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「一家の大黒柱がしんどい」世界で唯一、女性より男性の幸福度が低くなる日本の特殊事情

プレジデントオンライン / 2021年7月9日 11時15分

「幸福度」を国別・男女別にみると、先進国や発展途上国を含むほとんどの国は女性のほうが男性より低い。一方、日本は逆に男性のほうが低い。統計データ分析家の本川裕氏は「OECDの統計を分析すると、世界のスタンダードは『女性・高齢・低学歴の者ほど幸福度が低い』が、日本人はこれにすべて反している」という――。

■世界の中で日本人の幸福度は低いのか高いのか

本連載で以前、「世界120位『女性がひどく差別される国・日本』で男より女の幸福感が高いというアイロニー」(2021年4月7日公開)というテーマを扱い、反響が大きかった。

今回はこの時とは別のデータを使い、やはり日本人の幸福度は、世界の傾向とは反対に女性の方が高い点を示すとともに、男女別だけでなく、年齢別、学歴別といったその他の属性でも日本人の幸福度は世界の傾向に反していることを紹介することにしよう。

本題に入る前に、まず、「日本人の幸福度は全体として高いのか低いのか」という点について確認しておこう。

OECD(経済協力開発機構)の幸福度白書の最新版(「How’s Life? 2020」)では、旧版と同様、幸福度を構成するさまざまの指標のひとつとして主観的幸福度(Subjective Well-being)のデータを掲載している。

私は、幸福度を論じる場合、幸福を左右すると思われる所得や生活環境、災害などに関するさまざまな指標を総合化して判定する方法では、どんな指標を使うかウエイトづけから恣意的になりがちなので、むしろ、この主観的幸福度そのものを重視すべきだと考えている。

同白書によれば「OECDのガイドライン」は主観的な幸福度の測定方法として以下の3つを区別している(※1)

①生活評価(生活満足度など生活の全体評価)
②感情(喜怒哀楽など、機嫌の良し悪し)
③ユーダイモニア(Eudaimonia)(人生の意味や目的、生きがい)

※1 同白書では、①として0~10までの段階別に答えさせた「生活満足度」、②として回答者の感情状態から作成した「ネガティブ感情度」のデータを掲げ、分析を行っている。①では日本や米国は該当する公式統計がないので比較対象から除外されている。③は国際比較できる高品質データがないとしてそもそも非掲載である。

まず、「日本人の幸福度の程度は」という疑問を解くために、4月7日の記事でも使った世界価値観調査の「幸福感」(※2)と、OECD幸福度白書が掲載している「ネガティブ感情度」(※3)という両方のデータで幸福度の各国比較を試みることにしよう。

※2「幸福かどうか」の設問に「非常に幸せ」及び「やや幸せ」と答えた割合の計
※3 調査日前日の感情状態についてネガティブな回答(怒り、悲しみ、恐れなど)がポジティブな回答(くつろぎ、喜び、笑う、など)を上回っている割合を指し、ギャラップ世界調査の結果からOECDが算出

■日本人の幸福度は、韓国やコロンビア、ポーランドなどよりも低い

図表1には、OECD諸国の幸福度ランキングを「幸福感」と「ネガティブ感情度」の両方で示した(※4)。後者では、指標値の低いほうが幸福度は高く、指標値の高いほうが幸福度は低いと解した。

※4 一般に、先進国と途上国では事情や背景が大きく異なるので、生活レベルが一定水準以上の先進国だけで比較したい場合、先進国クラブと称されるOECD諸国のランキングが用いられることが多い。OECD諸国に関しては、統一基準で収集されたデータベースが整備されていて、相互比較の信憑性が高い点もOECD諸国比較が多用される一因となっている。ここでもそうした点を考慮してOECD諸国のデータを用いている。もっとも、最近、OECDの新規加盟国が増え、メキシコ、コロンビアといったラテンアメリカやスロベニア、エストニアといった東欧圏に属する必ずしも先進国とは言えない国々も含まれるようになっているので、その点にも分析上の配慮が必要である。

日本のOECD諸国の対象31カ国における幸福度ランキングは、世界価値観調査の「幸福感」では20位と低いほうである一方で、ギャラップ世界調査を用いた「ネガティブ感情度」では5位と高いほうである。

■主要先進国(G7)の中で日本と似ているのは、ドイツ

主要先進国(G7)の中で日本と似ているのは、ドイツであり、幸福感(表左側)では23位と低いが、ネガティブ感情度(表右側)からは13位とそれほど低くない(ネガティブ度が日本より低い)。主要先進国の中では、英国、フランスなどは、日本やドイツは逆に、幸福感は高いもののネガティブ感情度ではずっと低くなっている。

