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「有効性は50%」中国が"効かないワクチン"を世界にばらまき続ける本当の狙い

プレジデントオンライン / 2021年7月25日 11時15分

2021年7月8日、ジンバブエのハラレにあるロバート・ムガベ国際空港で、中国からの200万人分の新型コロナウイルスワクチンの一部をコンテナに積み込む準備をする作業員。 - 写真=EPA/時事通信フォト

収束の兆しが見えない新型コロナウイルスをめぐり、中国が途上国を中心にワクチンの大量供給を続けている。ロンドン在住のジャーナリスト、木村正人さんは「ワクチンを通じて、世界への影響力を強めようとしている。とりわけ途上国は中国製ワクチンに頼るしかないのが現状だ」という――。

■加速する中国の「ワクチン外交」

中国の国家衛生健康委員会は7月5日、中国全土で計13億回分の新型コロナウイルスワクチンを接種したと胸を張った。6日間で1億回接種というハイペースだ。

習近平国家主席は経済圏構想「一帯一路」の柱に「健康」を加え、ジョー・バイデン米大統領の“中国抑え込み外交”に対抗して、99カ国に4億500万回分以上を供給する「ワクチン外交」を展開中だが、中国製ワクチンを接種した国々で感染爆発が止まらず、批判が噴出している。

■「ワクチン政治」に巻き込まれた小国セーシェル

「パンデミックから世界中の貧しい国々を助けることで支持を集めるという中国の願望は、中国製ワクチンの有効性への疑義によって妨げられている」――英紙タイムズ電子版は7月5日、インド洋に浮かぶ人口10万人足らずの島嶼(とうしょ)国セーシェルに提供された中国製ワクチンを例に出し、中国のワクチン外交は裏目に出ていると報じた。

英オックスフォード大学の統計サイト「データで見た私たちの世界(Our World in Data)」によると、セーシェルのワクチン接種回数は人口100人当たり142回。“ワクチン先進国”のイスラエルの126回、イギリスの119回、アメリカの100回に比べても圧倒的に多い。ちなみに日本は7月15日時点でまだ50回にとどまっている。

セーシェルは3月、ワクチン接種が進み、一定の割合の人が免疫を持つようになるとそれ以上感染が広がらない「集団免疫」の獲得にメドがついたとして、昨年3月から停止していた外国人観光客の受け入れを全面的に再開した。

コロナウイルスワクチンの真実とフェイクニュース
写真=iStock.com/style-photography
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/style-photography

しかし、直後の4月、5月と感染が広がり、人口100万人当たりの1日の新規感染者は5月14日に4084人にハネ上がった。欧州最悪の15万人超の死者を出したイギリスでもこれまでの最高は881人(1月9日)、第2次世界大戦を上回る62万2708人の死者数を記録したアメリカでも同759人(1月8日)である。

一時は「わが国のワクチン接種は世界最速」と胸を張ったワベル・ラムカラワン大統領は苦い表情で「西側諸国と中国のワクチン政治の間に残念ながら、わが国は落ち込んだ」と語った。セーシェルで接種されたのはコロナ危機で外交関係を強化したアラブ首長国連邦(UAE)から贈られた中国国有、中国医薬集団(シノファーム)製ワクチンだった。

タイムズ紙は同じくシノファーム製を接種したバーレーンやUAEでも感染が拡大し、インドネシアではコロナで犠牲になった26人の医師のうち10人が中国の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)製ワクチンの接種を受けていたと報じている。またチリやブラジルでもシノバック製の有効性への疑義が生じていると指摘した。

■中国製ワクチンは効くのか、効かないのか

中国製ワクチンは本当に効かないのか。異なるワクチンの有効性を単純に比較することはできないが、臨床試験での有効性を押さえておこう。これまでに世界保健機関(WHO)の緊急使用リストに加えられたワクチンは次の通りだ。

WHO承認ワクチンの一覧表
出所=WHO、米紙ニューヨーク・タイムズ、米デューク大学、マギル大学(カナダ)のデータを基に筆者作成

最先端のm(メッセンジャー)RNAテクノロジーを活用したファイザー製とモデルナ製のワクチンは安全性も有効性もずば抜けて高い。アデノウイルスをベクター(運び屋)に使ったアストラゼネカ製とジョンソン・エンド・ジョンソン製のワクチンも優秀だが、ごくまれに血小板の減少を伴う血栓症を発症する深刻な副反応が報告されている。

mRNAワクチンに比べると、コーヒー1杯の値段でワクチン1回分を接種でき、普通の冷蔵庫で保管可能なため当初「途上国の救世主」と期待されたアストラゼネカ製でさえ、安全性も有効性も見劣りする。日本のように裕福な国ではどうしても「安価なアストラゼネカ製より高価なmRNAワクチンを」という流れになる。

