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「天才ゴルフ姉妹の父親は公務員」これだけは絶対に守れと言い聞かせた"岩井家4つの教え"

プレジデントオンライン / 2021年7月11日 11時15分

岩井千怜(左)と岩井明愛(右)。大学のユニフォーム姿にて。 - 写真提供=武蔵丘短期大学

■「20位までがプロ合格」で、姉の明愛は3位、妹の千怜は9位

プロゴルファーを名乗るには超難関の「プロテスト」に合格しなければならない。日本女子プロゴルフ協会(JLPGA)の場合、合格者は上位20位まで。受験者は例年600人ほどいるので、合格率は3%ほどだ。

このうち今年6月に行われた4日間の最終プロテストに、18歳の双子の姉妹が合格し、話題を集めている。今年4月に武蔵丘短期大学に入学したばかりの大学1年生、18歳の岩井明愛(あきえ)と千怜(ちさと)だ。

姉の明愛は通算12アンダーで3位、妹の千怜は通算7アンダーで9位タイで、余裕の合格だった。

プロテストは、プレーヤー以外は家族も関係者もメディアも会場入りが許可されない非公開で進行される。

合格が確定した途端、明愛は駐車場で待機していた母・恵美子に朗報を伝えに行った。

「目が合った途端、母が泣き出したので、私は母とハグして、一緒に喜びました」

しばらくして千怜も合格が確定し、やはり母の元へ向かった。

「そのときは、母はもう泣きやんでいたんですけど、私が行ったら、また泣いちゃって、私も母とハグしました」

ふと、姉妹が泣いたというくだりがどこにも出てきていないことに気付き、「2人も一緒に泣いたの?」と尋ねてみた。

「泣かなかったですね」(千怜)
「一度も泣いてないです」(明愛)

2人は感情の起伏が少ないフラットな性格というわけではない。明愛も千怜も、よく笑い、はきはきと話す。明るい性格で、豊かな感受性で、周囲を気遣うこともできる。

しかし、超難関のプロテストに合格し、ほとんどの選手が涙を流しているなかで、2人は涙を見せなかった。なぜなのか。その理由は岩井家の独特な教育法と関係がある。

■父・雄士は姉妹にゴルフを教えたことはない

幼少時代からゴルフクラブを振ってきた岩井姉妹の戦績は枚挙に暇がない。

姉・明愛は関東高校ゴルフ選手権で2連覇を達成。妹・千怜は埼玉県女子アマ選手権3連覇、ゴルフダイジェスト・ジャパン・ジュニアカップ3連覇。プロの大会にも挑み、明愛は昨年の日本女子オープンで、千怜はスタンレー・レディスで、それぞれローアマに輝いた。

今年3月に埼玉栄高校を卒業し、4月からは同じ県内の武蔵丘短期大学に進学。学校生活の変化とほぼ同時進行で、今後のキャリアを大きく左右するプロテストに挑んだ。

岩井明愛(左)と岩井千怜(右)
写真提供=岩井家
岩井明愛(左)と岩井千怜(右) - 写真提供=岩井家

日本女子オープンでローアマになった明愛は1次、2次予選が免除され、最終テストからの一発勝負。千怜は1次、2次、最終の3段階をくぐり抜け、どちらも合格を果たした。

そんな2人がゴルフを始めたきっかけは、「父親の影響」。だが、父・雄士は2人にゴルフをさせようとしたことも、強いたこともなく、自らは教えてもいないという。

■7歳の夏、姉妹は大人用のクラブを1時間も握り続けた

岩井家は5人家族だ。父・雄士は公務員、母・恵美子は看護師。二卵性の双子姉妹の2つ下には弟・光太がいる。

姉妹が7歳の夏、多忙をきわめていた母・恵美子が少々不機嫌だったため、父・雄士は「半ば嫌々、明愛と千怜を練習場に連れていった」。すると姉妹は大人用のクラブを1時間も握り続けたそうだ。