この結果を私なりに総括すると、

日本やドイツ:ふだんの機嫌がよいにもかかわらず幸福をあまり感じていない

英国やフランス:ふだんの機嫌が悪くても幸福を感じてはいる国民

の2タイプがあるのではないか。一方、

米国やイタリア:幸福に関する感情と幸福の自己理解にあまり齟齬が見られない

主観的な幸福度だけでも測り方によってかなり変わってくる点が興味深い。

■「女性のほうが幸福度が低い」という世界の通例に反する日本人

ここからは、「ネガティブ感情度」を使って、男女、年齢、学歴といった属性別の幸福度の各国比較を見ていこう。原データはこれまでと同じ国ごとに毎年1000サンプル程度で行われているギャラップ調査であるが、結果のばらつきを抑えるため、長期間の平均値(2010~18年)が使用されている。

経済環境や文化の違いがあるため主観的幸福度の値を国民間で比較するのはやはり少し無理がある。感情面を指標化した「ネガティブ感情度」は、幸せかどうかを直接聞いた結果の「幸福感」より客観的であるとはいえ、やはり、国民性に多少左右されざるを得ないであろう。

しかし、考え方や感じ方を共有する同じ国民の間における男女、年齢、学歴といった属性間の比較は、全体としての幸福度ランキングより、むしろ、信憑性、有効性が高いと考えられる。

結論から言ってしまうと、世界のスタンダードは「女性・高齢・低学歴の者ほど幸福感が低い」というものだが、日本人は、これにすべて反している。日本は世界的に見て、特殊な国民であるということが見てとれる。

まず、男女差(ジェンダー差)から見ていこう(図表2参照)。

女性の方が否定的な感情に陥りがちだが日本人は例外的に逆

うつ病は、男性より女性のほうが多いというのが世界の通例であることからも類推できるように、ネガティブ感情度の男女比(男性÷女性)は、日本を除くすべての対象国で、1以下である。すなわち、女性のほうがネガティブで「マイナスの感情」を抱きがちである。

こうした世界的傾向について、ジェンダー論者は、男女差別によってこれが引きおこされていると速断しがちである。自殺がうつ病とは逆に男性のほうが多いのが世界の通例であることからもうかがえるように、ことは、そんなに単純ではない。

例えば、北欧諸国は一般的に男女平等意識が高いが、同じ北欧諸国でも、ノルウェー、デンマークでは、女性のほうが、ネガティブ感情度がかなり高くなっている(図表2、縦軸0.8以下」)のに対して、フィンランド、アイスランドでは、むしろ、男女比が1に近くなっており(男性も女性と同様にネガティブ感情度が高い傾向にある)、状況にかなり差があるのである。

それより何といっても、最も特徴的なのは、日本人だけ男性のネガティブ感情が女性を上回っている点(しかも14%も)である。これは、世界価値観調査などの幸福感でも日本人の幸福度の女性優位が目立っているのと軌を一にする現象であるといえる。

■“世界で唯一”なぜ日本は女性よりも男性がネガティブな感情を抱くのか

なぜ、日本人の男性は女性よりもネガティブな感情を抱きやすいのか。

理由として考えられるのは、女性が男性と比べて個人的、社会的に尊重されていてネガティブな感情に陥る場合が少なくなっているから、あるいは、男性だけがネガティブな感情に陥りがちな特殊な社会環境があるか、のどちらかであろう。

私は、後者の側面が大きいと考えている。

本連載の4月7日の記事でも述べた通り、日本では、相続や選挙権に関する制度的な男女平等が戦後実現したのと並行して、現代では、かつてに比べて儒教道徳から女性がかなり解放されたのに対して、男性のほうは「男は一家の大黒柱」あるいは「男はか弱い女性を守らなければならない」といったような旧い道徳観になお縛られていることが多いから、こうした結果が生じているのではないかと感じるが、どうだろうか。男は、男(自分)への期待感が大きい。それだけ幸福度を感じにくくなっているのである。

なお、同じような状況にある韓国でも(日本の男性ほどネガティブな感情を抱いていないが)、やはり、OECD諸国の中でネガティブ感情度の男女比が3位と高い点もこの点を裏づけていると考えられる。

世界的に権威があるはずの「OECD幸福度白書」のこのデータを日本のジェンダー論者が参照することは、まず、ないだろう。しかし、男性が幸福になれなければ女性も幸福になれないと仮定した場合、図表2で客観的に表した深い真実を直視しない限り、日本における本当の男女平等は永遠に実現できないかもしれない。

■高齢者、低学歴者ほど幸福度が低いという通例が当てはまらない日本人

次に、年齢差とネガティブ感情度(幸福度)に関してみていこう(図表3参照)。

若者は幸せで高齢者は気持ちがネガティブになる場合が多いが日本人は例外

表の「●」は50歳以上、「ー」は30~49歳、「▲」は15~29歳の数値だ(数値が高いほどネガティブ感情度が高い)。男女差ほど決定的ではないが、世界的には、若者のほうが高齢者よりネガティブ感情度が低いのが通例である。若者には未来があり、死が遠くない高齢者は病苦で苦しむ者も多いのであるから当然ともいえる。