米欧が開発した4つのワクチンは人の体内で遺伝子コードがコロナのスパイク(突起部)タンパク質を産生する「遺伝子治療」なのに対して、中国のシノファーム製、シノバック製はウイルスを不活化させて体内に注射する従来の技術を使っている。

臨床試験での有効性が90%を超えるmRNAワクチンに比べて中国製ワクチンの効き目が弱いのは、安全性を重視すれば有効性が弱まるというこれまでのワクチンが抱えるジレンマから完全には抜け出せないからだ。

■途上国が中国製ワクチンに頼らざるを得ない理由

プラハを拠点に中欧への中国やロシアの影響力を調べている「マップインフルエンセ(MapInfluenCE)」のベロニカ・ブラブロバ研究員は中国製ワクチンの有効性について、臨床試験が行われた国による評価のばらつきを指摘する。

「中国製ワクチンの有効性を巡る疑念は物議を醸す臨床試験の結果が発表された時からつきまとっている。ブラジルで行われたシノバック製ワクチンの臨床試験で有効性は当初78%とされたが、そのあと米食品医薬品局(FDA)の承認ラインである50%をわずかに超える程度に修正された。一方で、昨年12月にはトルコが有効性は91%という予備結果を発表するなど、臨床試験を巡るプロセスが不透明だ」

シノファーム製ワクチンを接種している唯一の欧州連合(EU)加盟国のハンガリーでは、十分な抗体ができていない住民が増えている。中国製ワクチンが広く接種されたチリ、モンゴル、セーシェルで感染拡大を防げなかったことが国民の疑念をさらに深めている。しかし、よく考えると、マスク着用や対人距離の確保といった非医薬品介入の解除が早すぎたことが原因である可能性もうかがえるという。

一方でブラブロバ研究員は、米欧製ワクチンの扱いづらさ、供給不足が途上国に中国製ワクチンを選択させているとも筆者に指摘する。「中国製ワクチンの有効性は低いと指摘されるが、ファイザー製やモデルナ製はより高度な操作、特に冷凍保存など管理が難しいため、途上国にとっては接種の機会が少ないことに留意することが重要だ。米欧のワクチンメーカーは米欧のニーズを満たすのに四苦八苦しており、途上国への輸出は依然として限られている」

■敬遠されるのは中国製ワクチンだけではない

1120万人がファイザー製、2150万人がアストラゼネカ製と、18歳以上人口の65%がワクチンの2回接種を済ませたイギリスでも都市封鎖や社会的距離策を段階的に解除したとたん、デルタ株感染の急拡大を招いている。7月19日からはほとんどの法的規制が解除されるため1日の新規感染者数は現在の4万2000人からこの夏には10万人に急増する見通しだ。

英イングランド公衆衛生庁によると、アストラゼネカ製を2回接種すれば死亡を防ぐ有効性は75~99%、入院を防ぐ有効性も80~99%に達している。しかしアストラゼネカ製も中国製ワクチンと同じようにmRNAワクチンを開発したアメリカやEUに徹底的に叩かれ、先進国では敬遠されるようになった。これもワクチン外交というポリティクスがなせるわざなのだ。

■「ないよりマシ」な中国製ワクチン

このように、グローバルヘルスの観点から言うと、中国製ワクチンは今のところなくてはならない存在なのだ。米デューク大学グローバルヘルス研究所のアンドレア・テイラー副所長も筆者にこう答えた。

「世界は製造・出荷可能なすべてのワクチンを必要としている。WHOは最低要件として50%の有効性を設けており、シノファーム製もシノバック製もこの要件を満たしている。中国製ワクチンは他のワクチンほど効果がないように見えるが、ないよりはマシである。世界中の多くの国はまだワクチンへのアクセスを確保できていないのが現状だ」

■台湾を標的にした中国のワクチン外交

中国のワクチン外交について、前出のブラブロバ研究員は台湾統一を狙う中国の思惑が見え隠れすると筆者に指摘する。「台湾を国として認めている数少ない国の一つである南米パラグアイはワクチン不足に陥っており、チリ経由で中国製ワクチンを受け取った。それに対抗すべく、アメリカもパラグアイに対しファイザー製を100万回分寄付することを約束した。ワクチンが圧倒的に不足しているグアテマラ、ホンジュラス、ニカラグアなど台湾と国交のある国でも同じようなシナリオが展開される可能性がある」。ワクチンで恩を売り、将来的には国交を断絶させるなどの圧力をかける材料にしようというわけだ。

