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「上司が無能なせいで仕事に集中できない」産業医面談を受けた30代"勘違い社員"の末路

プレジデントオンライン / 2021年7月15日 15時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/yamasan

産業医面談を受けた結果、会社に居づらくなる社員がいる。それはなぜか。産業医として年間1000件以上の面談をしている武神健之さんは「人は精神的に余裕がなくなると考え方が極端になる。その時に指摘をしてくれるような人間関係があるかどうかが分岐点だ」という――。

■産業医面談後に発生する「ややこしい事態」

「産業医はどんな面談しているんだ! って言われたのですけど……」

ごくたまにですが、産業医面談後、ややこしい事態が発生してしまうことがあります。

詳しく話を聞いてみると、面談した社員が訴えていた「ハラスメントだ」「上司が悪い」等々の内容が、いつの間にか産業医も同意見ということになってしまっているのです。

確かに産業医面談の際に、面談社員がいろいろなことを他人のせいにすることがあります。私は訴えに、「そうなんですね」と相づちを打ち、「それは大変ですね」、などの共感も示すことは多々あります。社員の気持ちをくんで、「残業減るといいね」「他部署への異動もできるといいね」と、言うこともあります。

時には社員が、「これってひどいと思いませんか」と同意を求めてくることがあります。産業医面談ですので、Noと答えることはほとんどありませんが、Yesと答えることも実はなく、その時は「つらいですよね」「僕だったらきついかもしれません」と社員の気持ちを表現し、理解を示します。

■信頼関係を築くために「個として承認」している

いずれの場合も共通しているのは、面談社員の主張(主訴)を否定はしないということです。産業医は、現場をみているわけではありませんので、社員の発言の真偽はわかりません。ですので、社員の気持ちに共感し、理解を示し、発言している社員を“個(人)”として承認しているのです。

例えば、患者さんが「先生、○○度の高い熱があってしんどいです」と街の診療所を受診した時、ほとんどの医者は、体温計の示す体温に関係なく、「それはしんどいですね」とまずは答えるでしょう。決して「○○度は高熱ではないですよ」とは言いません。

この時も医者は、“しんどい”と言っている個(人)を承認しているのです。もちろん、実際の体温も診療上必要ですが、まずは患者さんを承認し、治療のためのいい信頼関係を築こうとしているのです。

同じように、産業医が承認するのは、社員からもっと話を聞き、さらなる信頼関係を築くためでもあります。決して、一つひとつの訴えの事実を認定しているわけではないのです。

■「同意」と「承認」の違いに気づかないAさん(30代男性)

この承認と同意の違いに気がつくことができず、自分の訴え全てを産業医も認めてくれたと思ってしまう人がたまにいます。

Aさんは30代の入社2年目の男性で、業界大手から私のクライエントに転職してきました。この2年間、昇進を目指して仕事に打ち込んできたとのことでしたが、自分の仕事が評価されていないと感じ、そのもどかしい気持ちから仕事に集中できなくなったと産業医面談にきました。

彼が言うには、上司のマネジメントが下手で、仕事ができない同僚に能力以上の業務を与えてしまう。その尻拭いのため、いつも締め切り間際で自分が駆り出され、おかげで自分の仕事がはかどらないとのことでした。

会議中のビジネスマンたちの手元
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kazuma seki

面談では、同僚や上司の能力の低さや、会社のやり方が効率的でないことなどが、自分の評価が高くならない原因であるとして、何度も「わかってくれますよね」と訴えていました。

私は彼の頑張りを承認し、彼の抱えるやり場のない怒りやつらさに共感を示すよう努めました。その後も数回面談に来ましたが、毎回30分の面談時間いっぱい、いろいろな不満を口にしていたのが印象的です。

時折、業界大手の前社と今の会社とでは規模や文化も異なるので、やり方もいろいろある。周囲に合わせることも業務をやり遂げる中で必要なのでは、と自覚を促そうとしましたが、そのような声に耳を傾けることはありませんでした。

■「産業医はどんな面談しているんだ!」上司が困惑した理由

そんな中、彼の部門人事から、冒頭のように「産業医はどんな面談しているんだ! ってAさんの上司が言ってきたのですけど……」と、連絡がありました。

Aさんが上司との1対1のミーティングの際に、「私の評価が低いのは、忙しい時ほど同僚の尻拭いに振り回されることや、上司のマネジメント不足が原因だということは、産業医も認めてくれている」と言ったそうです。

このような事態に慣れている人事は、上司からのクレームに困惑することはありませんでした。そして、私の話を聞いた上で、Aさんは同意と承認の違いに気づくことができていない可能性が高いことを伝えてくれて、上司も納得してくれたのです。

■他人の評価を貶める人は、企業文化に合わない

このように誤解が解ければいいのですが、時には上司や会社が社員を見限るようになってしまうことがあります。

その後、Aさんは他部署の同僚たちに、「産業医もうちの上司は無能だって言っている」と吹聴するようになってしまいました。

Aさんの健康を心配し、業務負荷を減らすなどの対処をしていた中での出来事に、さすがの上司も我慢が限界に達しているようでした。結局、組織内で他人の評価を貶める等の噂を広めることは企業文化に合わないとして、今後、どのように彼に対処すべきか人事と相談を始めたということです。

また、社員が既に病院を受診している場合、「主治医もこれはハラスメントで会社が悪いと言っている」と言ってくることがあります。

社歴10年以上の40代女性、Bさんは、いきなり会社に診断書を提出しました。そこには、「職場におけるパワハラにて、適応障害を発症。治療のため自宅療養を要する」と書いてありました。

