「カニは好きですか?」送り付け商法のずる賢いヤツらに絶対言ってはいけない言葉
プレジデントオンライン / 2021年7月8日 11時15分
■「送り付け商法」対策の改正法をかいくぐる悪い奴らの手口
「送り付け商法」をご存じでしょうか。一方的に、健康食品や海産物、マスクなどの商品を送ってきて代金を請求する、という悪質商法のひとつです。これまで多くの被害者が出ていましたが、7月6日から送り付け行為に関する法改正がなされました。
これまでは送られてきた商品を受け取ってから14日たてば、消費者は自由に処分できることになっていましたが、今後は、送り付けられた商品を直ちに処分できることになったのです。
これは消費者が身を守るうえで、非常に重要な武器となります。今回の法改正の良さは、なんといっても、すぐに商品を処分できるところにあります。
もし商品が送られてくれば、受け取った人は「何の商品だろう」と思って、開封してしまう可能性があります。すると、その中に商品とともに請求書が入っている。
「はて、注文しただろうか?」
特に高齢者になればなるほど、自分が何を注文したか思い出せなくなりがちです。そこで確認しようと、業者に電話をしてしまいます。すると、業者から「あなたから、注文を受けたので、送った」などとうそを言われて、支払うように迫られます。
これまでは、注文した覚えがないにもかかわらず、14日という長きにわたって商品を保管しなければならず、この間に、業者からの催促電話におびえて過ごさなければなりませんでした。なかには、業者からの威圧的な物言いに、根負けしてお金を払わざるえない状況になる人もいました。
ところが、今回の法改正により、商品を受け取ってから処分できるまでのタイムラグが「ゼロ」になった。これは悪質業者からの執拗な電話を受けて、消費者が追い込まれ、不安になる時間がなくなったことを意味しており、とても大きいことなのです。
しかし喜んでばかりもいられません。法改正されたといっても、商品を送り付けるようなずる賢い悪質業者がそう簡単に諦めるとは思えないからです。
■今後、悪質業者がやりそうな3つの手口とその対策
そこで過去に国民生活センターが注意喚起した送り付け商法の事例から見て、今後、悪質業者がやりそうなことをお話しますので、事前に知っておいて、身を守っていただければと思います。
今から8年ほど前、(2013年)に寄せられた相談です。
70代女性の家に業者から「ご注文いただいた健康食品を送ります」と電話がありました。しかし女性は、頼んでいないので「送らないでください」と断り、電話を切りました。
しかし後日、封書が届きます。そこには「商品の注文の確認をしたにもかかわらず、頼んでいないと言われて、発送前日にキャンセルされて損害金が発生した。期間内に3000円を支払わなければ法的手段に訴える」と書いてあったのです。
この他にも、当時、覚えのない健康食品が送られてきたため、受け取り拒否をしたところ、後日、損害賠償請求書が送付されてきたケースもありました。
過去のこうした事例から、今後は「送った商品を、勝手に処分した。商品を返せ!」などと言いがかりをつけて、損害賠償などを名目に代金を請求してくることが考えられます。
この手口自体は、「未納料金を払わなければ、法的手段を取る」と不安をあおってお金を払わせる架空請求詐欺に近いもので、真面目な人ほど、相手の話を受け止めて、被害に遭ってしまいます。
もちろん、お金を払う必要はありませんし、即日、処分しても法律上問題はありません。
この事例もそうですが、送り付け商法といっても、いきなり商品を届けるというよりも、いったん、家人に電話をして「注文していた商品を送ります」と言い、相手がだませるかどうかを確認してから、送ることがよくあります。
ひどい事例になると、「カニは、好きですか?」と聞き、それに対して、「はい」と答えただけなのに、送り付けられたこともあったほどです。
![皿にのったズワイガニ](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/e/670/img_be4d0f8bf7ef65cdb9b036e7c8734300464590.jpg)
しかし今後は「だませるだろう」程度の見込み客に商品を送ったとしても、処分されてしまう可能性が高くなるため、電話をかけた段階で、しっかりと話をしてから、商品を送り付けるのではないかと思っています。
■「申し込みを録音している。裁判を起こす」
同年(2013年)に、次のような相談がありました。
80代女性のもとに「注文を受けた健康食品を送る」と電話がありました。女性が「注文していない」と言うけれど、業者は一方的に「キャンセルできない。申し込みを録音している。裁判を起こす」と言われ、仕方なく受け取りを承諾してしまいます。
家に届いた箱の中には、商品の代金(約4万円)が記入された現金書留の封筒が一緒に入っており、業者からはお金の催促電話だけでなく、連絡をするようにという電報までも届いたといいます。
