「これこそ最も姿勢が美しい日本人」理学療法士が認める"脱力の達人"の名前
プレジデントオンライン / 2021年7月16日 12時15分
※本稿は、大橋しん『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』(飛鳥新社)の一部を再編集したものです。
■本当によい姿勢とは「美しい」だけではダメ
突然ですが、みなさんは「姿勢の美しい有名人」をひとり挙げるとしたら、いったい誰を選びますか? 日本人はあまり姿勢がよくないので、すぐには思い浮かばないかもしれませんね。でも、日本人にも、誰もが認める美しい姿勢の持ち主がいます。
フィギュアスケートのゴールドメダリスト・羽生結弦選手です。ぜひみなさん、羽生選手の華麗なスケーティングや表彰台での姿を目に浮かべてみてください。特に注目してほしいのは、羽生選手の立ち姿勢です。
見た目が美しいのはもちろん、その姿にはどんな状況においてもパパッと機敏に反応して、的確かつしなやかに体を動かせそうなオーラが漂っています。本当によい姿勢とは、「美しい」だけではダメなのです。「美しい」「疲れにくい」「動きやすい」という3条件を満たしていなくてはなりません。羽生選手の立ち姿勢は、これらをすべて完璧にクリアしています。
中でも強調しておきたいのは、「疲れにくい」「動きやすい」という点です。羽生選手は、アスリートなのにヘンな力みがなく、ゆったりと自然に力が抜けていて、とてもラクに立っているように見えませんか?
これは、体の外側の筋肉(アウターマッスル)にあまり頼らずに、背骨や体幹、つまり体の内側の筋肉(インナーマッスル)で立っているということ。体の中心にまっすぐ芯が通っているからこそ、力を抜いていても、きれいに立っていられるのです。
そのため、頭から足までの荷重バランスが非常によく、肩、腰、ひざなどの体各部の関節や筋肉にほとんど負担がかかりません。こういう姿勢ならば、重さやストレスをほとんど感じることなく、まさに「羽でも生えたように」自由自在に体を動かしていけるでしょう。
■緊張で姿勢が崩れる
しかしながら、私たちの姿勢は「美しい」「疲れにくい」「動きやすい」から程遠い……という悲しい現実があります。
ねこ背などの悪い姿勢は、生まれつきのものではありません。赤ちゃんの頃や幼い子どもの頃は、何もしなくても、まっすぐと自然な姿勢だったはずです。
いったいなぜ、姿勢が崩れてしまったのでしょうか?
一番の原因は、無意識の筋緊張です。自分では気づきませんが、誰もがそのクセに応じて、特定の筋肉を緊張させています。ソファでくつろいでいても、腰の筋肉や背中の筋肉は緊張しているものです。
精神的な要因が筋緊張につながっている場合もあります。たとえば、しつけの厳しい父親に育てられた人は、社会に出てからも「父親と似たタイプの人」の前に出ると、無意識に筋肉を緊張させてしまうことがあります。
他にも、異性と話をすると身構えたり、偉い人と話をすると緊張して身をかがめたり、といったクセがついているケースも少なくありません。みなさんの中にも思い当たる人が多いかもしれませんね。
なぜ無意識に筋肉を緊張させてしまうのでしょうか?
私たちは不安やプレッシャーを感じると、その不安定さを嫌って、なんとか安定させようとします。自分の体を支え、安定させるために、筋肉を緊張させてしまうのです。そのことで、むしろ不安定にしてしまっているにもかかわらず……。
これは、海で溺れかけたときに似ています。「まずい、溺れるかも」というとき、力んでじたばたすると、体は沈むわ体力を消耗するわで、結局溺れてしまいます。頑張るほど悪い方向へ行ってしまうわけですね。
でも、もがくのをやめて、水面にぷかぷかと体を浮かせたらどうでしょう。潮の流れに逆らわず、体力を温存できれば、無事救助してもらえる可能性が高まります。
■思い込みを変えてみよう
羽生選手も、世界選手権やオリンピックなど大舞台に臨むときほど、意図的に体の力を抜いているように見えます(これは、一度直接お聞きしてみたいですね)。メダルがかかった大一番でも、羽が生えたようにスケートリンクの上を舞っているのは、みなさんもご存知のとおりです。
そうは言っても、トレーニングを積んだアスリートでもない私たちは、大事なときほど緊張してしまいますよね。そういうクセを治していくには、どうしたらいいのでしょうか?
