「ワクチン不足は2カ月前からわかっていた」河野担当相が事実を公表しなかった本当の理由
プレジデントオンライン / 2021年7月14日 9時15分
■職域接種は「国からの供給の滞り」で新規受付が停止に
新型コロナのワクチン接種が大混乱している。6月下旬から本格化した企業や大学での職域接種は、国からの供給の滞りで新規の受付が止まってしまった。自治体による大規模接種の予約も一部で停止状態が続いている。早期接種が必要な高齢者や基礎疾患(持病)のある患者への接種も大幅に遅れている。
河野太郎・行政規制改革相は7月6日に記者会見し、市区町村向けのファイザー製ワクチンについて「8月と9月は2週間ごとに1170万回分を配送する」と発表した。この配送量は7月分と同じで、全国の市区町村が希望する量の3分の1に過ぎない。自治体への供給不足は8月以降も続く可能性が高い。
この会見で河野氏は「一定量の在庫を保有する自治体への配分を減らす一方で、接種ペースが速い自治体に融通したい。自治体は在庫の数と供給見通しをベースに接種計画を立ててほしい」と呼びかけた。
さらに河野氏は「モデルナ製のワクチンは、6月末までの供給量が当初計画の4000万回分より大幅に少ない1370万回分だった。世界的な需要の高まりが原因で、不足分は第3四半期(7月~9月)に供給を受ける」と語った。
■「自治体など市中に4000万回ほどの在庫があるはず」
6日には田村憲久・厚生労働相も閣議後の記者会見の中で、ファイザー製ワクチンの不足について次のように話した。
「6月末までに9000万回分が自治体向けに配送された。接種回数は5000万回との報告が上っているから自治体など市中に4000万回ほどの在庫があるはず。たくさん打っている自治体と進んでいない自治体とのミスマッチをどう解消するか対応したい」
「接種が進んでいれば多く配り、進んでいなければ調整して配るのが一つの方法だろう」
河野氏も田村氏も自治体が在庫を抱えていることを問題視するが、果たしてそれだけがワクチン不足の原因なのだろうか。
■「ゴールデンウイーク前ぐらい」には分かっていた
6日の河野氏の会見ではこんなやりとりがあった。
(答)かなり当初に調整をして、4,000万回分という数字を変更しております。
(問)具体的にはいつごろですか。
(答)正確には覚えていませんけれども、ゴールデンウイーク前ぐらいかと思います。
つまりモデルナ製の6月までの供給量が4000万回から1370万回に減ることは、「ゴールデンウイーク前ぐらい」には分かっていたのだ。しかし、計画は変更されず、4000万回を前提にしていたことから混乱が生じてしまった。
河野氏は自身のブログで「ファイザー社もモデルナ社も日本政府がワクチンに関する情報を公表する時は必ず事前に合意の上で行うという条件をつけている」と釈明しているが、なぜ供給量が減るとわかっていたのに、職域接種を積極的に呼びかけていたのだろうか。
![同僚と新型コロナウイルスのワクチンの集団接種](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/4/670/img_b4ce2b3df124410049e792d799cd00a4368699.jpg)
それは菅義偉首相の方針に合わせるためだろう。菅首相はワクチン接種を強硬に推し進めるため、「接種のペースは1日100万回」「7月末までには高齢者の接種を完了させる」「10月から11月に国民全員への接種を終わらせる」などと高い目標を次々と打ち出してきた。
だが、今回の大混乱である。菅政権は自治体や企業、大学などに早い接種を呼びかけ、スピードに乗ってきたところで、大きくブレーキをかけた。その原因は見通しの甘さにある。これは東京オリンピック・パラリンピックをめぐる状況ともまったく同じだ。
■「政治への信頼」を損ねる身勝手な行動は慎むべき
菅首相は緊急事態宣言下でも五輪を実施することで、落ち込んだ経済をもとに戻すきっかけを生み出そうと懸命だ。その狙いは、自民党総裁選と衆議院総選挙に打ち勝ち、首相職を続けることにある。ワクチン接種はそのための武器なのだ。
菅首相は私たち国民の生活の安定を本気で考えているのか。少なくとも7月8日夜に行われた、4回目の緊急事態宣言の決定を公表した記者会見では、菅首相自身の思いが伝わってこなかった。記者に言質を取らせないようにすることに気を使うあまり、お決まりの答えしか返さない。これでは伝わらない。