それからは、父親が練習場に行こうとするたびに「アキちゃんも行く!」「チーちゃんも!」とせがまれた。

2人がゴルフを始めたばかりのころ。
写真提供=岩井家
2人がゴルフを始めたばかりのころの貴重な1枚。 - 写真提供=岩井家

2人が自分のクラブを手にしたのは、その年のクリスマスのことだ。

「サンタさんにゴルフクラブをお願いしたら、翌朝、ゴルフバッグが置かれていました。それまでで一番うれしかったことでした」(明愛)。

しかし、舞台裏はなかなか大変だった。

「ジュニア用のゴルフクラブが売られていることすら知らなかった私は、きっと高額で無理だろうと思いながら調べてみたら、1万円ちょいであったので、それを買って彼女たちの枕元に置きました」(父・雄士)

■練習代、ラウンド代、遠征費…双子にゴルフをさせる経済的負担

小学2年生からは、自宅近くの毛呂山町のリンクスゴルフクラブで永井哲二プロのレッスンを受け始め、めきめき腕を上げていった。

そして、前述の通り、明愛も千怜も数々のジュニア、アマチュアタイトルを手に入れ、プロになる日、プロになって勝つ日を目指してクラブを振ってきた。

何から何まで同時に2人分。双子を育てる両親の経済的負担は、ただでさえ大きいものだが、そこにクラブやボール、ウエアやシューズ、練習代、ラウンド代、試合出場のための遠征費といったゴルフの費用が加わった。さらに最初は姉妹2人分だったものが、後には弟・光太を含めた3人分になり、「私は月1ゴルフも我慢するようになりました」(父・雄士)。

昨年、姉妹が全米女子オープンの日本予選に挑んだとき、父・雄士は渡米して出場する費用のことが頭に浮かび、「予選を突破したらどうしようって、内心、ドキドキしていました」。

写真提供=岩井家

■「『おこづかい、ちょうだい』と言われたことは一度もない」

両親が苦労して家計をやりくりしている姿を間近に眺めてきた姉妹は、だからこそ感謝の念を抱き、自分たちが強くなって両親に恩返しをしたいと思うようになった。

「そう言えば、あの子たちから『おこづかい、ちょうだい』と言われたことは一度もありません」と、母・恵美子は明かした。

今年1月。大学進学を控えた高校生最後の春に、プロゴルファーになったらかなえたい夢を姉妹に尋ねたら、2人はこう答えた。

「賞金を稼いで、朝日がきらきら光る海が部屋の中からガラス越しに見える大きな家を建てて家族みんなで住みたい」(明愛)
「賞金を稼いで、困っている人たちのために寄付をしたい。あんまりお金がないのに私たちにゴルフをさせてくれた両親や祖父母に恩返しをしたい」(千怜)

お金の苦労は、お金を稼ぎたいという最高のモチベーションになり、夢になった。

■本来なら高校3年生の秋にプロテストを受けるはずだった

意外なことに、明愛も千怜も中学時代は陸上部に所属していた。明愛はサッカーにも精を出し、父・雄士も弟・光太も一緒になって、みんなで走ったり、トレーニングしたり、ご飯を食べたりの合宿のような生活を楽しみながら送ってきたという。

楽しむことが最優先。ゴルフの試合に出て、姉妹の成績に差が出てしまったとき、父親は「必ず成績が悪かったほうに声をかけた」。

高校進学を控えたころ、明愛も千怜も、陸上やサッカーをやめてゴルフを選び、「ゴルフが強い高校に入りたい」と自ら意志を固めた。その意を汲んで、両親は2人をゴルフ強豪校である埼玉栄高校へ導いた。

姉妹の身体能力の高さに、思わず目が行ってしまう。
写真提供=岩井家
姉妹の身体能力の高さに、思わず目が行ってしまう。 - 写真提供=岩井家

コロナ禍で本来なら高校3年生の秋に受けるはずだったプロテストが今春以降へと延期され、2人が描いていた人生プランはすっかり狂ってしまったが、「親としては最悪の事態も考慮に入れた」という両親の思いもあり、姉妹は武蔵丘短期大学へ進学。