答えは、私の専門でもあるアレクサンダー・テクニークが教えてくれています。アレクサンダー・テクニークは、「しようとしていないのに、無意識にしてしまっていること」をやめることで、筋緊張から解放していこうというアプローチです。
そのためには、あなたの姿勢が「美しい」「疲れにくい」「動きやすい」ものになるように、「間違った思い込み」を手放して、考え方を変えなければなりません。
具体的には、次の2つのように、考え方を変えていきます。
・姿勢をよくしたいときほど、力を抜いていく
・不安やプレッシャーを感じたときほど、力を抜いていく
これは、ふだんみなさんがやっていることの「逆」ではないでしょうか?
「姿勢をよくしろ」と言われれば、力を入れて胸を張る。ピンチのときは、体をかためて身構える。その逆をするべきだと、私は申し上げているのです。
■姿勢に「ゆらぎ」があると骨がまっすぐ立つ
「力を抜けばいい」と言われても、実際にどうすればいいのか、わかりませんよね。そんなことは、誰も教えてくれないので当然だと思います。
もし仮に「体の力を抜こう」と頑張ったとしても、むしろその頑張りによって、筋肉がかたく緊張していくだけでしょう。ここに「力を抜く」ことの難しさがあります。
でも、大丈夫です。安心してください。誰もが簡単に力を抜くことができるイメージをお伝えします。
それは、「ゆらぎ」です。ゆらぎは、常に流れています。「こりかたまる」とは正反対です。
その流れに身を委ねることによって、波間をゆらゆらと漂うかのように、ムダな力がとれていきます。体が緊張から解き放たれて、姿勢が自然によくなっていくわけです。
ところで、みなさんはゆらぎという言葉にどんなイメージを持っていますか? 「心がゆらぐ」は迷いや動揺が生じたことを、「屋台骨がゆらぐ」は中心的な支柱が危うくなっていることを表します。だから、ゆらぎに対して「不安定さ」などネガティブなイメージを持っている方も多いかもしれませんね。
しかし、私はまったくの逆で、ゆらいでいるほうが、安定した強さをもたらしてくれる――そういうイメージを持っています。なぜなら、こと人間の姿勢に関しては、ゆらゆらとしたゆらぎがあるほうが、体がしっかり芯が通ったものになるからです。
いったいどういうことなのか。これをご理解いただくために、バランスボールを頭に思い浮かべてください。あの有名な、エクササイズをするための大きいボールです。
丸いボールに腰を下ろしていると、前後左右にゆらゆらと体が微妙にゆれます。体がゆらいでいるとき、体を緊張させることはできません。筋肉をかためて姿勢を保つことが、できなくなってしまうからです。
すると、その不安定さの中でバランスを取ろうとして、体は無意識のうちに体幹のインナーマッスルをスッと立てて、背骨で姿勢をキープしようとします。姿勢にゆらぎがあると、姿勢を「骨で立てる」ことができるようになるのです。
骨で体を支えることができると、外側の筋肉で体を支える必要がなくなるので、疲れませんし、体も圧迫されません。「美しい」「疲れにくい」「動きやすい」姿勢には必ずゆらぎがあり、骨で立っている「体の芯の強さ」があります。そこに「頑張り」やムダな緊張はないのです。
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理学療法士、アレクサンダー・テクニーク国際認定教師
岐阜生まれ、神戸在住。(株)フローエシックス代表取締役。ドイツでチェロの修業中にアレクサンダー・テクニークを知り、帰国後に理学療法士とアレクサンダー国際認定教師の資格を取得(両資格の所有者は国内初)。救急病院勤務を経て、整形外科クリニックにて「特命理学療法士」として数々の難しいケースを解決。2020年に独立し、リハビリと太極拳を中心としたスタジオを開設。姿勢改善の研究成果を積極的に学会で発表しており、医療だけに頼らない健康とケアのあり方を提案している。著書に『魔法のフレーズをとなえるだけで姿勢がよくなるすごい本』(飛鳥新社)がある。
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(理学療法士、アレクサンダー・テクニーク国際認定教師 大橋 しん)
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