このように一端、商品を送ることに同意させてから、執拗にお金を要求する手口も出てくることでしょう。
知っておいてほしいのは、電話をかける際の悪質業者の手口です。
業者は実際に家人が過去に商品を購入したリストを見て電話をかけます。その時、さもその時に購入した業者を装い、「あなたからの申し込みがあった」と嘘をつきます。そして、しつこく「商品を送ります」を繰り返し、根負けした相手から「はい」という、同意の言葉を取ろうとします。当然、値段は告げません。安い商品のようなニュアンスで話をしてくるかもしれません。
![携帯電話で会話するシニア男性](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/5/670/img_457d2aa7290ed99eccd81601b35a872b209437.jpg)
そして送った後に電話をかけて、「あなたは、商品の注文に『はい』と、同意の返事をしたではないか」と話をすり替えて、高額な代金の支払いを迫ってくる恐れがあります。
だまされないためには、会話のなかで安易に「はい」や「わかりました」を口にしないことが大事になります。
特に、注意してほしいのは、私たちが受け取りやすい状況に付け込まれることです。
昨年、業者が「新型コロナ影響をうけて、観光をする人が減り、経営が苦しくなった。助けてほしい」と窮状を訴えて、魚介類などを送りつけて、購入させようとしてきました。その前にも、令和への改元に乗じて「平成最後の記念に、どうですか?」と電話をかけて、高齢者に皇室関連の写真集などを送り付ける手口もありました。天皇陛下の関連商品ゆえに捨てがたい気持ちになる高齢者は多くなり、お金を払ってしまう心境にさせられます。
■「必要としている」ところに送り付ける巧妙な手口
人情に訴えてくるだけではありません。
一時期、新型コロナの蔓延でマスクが品薄になり、マスクを一方的に送り付けて、お金を払ってしまう被害が出ました。
これは私たちが「必要としている」ところに送り付ける巧妙な手口です。こうなると、値段は少々高いけれども、受け取ってしまいがちになります。だます側は、こうした「ほしい」「必要」という私たちの心理にもつけ入るのです。
もしかすると、「マスクが手元になかったんだから、ラッキーじゃないか」と思う人もいるかもしれませんが、それは間違いです。たいがい、その商品は値段に似合わない粗悪品であることがほとんどだからです。
以前に、カニなどの海産物が勝手に送られて、1万円以上払い、代金引換でお金を払って開けてみたら、すかすかで値段に釣り合わないものだったということもありました。マスクも同様で、耳にかけるとひもがすぐにプツンと切れてしまうような粗悪品であるかもしれません。
今回、消費者庁は送り付け行為への対応として、3カ条を挙げて注意をしています。どうしても「その1:商品は直ちに処分可能」にスポットがあたりがちですが、実は、2番目以降の注意も、とても重要なのです。
「その2:事業者から金銭を請求されても支払不要」
先にみてきた過去の事例のように、言いがかりをつけられて、一方的に商品を送り付けられるケースもありますが、注文した覚えがなければ、金銭を支払う義務は生じません。きっぱりと断ってください。
「その3:誤って金銭を支払ってしまったら、すぐ相談」
送り付けられた商品は「すぐに処分OK!」ですが、これが多くの人に浸透するまでに、時間がかかります。このタイムラグを狙って、従来通りの手口を繰り返すことは間違いありません。
この時、悪質業者は、トラブルが起きた時に、誰にも相談せず、自分だけで解決しようとする人を狙います。それゆえ「自分では解決できない。困ったな」と、思ったら、迷わず消費者ホットライン「188」(いやや)に、「すぐ相談!」が何より大事になるのです。
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ルポライター
1965年生まれ。北海道旭川市出身。日本大学法学部卒業。雑誌『ダ・カーポ』にて「誘われてフラフラ」の連載を担当。2週間に一度は勧誘されるという経験を生かしてキャッチセールス評論家になる。これまでに街頭からのキャッチセールス、アポイントメントセールスなどへの潜入は100カ所以上。キャッチセールスのみならず、詐欺・悪質商法、ネットを通じたサイドビジネスに精通する。著書に『ついていったら、こうなった』(彩図社)、『あなたはこうしてだまされる 詐欺・悪徳商法100の手口』(産経新聞出版)、『ワルに学ぶ黒すぎる交渉術』(プレジデント社)、『マンガ ついていったらこうなった』、『迷惑メール、返事をしたらこうなった。』、『あやしい求人広告、応募したらこうなった。』(いずれもイースト・プレス)などがある。
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(ルポライター 多田 文明)
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