「恫喝大臣」西村康稔氏は、灘→東大法で頭はいいが"心はバカ"
プレジデントオンライン / 2021年7月13日 16時15分
■金融機関を通じて圧力をかける「恫喝まがい」で炎上中の西村大臣
西村康稔経済再生担当相が7月8日夜の会見で酒類の提供停止に応じない飲食店に対し、取引先の金融機関から順守を働きかけてもらう方針を示したところ、あちこちから嵐のような批判が起こり、発言の撤回に追い込まれた。
金融機関を通じて圧力をかけるというやり方は「恫喝まがい」と批判され、そうでなくても4度目の緊急事態宣言で酒類禁止が決まり飲食店が不満を募らせていたさなかであったこともあり、発言を撤回した後、西村大臣がツイッターで誤解を招く表現だったと謝罪しても批判の声が収まらない。
ネット上では西村大臣の辞任を求める声もあがり、さらに次の衆議院選挙では「自公以外」に投票を呼び掛けるポスターが拡散しているとのことだ。
政治家の失言は、これまでにも枚挙に暇がないくらい起きているが、今回の炎上ぶりは私が記憶する限り、ここしばらくで最大級のものだ。
■灘→東大法→官僚→米留学→政治家という秀才の大欠点
西村氏は灘高校から東京大学法学部を経て旧通産省に入省し、米国メリーランド大学で国際政治経済学の修士号を取得した、秀才中の秀才ともいえるキャリアの持ち主だ。
本連載では、本来、賢い人がバカ化する現象を取り上げているが、今回の件はその典型例と言えるものかもしれない。
心理学の世界では長年、旧来型の知能以外の研究が行われているが、その中で、注目されているもののひとつに「EQ」がある。
このEQという概念は、IQ(知能指数)が高いのに、それがうまく使えず、社会で成功できない人がいるという疑問に対する解答として、彼らに欠落している能力を研究する中で生まれたものだ。
■頭はめちゃくちゃいい西村大臣が決定的に欠くEQ(共感能力)とは
EQという概念を考案したエール大学のピーター・サロヴェイとニューハンプシャー大学のジョン・メイヤーによると、EQの5大要素は以下の通りだ。
1.自分の感情を正確に知る
2.自分の感情をコントロールできる
3.楽観的にものごとを考える
4.相手の感情を知る(いわゆる共感能力である)
5.社交能力(これを身につけるためには、上記4つの要素を満たす必要がある)
アメリカでは、IQ的な知的機能が高い人間は社会で成功するはずだという暗黙の了解があるが、その一方、感情のコントロールが悪い、対人関係能力が乏しい、といった人々はいくら学歴が高く知能が高くても、世間での成功は難しい、と見なされるようになってきた。
ビル・ゲイツにしても、パソコンのプログラミングの天才的な才能だけでなく、スポンサーやビジネス・パートナーを見つける才能があったから成功したのだろう。
今回の発言も、そうでなくても窮状にある飲食店に対し、さらに金融機関を使って締め上げて言うことを聞かせるという傲慢と受け取られても仕方のない発言が、世論、とくにネット空間に火をつけたと考えられる。
■IQ的な知能は高くてもEQ的な知能が低かった
相手の立場に立って相手の心理を想像するというのが共感能力の基本なのだが、それが決定的に欠如していた、つまりIQ的な知能は高くてもEQ的な知能が低かったということだろう。
西村大臣に限らず、コロナの感染防止のために飲食・会食が目の敵にする風潮が世の中にはある。コロナへの恐怖心ゆえだろうが、これも一種の共感能力の欠如ではないかと私は考えている。
確かにお酒を飲んで会食をすると大声になりがちだ。マスクもはずすかもしれない。しかし、一般大衆にとってそうした家の外での飲食の回数はそう多くはない。各種調査をみても、外食をする頻度は平均週3回だが、「夕食の外食」は月に2~3回だという。あくまで私見だが、これを禁止したところで大した人流の抑制にならないと思われる。
しかし、政治家は毎日のように、人によっては一晩で2、3件の会食をはしごすることが珍しくないという。自分たちの尺度でものを考えるから、会食や酒席を止めれば人流が止まると考えるとすれば、これもまさに共感能力の欠如である。
それよりは満員電車をどうするか、テレワークをどう普及させるかのほうがはるかに人流を抑え、感染予防効果が高いのは明らかだと言っていい。
永田町界隈の政治家にとってはしご酒は半ば義務的な日課のようなものかもしれないが、一般大衆は月に2、3回であれば、メンタルヘルスを保つための息抜きや自分へのご褒美のような要素も大きいはずだ。
