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「実はダイエットをするほど太ってしまう」人体に備わる不都合なメカニズム

プレジデントオンライン / 2021年7月24日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/LaylaBird

ある追跡調査によると、人は体重を減らすために食べ方を変えても、体重を減らすことはできない。むしろダイエットすると、太ってしまう。精神科医の永田利彦さんは「脳が飢餓状態に切り替わり、エネルギーを溜め込みやすい体になるからだ」という――。

※本稿は、永田利彦『ダイエットをしたら太ります。』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■中高生1902人の追跡調査で出た結果

ミネソタ大学のニューマーク・ステイナー博士が、ミネアポリス近郊の中高生1902人を10年間にわたって追跡調査した結果は、「ダイエットすると太る」というものでした。

この調査では、ダイエット(体重を減らすために食べ方を変えること)と、不健康な体重コントロール(絶食、ほんの少ししか食べない、ダイエット食品やダイエットドリンクの使用、食事を抜かす、より多く喫煙する、ダイエットピルの使用、嘔吐する、下剤の使用、利尿剤の使用)を分けていましたが、どれも続けるとBMIが上昇する、すなわち太るという結果が出ました。

では、いったいなぜ、ダイエットすると太るのでしょうか? ニューマーク・ステイナー博士は、その理由として、以下の4点を挙げています。

①ダイエットが、ごく短期間の行動であること。
バランスのとれた体、あるいは適正体重になるには、規則正しい生活を心がけ、毎日朝食を摂り、野菜や果物をしっかり食べ、運動を続けるといった、地道で長期的なライフスタイル変更が必要であるのに、性急に結果を求める。

②「ダイエッティングサイクル」に、はまり込んでしまうこと。
「ほんの少ししか食べない」「食事を抜かす」といった無理なダイエットによって飢餓状態に陥り、強い空腹感に苛まれて耐えきれずに食べ、食べ始めると食べすぎてしまう。すると今度は「ダイエットに失敗した」と意気消沈し、再び無理なダイエットに励む。このような負のサイクルが生じ、抜け出せなくなる。

③食欲をコントロールできなくなること。
自然に感じる空腹と満腹のサイン(生理的コントロール)に従わず、意志によって食欲を抑え付けていると、食べ物を口にしたとたん止まらなくなるなど、かえって食欲をコントロールできなくなる。

④太りやすい体質になること。
ダイエットによって摂取カロリーが低下すると、体は代謝を低下させて、少ないエネルギーで生命を維持しようとする。すると、エネルギー消費量が減って、太りやすくなる。さらに、ダイエットをすると脂肪細胞の数が増える。

■ダイエットは命知らずの突撃行為

①と②は、短期間で目に見える成果をあげようとして、「食事を抜かす」など無理なダイエットをし、その結果ダイエッティングサイクルにはまり込み、再び短期間の無理なダイエットをするという、表裏一体の関係にあります。「ダイエット」の本質は、いわば命知らずの突撃行為であり、穏やかな長期戦である「ライフスタイル変更」とは、似て非なるものなのです。

③食欲のコントロールができなくなることと、④太りやすい体質になることは、ダイエッティングサイクルにはまり込む原因でもあり結果でもあります。そして、この2点こそが、「ダイエットすると太る」というパラドックスの、謎を解く鍵でもあります。

テーブルクロスの上に置かれたナイフとフォークと皿。その皿の上にメジャー
写真=iStock.com/kyoshino
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kyoshino

では、「食欲のコントロールができなくなる」「太りやすい体質になる」とは、どのようなことなのでしょうか? そのメカニズムを、最新の医学データに基づいて見ていくことにしましょう。

■意志で食欲をコントロールすることはできない

食欲は、それがなければ生命を維持できない、最も重要な欲求の一つです。それにもかかわらず、「食べたい」という欲求を、私たちは意志で抑え込み、体重を減らそうとします。「人には意志の力があるのだから、できるはずだ」と。実際に、少しの間であれば、意志の力で生理的欲求に打ち勝つことができます。

しかし、睡眠不足が何日も続けば頭が朦朧としてきて、ある瞬間にガクンと眠りに落ちてしまうように、ほんの少ししか食べない状態が何日も続けば、ある瞬間に食べ物を口にしたとたん止まらなくなってしまう、ということが起こります。

この「ダイエットによって脱抑制に陥る」、言い換えれば「食欲をコントロールしようとすることで、かえって食欲をコントロールできなくなる」ことは、トロント大学(カナダ)名誉教授のジャネット・ポリヴィ博士と、同大学名誉教授のC・ピーター・ハーマンが1985年に発表して以来、多くの研究がなされてきました。生理的な空腹・満腹のサインに従わず、意志によって食欲をコントロールしようとすると、体に備わった正常なコントロール機能がうまく働かなくなってしまうこと、そして摂食障害を発症するリスクが高まることがわかってきたのです。

ではいったいなぜ、食欲を意志でコントロールしようとすると、体に備わった正常なコントロール機能がうまく働かなくなるのでしょうか?

