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「ご飯 夜7杯、朝3杯」大谷翔平が10年前に書いた、81個の"マンダラの約束"

プレジデントオンライン / 2021年7月12日 11時15分

2021年7月3日、カリフォルニア州アナハイムのエンゼルスタジアムで、ボルチモア・オリオールズとの1回戦で打席に立つロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手 - 写真=AFP/時事通信フォト

「1番打者・先発投手」。エンゼルスの大谷翔平が出場するMLBオールスターゲームが目前に迫った。33本の本塁打をかっ飛ばし、投手として4勝を挙げる二刀流。「異次元でスペクタクルだ」「アンリアルな才能」と現地メディアは褒めちぎる。スポーツライターの相沢光一氏は「大谷の選手・人間としての下地を作ったのは、花巻東高校の佐々木洋監督です」という。佐々木監督の指導の下、10年前に大谷が書いた「81個の約束」とは――。

■大谷翔平と菊池雄星をメジャーのオールスター試合に送った「花巻東」

生中継に釘付けで仕事にならない人が続出するのではないか。

7月13日(日本時間14日9時プレーボール)に行われる米MLBオールスターゲームの出場者に大谷翔平(27、ロサンゼルス・エンジェルス)、ダルビッシュ有(34、サンディエゴ・パドレス)、菊池雄星(30、シアトル・マリナーズ)の3人が選出された。大谷は、MLB史上初となる打者と投手の二刀流で起用されることも決定している。野球ファンならずとも注目するコンテンツだろう。

MLBの場合、野手8人(アメリカン・リーグはDHを入れて9人)はファン投票で、その他の野手と投手は、選手・監督・コーチによる「選手間投票」で選出される。大谷はすでにア・リーグDHのファン投票1位で選ばれていたが、菊池とダルビッシュ、投手・大谷は選手間投票で選出された。オールスターは世界最高峰のMLBでもトップの活躍をした者しか立つことができないひのき舞台であり、本人はもちろん、まるで自分のことのように誇らしく感じている日本人も多いのではないか。

大谷と菊池は、岩手県の私立花巻東高校、ダルビッシュは宮城県の私立東北高校出身。そろって東北の高校出身者であるのはちょっとしたサプライズだが、そのうち2人が花巻東OBというのは快挙と言っていい。

■「野球後進県」の「ローカル強豪校」が生んだ傑出した才能

花巻東は岩手県を代表する強豪校だ。甲子園大会には春3回、夏10回出場していて、2009年の春のセンバツではエース菊池が活躍し準優勝している。

ただし、強豪といっても“岩手の”がつく。全国優勝はまだなく、甲子園に毎年必ず出るというわけでもない。ライバルの盛岡大附属高校と競り合いを続けている状況だ。「野球後進県」と揶揄(やゆ)する人も少なくない。全国制覇・優勝が具体的目標となっている大阪桐蔭、智弁和歌山、中京大中京、横浜などの本当の強豪とは実力的に差があると言わざるを得ない。

そんなローカル強豪校から菊池、大谷というメジャーで大活躍する選手が出た。

だが、これは偶然ではない。2人に類いまれなアスリートとしての能力があったことは確かだが、野球選手として成長するうえでも、人間形成の点でも重要な意味を持つ高校の3年間、花巻東の佐々木洋監督の指導を受けたことが、今の大成に密接な関連を持っている。

■大谷翔平が10年前、高1時に書いた81マスの「マンダラの約束」

佐々木監督が同校野球部の指導を始めたのは2004年。以後17年間で春夏あわせて11回も甲子園出場を果たしているが、基本的に岩手県内出身の選手だけでチームをつくることを方針としている。ごく少数、県外出身選手もいるが、OBの推薦があった者だけで、他県から有力選手をスカウトすることはない。その点からも勝利だけを追求する監督ではないことがわかる。

地図上の岩手県の位置
写真=iStock.com/Kateryna Novokhatnia
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Kateryna Novokhatnia

