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50歳をすぎてから人生を花開かせるために必要な「ある思考法」

プレジデントオンライン / 2021年7月20日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/gorodenkoff

50歳をすぎてから人生を花開かせるためにはなにが必要なのか。多摩大学名誉教授の久恒啓一氏は「『豊かな人生』の答えは、結局、自分自身の中にしかない。まずは『図』を使って思考を深めるといい」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、久恒啓一『50歳からの人生戦略は「図」で考える』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。

■定年退職した元秀才たちに覇気がない理由

昨年、郷里の大分県中津市で久しぶりに開かれた中学校の同窓会に出席しました。参加した旧友たちを観察していると、70歳にして意気盛んなのは小さいながらも会社を経営している自営業者や医師たちで、いわゆる秀才タイプでそれなりの会社に進み、定年退職して、今は何もしていない連中は総じて元気がありませんでした。

人は、個人としての自分である「個」、仕事を通じて社会で何らかの役割を果たしている自分である「公」、家庭や友人などプライベートな人間関係の中での自分である「私」の3つの側面で成り立っています。

自営業者や医師たちが、壮年期から実年期に入ってからも、地域で「個」と「公」と「私」のバランスをとりながら、それぞれのライフワークを追求し続けているのに対し、覇気のない元秀才たちは、「公」から離れた途端、「個」としてのアイデンティティーまで曖昧になってしまったのでしょう。というより、「公」の世界で仕事を続けながら、「私」の世界はともかくとしても、「個」としての存在意義への自覚が希薄なまま退職に至ったといった方がいいかもしれません。

ビジネスパーソンが、壮年期や実年期に入っても活き活きと日々を送るためには、漫然と定年を迎えるのではなく、これまでの人生の棚卸しをし、人生戦略を立て直し、ライフデザインを描き直す事前準備が必要です。その方法として私が提案するのが「人生鳥瞰図」の作成です。

そのとき判断の基準になるのは、「自分にとっての豊かさとは何か」ということです。より豊かな人生を求めて人生戦略を立て直すとき、進む方向をどのように判断し、選択すればいいか。それには、経済、時間、肉体、精神の4つのキーワードがかかわってくるのです。

■豊かさを構成する4つの「自由」

どのような社会であれ、私たちの共通の目標になるのは「豊かな暮らし」でしょう。私たちは、それを「幸せ」と感じます。

では、豊かさとは何でしょうか。よくいわれるのは、「物質的豊かさ」と「精神的豊かさ」という対比です。モノは豊かになったが、ココロは貧しくなったという議論です。この議論も理解できますが、どこか腑に落ちない、十分には言い尽くしていない印象があります。

以前、「幸せとは何か」というテーマでエッセイの執筆を依頼されたことがありました。「幸せとは何か」「豊かさと何か」と図解をしながら考えて導き出したのは、「豊かさとは自由の拡大である」という結論でした。

最初に思いつくのは、「経済的自由」です。経済的に自由であるとは、使い切れないほどのお金があることではありません。多少のお金がかかっても、どうしても何かをしたい、買いたいと思ったとき、お金の支出と天秤にかけて、お金がかかるという理由であきらめないですむという程度にお金があるということです。

次に浮かぶのは、「時間的自由」です。何かをしたいと思ったとき、ほかにやらなければならないことがあり、やることができないという状態では時間的自由があるとはいえません。とはいえ「毎日が日曜日」という状態は、逆に自由であるとは感じなくなるでしょう。やりたいことの優先順位が高い事柄について、自分以外の事情によって阻害されなければ時間的自由があるということです。

この経済的自由と時間的自由は、実は「肉体的自由」によって支えられています。日常ではあまり意識されませんが、健康は豊かさの基礎的条件にほかなりません。経済的自由を「カネ」、時間的自由を「ヒマ」、肉体的自由を「カラダ」と言い換えると、「カネとヒマとカラダ」が豊かさを示す指標になります。

さらに、もう1つ重要な要因があります。「精神的自由」です。精神的自由というと、やりたいことをやる自由、言いたいことを言う自由といったイメージが浮かびます。それ以上に、やりたくない仕事をやらなくてよい自由、言いたくないことを言わなくてもよい自由、会いたくない奴に会わない自由の方が大切かもしれません。これが「ココロ」の自由です。

それでは、自由を構成する4つの要因は、どのような関係にあるのでしょうか。カネとヒマとカラダは、実は豊かさを支える部分ではないか。カネとヒマとカラダの自由で何をするのか。それがココロの自由ではないか。つまり人生とは、肉体的自由(カラダ)を土台に、経済的自由(カネ)と時間的自由(ヒマ)を得て、最終的に精神的自由(ココロ)を求める旅である。これが私の結論でした(図表1)。

「豊かさ」とは「自由の拡大」である
出典=『50歳からの人生戦略は「図」で考える』(プレジデント社)

この4つの要因のバランスは年代によって変わります。たとえば子どもの教育資金が必要な年代は、時間的自由より経済的自由が優先され、その結果、生活のなかで「公」の占める部分が「私」や「個」より優先されることがあるかもしれません。