面談中
写真=iStock.com/Yue_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yue_

■「休職」と「ハラスメント」は別問題だ

このような診断書を見ると、私は同じ医者として悲しくなります。なぜ、職場の状況を知らないのに、患者一人の話を聞いただけで“職場におけるパワハラ”が事実であると断定できるのでしょうか。主治医が患者の気持ちに寄り添うことは大切ですが、おそらく言いなりに書いているのだと思います。

それでも会社としては、このような診断書は見逃せないものです。そのまま休職を認めると、こうした社員は「自分がパワハラを受けていた」そして、「会社もそのことを認めている」と勘違いしてしまいがちだからです。

そうならないためにも、私は産業医面談で社員といい関係性を築いた上で、“休職”は認めるが、“ハラスメント”については別問題であることを説明します。

そして、社員一人だけの訴えを聞いた主治医に事実認定はできないので、診断書は不適切であり、ハラスメントの記載を省いての再提出を求める場合もあることを伝えています。

さらにハラスメントについての訴えについても否定するのではなく、会社のホットライン等の手順に従い、調査してもらうことを勧めます。ほとんどの場合、社員は理解してくれます。

■診断書に「会社が原因」とあると、関係が悪化しやすい

翌月、私はBさんと産業医面談をすることになりました。面談では、苦手な同僚に対するさまざまな不満や同僚からの仕打ちを打ち明けてくれました。その内容がどこまで本当なのか疑問に感じつつも、つらい思いに共感を示しているうちに面談時間は終了してしまいました。

本人の了解のもと、人事担当者にその内容を伝えると、すでにBさんから話を聞いて、同じ部署の同僚たちにもヒアリングをしてくれていました。結果、パワハラと騒いでいるのは本人のみで、実際は仲の悪い2人がいつもいがみ合っていて、周囲はこの2人に迷惑しているという声が圧倒的だったとのことでした。

このように原因が会社であると主張し、公文書である診断書として提出してしまう社員には、会社もどこか一歩引いて接するようになります。

例えば人事は、後々裁判などになった場合に備え、休職にまつわる業務連絡のメールを書いたり、電話をしたりする際も、会社に落ち度がないよう注意深くなります。その結果、型式張った文章や話し方になります。すると、社員はコミュニケーションをぎこちなく感じるため、会社が自分を不要と考えているのではないか等々、疑心暗鬼になってしまいがちです。そのような環境では休職中も不安が消えず、治療に逆効果になってしまうのです。

メールチェック中の手元
写真=iStock.com/Tero Vesalainen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tero Vesalainen

■「極端な発言」で上司や会社からのサポートが受けづらくなる

人は精神的に余裕がなくなると、考え方が狭く極端になります。また、誰でも本能的に自分を正当化する傾向があります。

ですから、精神的にきつい時に、相談相手が共感を示し理解してくれていると感じると、「自分の主張を100%受け入れてくれた」と考えてしまうことは、冷静に考えれば仕方ないことでしょう。

しかし、同僚や部外者にまでその発言がなされていると、時には上司や会社からのサポートが受けづらくなってしまいます。

ただ、社員に受け入れる心の準備ができていないときにそれを指摘しても、受け入れるのは難しいでしょう。そればかりか、正論を振りかざす相手に心を開いてくれることはなく、信頼関係が築けなくなってしまいます。

そうならないためにも、私は産業医として、社員との信頼関係がそれなりにあり、社員が必ずしも周囲は自分の考えに同意しているわけではないことに気づくか、受け入れる心の準備ができた時に、やんわりと伝えるのみです。

■人間関係が希薄な人は、間違いをただしてもらえない

では、間違いや勘違いを指摘することは、いったい誰の役割でしょうか。子供ならば親、生徒ならば先生、クラブ活動ならばチームメイトたちがその適任者かもしれません。会社でも、仲のいい同僚や親身になってくれる先輩、上司がいれば、相手のためを思い指摘してくれるのでしょう。しかし、社会的な表面だけの人間関係では、嫌われてしまうような役割を誰も引き受けたくはないのかもしれません。結果、指摘してくれるほどの人間関係を持てていない社員ほど、勘違いが極端になりやすいのかと感じます。

このようなとき、上司たちの誤解は解けたとしても、産業医としては、なんともやるせない気持ちになってしまいます。こうした私の経験が、少しでも企業担当者の方のご参考になれば幸いです。

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武神 健之(たけがみ・けんじ)
医師
医学博士、日本医師会認定産業医。一般社団法人日本ストレスチェック協会代表理事。ドイツ銀行グループ、BNPパリバ、ムーディーズ、ソシエテジェネラル、アウディジャパン、BMWジャパン、テンプル大学日本校、アプラス、アドビージャパン、Wework Japanといった大手外資系企業を中心に、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施。働く人の「こころとからだ」の健康管理を手伝う。2014年6月には、一般社団法人日本ストレスチェック協会を設立し、「不安とストレスに上手に対処するための技術」、「落ち込まないための手法」などを説いている。著書に、『職場のストレスが消える コミュニケーションの教科書』や『不安やストレスに悩まされない人が身につけている7つの習慣』『外資系エリート1万人をみてきた産業医が教える メンタルが強い人の習慣』などがある。公式サイト

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(医師 武神 健之)

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