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「ダメ政治のツケは国民丸かぶり」ワクチン接種後進国・ニッポンの経済"最悪のシナリオ"

プレジデントオンライン / 2021年7月13日 11時15分

世界経済の回復に周回遅れの日本はいつ立ち直ることができるのか。経営コンサルタントの小宮一慶氏は「ワクチン接種の開始が遅れた日本は、経済回復も米国・EU・中国に比べてひどく遅れている。近頃、米国景気がピークアウトしたとの見方もあり、そうなると日本はさらなる周回遅れを余儀なくされる」と警鐘を鳴らす――。

■米国・中国は「回復」、欧州・日本は「出遅れ」

東京に4回目の緊急事態宣言が出ました。7月23日に始まるオリンピック期間中も続くとのことです(8月22日まで)。飲食業や旅行業などの苦境は今後も継続することになります。結局、五輪前にコロナ感染の流行を止められなかった菅政権。この宣言が、日本の景気に対してどんな影響を及ぼすことになるか心底心配です。

図表1は2020年にコロナの影響が出始めて以降の、日本、米国、ユーロ圏、中国の実質GDP成長率です。実質ですから、インフレやデフレの影響を加味した数字です。

改めて認識させられるのは、コロナウイルスの影響のすさまじさです。

日本、米国、ユーロ圏では、2020年の第2四半期(4~6月)では、軒並み30%程度の大幅ダウンです。この数字は、前の四半期に比べての増減を年率換算した数字です。前の第1四半期(1~3月)もマイナスですから、さらにそこから大きく落ちたということです。

一方、ウイルスの震源地である中国は少し様相が違います。中国だけは四半期のGDPも前年同期比で発表されますので見方に注意が必要ですが、武漢が封鎖された1~3月期こそ-6.8%とマイナス成長ですが、図表1で見た日本、米国、ユーロ圏が大きく打撃を受けた4~6月期には、すでに前年比でプラスとなっているのです。前年の4~6月期もプラス6.2%でしたから、再び成長を取り戻したということです。

■4~6月期の成長率もゼロ前後の見通し、日本だけが出遅れ

その後の成長ぶりは明暗が分かれました。7~9月期以降、米国と中国はプラス成長を維持する一方、日本とユーロ圏はプラス成長を保てていません。

とくに、直近の2021年1~3月期を見ると、米国と中国は比較的強い成長(中国は前年同期がマイナスなので成長率が大きく出る)しているのに対し、日本とユーロ圏はマイナスです。ユーロ圏ではこの頃、コロナの蔓延でロックダウンされた都市があったからです。

一方、日本は、ご記憶の方も多いと思いますが、首都圏はじめ関西圏など各地で緊急事態宣言やまん延防止等特別措置などが発出され、経済が大きく抑制されていました。

ただし、ユーロ圏では、今後発表される4~6月期は実質GDPでプラス5%程度の成長が予想されています。米国、中国も景気拡大が予想されています。一方、日本では、緊急事態宣言などが長引いたこともあり、4~6月期の成長率はゼロ前後という見通しが大半です。日本だけが出遅れる可能性があるのです。

■「日本だけが物価が上がらない」欧米・中国はインフレ傾向

インフレ率(消費者物価上昇率)を見ると、また違った様相が見えてきます。例えば、日本の景気の弱さが突出している点です。図表2は、コロナ期間中の各国のインフレ率を示したものです。

各国の消費者物価上昇率(%)

ポイントは、コロナが急速にまん延した時期には、各国ともに物価の上昇が大きく抑え込まれたということです。米国ではマイナスにまで落ち込まなかったものの、2020年7月には0.1%まで物価上昇が抑え込まれました。ユーロ圏では同年夏以降、物価はマイナスとなり、また中国では珍しいことですが、やはり一時期マイナスとなっています。

コロナ禍で巣ごもり需要はある程度増えたものの、一般的な消費や生産が落ち込んだことが、物価上昇が抑えられた理由でしょう。

エネルギー価格も下落しました。表にはドバイ原油の価格を載せましたが、2020年4月には1バレル17ドル台まで落ち込みました、需要が急減したからです。

しかし、ワクチンの接種が進み、米国や中国での景気回復が顕著になってくるに従い、需要の増加と、一部の供給のボトルネックから、物価が上昇し始めました。2021年に入る頃からその傾向は顕著になり、物価上昇が遅れていた中国でも、最近では1%台の上昇です。

