「かわいい子にはスマホを持たせよ」脳科学者・中野信子さんがそんな極論を主張するワケ
プレジデントオンライン / 2021年7月22日 11時15分
※本稿は、中野信子『脳を整える 感情に振り回されない生き方』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■「家族は仲良くあるべき」の“副作用”
人間関係における思い込みのひとつに、「家族は仲良くあるべき」というものがあります。
確かに家族の仲がいい状態でいると、社会生活を送るうえでなにかと都合がいいうえ、いろいろな助けを得られるので有利に働くことはたくさんあると思います。
でも、だからといって、家族は仲良くあるべきだと決めつける必要はまったくありません。「家族仲」は本来、誰に評価されるものでもなく、そもそも血縁関係の有無は仲の良さとは関係ありません。個々人がそれぞれの立ち位置で、いちばん心地よく過ごせるかたちを選べばいいのではないかとわたしは思います。
さらにいえば、家族という近い関係だからこそ、感情はもつれます。2016年に摘発された殺人事件(未遂を含む)のうち、半分以上の55%が親族間で起きているという警察庁の調査結果も、その傾向を裏づけています。
それを思うと、無理して「家族は仲良くあるべき」と自分を追い詰めるのではなく、「わたしは親のことが嫌いなんだ」「娘がとても苦手だ」と冷静に事実を受け止めたほうが、余裕が生まれるでしょう。
「家族だから嫌いになることもある」と、ときには考えてみることも必要でしょう。そう考えられると、本来、囚われる必要のない罪悪感などから、心が解放されると思います。
■過度な期待がコロナ離婚やトラブルを生む
近しい人間関係においては、お互いに脳のなかで脳内物質オキシトシンの濃度が高まり、「仲間意識」が強くなっている状態にあると考えられます。
オキシトシンは「愛情ホルモン」とも呼ばれ、相手に親近感を持たせたり、愛着を感じさせたりする働きを持っています。同じ空間にずっと一緒にいることで、オキシトシンの濃度はさらに高まります。
ただ、お互いが信頼し合い絆を育むことはいいことですが、同時にお互いに期待する面も大きくなります。
家族なら、育児や家事のサポート、収入面での協力、親の介護など、ひとりの力では大変なことがたくさんあるでしょう。そのため、必然的に自分以外の家族に期待してしまいます。そうして自分が与えた愛情にふさわしい(ときにそれ以上の)“見返り”を求めるようになるのです。
このとき、想像以上に見返りが少なかったり、期待外れだったりすると、反動で相手を責めたり束縛したり、攻撃したりするといった行動に出ることがあります。
コロナ禍では、夫婦が同じ場所で一緒にいる時間が増えたことで、相手の嫌な部分とまともに向き合うことになり、離婚やトラブルなどが増える現象も生じました。「自分だけ楽をしてずるい」「期待していたのに」といった気持ちになるのが、理由のひとつと考えられます。
こうした現象も、オキシトシンによって高まった期待が裏切られた反動として現れたと考えることができるかもしれません。
■“振り回されない”子どもとの上手な付き合い方
近しい関係という観点から見たとき、子どもの教育について悩んでいる人も多いと思います。それこそあまり勉強せず、嫌なことはまったくやりたがらない子どもだと、「手がかかっていつも振り回されているな……」と感じるかもしれません。
前提として、小学校や中学校で学ぶ勉強は、子どもにとって楽しいことではないかもしれません。しかし、この時期に養うのは「学ぶ力の土台」であり、その後に本人が楽しいことを見つけたときに、自分ひとりで学んでいけるようにするための基礎となるものです。
そのため、たとえ嫌いな勉強でも、取り組ませる意義は大きいとわたしは考えます。「苦手なことを好きになる力を身につけられたら、それは生涯あなたの宝物になるよ!」と伝えるなど、嫌なことにも取り組ませる工夫をしてほしいと思います。
そうしてある程度基礎的な学びを終えたあとは、今度は逆に、好きなことに没頭できる環境を整えてあげたいですね。
このとき、子どもが感じる「嫌なこと」が役に立ちます。嫌なことを、子どもがきちんと「これは嫌い」「やっぱりやりたくない」と安心していえる環境をつくってあげることで、子どもはより自分が好きなことに集中して取り組めるはずです。
そうして、進みたいと思う道へ、自分の力で向かっていけるようになるでしょう。
■かわいい子にはスマホを持たせよ
子どもの育て方についてのよくある悩みが、「スマホ問題」です。スマホを子どもに持たせるべきかどうか、様々な意見があります。
わたし自身は、スマホは社会の基本ツールであり、子どもでもデジタルデバイスに積極的に触れることは必要だと考えています。スマホを使うことで多様な情報やアイデア、先端技術に関する知識などを得ることができ、デジタル社会を生きるための力を養えます。
これからの時代を生きる子どもたちからむやみにスマホを取り上げて、果たして親は子どもたちの将来に責任を負えるのでしょうか?