■ワクチン外交を続ける中国の4つの狙い

世界最大の政治リスク専門コンサルティング会社ユーラシア・グループのグローバルヘルス担当スコット・ローゼンスタイン氏は中国のワクチン外交の狙いは4つあると筆者に指摘する。

「中国はコロナの初期対応を巡って批判された後、友好を築くことに関心がある。次に、ワクチンについて欧米の他の主要プレーヤーと競争できる一流の科学大国としての地位を確立したい。第三に、勢力圏と影響圏にある国々との関係を強固にしたい。最後に、普段はつながりのない国との新たな関係を確立したいと考えている」

ローゼンスタイン氏は、中国製ワクチンの効果が期待外れに終わっているため中国のワクチン外交は敗北しつつあるとみている。しかし、バイデン大統領が6月の先進7カ国首脳会議(G7サミット)までワクチン外交に積極的に取り組まなかったことを「中国が残したワクチン外交の空白に入り込むチャンスを逃してしまった」と悔やむ。G7サミットは10億回分の寄付を目標に始まったが、来年末までに8億7000万回分を寄付することでしか合意できなかった。ローゼンスタイン氏は「これまでのところ中国の『一流の科学大国として確立する』という目的は達成できていないが、ワクチンが友好関係を築き、中国の影響力が拡大するかどうか注視しなければならない」と警戒する。

■「不透明な中国製ワクチンのシェアは低下する」

米デューク大学のアンドレア・テイラー副所長は、中国製ワクチンの基本情報が公開されていないことを問題視し、これが将来的なシェア率の低下を招くと分析する。

「中国のワクチンメーカーは他のメーカーが行ったように科学コミュニティーがレビューできるように生データを公開しておらず、透明性を欠く。これは購入を決定する国の指導者に疑問を抱かせるだろう。中国は現在、世界のワクチン市場の主要サプライヤーだが、今後数カ月以内に米欧が国内需要を満たして輸出を増やし、インドも年末までにワクチンの輸出を開始すれば、中国の市場シェアが低下する可能性がある」

■「中国の科学力は危険なリスクを孕む」

ワクチン開発に携わっている豪フリンダース大学のニコライ・ペトロフスキー教授は対中警戒派で、「新たな冷戦に突入している米中の協力は非常に困難だ」と指摘する。

「中国はパンデミックを利用しようと積極的だった。しかしコロナの発生を隠そうとし、発生源の湖北省武漢市からの海外渡航を止めなかった。ウイルスは武漢の研究所でつくられたかもしれず、中国製ワクチンの効果もしれている。中国はワクチンというカードを過大評価し、ワクチン外交の戦いに負けていると結論付けるのが合理的だ」

中国の研究開発能力については「中国の制度と安全基準が科学力で世界の先頭に立つという願望に追いつかず、潜在的に非常な危険を孕んでいる。中国の研究所の国際的な規制と将来のリスクを軽減する新しい政策と条約の強化が求められている」と警鐘を鳴らす。

■中露の偽情報に注意せよ

中国外務省の趙立堅副報道局長は昨年、「武漢にコロナをもたらしたのは米軍かもしれない」との偽情報をツイートして米国務省を激怒させた。イギリスでも駐英中国大使がSNSの偽アカウント網を使って偽情報や誤情報を拡散させていたことが英オックスフォード大学の調査で明らかになっている。

ロシアについても、ロシアの情報機関がコロナ対応を巡ってアメリカを中傷する情報を垂れ流していたと米情報当局が指摘した。中国もロシアも自国製ワクチンを使ってそれぞれの影響圏を広げようとしており、米欧製ワクチンへの疑念をかき立てることも間接的に彼らの利益になる。

こうしたインフォメーション戦争はワクチン外交を巡っても繰り広げられている。東京五輪・パラリンピックを控え、ワクチン接種を急ぐ日本が注意しなければならないのはSNSで拡散するワクチン懐疑主義の背後に偽情報や誤情報を垂れ流す中国やロシアの“トロール部隊”が潜んでいる恐れがあるということだ。

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木村 正人(きむら・まさと)
在ロンドン国際ジャーナリスト
京都大学法学部卒。元産経新聞ロンドン支局長。元慶應大学法科大学院非常勤講師。大阪府警担当キャップ、東京の政治部・外信部デスクも経験。2002~03年、米コロンビア大学東アジア研究所客員研究員。著書に『EU崩壊』『見えない世界戦争「サイバー戦」最新報告』(いずれも新潮新書)。

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(在ロンドン国際ジャーナリスト 木村 正人)

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