年齢差が大きい国はといえば、図の左側の国、すなわち途上国的な性格を残している国である。途上国の高齢者は生活していくだけでも心労が絶えないのである。一方、図の右側、すなわち、日本を含む、比較的所得水準の高い国では年齢差は目立たなくなる。社会保障が充実して、高齢者でも生活苦や病苦で悩むことが少なくなるからである。

こういう見方でグラフを眺めると、若者だけで比較した場合、各国のネガティブ感情度は、国による違いがかなり小さいことに気がつく。どんなに生活が苦しくても若者には未来があるのである。一方、高齢者のネガティブ感情度の差は大きく、高所得国ほど低くなっていることが分かる(左端のリトアニアは30超、日本は10弱)。

そして、働き盛りの年齢(「―」の数値)では、ネガティブ感情度は若者と高齢者の中間である場合が一般的である。

しかし、米国より右に位置する国では、おおむね、若者や高齢者の両方より働き盛り年齢のネガティブ感情度のほうが高くなる傾向にある。これは、子どもや高齢者を大切にする社会保障の発達した国でも、仕事や子育て、介護などに伴う働き盛りの年齢の悩みは消えない(あるいはむしろ大きくなる)からだと考えられる。

■<消極的に天命に安んじる態度には、我々は懐しみを覚えさせられる>

さて、改めて日本の位置を確認しよう。高齢者のネガティブ感情度は最も低いほうから2番目である。高齢者のネガティブ感情度は、高福祉社会と言われる北欧諸国が世界で最も低く、それに伴って年齢差も最も低くなっているが、日本もこれに伍しているのである。

少なくとも感情の状態からは、日本は高福祉社会の域に十分達しているといえよう。しかも、日本の高齢人口の割合は世界でもっとも高い点を考慮すれば、よくやっていると評価せざるをえない。

もっとも日本の社会保障の充実度が北欧並みと考えるのは少し行き過ぎの見方かもしれない。むしろ、諦観という日本人の習性に理由を見出すべきなのかもしれない。

正宗白鳥は永井荷風を論じた評論のなかで荷風を含め老境にある日本人について、こう言っている。

「外国人のうちには、老境に達して落伍しても、天を怨まず人を嫉まず、与えられた境遇を楽む者は甚だ稀なようだが、日本では古来都鄙を通じて、そういう気持の老人が少なくなかった。伝統的日本気質の現れであって、この消極的に天命に安んじる態度には、我々は懐しみを覚えさせられるのだ」(『作家論』岩波文庫、p.331)。

■学歴による格差が幸福度の差に結びつかないようなメカニズム

最後に、学歴とネガティブ感情度(幸福度)について見てみよう(図表4参照)。

高学歴の者ほど感情がネガティブでない国民が多い中で日本人は例外

日本は、中等教育卒業者のネガティブ感情度(「―」の数値)がメキシコに次いで低く、初等教育卒業者(「▲」の数値)の場合は最も低くなっている。そして、こうした状況によって学歴差が最も小さい国の一つである。また、初等教育卒業者のほうが高等教育卒業者(「●」の数値)よりネガティブ感情度が低いという国は日本だけである。

学歴と階級・職種・所得は密接に関係しており、これを背景に、世界ではネガティブ感情度は低学歴の者ほど高く、高学歴の者ほど低いというのがスタンダードである。ところが、ここでも日本は学歴の差が幸福度に比例しないという例外的な特徴をあらわしているのである。

理由としては、実際に学歴による所得や生活水準の格差が小さいからかもしれないし、あるいは、学歴による格差があってもそれが幸福度の差に結びつかないようなメカニズムが働いているからかもしれない。私は、年齢差の場合と同じように、日本の場合は、前者だけでなく後者の側面も大きいのではないかと考えている。

いずれにせよ、以上のように、「感情状態」から見た幸福度について、男女差、年齢差、学歴差を見る限り、日本人ほど“よい方向”に世界の常識が当てはまらない国民はいないのだといえよう。こうしたデータからは、日本は「奇跡の国」と見なされてもおかしくはないのである。

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本川 裕(ほんかわ・ゆたか)
統計探偵/統計データ分析家
1951年神奈川県生まれ。東京大学農学部農業経済学科、同大学院出身。財団法人国民経済研究協会常務理事研究部長を経て、アルファ社会科学株式会社主席研究員。「社会実情データ図録」サイト主宰。シンクタンクで多くの分野の調査研究に従事。現在は、インターネット・サイトを運営しながら、地域調査等に従事。著作は、『統計データはおもしろい!』(技術評論社 2010年)、『なぜ、男子は突然、草食化したのか――統計データが解き明かす日本の変化』(日経新聞出版社 2019年)など。

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(統計探偵/統計データ分析家 本川 裕)

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