確かにスマホには中毒性があり、注意を分散させてしまったり必要以上にハマってしまったりと、勉強の妨げにもなります。寝る前の使用で睡眠の質が低下することもわかっています。これはデジタル社会特有のリスクでしょう。
だからこそ、親が「上手な使い方」を身をもって教え、実際にやらせてみる必要があるのです。スマホを使うにも知性が必要です。親自身がその中毒性のとりこになり、使い方が下手であれば、それがそのまま子どもにも踏襲されてしまうでしょう。
ここでお伝えしたいのは、子どもたちが新しいものに触れられる機会を奪ってしまうことの是非を考えてみてほしいということです。スマホを悪の機器のようにみなす意見に振り回されずに、子どもがスマホとうまくつきあっていけるように、親が一緒になってしっかり教えていける環境をつくっていきましょう。
■大人こそ注意したい「スマホ脳」
わたしたちは、ふだんなにげなくスマホで知りたい情報を検索し、ものごとを幅広く理解しているように思いがちですが、実はまったく違います。
例えば、おもな検索エンジンの検索結果は、過去の自分の表示履歴や検索履歴によって最適化されて表示されます。つまりそれの意味するところは、気づかないうちに自分が好むような、似た情報ばかりに触れているということ。
すると、それらが正確な情報ならまだしも、間違った情報に振り回されたり、極端な考え方に影響を受けたりします。たとえ正しい情報だとしても、反対意見などが得られないため思考がどんどん偏っていき、狭い世界へと追い詰められていくのです。
このような、自分にとって都合のいい意見ばかりを求め、反対意見や客観的なデータを無視するようになる傾向のことを「確証バイアス」といいます。
本来、自分とは異なる多様な人々の価値観に触れられるインターネットという場が、スマホの使い方ひとつで、狭い考え方を助長する場へと変わってしまうのです。
■「いいね!」の数に意味はない
特定の人たちとゆるくつながれるSNSの世界はとくに注意が必要です。
多くの人がSNSを気軽に使っていますが、自分のSNS上で起きている「ふつう」の状態は、その集団だけの「ふつう」である場合がたくさんあるからです。
これはつまり、異なる集団のSNSでは、自分たちとはまったく違う情報や考え方が「ふつう」とされているということを意味します。こうして集団間でのコミュニケーションが難しくなっていき、やがて互いを攻撃し合ったり、炎上したりする現象が頻繁に起きてしまうわけです。
その意味では、SNS上の友だち(フォロワー)の数や「いいね!」の数が多くても、たいした意味がないことが理解できるでしょう。
それは単に、同質的な集団のなかで意見を評価し合っているだけであり、その思考や判断はゆがみがちで、ものごとの本質を見誤りやすくさせます。
これはあたりまえのことですが、SNS上の友だち数などで、あなたの人生の充実度は測れないのです。
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脳科学者、医学博士、認知科学者
東日本国際大学特任教授。京都芸術大学客員教授。1975年、東京都生まれ。東京大学大学院医学系研究科脳神経医学専攻博士課程修了。2008年から10年まで、フランス国立研究所ニューロスピン(高磁場MRI研究センター)に勤務。著書に『サイコパス』『不倫』、ヤマザキマリとの共著『パンデミックの文明論』(すべて文春新書)、『ペルソナ』、熊澤弘との共著『脳から見るミュージアム』(ともに講談社現代新書)などがある。
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(脳科学者、医学博士、認知科学者 中野 信子)
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