それで甲子園出場を積み重ねる手腕は見事というしかないが、部員たちの技術を向上させて勝てるチームをつくるだけでなく、「人生で成功する人材を育てる指導」をしているところに多くの高校野球部監督や教育関係者が一目も二目も置いている。

それを象徴する指導のひとつが、1年生部員たちに作成させる「目標達成シート」。ビジネスでも活用されることがある「マンダラチャート」に近いものだ。仏教(密教)の世界観を表す曼陀羅図を目的達成に応用した技法である。

シートには9×9の合計81個のマス目が書かれている。まず中心にあるマスに自分が達成したい「大きな目標」を記入する。そのマスを取り囲む8つのブロックには、その目標達成に必要な要素を埋める。

■大谷本人にとっては「すべてが計画通り進んでいる」

さらにその要素の外側の9マスには、要素を満たすための近い目標や日々行うべきことを書き込む。それらを意識し行うよう心がけることで、必要な要素が満たされ、中心にある最終的な目標の達成に近づけるというわけだ。

佐々木監督は、このマンダラチャートを野球部員たちの目標達成や技術向上、そして人間形成や自立心養成などのために取り入れた。

約10年前、大谷が高校1年時に作成した「目標達成シート」が公開されているので、改めてチェックしてみた。すると、驚くべき発見があった。「だから大谷正平は全米で注目される選手になった」ということがわかるのだ。大ブレークに目がテンの人も多いが、大谷本人にしてみれば、「すべては計画通り進んでいる」ということかもしれない。

■「ドラ1 8球団」「スピード160km/h」「食事 夜7杯朝3杯」

大谷はシートの中心のマスに「大きな目標(夢)」として「ドラ1 8球団」とある。甲子園で目覚ましい活躍をしてプロ野球8球団からドラフト1位指名される選手になるという目標を持っていたわけだ。実際、それを実現するための要素、右のマスにある「スピード160km/h」を公式戦でやってのけ、ドラフトの目玉選手になった。高3時に大谷自身がMLB挑戦を表明したことで多くの球団が指名を避けたため、日本ハム1球団の1位指名にとどまったが、プロ野球選手になる目標は達成できたことになる。

大谷翔平君が高校1年生のときに書いたOW64
出典=『PRESIDENT』2018年7月30日号

中心のマスを囲む要素は、野球選手として向上するためのものが多い。「コントロール」「キレ」「変化球」とあるのは、この時点ではピッチャーとして大成したい意識が強かったのだろう。

左上の「体づくり」に必要なこととして書かれている「食事 夜7杯、朝3杯」はご飯の量だ。高校生らしくて微笑ましいが、この食事を摂ったことがメジャートップの本塁打を量産する大きくたくましい肉体につながっているといえる。

その上のFSQとRSQは筋トレのフロントスクワットとリアスクワットの挙げる重量目標。将来を見据えて筋トレに励んでいたことがわかる。具体的重量を示す点には意識の高さは、まさに高校生離れしていると言えるだろう。

■「一流の振る舞い」と絶賛される大谷は、運を引き寄せる男

こうした野球選手として向上するための要素が並ぶのは想定の範囲内だが、注目したいのが中心下段の「運」だ。「運」を囲むマスには「ゴミ拾い」「道具を大切に使う」「審判さんへの態度」が記入されている。

2021年7月3日、カリフォルニア州アナハイムのエンゼルスタジアムで、ボルチモア・オリオールズとの1回戦で打席に立つロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手
2021年7月3日、カリフォルニア州アナハイムのエンゼルスタジアムで、ボルチモア・オリオールズとの1回戦で打席に立つロサンゼルス・エンゼルスの大谷翔平選手(写真=AFP/時事通信フォト)

今シーズン、大谷のホームラン量産が始まった時期の6月21日のタイガース戦では四球で一塁方面へ歩き始めた際、落ちていた小さなゴミをさりげなく拾いポケットに入れる姿が動画でアップされ「一流の振る舞い」「すべての子供の模範だ」と現地で大絶賛された。

