「ほとんどの人が毎日使う」屋外でもマスクを着けたほうがいい"意外な場所"
プレジデントオンライン / 2021年7月12日 11時15分
※本稿は、西村秀一『もうだまされない 新型コロナの大誤解』(幻冬舎)の一部を再編集したものです。
■人が少ない屋外であればマスクは必要ない
外を歩くだけなら、マスクは必要ありません。熱中症の危険性がある時期はなおさらです。
屋外の広い場所では、すれ違った相手がたとえ咳をしたとしても、ウイルスを吸い込む可能性がとても低いです。別のよくある場合も見てみましょう。
図表1のイラストを見てください。普通は戸外は程度の差こそあれ、必ず風がありますが、話がちょっと複雑になるので、ここでははじめに無風の仮想空間で説明します。その無風状態の道や、屋内でも体育館のような広い場所を、2人の人が歩いているとします。
このうちBさんが感染しています。Bさんがマスクをせずに1回咳をすると、口から出る飛沫粒子の中にウイルスがいます。ウイルスの中には、何個か生きているウイルスがいます。何度も咳をすれば、Bさんと並んで歩くこれまたマスクをしていないAさんは、当然ウイルスを吸い込む可能性があります。
2人が歩いていき、Bさんが咳をした場所をCさんが通りかかります。Cさんは空中を漂うエアロゾルの雲の中へ入っていきますが、その時には生きたウイルスは先ほどよりも「空気のブラウン運動」(中学の理科で習う)で拡散しているので、ほんの短い時間の通過の際に、それを吸い込む確率は極端に低くなります。
その後Dさんも、Bさんが咳をした別の場所を通りかかりますが、Cさんと同様、というより拡散がさらに進んでいて、Cさん以上に生きたウイルスを吸い込む確率はほとんどありません。
このように、風がなくてもエアロゾルは時間とともにだんだん拡散し、通りがかりに吸い込む確率は低くなります。
■屋外であっても大勢の人が集まっている場所はマスクが必要
次に現実に即して考えてみます。
戸外は、地面からの上昇気流も含めて必ず風が吹いています。この風がさらに大きく拡散させてくれます。前を歩く人と距離をとれば、なおさら危なくも何ともありません。上記の話は、あくまでオープンスペースだから言えることです。
屋外であっても周囲を壁に囲まれた狭い場所で人々が密の状態だったら、そうはいきません。咳を2回、3回とすれば、口から出るミストは2倍、3倍になり、狭い空間の中に溜まっていきます。
大勢の人が狭い範囲に集まっていたら、空中の粒子はなかなか拡散していきません。しかも、ウイルスを出す人は次から次へと咳や呼吸で出し、吸い込む人もくり返し吸い込みます。そこに長時間いれば、当然リスクは高くなります。
1平方メートルのスペースに何人もの人が集まる、例えば人気歌手の野外コンサートのような状況であれば、屋外でもマスクが必要です。屋外・屋内と言っても、一様ではありません。
風や時間の経過によって、粒子がどっちの方向へどう流れていくか。「こっちは来ないな」「ここはありそうだな」「ここは息を止めた方が良さそうだ」「今はマスクをした方がいい」と、場面ごとに考え、賢く対応することが大切です。
■意外と感染リスクが高いエスカレータ
ここで、もう一つ大事なことをお話しします。マスクは一日中つけっぱなしで使うものではありません。
人間の緊張感はそう長く持続できず、必ず密着性が甘くなります。自分を守る時には、緊張感を持って密着性を確実にすべきです。本当に必要な時と、それ以外の時を上手に区別して、戸外などで必要なければマスクはポケットやバッグにしまい込んで、太陽の下、思いっきり息をしましょう。気が晴れますよ。
そして危ないと思ったら、取り出して緊張感を持って着けるのです。「一度着けたら触れてはいけない、着け外しは厳禁」などという、分かったような分からないようなトリセツは大誤解です。
さらに言えば、一般的な不織布マスクは、長時間の使用で素材自体が劣化します。だいたい積算で8時間ぐらいから劣化が始まります。長持ちさせたかったら、必要でない時は外してしまっておきましょう。
密室ではなくても、意外と危ないのがエスカレータです。長いエスカレータは理論上特に危険だと思われます。なぜ危険なのかを説明しましょう。
エスカレータは比較的広い空間にありますが、基本的に屋内に設置されています。空気の流れがあるにはあるものの、風が吹いているというほどではありません。図表2は、上りのエスカレータです。左から右へ時間が経過しています。