物価上昇が顕著なのは米国です。先に見たように経済成長がある程度しっかりしているということもあり、直近の5月ではなんと5%の上昇です。米国では中央銀行であるFRBの物価上昇目標が2%ですからそれを大きく上回っているわけです。

米国では、自動車や住宅に対する需要が顕著で、金利が低いこともあり住宅価格は一時期年率で10%を超える上昇をしました。自動車販売も好調で中古自動車の価格も大幅上昇しています。半導体不足で新車の供給が遅れているということもありますが、新車もここ数カ月は年換算で、1800万台ペースで売れています。この好調な売れ方はここ数年見られませんでした。それが、物価高に影響を与えているわけです。

そして、注意して見なくてはいけないのがユーロ圏の物価上昇です。1~3月もGDPがマイナスだったユーロ圏でも物価が上昇しており、5月には欧州中銀が目指す2%に達しています。

一方、日本だけが物価が上がらない状況です。5月こそプラスになりましたが、それでもわずか0.1%の上昇です。それまでは長らく物価はマイナスの状況(デフレ傾向)が続きました。経済がずっと弱いままなのです。

■ワクチン接種後進国ニッポンは景気回復が遅れ、景気失速の恐れ

ここまで、コロナ禍での日米欧中経済の状況を見てきましたが、日本だけが回復が出遅れているのがわかります。大きな要因はワクチン接種の開始が他国より遅れたことです。早めにワクチンを調達できなかった政権の責任は大きいと言わざるをえません。

図表3を見ると、かなり心配なことがあります。

前年比物価

回復が遅れる日本経済ですが、原油価格の高止まりなど、主要国の需要回復で輸入物価はこのところ大幅上昇を続けています。5月は前年比で25%も上昇しています。それにつられるように、企業間の取引の物価を表す企業物価も上昇を続けており、5月では5%近くまで上昇しています。

一方、消費者物価もプラスには転じていますが、それでもわずか0.1%の上昇です。吉野家は牛肉の多くを米国から輸入していますが、輸入牛肉の値段は大きく上がっているのに、景気が回復しないこともあり、最終価格への転嫁は難しい、という記事が新聞に出ていました。まさに、そういう状況が多くの産業で起こっているのです。

■命綱のアメリカ経済のピークアウトで、日本経済は2周遅れも

他にも懸念することがいくつかあります。先ほど、米国の経済が比較的好調という話をしましたが、そろそろピークアウトしたのではないかという話が出てきています。

普通、景気が回復する局面では、長期金利が上昇します。一時、1.7%台にまで上昇していた米長期金利(10年国債利回り)ですが、このところは1.3%台にまで落ちています。経済の先行きに対する懸念があるのです。

米国で心配しないといけないことは「スタグフレーション」です。1970年代後半のカーター政権時に起こったことですが、景気が停滞するのにインフレが収まらない状況です。

日本は、ここまで何度も見てきたように、米欧中の景気回復に乗り遅れています。周回遅れです。諸外国の景気がピークアウトしてからでは、とくに米中経済への依存度の高い日本経済の回復速度にも影響が出ることが懸念されます。

そして、そういった状況でも、輸入物価、企業物価、ひいては消費者物価も上がり、日本もスタグフレーションの懸念もあります。

先にも述べたように、日本では4~6月の成長率はほぼゼロという見方が多く、7~9月以降の回復に期待したいところですが、いずれにしてもワクチン接種が進むことが景気回復の大前提です。

デルタ株などの変異株の蔓延も心配です。ワクチン接種を進め、早く景気を回復させないと、周回遅れのままで変異株が蔓延したり、世界経済がピークアウトしたりするなど、日本の景気回復が大きく抑え込まれる可能性もあることに注意が必要です。周回遅れに次ぐ周回遅れで、「置いてけぼり国」に転落してしまうおそれがあるのです。

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小宮 一慶(こみや・かずよし)
小宮コンサルタンツ会長CEO
京都大学法学部卒業。米国ダートマス大学タック経営大学院留学、東京銀行などを経て独立。『小宮一慶の「日経新聞」深読み講座2020年版』など著書多数。

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(小宮コンサルタンツ会長CEO 小宮 一慶)

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