だが、これは大谷にとっては高校時代から当たり前に行ってきた行為であり、自然にやったことだろう。「道具を大切に使う」も「審判さんへの態度」もしばしば称賛されるが、これらも身についた態度なのだ。

話題にならないが、3年先輩の菊池もゴミを見つけたら必ず拾い、ロッカーをきれいに使うことで知られている。花巻東時代の「目標達成シート」で培った習慣が、卒業して10年たった今も生かされているのだ。

佐々木監督は教え子たちに「運」を引き寄せることができると教えていた。どんな小さなことでも良い行いをすればいずれ運がつかめると。幸運をつかむ、などというと幸運という見返り目当ての打算的な行いだと受け止める向きもいるだろう。だが、決してそれが目的ではない。日々、良い行いをしていれば、それが当たり前なる。その結果、幸運が転がり込むことがある。大谷や菊池も、そうした自然な善行が大きな実を結んだのだ。

■チームメート称賛「大谷はメンタルが強い」「腹を立てず常に笑顔」

とはいえ、大谷はここまでラッキーに恵まれ続けてきたわけではない。高卒後に日本ハムに入団したことで、大谷に二刀流を実現できる才能があることを認めた栗山英樹監督(60)と出会えた幸運はあった。今も、伸び伸びとプレーさせてくれるエンゼルスの名将ジョー・マドン監督(67)と出会う運がある。

メジャー挑戦1年目は新人王を獲る活躍は見せたものの右ひじを痛めて手術を受けることになった。目標達成シートの「メンタル」に「一喜一憂しない」と書いた大谷だから冷静でいられただろうが、二刀流ができる体に戻るかという大きな不安と葛藤があったはずだ。菊池にしても思うように勝てないシーズンは数多くあったが、それを乗り越えて今がある。

大谷のエンゼルスの同僚、マイク・トラウト選手(29)が、7月6日付のスポーティング・ニューズ誌電子版のインタビューで「彼のメンタルにとても感銘を受けている」と述べている。

「彼を見ていると、前の打席(の失敗)を引きずらない。すぐに切り替える。毎日試合に出て、5日おきに登板し、投手として登板する日も打って、それを継続するメンタル。失敗しても、彼が腹を立てているのを見たことがない。常に笑顔でいる」

メジャー屈指の名選手にこう言わせるほどに、大谷のメンタルや人間性は高いレベルにある。それは、高校時代に受けた指導を抜きには語れないだろう。

■「運は運を掴むために自らをコントロールする人のもとにしか来ない」

人生は実力だけで切り開けるものではなく、運に左右されることは多い。だが、不運を嘆くのではなく、運をつかむ努力をしろ、というのが佐々木監督の教えだ。佐々木監督は雑誌の取材に「運というのは、運をつかむために自らをコントロールしている人のもとにしか来ない」(『致知』2010年3月号)と答えている。大谷はこれを忠実に実践しているように見える。

目標達成シートの左下に「人間性」の要素を加えさせたのも同様だろう。大谷はそこに「感謝」「礼儀」「思いやり」という項目を書き、自らのポリシーにした。そのことが今、誰からも愛され、監督やチームメートからサポートされて異次元といわれる存在を作り上げたのである。

もちろん大谷と菊池の活躍には両親の影響も大きいだろう。抜群の身体能力を授け、それを伸ばす環境を与え、謙虚で素直で努力を惜しまない人に育てた。そのベースの上に、岩手の恩師・佐々木監督の指導が加わった。

オールスターゲームだけでなく、それに先立って行われる、優勝賞金1億円超のホームランダービー(日本時間13日9時)にも出場する大谷。そして、菊池。岩手県の人々は、この2日間、地元校Hanamaki-Higashiが生んだスターのせいで仕事は何も手につかないに違いない。

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相沢 光一(あいざわ・こういち)
フリーライター
1956年生まれ。月刊誌を主に取材・執筆を行ってきた。得意とするジャンルはスポーツ全般、人物インタビュー、ビジネス。著書にアメリカンフットボールのマネジメントをテーマとした『勝利者』などがある。

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(フリーライター 相沢 光一)

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