■体中のホルモンが飢餓から私たちを守っている

空腹感と満腹感、あるいは摂食行動の促進と抑制は、グレリン、インスリン、レプチンなどのホルモンが大きな役割を果たしており、その仕組みは非常に精緻で危うい均衡の上に成り立っています。

グレリンが放出されると、私たちは空腹を感じ、エネルギーを摂取しようとします。目の前に食べ物があればそれを食べ、なければ戸棚や冷蔵庫をあさったり、コンビニに買いに行ったりして何か食べます。また、グレリンは食事時の前に分泌量が増え、その後分泌量が減ることによって、摂食のタイミングをコントロールしています。ダイエットによって食事が不規則になると、グレリン分泌のリズムが崩れて、空腹感と満腹感がうまく調節できなくなります。

インスリンは血糖値が高くなると放出され、血糖を肝臓や筋肉などの細胞内に取り込み、貯蔵したりエネルギーとして利用したりします。血糖値を安定させるように働くのですが、空腹時に大量にお菓子やご飯を食べたりすると、一気に放出されて血糖値を下げすぎてしまいます。すると、食べたばかりなのにまたおなかが空いて、さらに何か食べることになります。また、太るとインスリンの効きが悪くなり、膵臓からインスリンが大量に放出され、そのことによってさまざまな不調が起こります。

レプチンは満腹感を生じさせて摂食行動を抑制しますが、その働きは脆弱で、太ると大量に放出されるにもかかわらず、効きが悪くなります。満腹感がなかなか得られず、脂肪を燃やしてエネルギーに変える働きも低下するのです。その一方で、やせて脂肪組織が少なくなると、レプチンの分泌量も減り、満腹感が得られにくくなります。コントロールを失って食べ続けた結果、肥満し、さらに満腹感が得られにくくなり、脂肪を燃やす働きも低下するという、負の連鎖に入り込んでしまうのです。

■「飢餓状態」になるとホルモンが正常に働かなくなる

極度に空腹になったり、食事が不規則になったりしなければ、これらの物質は現状維持に働きます。ところが、ダイエットをして脳が「飢餓状態」であると判断すると、エネルギーを節約し蓄える方向へと、スイッチが切り替わります。摂食行動を抑制するはずのインスリンやレプチンでさえ、本来の役割を果たさなくなり、摂食行動を促進する方向へと切り替わるのです。

私たちの摂食行動には、これらの物質のほかにも甲状腺ホルモン、副腎皮質ホルモン、メラニン凝集ホルモンなど、さまざまなホルモンや神経伝達物質が関わっていますが、それらの役割も、基本的には飢餓からの生き残りです。

人類300万年の歴史のうち、299万9900年以上は飢餓との闘いだったといわれています。そのため人の体は、飢餓すなわちエネルギー不足への対処法が発達していて、エネルギー過多への対処法は未発達です。体中のホルモンは、飢餓から生き残れるように用意された防衛装置であり、何とかエネルギーを摂取して生き残れるように働くのです。

■太りやすい体質になる「ヨーヨーダイエット」

ダイエットすると太る理由にはもう一つ、「太りやすい体質になる」ことがあります。やせようとしてもやせられなくなるどころか、かえって太ってしまうのですが、このような状態を招くのが「ヨーヨーダイエット」です。ヨーヨーダイエットとは、ヨーヨーのようにダイエットとリバウンドの間を行ったり来たりすることを言い、これを繰り返すと太りやすい体質になることが、30年以上も前から指摘されています。

実際に動物実験では、ダイエットを繰り返すとエネルギーを体に溜める能力が向上して、少しの食物で体重が増えるようになることがわかっています。考えてみればそれは当然で、ダイエットとは飢餓状態ですから、飢餓状態を何度も経験すればするほど、飢餓に強い体、すなわちエネルギーを溜め込みやすい体になるのです。

では、エネルギーを溜め込みやすい体とは、いったいどのような状態を指すのでしょうか? そもそも、エネルギーを溜め込むとは、どういうことでしょうか。これには「代謝」が関わっています。

■「代謝」にはいろいろな種類がある

代謝とは、私たちの体内で起こる化学反応と、それに伴うエネルギー変換のことで、代謝の過程を物質の面から見たのが「物質代謝」、エネルギーの面から見たのが「エネルギー代謝」です。

物質代謝には、物質をより単純な物質に分解してエネルギーを得る「異化」と、エネルギーを使って単純な物質からより複雑な物質を作る「同化」があります。

エネルギー代謝には、「基礎代謝量」「食事による熱産生効果」「非運動性活動熱産生」「運動による熱産生効果」の4種類があります(図表1)。

エネルギー消費量
出典=永田利彦『ダイエットをしたら太ります。』

「基礎代謝量」とは、体温維持や血液循環、呼吸、排泄、脳・神経活動などの、生命維持に最低限必要なエネルギー量を指します。

「食事による熱産生効果」は、食事をしたことで消費するエネルギー量です。噛むことや消化吸収にエネルギーが必要なことに加え、栄養素が吸収・分解される過程で、その一部が体熱となるためにエネルギーを消費します。食事をすると体が温かくなるのは、このためです。基礎代謝と食事による熱産生効果を足したものが、「安静時エネルギー消費量」です。

