とも議論を尽くし、言い分は51対49の状態にある。なおかつ、最終的には誰かが決めないといけないことは皆わかっています。そこで誰が決めるかと言えば、選挙で選ばれた僕が決めるしかありません。
僕の出した結論が絶対的に正しかったのかどうかはわかりません。でも、決定に至るまで適切なプロセスを踏んで議論を尽くしています。だから、削減と要求の両当事者が「知事がこれだけ議論を聞き、責任を持って決めたのだから、この結論でまあいいだろう」と納得しやすくなります。すなわち僕の出した結論を「正しい」と擬制してもらえるわけです。
ここでもし、僕が予算見直し財政再建プロジェクトチームの側に加担していたら、「予算削減」の結論を出したときに、各予算要求部局の担当者たちは納得しなかったはずです。予算要求部局側は「知事は自分たちの主張を正当に聞いてくれたのだろうか」と疑問を持ち、不満が残ります。知事の出した結論に納得してもらうために、僕は手続的正義の考え方を基に、裁判のプロセスを応用したのです。
■ガチンコの議論を公開で行ったわけ
議論の過程をフルオープンにしたのも、裁判の傍聴人制度を意識してのことです。みんなに見える状態で議論をしますから、お互いに変な主張はしにくい。公開の場で議論してもらうと、傍から見て「どうも○○側には明確な理由はなさそうだ」ということも見えてしまいます。
僕が本当に中立と思ってもらえたかは別として、外形的には僕と副知事は中立の立場を取り、一方の当事者に与せず、黙って聞いて、時折質問し、議論が熟したところで、最後に結論を出しました。こうした手続きを踏めば、どのような結論を出しても、組織に納得してもらいやすくなります。
■結論を出すまでの時間を決め、言い尽くさせる
併せて、延々と議論を続けないように結論を出すお尻の時間を決め、議論をそれに合わせるようにしました。「時間がなくて、言いたいことがあったのに言えなかった」という不満を残さないために、事前に双方の主張を開示し、反論の準備期間も与えました。案の定、当事者たちは事前に十分に準備をして議論に臨みました。
![橋下徹『決断力 誰もが納得する結論の導き方』(PHP新書)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/c/200/img_5ce05feb7d1a3bf1ee83b6a0be983162347336.jpg)
言い尽くさせる、というのも裁判の仕組みの根幹です。原告・被告とも十分に主張を言い終えると裁判を傍聴する関係者も含めて「ここまで言ったのだから、あとは裁判官の判断に委ねよう」という雰囲気になります。言いたいことを全部言い合って、最終的な判断は裁判官に委ねる――この状態に持っていくのが裁判の鉄則です。
大阪府の財政再建では、こうした手続きを、全部局の主要テーマについて、何週間にもわたって実行しました。財政再建プロジェクトチームと各予算要求部局が繰り返し議論をして、話を黙って聞いていた僕が最終的に「これは削減」「これは残す」という判断をしていきました。膨大な量です。
もし議論を尽くすという手続きをいい加減にしていたら、僕が決定したことに対して、各部局は「この予算は絶対に必要です」と延々と抵抗を続けていたはずです。各部局だけでなく、部局の背後にいる利害関係者たちも府庁に押しかけてきたでしょう。
しかし、適切なプロセスを踏んだことによって、僕の最終的な決断に各部局は従い、利害関係者たちもある程度は理解してくれたのだと思います。こうして、大阪府全体が財政再建に向かって踏み出すことができ、実現不可能と言われていた財政改革を成し遂げることができたのです。
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元大阪市長・元大阪府知事
1969年、東京都生まれ。弁護士、政治評論家。2008年から大阪府知事、11年から大阪市長を歴任し、大阪都構想住民投票の実施や、行政組織・財政改革などを行う。15年に大阪市長を任期満了で退任。現在、テレビ出演、講演、執筆活動を中心に多方面で活動。『実行力』『異端のすすめ』『交渉力』『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』など著書多数。
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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)
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