外食や酒を伴う飲食、それも夜に限って目の敵にするのが、自分たちの尺度で考えた結果だとすれば、これもまさしく共感能力の欠如と言わざるをえない。
■見かけは柔和そうだが「現政権の中でいちばん性格が悪い政治家」
今回の西村大臣の場合、発言そのものが共感を欠くだけでなく、普段の態度もEQ能力を欠くものであったため、マスコミの批判の餌食になったという可能性もある。
私自身、西村大臣の発言に関して、夕刊紙や週刊誌の政治家担当の記者から、灘校の同窓ということで取材を受けた。記者たちは西村大臣の言動に感じられる「上から目線」にかなりの反感を抱いているように思えた。
「現政権の中でいちばん性格が悪い」と言い切る者さえいた。
実は、私自身思い当たる節がある。灘校の先輩と後輩という関係のためか、一度、自民党の会報か何かのために対談を引き受けたことがあるのだ。
■遅刻しても謝罪なし、相手に傲慢な印象を与えるだけ
依頼された仕事だったが、大臣は10分か15分ほど遅れて対談場所にやってきた。それについて詫びる、謝るということはしなかった。あくまでこちらの当時の印象だが、先輩に対する口の利き方でもなかった。
私も大人なので、対談はなごやかな雰囲気で終えたが、正直、不快感だけが残った。本人はそのつもりはなかったのだろうが、傲慢な印象を受けたのも確かだ。私に限らず、ほかの政治記者などにこのような態度を取っているのなら、嫌う人も増えるのはしかたない。
これまで一度週刊誌(週刊文春2013年7月4日号)でベトナムでの買春疑惑を報じられたものの、大きな失策や問題発言もなく、優等生の政治家だったが、一回の失言でこれだけひどい非難が生じ、あちこちのメディアから「待ってました」と言わんばかりに叩かれるのは、身から出た錆ということだろう。
コロナ禍で飲食店が倒産したり経営危機に陥ったりする中、金融機関に働きかけて圧力をかけるような荒っぽいやり方は、経済再生が職務の大臣がすべきではない。
■「将来の首相候補」だが、菅首相にもはしごを外され……
報道されている限りでは、休業要請に従わない店に今回のような対応をすることは、事前に政府部内でコンセンサスを得られたものだった、とされている。つまり、西村大臣が独断で行ったというよりスポークスマン的な役割だった可能性がある。それにもかかわらず、大衆やマスコミの理解や支持を得られなかったのは、ふだんの共感能力の欠如の結果のように思えてならない。
民意を読むという点では、過労のために休養と言い出したとたんに人気が急上昇したのをみるや、体調不良をおしてという形で選挙応援に回り、自分の子飼いの都民ファーストの候補を逆転勝利に導いた小池百合子都知事と対照的である。
もうひとつ、経済再生大臣として不適格なように思えるのは、先の予想を立てられない人間ということもある。
経済を再生させ、消費を回復させるためには、大衆心理を読み、その結果どうなるかの予測を立てる能力は重要な要素となるだろう。実際、日本は30年にわたって、金融政策や財政政策を行ってきたにもかかわらず景気が全く回復しないのだから、行動経済学のような心理学的な消費行動の予測がないと経済が回復すると思えない。
今回の失言もそのような心理の予測ができない人であることを露呈したわけだが、私や周囲の記者に不遜と思われるような態度を取ることで、どういうことが起こるかの予想ができなかったとしたら、こんな人に経済再生を任せていいかはなはだ疑問であり不安である。
西村氏は「将来の首相候補」のひとりと目されているが、ムラ社会の永田町においては、もう少し共感能力を身に付けないと、いくら学歴が高く頭がよくても、味方から足を引っ張られるのがオチかもしれない。
そこで、必要なのは人の振り見て我が振り直せ、の精神だ。私たちも、西村氏の失態を他山の石として、より共感能力を磨いていきたいものである。
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国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。
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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)
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