ちなみに、よく噛まずに飲み込むよりも、よく噛んで食べた方が、食事による熱産生効果が高くなるといわれています。

■食べる量を減らせば、初めのうちはやせていくが…

「非運動性活動熱産生」は、運動以外の身体活動、すなわち家事などの日常生活活動によって消費するエネルギー量です。

「運動による熱産生効果」は、運動によって消費するエネルギー量を指します。

この4種類のエネルギー消費量を足したのが、1日の総エネルギー消費量です。おおよその割合は、基礎代謝が総エネルギー消費量の60パーセントを占め、食事による熱産生効果が10パーセント、運動と非運動性を足した身体活動が30パーセントです。

私たちが太るのは、1日の総エネルギー消費量よりも多いエネルギーを摂取すると、余ったエネルギーが筋肉や脂肪となって貯蔵されるからです。逆に、総エネルギー消費量よりも摂取エネルギーが少ないと、貯蔵した脂肪などを分解してエネルギーにするために、やせます。ダイエットとは、摂取エネルギーを総エネルギー消費量よりも少なくしようとする試みなのです。

単純に考えれば、食べる量を減らせば摂取エネルギーが減り、総エネルギー消費量を下回ってやせるはずです。確かに、食べる量を減らせば、初めのうちはやせていきます。「食べないことでやせた」初期のこの経験が、成功体験として深く心に刻みこまれるために、食べる量を減らすことに強くこだわってしまうのです。

■脳が代謝活動を低下させて、太りやすい体質に

ところが、ダイエットを続けるとしだいにやせにくくなり、リバウンドすると以前よりも容易に太るようになります。なぜかというと、体重が減ったのにエネルギーが補給されず、「飢餓状態である」と判断すると、脳が代謝活動を低下させてエネルギー消費量を減らすからです。4種類の代謝すべてで消費エネルギーが低下しますが、なかでも特に大きいのが、総エネルギー消費量の60パーセントを占める基礎代謝です。

基礎代謝が低下すると、「ミネソタ飢餓実験」のような状態になります。この実験では、体温が低下して寒気を覚え、心拍数が減り、血圧も低下し、手足にむくみが出たり、皮膚がボロボロになったりし、さらに理解力や集中力が低下するなど脳の働きにも影響が出ました。健常な状態を保つだけのエネルギーが得られないので、脳は、消費エネルギーを減らして低レベルで生命を維持しようとしたのです。

消費エネルギーが減れば、食べる量が少なくても、ダイエットし始めの頃と同じようにはやせなくなります。

■基礎代謝量に大きな影響を与える「筋肉量」も減る

また、摂取エネルギーが減ると、筋肉量も減ります。筋肉のタンパク質(筋タンパク)は、常に合成と分解を繰り返していますが、摂取エネルギーが減ると合成量が減るだけでなく、分解量が増えるのです。なぜかというと、筋タンパクを使って糖を作り出すためです。

永田利彦『ダイエットをしたら太ります。』(光文社新書)
永田利彦『ダイエットをしたら太ります。』(光文社新書)

食事が足りないと血糖値が下がりますが、血糖は細胞にとって重要なエネルギー源であり、常に一定量が必要です。そこで、足りない血糖を補うために体は、細胞に貯蔵した貯蔵型の糖・グリコーゲンを分解してグルコース(血糖)にしたり、タンパク質や脂質から新たにグルコースを作り出したりします。この時、筋肉のタンパク質が使われるため、筋肉量が減るのです。

一方、基礎代謝量を臓器別に見ると、骨格筋・肝臓・脳がほぼ20パーセントずつエネルギーを消費しています(図表2)。アスリートは筋肉量が多いため基礎代謝量も多く、肥満した人は筋肉量が少なく脂肪が多いために、基礎代謝量が少なくなります。また、男性よりも女性の方が基礎代謝量が少ないのも、筋肉量が少ないためです。

安静時の臓器別エネルギー消費量(70キロの男性の場合)
出典=永田利彦『ダイエットをしたら太ります。』

筋肉量が基礎代謝量に大きな影響を与えているわけで、ダイエットや運動不足で筋肉量が減ると、基礎代謝量が低下して、やせにくくなるのです。つまり、エネルギーを溜め込みやすい体とは、基礎代謝量の低い、エネルギーを消費しにくい体なのです。

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永田 利彦(ながた・としひこ)
医学博士
大阪市立大学大学院医学研究科を修了。同科(神経精神医学)准教授、ピッツバーグ大学客員准教授などを経て、2013年になんば・ながたメンタルクリニックを開設。精神科専門医、精神保健指定医、精神保健判定医。Academy for Eating Disorders、Eating Disorder Research Society、日本摂食障害学会(理事長)、日本不安症学会、日本うつ病学会、日本精神科診断学会(いずれも評議員)などの学会に所属。日本摂食障害学会監修・「摂食障害治療ガイドライン」作成委員会編集『摂食障害治療ガイドライン』(2012)の代表編者の一人。摂食障害、不安障害、パーソナリティ障害、気分障害に関する論文、総説多数。

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(医学博士 永田 利彦)

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