ワクチン接種のスピードを無理に加速しようとするから混乱を生む。新型コロナウイルスのような人類にとって未知の病原体の防疫には、どうしても失敗は付きものである。しかしながら、その失敗の原因がトップの野心だとすれば、それは政治への信頼を損ねる。為政者はそうした身勝手な行動を慎むべきだ。政治不信は、いまの政権だけでなく、以降の政権の手足も縛ることになるからだ。
■読売社説は政府に「自治体や企業との緊密な連携」を求める
7月8日付の読売新聞の社説は「コロナワクチン 国は円滑な供給に全力挙げよ」との見出しを付け、こう主張する。
「ワクチン供給の目詰まりを早急になくし、幅広い世代に接種を促していくことが大切である」
「政府は自治体や企業と緊密に連携し、供給見通しを明確に示すとともに効率的な配分に努めるべきだ」
菅政権には「効率的な配分」を行ってほしい。そのためにはどこでどうワクチン接種が滞っているのかなど実態を正確に突き止めることが必要である。
職域接種の停止について、読売社説は「市区町村の接種では高齢者が最優先になっており、従業員や学生の感染リスクを減らす職域接種に期待が集まるのは当然だ。政府の想定が甘すぎたと言える」と批判し、こう訴える。
「現役世代への接種が広がれば、経済や社会活動の本格化に弾みがつく。政府は、受け付け再開に向けて、ワクチンの確保や申請内容の精査を進めることが急務だ」
■多くの自治体や企業が「はしごを外された」
さらに読売社説は「『1日100万回』を目標に、接種体制の拡充を求めてきた政府に応じて、自治体や企業は会場や医師確保の準備を重ねていた」と指摘し、こうも批判する。
「それにもかかわらず、ワクチンが届かないのでは、『はしごを外された』と憤るのも無理はない。政府の不手際と言うほかない」
政府の失敗で、多くの自治体や企業が「はしごを外された」のである。菅政権はその責任をどう考えているのだろうか。
読売社説は「政府は、市町村が大量の在庫を抱えていると指摘している。一方、市町村側には、確実に2回目を接種するため、必要分を保管しているという事情もあるのだろう」とも指摘したうえで、こう主張する。
「政府は、自治体と情報を共有し、接種状況や在庫をきめ細かく把握しなければならない」
同感だ。肝要なのは接種状況とワクチン在庫の把握である。
■「政府の迷走のあおりを食うのは国民だ」と朝日社説
7月7日付の朝日新聞の社説も「ワクチン供給 在庫精査し混乱解消を」との見出しを立て、冒頭部分から「首長らが憤り、政府の不手際を批判するのは当然だ。ワクチンの全国の在庫状況や今後の調達具合を精査し、偏りがあれば調整するなどして、混乱を最小限にとどめる必要がある」と厳しく批判する。
そのうえで朝日社説はこう書く。
「全国の自治体は、『7月末までに高齢者接種を終える』『1日100万回接種』という菅首相の発言で計画の修正を迫られ、そのための体制づくりに奔走してきた。それが今になって『供給量に合わせた接種スピードの最適化を』(河野太郎行政改革相)と言われて、納得できるはずがない」
「納得できない」。その通りである。菅政権には分かりやすく説明する責任と、接種をスムーズに進める義務がある。
朝日社説は批判を続ける。
「せっついた揚げ句にハシゴを外す。政府の迷走のあおりを食うのは国民だ」
「いずれのケースも、供給できる量や在庫状況を見極めぬままアクセルを踏み込み、うまくいかないと見るや慌ててブレーキをかけたという話ではないか。現場に無用の負担を強いて疲弊させ、意欲をそぎ、結果としてワクチンの普及が遅れてしまっては元も子もない」
最終的に犠牲を被るのは私たちである。菅首相には自らの打算を捨て去り、ワクチン接種など感染拡大の防止に努めるべきである。
■「『安心安全』の底の浅さを見せつけられたよう」
最後に朝日社説は「公平性や優先順位が改めて問われるなか、五輪のボランティアへの接種が進むことに釈然としない人もいるだろう。ファイザーが五輪用に提供した枠に加え、もとは政府が確保していたモデルナ製も充てられる」と指摘し、最後にこう訴える。
「大会に協力する人たちの健康を考えれば、もちろん接種した方がいい。しかし2回目の注射は7月下旬以降で、皆が免疫を獲得できるころには閉幕している。『安心安全』の底の浅さを見せつけられたようで、不信の種がまたひとつ増えた」
朝日社説らしい皮肉が鼻に付くが、指摘はその通りだろう。菅政権の新型コロナの防疫に対する意識は低い、と沙鴎一歩も感じる。国民の命を守ることよりも、政権を続けることが目的になっているのではないか。そんな底の浅さは、大きなしっぺ返しを生むだろう。
(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)
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