本稿で特に注目したいのは、壮年期に入ってからの「豊かな暮らし」です。今後訪れるであろうピンチやチャンスに向き合うとき、「豊かさとは自由の拡大である」という指針を念頭に、4つの要因の中で、どれを優先するか、自分なりにバランスをとりながら、人生戦略を立て、現在と未来の自分のライフデザインを描く必要があるのです。

■自分自身とのコミュニケーションツールとしての「人生鳥瞰図」

私は大学教授に転身する前、企業で20年以上働く中で、会社の仕事で成果を挙げるために必要な能力とは、「理解する(理解力)」「考える(企画力)」「伝える(伝達力)」であると結論づけ、その能力を身につけ、十分に発揮するための有効な手段として「図解」に着目して「図解コミュニケーション」の研究を続けてきました。

その過程で、自身の人生を棚卸しし、未来を展望するための「図解」として生み出したのが「人生鳥瞰図」です。その意味で、「人生鳥瞰図」は自分を理解し、自分について考え、自分に伝える自分とのコミュニケーションのためのツールといえます。

「人生鳥瞰図」は、「人生テーマの発掘」と「ライフデザインの構築」の2つのパートから成り立っています。前半の「人生テーマの発掘」では、自らの「価値観(人生観)」を導き出し、「自分像」を確認して「私に合った仕事」を明らかにします。後半の「ライフデザインの構築」では、自身の過去から現在に至る軌跡を深掘りし、未来に向けての「キャリア目標」から「天職への道」を探索します。

この「人生鳥瞰図」は、一度にすべてができあがったわけではなく、各部分ごとに何段階かを経て、完成するまでにトータルで数年を要しています。それぞれの部分は、私が大学教授としての職務を遂行する上で必要に迫られて作成したものでした。その構造と図それぞれの狙いが理解できると思うので、完成までの経緯を説明したいと思います。

■「人生鳥瞰図」はどのようにして生まれたか

私は47歳で、新設されたばかりの県立宮城大学の教授となり、「知的生産の技術」という科目を担当することになりました。『知的生産の技術』は、日本を代表する民族学者の梅棹忠夫先生の代表的著作で、その内容に共感したビジネスパーソンを中心とした人々による勉強会に、私も30歳のときに入会して活動を続けてきました。

「知的生産の技術」について、この研究会で研究と実践を重ねていましたが、大学の科目として扱うのは日本でも初めてのことでした。何をどのように教えればいいか、いろいろ考えた末に思いついたのは、学生に「自分史」を書かせることでした。

過去の自分を振り返ることは、未来の自分を考えることにつながります。一般的に「自分史」は豊富な経験を持つ年長者が書くものと思われがちですが、大学生にも20年近い人生の軌跡があり、自分史を書くことは、情報を整理し、組み換え、目指すべき自分という新しい知見に結びつける作業なので、学生たちの考える力を養えるはずだと考えました。

窓から覗いた教室
写真=iStock.com/taka4332
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taka4332

では、どのようにして書かせるか。そこで導き出したのが、「生い立ち」と「出会い」と「出来事」の3つの要因によって人の「価値観」は決まるという仮説でした。自分はどのような環境に生まれ育ったのか、自分に影響を与えた先生たちや友人たち、本や映画や音楽との出会い、思い出に残る出来事などを思い出しながら記述していきます。これが「人生鳥瞰図」の1枚目の図になりました。

■「私に合った仕事」の導き出し方

やがて1期生も3年生になり、就職問題が浮上してきました。キャリア開発室を開設することになり、学生部長を務めていた私がキャリア開発室長に指名されました。学生たちに、どのようにして志望先を選べばいいのか、指導しなければなりません。「私に合った仕事」の探し方です。

まず、仕事を行う上で自分はどのような人材なのか、「自分像」を明確にする必要があります。そこで、今度は「性格」「関心」「能力」の三つの側面から「自分像」を描き出すという仮説を構築しました。

この中で「性格」については、当時、私が興味を持って研究会にも参加していた「エニアグラム」という分析手法を採用しました。エニアグラムはギリシャ語で、エニアは「9」、グラムは「図」を意味します。図の起源は古代ギリシャ、あるいは古代エジプトにまでさかのぼるともいわれています。

エニアグラムの性格論は、1960年代につくられ、アメリカで精神医学や心理学の研究者が注目するようになり、世界各国に広まりました。日本でも、教育関係者、医師、心理療法士のほか、企業でも研修に導入するところが出ています。

すでに導き出した自分の「価値観」に、「性格」「関心」「能力」をもとに描き出した「自分像」とを合わせて、「私に合った仕事」を「5W2H」で探っていきます。

「5W」のうち、Whoは「自分像」、Whyは「価値観」、Whenは「時代」で、これからどんな時代になるかを予測します。Whatは「職種」です。企業・組織には、さまざまな職務があります。それらは企業・組織の経営資源、すなわちヒト・モノ・カネ・情報のうち、どの資源を仕事の対象にするかによって種類が分かれます。たとえば、ヒトが対象なら人事や営業、モノが対象なら開発や製造、カネが対象なら経理、情報が対象なら広報・宣伝といった具合です。Whereは「業種」で、いわゆる業界です。