すると2人は「身体のことを学んで自分の肉体管理は自分でやりたい」「アスリートとしてやっていくためには、自分で身体のコンディションを整えたい」と、大学生活にも意欲を見せ、卒業証書を手にすることを目指している。

彼女たちのプロテスト挑戦と合格は、そんな学業追求との同時進行の下で達成されたものだった。

■「これだけは絶対に守りなさい」と強調してきた4つの教え

おのずと育った強く優しいプロゴルファー

姉妹にゴルフを「させようとしたわけではなかった」という父・雄士は、その後も、ゴルフ指導はレッスンプロに任せ、自身は「教えない」「強いない」「怒らない」、そして「楽しめ」という姿勢を貫いてきた。

だが、姉妹が幼いころから「これだけは絶対に守りなさい」と強調してきたものがあるそうだ。

大学で友達と談笑するのは「すごく楽しい」。
写真提供=武蔵丘短期大学
インタビューの様子。大学で友達と談笑するのは「すごく楽しい」という。 - 写真提供=武蔵丘短期大学

「『岩井家の4つの教え』っていうのがあるんです。人にされて嫌なことはするな。一人ぼっちの人がいたら仲間に入れる。困っている人がいたら助ける。幼い子や女の子、弱い人には優しくする」(明愛・千怜)

4つの教えを守りながら成長した姉妹は、だから優しい子になり、優しいからこそ心根が強い子になった。

■「でも、私たちは泣かなかった」

プロテストのプレー中、窮地に陥ったり、きわどいパットに遭遇するたびに「支えてくれた家族や友達、高校の監督、大学の先生の顔が浮かんで励まされた」と姉妹は口をそろえる。いいプレーができるのは、応援してくれたみんなのおかげだと感謝している。

その謙虚さも、岩井家の家訓とも言える4つの教えから生み出されたものではないだろうか。そして、熾烈(しれつ)な競争を勝ち抜き、3段階のプロテストに勝ち残り、勝ち抜き、合格できたことは、4つの教えを守りながら培ってきた強いメンタリティのたまものだ。

姉妹そろっての合格を知って思わず泣き出した母を、明愛と千怜は優しくハグしながら感謝の気持ちを伝えた。

「でも、私たちは泣かなかった」

心が強いから泣かなかったのだろうか。きっとそれだけではない。2人の胸の中には確固とした理由があった。

合格から3日後、大学で講義を受ける姉妹。
写真提供=武蔵丘短期大学
合格から3日後、大学で講義を受ける岩井姉妹。 - 写真提供=武蔵丘短期大学

■「プロテストは通過点であってゴールじゃない」

「合格したことは、すごくうれしかったけど、泣くほどのことを成し遂げたわけじゃない。ここからがスタートですから」(千怜)
「私もすごくうれしかったけど、プロテストは通過点であってゴールじゃない。海外メジャーに勝って夢をかなえるまで、涙はとっておきたい」(明愛)

父も、そして母も、ゴルフを強いず、教えず、人としての道だけを教えてきたら、双子の姉妹はゴルフ道を突き進む、強く優しいプロゴルファーになり、これからますます羽ばたいていく。

その様子を眺めながら、彼女たちを育んだ「4つの教え」を、ときどき唱えてみたいと思う。

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舩越 園子(ふなこし・そのこ)
ゴルフジャーナリスト、武蔵丘短期大学客員教授
東京都出身。早稲田大学政治経済学部卒業。百貨店、広告代理店勤務を経て、1989年にフリーライターとして独立。93年に渡米し、米ツアー選手と直に接し、豊富な情報や知識をベースに米国ゴルフの魅力を発信。2019年から米国から日本に拠点を移す。著書に『王者たちの素顔』(実業之日本社)、『ゴルフの森』(楓書店)、『松山英樹の朴訥力』(東邦出版)などがある。

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(ゴルフジャーナリスト、武蔵丘短期大学客員教授 舩越 園子)

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