先頭の1番の人が咳をしたとすると、そこにウイルスを含むエアロゾルの雲ができます。時間が経てば拡散していきますが、すぐ後ろに乗っている2番や3番の人は1~2秒もしないうちに、薄まり切らないその雲の中に突っ込んでいくことになります。4番や5番の人が通る頃には拡散されて、リスクは低くなります。
■大きく息を吸い込む階段は昇り降りはリスクが高い
咳はたいていの場合、1回だけではありません。1番の人が何度も咳をするたび、2番の人はまた雲の中に頭を突っ込み、ウイルスが含まれたエアロゾルを吸うことになります。
次から次へと、前にいる人が出したエアロゾルの雲の中に、自動的に入っていく。自分の意思とは別に、リスクのまっただ中に飛び込んでいくことになります。感染伝搬(でんぱん)を防ぐには、まずは咳をする人がマスクをすることが第一ですが、2番・3番の人もマスクをして、吸い込まないようブロックすることが大切です。
危ないと思ったら、マスクの上から手でぴったり押さえてすき間をなくしたり、その空間を通過する間だけ息を止めたりすることも、自己防衛のためには有効な方法です。
エスカレータ同様のリスクがあるのが階段です。
特に階段を上る時は、心拍数が上がり呼吸が速くなって、深呼吸のように強く息を吸います。先ほど「マスクをしたら走るな」という話をしましたが、息の強さの問題はマスクの粒子通過阻止能力の低下の話だけではありません。
安静にしている時の軽い呼吸なら、ウイルスを吸い込んだとしても、ある程度の大きさのエアロゾルは呼吸器の奥まで届きにくいのです。大きく息を吸えば、ウイルスは肺の奥まで入り込みやすくなります。
荒い呼吸の状態で感染すればいきなり肺に病巣ができ、重症化しやすくなります。肥満体形の人や、呼吸器障害を持つ人はなおさらです。大勢の人がいる駅などの階段では、適切にマスクを密着させて着け、息が上がらない程度の速さで上り下りすることです。
■エレベーターは空調や出入口に近いところに立つべき
では、エレベーターはどうなのかと気になるところでしょう。エレベーターの中を見てください。たいてい空気の吹き出し口があります。手をかざせば風が吹いてくるのが分かると思います。
私なら、乗る時はできるだけそうした空調の送風口や、出入り口に近い、新鮮な空気が入ってくる場所を選んで立ちます。誰かがひどく咳をしたら息を止め、最寄りの階で降りるといいでしょう。屋外では、やみくもにマスクをする必要はありません。
逆に室内ではまわりを見渡して少し考え、自分を守る行動をとることです。
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国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長
1955年生まれ。山形県出身。1984年山形大学医学部医学科卒業。医学博士。山形大学医学部細菌学教室助手を経て、1994年4月から米国National Research Councilのフェローとして、米国ジョージア州アトランタにあるCenters for Disease Control and Prevention(CDC)のインフルエンザ部門で研究に従事。1996年12月に帰国後、国立感染症研究所ウイルス一部主任研究官を経て、2000年4月より現職。専門は呼吸器系ウイルス感染症、とくにインフルエンザ。訳書に、A・W・クロスビー『史上最悪のインフルエンザ――忘れられたパンデミック〈新装版〉』(みすず書房)、R・E・ニュースタット、H・V・ファインバーグ『豚インフルエンザ事件と政策決断――1976起きなかった大流行』(時事通信出版局)、D・ゲッツ『感染爆発――見えざる敵=ウイルスに挑む〈改訂版〉』(金の星社)。また、内務省衛生局編『流行性感冒――「スペイン風邪」大流行の記録』(平凡社東洋文庫)の解説を務める。
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(国立病院機構仙台医療センター臨床研究部ウイルスセンター長 西村 秀一)
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