Hは2つあって、Howは「仕事の内容」。もう1つはHow muchで「給与水準」や「福利厚生」など待遇面の条件を意味します。「5W2H」をもとに「私に合った仕事」をリストアップします。こうして2枚目の図が誕生しました。

■現在の自分と向き合い、今後のキャリア・ビジョンを立てる

大学の卒業生たちは就職をして、今度は自らのキャリアづくりを始めます。では、キャリアとは何なのか。キャリア開発室長として学生たちを社会に送り出してから突き当たったのは、そもそも「キャリアとは何か」という問題でした。

キャリアの形成においては、仕事だけでなく、多様な学習や経験も必要です。そこで考えたのが、キャリアとは「仕事歴を中心とした学習歴、経験歴の総体である」という仮説でした。仕事歴、学習歴、経験歴の3つの軸から、自分のキャリアの足跡、すなわち「キャリア自分史」を作成し、これからのキャリア目標を導き、さらに自らの天職を探る。ここで3枚目の図ができあがりました。

自分史を書かせる、就職指導をする、キャリア形成の指導を行うという3つの段階を経て3つの図解ができあがり、その図解を統合させてみると、そこには、過去から現在に至る振り返りと、未来に向けた展望の両方が入っています。人生という長い旅路をひと目で見渡せるこの図を「人生鳥瞰図」と名づけたのです(図表2)。

人間鳥瞰図のイメージ
出典=『50歳からの人生戦略は「図」で考える』(プレジデント社)

■先の見えない時代でも不安にならないために

そもそも「人生鳥瞰図」の前半の「人生テーマの発掘」は、これから就職する人が志望先を選ぶための図解であり、後半の「ライフデザインの構築」は、就職した人がこれからのキャリア目標を考えるために考案した図解です。この「人生鳥瞰図」を、40~50代の読者が「壮年期」に向けて作成し、人生の棚卸しをする意味はどこにあるのでしょうか。

読者の多くは、企業・組織で働いていることでしょう。20代のころに「私に合った仕事」として選んだ就職先で今も勤務している方もいれば、その後、転職した方もいるでしょう。

どちらにしても、現在の仕事にやりがいを感じ、これからも続けていきたいと考えている方は「人生テーマの発掘」は省略し、後半の「ライフデザインの構築」の図を描くことで、これまでのキャリアを振り返り、深く掘り下げながら、単にその延長線上ではなく、次の展開に向けて、これからのキャリア目標を考え、「天職」を探っていくことになります。

一方、現在の仕事を自分の天職からはほど遠く感じ、同じテンショクでも「転職」を考えている場合は、「人生テーマの発掘」から始めることをお勧めしたいと思います。「自分像」の確認からでもいいし、さらにさかのぼり、自らの「価値観」を明確にするところから始めてもいいでしょう。

20~30代のころと比べて現在は、能力が向上し、関心の対象や家族の状況はじめ環境が変化したことで、「価値観」「自分像」「私に合った仕事」も変化している可能性があります。転職して始めようと考えている仕事と、改めて導き出した「私に合った仕事」が合致していれば、その転職は「天職への道」につながるかもしれません。

久恒啓一『50歳からの人生戦略は「図」で考える』(プレジデント社)
久恒啓一『50歳からの人生戦略は「図」で考える』(プレジデント社)

現在の企業・組織で、このまま仕事を続けるか、転職するか、迷っている方もいることでしょう。その場合も、「人生テーマの発掘」を改めて行い、「私に合った仕事」をリストアップしてみれば、現状がそれと合致するのか、ズレがあるのか、図上でシミュレーションすることもできるわけです。

「人生鳥瞰図」は、自分とのコミュニケーションを通して、「個」としての自分を再発見し、自分で自分のキャリアカウンセリングをするためのツールです。一見、先の見えないように感じる時代でも、自分自身のことを的確に把握することができれば、実はそれほど不安に思う必要はないでしょう。

私たちの人生は、自分自身を発見し続ける旅です。ここが面白いところで、いろいろなハプニングはありますが、いつも自分で考えるという姿勢を持ち続ければ、楽しくやっていけると私は信じています。

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久恒 啓一(ひさつね・けいいち)
多摩大学大学院客員教授・多摩大学名誉教授
1950年大分県中津市生まれ。九州大学法学部卒業。1973年日本航空に入社、広報課長、経営企画担当次長などを歴任。社外の「知的生産の技術」研究会で活動を重ね、「図解」の理論と技術を開発し、1990年に初の単著『コミュニケーションのための図解の技術』を刊行した。1997年早期退職し、新設の県立宮城大学教授、2008年多摩大学教授に就任。経営情報学部長、副学長、多摩大学総合研究所所長等を歴任し、2021年より現職。著書は100冊を超える。久恒啓一図解WEB http://www.hisatune.net/

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(多摩大学大学院客員教授・多摩大学名誉教授 久恒 啓一)

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